第197話 囚われの鍛冶師救出大作戦(3)
いろいろ言いたいことはある。けど、まずは作戦です。
潜水艦が沈んでいって、その真下をアーチャは駆け足。
僕はアーチャの近くで泳ぎます。
やっぱり走るより泳ぐ方が水の中では機動力あるね。
潜水艦に乗りたかったなぁ、と、最初は思ったけどね、今は、ちょっぴり、お外で良かったかも、って思ってます。
だってね、水の中を悠々と進む潜水艦。それを下から横から上からと、自由自在に見れるのはお外にいるから。
水中では地面を歩いたり走ったりしかできないアーチャは、潜水艦の周りをうろうろと泳ぐ僕を見てちょっぴり悔しそう。
でも、なかなか浮いてくる余裕はなさそうなので、修行あるのみ、だよね。へへへ、僕の動きを見て勉強してね。
潜水艦は徐々に沈んでいきます。
ていうか、山の方ほど深くなるからね。なるたけ潜って気付かれないようにしなくちゃね。
何度か僕とアーチャで潜水の練習のために深いところまで潜ったんだけどね、そのときは、お魚とかの水中の生き物に攻撃を受けたんだ。もちろん返り討ちにしたけどね。
だけど、さすがは潜水艦。
見たことのない巨体にお魚さん達もビックリです。
慌てて逃げていくのはいるけど、突っかかってくるのは皆無。
うん、楽ちんに進めそうで良かったね。
と、しばらくご機嫌に移動していた僕たちだったんだけど・・・
え?
潜水艦が、急激に浮上し始めたよ。
高度を下げて領主の別邸まで進む予定だったのに、何かトラブル?
僕とアーチャは慌てて顔を見合わせ、潜水艦の横に浮上したんだ。
ポコッと本体だけ水上に出した潜水艦。
上にある出入り口が開いたよ。
僕たちが浮かび上がったのを見ていたのか、同じタイミングだったのか、出入り口から顔を出したのはミラ姉。
操縦席にいたんじゃなかったの?
ミラ姉は僕らを見て、手招きをしている。
僕とアーチャは目線を合わせ、首を傾げると、潜水艦の出入り口までよじ登ったんだ。
出入り口からミラ姉とアーチャと3人、本体へと入ったよ。
2列2列のシートがあって、4人乗り。
操縦席が右側で、助手席に当たるところとの間に、動力部に直結の魔導具があって、そこから魔力を供給できる仕組み。
一応、魔力さえあれば、1人でも操縦できる。操縦席のレバーで操縦しつつの助手席との間の魔導具に触れて魔力を供給するんだ。
ただし、カイザー曰く、魔力量で考えれば、これを一人で操縦できるのは、僕かドクぐらいだろうって。アーチャとかママ、ゴーダンにアンナも出来るかもしれないけど、深さや速度に対応できるかは怪しいって。ミラ姉はちょっとしんどいかも、だそうです。
ただし、助手席に誰かが乗って魔力の供給をすれば、ミラ姉でも大丈夫。一応カイザーの想定として、ミラ姉ともう1人、うちのメンバーが乗り込めばなんとか実働できる、っていうのを想定して、大きさとかを考えたんだって。ほら、ミラ姉、うちの魔導師扱いだし?
そうは言っても、余裕、ってことで考えると、ミラ姉レベルで2人、セイ兄レベルなら4人を想定しているとのこと。で、後ろの2つの席にも魔力供給用の魔導具が置かれていて、動力部に直接送られると共に、余剰はバッテリーへと供給されるってわけ。
てことで、今回は、ミラ姉が操縦特化で魔力供給はせず、ネリアが助手席、サマンさんノアさんが後ろの席で、魔力供給をしていたんだけど・・・
ミラ姉に連れられてやってきたこの本体には誰もいないよ?
首をすくめるミラ姉に先導されるまま、船尾のハッチから付属部分へと足を踏み入れたんだけど・・・
「仕方ないじゃない!だいたい、誰もが誰も、こんなこと受け入れられないわよ!」
下からヒステリックな怒鳴り声。
ここは、くっつけられた船室。カーゴにもなるけど、ここに鍛冶師さん達を載せる予定だから、今回は船室仕様。といっても、椅子が10個ほどあるだけなんだけどね。
で、今はこの空間に全員集合していたようで・・・
「じゃから、儂の腕を信用せいと、言っておろうが!」
けんか腰に言うのはカイザー?
「一体どうしたの?」
思わず僕も声をかけちゃったよ。
この船室で、カイザーとけんか腰の言い合いをしていたのはネリア。
そして、その横でばつの悪そうな顔をしているのはサマンさんとノアさん。
僕の声を聞いて、こっちを見ると、そっと視線をはずしたんだけど・・・何があったの?
「出力不足じゃ。」
カイザーが僕に答える形で言ったけど、は?どういうこと?
魔導師が3人もいれば、魔力量に問題ないんじゃなかったっけ?
練習もしたんでしょ?
「こんな真っ暗なんて聞いてないし、もし船が壊れたら一巻の終わりでしょ?」
サマンお姉ちゃんが、ボソボソとそう言ったんだ。
「あれ?真っ暗ってのは言ったと思うけど。」
「あんたたちは自分だけ明かりを付けてたじゃない。そのぼうっと下に浮かぶ明かりも不気味なんだってば。」
ネリアがそういう。けど、助手席からは外部出力ができる仕組みって言ってたよね?ネリアがヘッドライトみたいに明かりをつければいいんじゃないの?僕は、そう思って首を傾げたよ。
「ちょっと、ダー。あんた、私に明かりをつけろ、なんて思ってないわよね?」
「へ?」
「言っとくけど、私は火の魔法が使えるから洞窟やなんかでは明かり役やってるけど、水の中に火を放り込んでも、消えるだけだからね?光の魔法なんてレアなの、できるのはあんたのチームぐらいよ?」
あー。僕とママ、ドクが光の魔法、使えるから、気にしたことなかったよ。
「それにね、この船を動かすので精一杯。余剰の魔法なんて無理だからね。」
ハハハ。そういうこと。
「だったら僕が潜水艦の前で照らす?」
「それはありがたいんだけど・・・」
僕の提案に、ノアさんが、申し訳なさそうに、口どもっちゃった。
?
「んー参ったのぉ。いつもどおりの魔力供給ができんのじゃよ。どうしたもんかのぉ。」
なんでも、3人の出力がこれ以上深く潜って航行するには無理がある、ということのようで。
多少バッテリーに補充はしていたんだけど、どうやら、ここまでで半分以上使っちゃったんだって。想定では、みんなの魔力だけで作戦遂行。非常事態があればバッテリーから魔力供給をしてスピードその他の機動力をアップして逃げる、なんてことになってたんだけど・・・
「なるほど。みなさんひょっとして、不安感が勝っちゃいましたか?」
アーチャが、そのとき、腕組みをしながら言ったよ。
不安感?
「魔法は精神力が命。イメージで動かすものです。その分精神状態が如実に繁栄される。この船は大丈夫か?水の中で放り出されたら?真っ暗な中、船がバラバラになったらどうしよう、そんな恐怖や不安が魔力に影響を与えているんじゃないでしょうか?」
「え?だって、カイザーが作ったんだよ?暗いのが怖いなら僕が照らすし、もう問題はないよね?」
「自分ではそのつもりなの。カイザーが天才で、あのエッセル号を作った人だって知っているし、他にもたくさんの伝説を知ってる。だから自分が不安に思ってる、なんて、思ってなかったの。でも・・・。」
サマンが唇をかむ。ノアやネリアもうつむいて悔しそうにしている。
「理屈では分かってる。分かってるのよ。でも、仕方ないでしょ。どうしても魔力の供給が練習の時みたいにはできないのよ!」
「でも、全然できないわけじゃない。そうですよね。皆さん8割弱ってところでしょうか?」
と、ミラ姉。
「私も多少の余力はありますから、魔力供給にも参加します。それで、ダー、アーチャ?」
「なに?」
「はい。」
「あなたたちで、ここのバッテリー、補完できる余裕はある?」
「僕は大丈夫だよ。」
「僕は、この後を考えると、少ししか・・・」
「じゃあ、アーチャはできる限り補充して貰って、ダーが残りお願い、ね。」
「わかりました。」
「いいよ!」
「しかし、帰路を考えると、少し不安じゃのう。」
確かに、今までで半分使っちゃったんだよね。
これからの方が深さも深いし、時間は長い。
まぁ、止まっている間はミラ姉も補給するだろうけど、いざという時を考えるとちょっぴり、不安かも。
「はいはいはい!」
その時、久しぶりの声を聞いたよ。エアだ。ていうか、エア、出てきちゃだめだよ。エアのこと知らない人いるんだから。
「あのね、私だったらダー様の魔力を運べるの。」
「どういうこと?」
エアを見て目を丸くしている人達には気付かないふり、だね。
「ん、そのままだよ。魔力をお船の時みたいに貯めれば良いんでしょ?エアが手伝うよ。ダー様の魔力を貰うでしょ?それをエアがあそこに貯めたげる。」
ニコニコ、としているけど、水の中に僕はいる予定なんだけど・・・
「ダー様の側ならお水じゃないでしょ?ずっと見てたから知ってるよ。エアは、ダー様の空気とこの潜水艦とを移動できるもん。」
「なるほどのぉ。エアよ、頼めるか?」
「うん。エアも一緒。作戦するの!」
フフフフ、と楽しそうに飛び回るエア。
そうだね、そういうことができるならお願いしようか。
僕はエアにお願いして、カイザーの指示に従って貰うことにしたんだ。
いろいろ言いたそうな顔をしている人達はひとまず置いておこう。作戦中だしね。
僕とアーチャは、潜水艦のバッテリーを補充すると、改めて水中へ。
潜水艦はゆっくりと沈み、僕はその前へと進み出る。
今までよりも強めの光を出して、さぁ、再出発!
無事に鍛冶師のみんなを救出しなきゃ、ね。
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