第195話 囚われの鍛冶師救出大作戦(1)

 商業ギルドで、なんか冒険者ギルドもあわせてよろしく、みたいな話に終始したんだけどね、みんなが言うには、僕と顔を繋いでおきたかったんだろうって。

 僕がナッタジの商品や売り方を開発してるっていうのが、もうバレバレで、しかも、魔法はドク仕込み、剣とかの戦闘はゴーダン仕込み、なんていうこともバレバレ、なんだって。でもみんな温かい目で僕の成長を見守ってくれているんだよ、って。

 それに、なんだかんだで、うちの人達ってば、僕の希望を叶えようとしてくれるからね。僕をくどければうちの人達全員を味方に出来る、なんて計算だよ、って。うん、ネリアがね。ハハハ。

 今は、虐殺の輪舞や不屈の美蝶も共同で活動してるし、そんな僕の希望ばっかりじゃない、よね?


 「安心しな。今のところお前の思いと同じだから、共に行動してるだけだ。いやなら抜けるさ。」

 豪快にバンジーが笑ったよ。



 僕たちの周囲の状況っていうのは、領主派って言われる人以外は、全部味方。そう思って良いだろう、ってお話しです。うん。昨日の最終会議でのお話し。

 でね、もともとが領主派は少数派。

 ただし、近頃なぜか強気の領主に好き放題されかけていて?

 てことで、領主派じゃない人たち、もともとの中立ていうか、知らぬ存ぜぬの人も、かなりの数、ギルド派といっていいようです。やっぱりザドヴァ国に属することになるのは嫌だって人が多いって。そりゃ、もともとそこから逃げてきたんだし、当然かな。


 で、大きな流れとして、自分たちはタクテリア聖王国の国民である、という立場をしっかり表明して、国の協力を請う、というところまできているようです。

 国としては、僕らから情報を欲しているし、僕らからもちゃんと情報を提供してるからね。でも、疑い、だけでは、軍は動かせない。

 てことで、何か行動を起こすのを待っている、ということのよう。


 その起爆剤になるかもね、っていうのが、謎の海賊、という名のトレシュク海軍にリヴァルドの魔導師軍団が乗り込んだ連合軍の犠牲になった船から拉致されたっていう鍛冶師たちの奪還、っていう今回の依頼。

 この鍛冶師たちが乗っていたお船以外もね、複数の船が沈められたんだって。でもね、生き残りはこの鍛冶師たちだけだろう、って。ひどい話です。


 なんで、鍛冶師たちだけが拿捕されたのか。

 これは、モーリス先生から聞かされていたようです。

 なんでもね、あのお船は、僕のお願いした荷物を運んでいたんだけど、そこに関与していたのはザガの鍛冶師たちなんだ。僕が帰国前に親交を持った人達。

 でね、そのとき、僕の保護者って意味もあってカイザーがいたでしょ?カイザーってばエッセル号の作成者だからね。ドクの魔導具を上手に落とし込んで、今でも最強だって言われてる我がエッセル号。この知識の片鱗を請われて伝授していたんだそうで、魔法よけの魔導具がいくつか仕込まれていたんだって。

 そんなわけで、他の船より沈みにくかった、ってことらしいです。

 他はね、ちょっと遠いところから、強化された魔導師による攻撃で船を沈めて、お船が完全に沈むまでの間で、物資の捕獲なんかもしていたらしい。

 けど、その遠距離攻撃だけで沈まなかった一隻。

 乗り込んだら、なにやら不思議な板がいっぱい。

 そして、なぜか鍛冶師たち。

 鍛冶師はね、武器も作れるし、そのほかの物資も作れる。

 近隣の村から人材も調達しているような人達。鍛冶師っていうのは、とくに集団っていうのは魅力的だったんだろうって。

 カイザーなんかは、魔法も使って、一人でなんでもやっちゃうけどね、普通はいろいろ協力して物作りするのも多いんだそうです。それこそお船とかね、一人ではやらないでしょ?

 ちなみにエッセル号、ひいじいさんやゴーダンもお手伝いしたらしいです。設計兼現場監督兼船大工のカイザー指示のもと、メンバーだけで作ったとか。技術流出を防ぐって意味もあったようだけどね。この世界にない技術も使っているみたいだからね、ハハハ。


 まぁ、そんな感じで、この鍛冶師たちは無事っていうか、沈められることなく、拿捕されて、怪しい積み荷ごと連れ去られたってわけ。

 で、なぜ未だに放置かっていうと、単純に手が回ってない、ってだけみたい。

 武器や物資をつくるにしても材料がいるでしょ?これが集まりきれていないんだって。そのために、略奪まがいに近隣の村から人や物を集めてるけど、すべてが日帰り圏内で済まそうとしているのも、同じ理由。兵士を遠くまでやって、呼び戻すのに時間がかかったら、自分たちを守り切れないって考えてのことのようです。



 でも、そんなに人も物も不足しているんなら、なんでこんな大それたこと考えたんだろうね。子供の僕でも、成功しないんじゃないかって思うよ?

 そのうえお膝元の各ギルドまでご領主様についていないんじゃ、どうしようもないのにね。

 逆に、僕たちからしたら、ギルドも大半の住民も、みんな味方。

 直接に、間接に、たくさんの協力を申し出てくれているようです。


 ということで。


 僕たちは、まずは鍛冶師たちの救出。

 と、同時にリヴァルドと領主を確保できれば、国王へと後は押しつけられるんだけど、とゴーダンなんかは言ってるけど、そこまではうまく行くかどうか。


 「難しいことは今考えなくて良い。俺たちがするのは、鍛冶師たちの救出だ。それ以上でもそれ以下でも無い。たとえそれが引き金になって、出兵を促してしまったとしても、それは別の話だ。それにな、そこまでの話しになったら、俺たち一冒険者の出る幕じゃない。それは国の仕事だ。国にこれだけの情報を渡しているんだ、それ以上求められることはないし、求めてきたら足蹴にしてやる。いいか。冒険者はあくまで自由。国に縛られることはない。内乱や戦争なんて、冒険者には関係のない話だ。巻き込まれそうならとっとと別の国に移る、それが冒険者だ。もちろん国からの依頼として、頭を突っ込みたかったら止めはしない。その自由も冒険者の特権だ。だがな、勘違いだけはするな。冒険者なら冒険者らしく、今、目の前のやるべきことだけを見つめろ。俺たちは、謎の海賊に捕らえられた鍛冶師の救出をするために、ここにいる。その成功だけが俺たちのやるべきことだ。」


 会議の最後に、ゴーダンがそんな演説をしたよ。

 うん。そうだ。

 僕たちは冒険者。

 国のことを考えるのは別の仕事の人達、なんだ。

 僕は、鍛冶師のみんなを、絶対に助ける。

 誰も、仲間を失わない。

 だって、冒険者、なんだから・・・

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