第200話 ヨートローの騒乱
装備を調えた僕たち居残り組は、ママとドク、そして虐殺の輪舞のアルををお留守番にして、冒険者ギルドに向かうことにしたよ。
少し大きめの道に出たとたん、リックさんのお話はオーバーどころか控えめだったことがすぐに分かった。
我が物顔で余所の国の鎧を着た人が、町の人に攻撃をしかけようとしているんだもん。で、憲兵らしい人もそれに同調してる。けど、憲兵の中にはどうしようって感じでオロオロと仲裁してる人もいて、一応睨み合い状態、かな?
「おまえら、何してんだ!」
虐殺の輪舞リーダーのバンジーが、まさに店の商品をひっくり返そうとしているザドヴァの騎士の腕を掴んだよ。
店と鎧の間にでっかい体を挟み込んで、騎士を上から睨み付ける。
「ウ、ウワァ・・・!何をする。は、離せ!ウウウウワァァァァ・・・」
捕まれた騎士がうめき声を上げている。
あちゃー、バンに捕まれてる鎧、メキメキって音を立ててへっこんでってるよ。
それを見て、騎士のお仲間の鎧と憲兵たちが、抜いてた剣をバンに向けた。
向けたんだけどね、あららのへっぴり腰だねぇ。1歩2歩と後ずさってるけど、逃げるんなら速いほうが良いかも。
ピシッピシッピシッ・・・
ほらね。
ネリアの鞭が振るわれ、あっという間に、剣は取り上げられちゃったよ。
へ?
なんて、悠長な感じで、手を見て驚いてるけどね、逃げなくていいの?周りを見て!
気がつくと、この辺りにはここの一団以外はいないよ?町の人達が殺気だって囲んで来てる。その辺りに置いてあった棒とか、包丁とか、いろんなものを持って囲んで来てるよ。
ズン・ズン・ズン
なんか、そんなBGMが聞こえるよう。
ゆっくり囲む町の人達に、偉そうに叫んでいた騎士たちが真っ青になって震えているよ。
町の人達と、バン、そして、僕たち。
順番に見ているけど、そんな暇ないよね。
ドン!
バンが掴んでいた騎士を、彼らの仲間に押すようにして投げつけた。
見た目は軽く押しただけみたいだけどね、捕まれてた人は大きく突き飛ばされて、へっぴり腰のお仲間へと突っ込んだ。そのまま、団子状態で道路に転がった総勢5,6名のお仲間さん。
そこへウワァって町の人達が飛びかかって袋だたきだよ。やれやれ。
「ヤメェーーーー!」
ちょっとして、ゴーダンがバカみたいにでっかい声で言ったんだ。
僕まで、ビクッてしちゃったじゃない。
町の人達もビクッて固まって、おそるおそるゴーダンを見たよ。
「おめぇら、気持ちは分かるが今はそれどころじゃない。一般人は店たたんで、固く扉を閉め、家に籠もっててくれ。なるたけ早く騒動を鎮めたいが、どうなるか分からん。怪我をしたくなかったら、しばらく家を出ないでくれ。俺はA級冒険者、宵の明星のゴーダンだ。そしてこいつは虐殺の輪舞バンジー、あっちが不屈の美蝶マリン。どっちもA級。この3パーティで、今から様子を見てくる。とにかく、俺たちにここは預けて欲しい!」
A級、というのは、なかなかにレアで、社会的地位も高いんだ。庶民でも貴族と肩を並べれる、そんな彼らは、庶民のあこがれだ。
そんなA級がリーダーのパーティが3つも集まってる。
みんなの顔が、もう大丈夫って、ホッとしてるのがテレパシーなんて使わなくっても分かるよ。
逆に、ボコボコにされていた騎士たちは、さらにブルブル震えだしてるし。
メンバーのみんなに促されて、町の人達はおうちに帰って行った。
中にはメンバーに握手を求めてきたり、人が多いからってセイ兄に抱っこされてる僕の頭や顔を撫でてお祈りする人まで・・・
ハハハ、お祈りされたの、パッデ村以来だ。落ち着かないなぁ。
まぁ、そんな感じで、店の戸締まりや家の戸締まりのために帰って行った町の人達。
最後に残ったのは、結局逃げ切れなくて、道の真ん中でへたり込んでいる騎士たちだった。
「てめぇら、どうせ領主とリヴァルドの一味だろうが!いいか。飼い主にちゃんと報告するんだ。今なら、見逃す。喧嘩売るなら。高く買ってやるってな!」
・・・・
ハハハ、いつもはそれなりに優しいんだよ、マリンさん。
こんな怖いしゃべり方はしない・・・はず・・・・
思わずセイ兄の頭に抱きついて震えちゃったのは、秘密です。
後ろで見てた僕でもこんだけこわかったんだもの、直接啖呵切られた騎士たちはもうブルブルだろうね。どこからか、アンモニア臭が・・・だけど、気がつかなかったことにしておくよ、僕は気を使える良い子です。
騎士たちは、お互いを支えながら逃げるみたいにどっかへ行っちゃったよ。
で、ちょっと僕は興奮しちゃった。
だってさ、リアルで「覚えてろ!」なんて、聞くとは思わなかったんだもの。フフフフ。
て、こんなことをしてる場合じゃなくて、僕たちギルドに向かってたんだ。
本当なら歩いても10分15分な距離だけど、似たような騒動はところどころで勃発してて、ひどい所は器物損壊まっただ中。怪我人もそれなりに出ている。被害者はみんな町の人。
そりゃそうだよね。
鎧着て剣を振り回してる人に、鍛えてもいない平民がどうしたってかないっこない。たまに冒険者らしい人が反撃してたり、で、やっつけちゃってるところもあるけど、お店とかはけっこう悲惨なことになってる。
僕らは、なんとか、町の人を助けつつ、1時間ぐらいかけてギルドへたどり着いたんだ。
ギルドに入ったら、たくさんの冒険者が出たり入ったりしていたよ。
で、ひときわ目立つのが、あ、ギルド長か。
僕たちを見て、「カウンターの中へ!」って指示を出された。
ゾロゾロと3チームでカウンターの中へ。
そこから見てると、ギルド長、パーティごとにあっちへ行け、こっちへ行けって指示している。
「C級D級あたりのパーティには、町の沈静を命じてるみたいですね。」
ギルド長の采配を見て、ヨシュ兄がそう言ったよ。
あのね、パーティ自体にはランクはないけど、リーダーのランクで大体の目安とされるんだ。僕たちはAランクパーティ、て評価だね。ほとんどのパーティってそんなにランク差がない人達が集まってる。それでないと同じ場所に行けないからね。
もちろん見習いとか、低ランクをかかえる高ランクパーティもいるけどね。うちみたいに。僕なんてまだ自分が生きてきた以上の期間見習いだよ、ハハハ。
まぁ、偉くなると尊敬されるように生きなさい、なんて風潮はあるしね。後進の育成、ってのも、高ランカーには求められるんだよね。
ただ、パーティとして指示された場合、パーティ内の誰が何をするか、っていうのはパーティ内での采配。その任務が危ない人は後方支援とか、連絡役とか、そういうお仕事もあるからね。それに受ける受けないはそれこそパーティの自由だし。
てことで、こんな大事になってる時は、リーダーのランクにあわせてギルドは各パーティに対応をお願いするって形をとるそうです。
そんな解説をはじめはヨシュ兄、途中でネリアなんかも加わって、教えて貰いました。ふつうは、魔物の群れが襲ってきたときのやり方なんだって。でも、町を守るって意味では今回もこういう形をとってるらしいです。
ただね、政治的なことってのは、ギルドとしては中立が好ましいわけで・・・
ギルド長は、個人として、この町を守りたいから手を貸して欲しい、って、この数日会う人会う人に言ってたみたい。手伝ってくれる人はいざとなったら集まってくれ、って、説明してたんだって。嫌な人は来なくていい、敵は領主だから、って、周知していたって聞くから、ほんとビックリだよ。
僕たち以外に2パーティほどが、カウンター内に入れられていて、しばし。
3パーティ目が来た段階で、指示を別のスタッフに任せ、ギルド長は、この6パーティについてくるよう言って、奥へと案内したんだ。
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