第198話 囚われの鍛冶師救出大作戦(4)

 静かだ。

 水の中って、本当に静か。


 今、僕らは、領主の別邸近くまで来ている。

 ここいらは、本当に水深が深く、底はまったく見えない。

 でも、僕はちょっと浮上していて、そこそこ視界は確保できているんだ。

 斜め上には、タンスが通るぐらいの大きな穴。

 地下牢に続く部屋から、さらに下へ向かって作られたトンネル、ていうかダストシュートだ。たとえ人が死んだって、ここから投げ捨てると、死体は魚が始末してくれる。そのために作られんだろう、って聞いたよ。


 そんな物騒な穴があるけど、薄明かりに揺らめく水中はキラキラととってもキレイだ。人も食べちゃう、かもしれない、お魚がウロウロしているけど、それだって泳いでる姿を見るだけなら、とっても素敵。



 アーチャは湖底を走ってこの下まで来たからね、さっきまで、僕と手を繋いでここにいたんだ。水中で停止するのは僕と手を繋がなきゃ無理だから。

 今は、ちょっと泳いでいって、ダストシュートの中で待機してる。

 上の騒ぎを聞いて、僕たち突入しなきゃならないからね。そのタイミングを計ってるんだ。


 で、潜水艦は、随分と下の方で待機中。明かりをつけていないけど、停止してるなら大丈夫、なんだって。みんな水中の怖さがちょっと緩んだみたいで良かったよ。

 エアがね、ぼんやり光ることが出来るようです。

 水の中は見えないけど、妖精のランプはどうやらお気に召したみたい。

 潜水艦の内部で、部屋と心を照らしてくれているようで、ちょっと安心。



 そうやって、どのくらい待ったかな?


 ダストシュートから、水中に向かって竜巻が放たれた。アーチャの合図だ!


 僕は、急いでダストシュートの中へとたどり着く。

 アーチャと無事合流。

 上の方は暗い。

 誰もいないみたいだね。

 水面のところは床から大人の男の人一人分ぐらい下がっているみたい。

 で、アーチャが僕を抱き上げて、放り投げたよ。

 うん。想像通り誰もいない。

 僕みたいなお子ちゃまが見ちゃいけない道具も散乱している部屋だったから、僕は慌てて立派な机(ということにしておこう)の足に、持ってきていたロープを結ぶ。

 で、反対側の端を穴から垂らす。と、あっという間にアーチャが登ってきたよ。

 アーチャが器用にロープを巻き取って持ってくれる。

 僕たちは、そおっと、扉のもとへ。

 微かに遠くで剣戟とか、怒鳴り声とか聞こえる。

 けど、ちょっとだけ開けた扉の向こうの廊下には人がいないよう。

 隠れる物もないけど、僕たちは扉から飛び出した。


 ドドドドド・・・・


 と、ちょうどそのタイミングで、廊下の反対側、から何か転がる音がする。

 反対側は階段?で、どうやらさっきの音は人が階段を滑り落ちた音、だったみたい。

 一瞬ピクッてなったけど、次の瞬間には見慣れたシルエットが。

 セイ兄だ!

 抜刀したまま、落ちてきた人を蹴ったらしいセイ兄が階段を飛び降りる。

 と、気付いていたんだろう、僕らを見て、うん、と頷いたよ。


 セイ兄と僕らの間にあるのは廊下。

 で廊下に接しているのは、図面で見てたとおり、牢屋だったよ。

 いくつかあった牢屋だけど、その中央にあった大きめの部屋に、どうやらドワーフっぽい人達が6人も入っていて、一人がセイ兄のいる階段の方を見つめていた。


 「ひょっとして、坊か?」


 セイ兄もだけど、僕たちも、その牢屋の前に走っていったんだ。

 ちょうど捕まってる牢屋の前で集合、って感じかな?

 で、さすがに中の人達も気付いて集まってきたんだけどね、そのうちの一人が、僕を見てそう言ったんだ。


 「レックさん?」

 その人は、ザガで仲良くして貰った鍛冶師の人だった。他の人もなんとなく見知った人から、名前が分かる人。やっぱり、ザガの鍛冶師、だ!

 「坊。ナッタジのダー坊だなぁ。なんでこんなところへ。」

 「僕、みんなが連れ去られたって聞いて、冒険者仲間のみんなと助けに来たんだ。」

 「そういや、ダーは、冒険者だっちゅっとったかの。」

 「しっかし、そんなちっこくてかわいらしいのに、そんな危ないこと・・・」

 口々に、なんか言ってくる鍛冶師のみんな、なんだけど・・・


 「あー、そういいうのは後。仲間が気をひいてくれてるからね、まずは脱出。いいよね。」

 「ああ。そうだな。そりゃ悪かった。しっかしのぉ、無理なんじゃ。ここは登録した魔力を持つもんしか開けられん。そんな魔導具が鍵になっとる。」

 見ると、確かに魔導具の鍵だね。

 うん。大丈夫。

 教練所とおんなじ鍵だ!

 僕は、過電流ならぬ過魔力を流して、カチリ、ってやったよ。


 ウォーーー


 野太いドワーフたちの歓声。

 だからそんなことで落ち着いて喜んでる場合じゃないんだってば。


 上からは、まだまだ剣戟の音。

 この間に、セイ兄が持ってきたリュックに、鍛冶師たちの荷物、っていうか、僕の家電の材料たちを回収していたみたい。

 セイ兄を先頭に、セイ兄がやってきた階段をみんなで駆け上がる。

 セイ兄の後ろに僕。そして鍛冶師6人組。しんがりはアーチャ。

 打ち合わせどおり、このあたりの牢屋番はセイ兄が気絶させているみたいで、転がってる人はいるけど、起きてる人はいないね。


 たまに、ドッカーンていう魔法の音も聞こえるし、なかなか派手にやってるみたい。玄関付近や上の階で大暴れ、してるんだろうなぁ。


 僕たちは、1階の台所へ向かいます。

 さすがに台所に近づくと人はいたけどね、どうやら下働きの人ばっかり。兵士たちはいないみたい。みんな陽動の方に行くって、ちゃんとした司令官いないのかなぁ?

 セイ兄の「怪我をしたくなかったら端に避けて屈んでろ!」ていう声に、みんな大人しく従ってくれたから、ちょっぴり安心。やっぱり無駄に人を傷つけたくないしね。


 台所の奥には1枚の扉があるんだ。

 うん図面で見たとおり。

 ていっても、先にこのルートはダンたちがちゃんと下見済み。

 この先には、直接湖に出られるプチ桟橋があるんだよね。

 騎士の矜持、か、なんか知らないんだけど、湖に突き出たプチ桟橋を使うのは、使用人だけ、ってのも調査のとおり。

 普通に兵士たちの移動の船用に大きな船着き場を作ってることもあって、こっちを使うのは本当に下働きの人だけみたい。快適なのにもったいないねぇ。


 僕たちは、扉を開けてプチ桟橋へ。

 セイ兄が扉のところで見張っているから、僕が一番乗りに飛び出したよ。

 で、湖に向かって、バレーボール大の光を魔法でたたき込む。


 ここにやってきた僕ら3人とドワーフ6人。あ、違った。一人は人族だったね。ソワレさん。ザガでお世話になった人の一人。


 しばらくして、水面が大きく揺らいだと思ったら、潜水艦が浮いてきたよ。

 鍛冶師のみんなはビックリして、尻餅ついちゃう人もいたよ。


 ゆっくり浮上して、平らなところが桟橋とほぼ同じ高さのところで止まった。お見事です、ミラ姉。これ難しいんだって。練習で一番これが上手に出来たから、ミラ姉が操縦者になったんだって。


 ビックリしている鍛冶師たちには悪いけど、早く乗り込んでほしいな。さすがに物音立てたから、そろそろこっちにも人が来ちゃう。

 のんびり屋の鍛冶師さんたちにちょっとイライラしたんだけど、パコッて開いた出入り口から顔を覗かせたのはカイザーだ。

 鍛冶師のみんな、あんなに興奮してたのに、キリッてなったよ。カイザー師匠の影響力ってすごいんです。

 カイザーに早く入れって言われて、駆け足でみんなが乗り込みハッチが閉められたのを確認したら、僕たちはしっかり目を合わせて頷いたよ。


 たぶん、潜水艦に乗り込むのは見られたし、次の作戦に移行します。


 まずセイ兄。

 みんなに離脱を促しに、屋敷の中へ。

 アーチャ。

 ダッシュででっかい方の船着き場へ。

 桟橋を風の刃でボロボロにする予定。

 僕。

 プチ桟橋から湖へ飛び込んだよ。

 すぐ近くに浮かんでいる、領主のお船へ湖から近づきます。

 お船の底へ回って、しっかりお手々をくっつけて。


 ドッガーーン!


 随分セーブしたよ。

 だって、潜水艦のバッテリーに、潜水艦のサーチライト替わり。

 それと潜水魔法に牢屋の解錠。

 さすがの僕もへとへとだし。

 まだ、向こう岸までたどりつかなくちゃならないからね。


 だから、まあまあお得意の火魔法で船底に僕が通れるぐらいの穴を開けておきました。フフ。これでお船は当分使えないよね。

 水の中だから、火はすぐ消えると思うし、被害は一番少ないはず。

 少なくとも、近くに人がいないことは確認してたからね、人的被害はよっぽどじゃないとない、と、思うんだ。


 あ、どうやら船で追おうと、何人か乗り込んできたみたい。

 碇をあげているね。

 でも、プクプクプク・・・・

 よし。

 僕の開けた穴からしっかりお水が入っていってる。碇を上げた反動もあって、なかなか順調に浸水中。

 そうこう見てると、アーチャがやってきた。

 ジェスチャーで、行くぞって合図。

 僕は頷いて、潜水艦の後を追ったんだ。

 あとは、向こう岸の借りてる別荘で合流、予定です。

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