第194話 ヨートローの商業ギルド
僕の前には、別荘を借りているトッドさんの本家パパラのご当主と、ギルドマスターだというドワーフらしき人がいます。
なんかね、幹部にはドワーフさんも多いんだそうです。ほら、ザドヴァでもドワーフさんが幹部にいたよね?
て、ハハハ、世の中狭い、ていうよりも、ザドヴァのザガから出奔した人達がこの町を築いたから当たり前かもしれないけど、ここの現ギルドマスター、まさかのヤーノンさんの従兄弟、なんだそうです。そう、ザガのサブギルド長。あ、今回のクーデターでサブが取れてギルド長になったんだっけ?
ギルド長の話によると、ザガはザドヴァの民間の玄関口ってこともあって、あの国としては開けているし、海外との交易も盛ん。けど、やっぱりいろいろ制約があるから、っていうことで、ここトレシュクをクッションのようにして、貿易をするのがほとんどなんだそうです。で、そのクッションを使うのに血縁、ていうのがすっごく重宝するんだって。だから、親戚がザガとトレシュクで分かれて活動しているってのは、結構多いって、教えてくれました。
「ダー君、いやアレクサンダー・ナッタジ次期会頭殿、儂としては、そう扱おうと思う。」
ギルド長ってば、真面目な顔でそんな風にいうんだもの、困っちゃうよね。
「僕、まだ6歳の子供だよ。将来ナッタジ商会を継ぐかなんてまだまだわかんないよ。」
実際、僕としては会頭とか興味ない。だって、ママがやってるんだもん。ママは13歳で僕を産んでる。だから13歳しか年が変わらないんだよ。継ぐ継がない問題なんて、なかなか起こらないって思うんだ。
それにね、ママはまだ19歳だよ?結婚して、僕の弟とか妹だってできるかもしれない。そしたらね、僕はその子たちもママみたいにいっぱい愛するんだ。その子たちが商会をやりたいって言ったら、僕は世界中から商品を集めてくるし、いろんなものを作って売って貰う。そんな未来もあるかもしれないんだ。
それなのに、今の段階で次期会頭はないよね?
「ハッハッハッなるほどなるほど。確かにそうかもしれんのう。じゃがな、坊よ、坊のすごさはザドヴァからも聞こえてきておる。今回の捕らえられた鍛冶師たちは、坊に会いたくて乗船したと聞いておる。しかもその積み荷。あれは、坊が発注したもんじゃろ?」
「えっと・・・もしそうなら、今回の被害って僕のせい?」
「いやいや、そういうことじゃない。悪いのは襲撃者であって、坊には関係ないさ。すまんのぉ、勘違いさせたか。つまりじゃ、我が従兄弟どのも含めて、ザガでは特に坊に心酔するドワーフどもが、まっこと、多い。そんな坊に、これからも商業ギルドとして、良い関係を築いていきたい、そう言いたかったんじゃよ。」
「・・・えっと、ナッタジ商会はママのものだよ。良い関係はママのお仕事、だよね。」
「フフフ。ダーのこれからに期待してる、そう皆さんは言ってるんだと思うわ。」
「まさにその通りじゃ。さすがはナッタジ会頭じゃな。これからも、末永く、御社と良い関係を築きたい、そう考えておる。」
「はい。こちらに支社は、考えておりませんが、商業ギルドとはギルドの一員として、良い関係を築く所存です。」
「それはありがたい。・・・というのもだな・・・」
ギルド長とパパラさんが、目を交わしたよ。
ん?なんだろね。
「ご領主様、でしょうか。」
しばらくの沈黙の後、ママが言った。ああ、そういえば一応商人、なんだっけ?
「ああ。生憎と今はこのヨートローのギルドは大きく割れている。領主派と反領主派、といったところかのぅ。」
そのことはチラッと聞いてるけど、僕たちみたいにこの領所属じゃない人に言っても良いのかなぁ?
「正直なところ、本当に領主と一蓮托生で良いと思っている商人はそう多くない。むしろ、最近の領主の施策に疑問を持ち離脱を謀る者も少なくないんじゃ。彼らからの情報で、我々も色々動いている。その1つがパパラによる、君たちへの別荘の提供、といえば分かるかのぅ?」
僕はパパラ会頭を見たよ。ニコニコと人の良い笑顔だけど、しっかり僕たちを取り込もうってのはあるんだね。
まぁ、それは想定内、だけどね。実際借りるに当たって、パッデも言ってたんだ、ナッタジがこの町ではパパラ一派って思われても良いなら借りよう、って。
しかし、わざわざ僕まで呼んで話すお話しなのかな?
僕にはこれからも仲良くしてね、ってお話しだよ、ってパッデが耳打ちしてくれたけど、なんか、ちょっと不思議です。
そんな感想を持ちながら、みんなが話をしているのを聞いているとね、いつの間にか、この領のお話しになっていたんだ。
商業ギルドとしては、領主の思惑を阻止したい、んだそうです。
なんかね、ギルドの現状把握としては、領主はトレシュク領ごとザドヴァに併合するべく動いているんだそう。
リヴァルドを中心とした最強魔導国家としてのザドヴァを取り返し、トレシュクもザドヴァの一部となる、そのための軍事力を集めている、そこまでは間違いないだろう、ってことです。
まぁ、僕たちの情報収集と同じ結果だけどね。
で、商業ギルドとしては絶対ザドヴァには併合されたくない、これは冒険者ギルドとも同意してるんだって。
そんな中、僕ら3パーティがやってきた。
で、共闘の持ちかけ、って感じかな?
どうやら、ギルドとしては、領主がリヴァルドを保護してすぐに、この怪しい動きに気付いて、戦ってきたんだそうです。といってもそこは商業ギルド。戦うは戦うでも商人としての方法で、ってことで、領主への物資の流通を、どうやらかなり押さえ込んでいたんだそうです。もちろん領主派はその分どんどん物資を送り込んでいるみたいだけどね、そこはほら、反領主派との攻防があって、こっちが優勢。
最近では、手持ちの兵士を使って首都近郊から直接奪うみたいに物資を調達しているようで、冒険者ギルドと協力して、その排除を頑張っているんだって。
そうこうするうちに、僕らのことが目について、お得意の情報収集。で、協力を持ちかけたんだそう。僕らが何か行動を起こすなら、全面的にバックアップさせて欲しい。そして、このトレシュク領をタクテリア聖王国から離反するのを防いで欲しい。商業ギルド員のナッタジ商会として、また冒険者ギルド員の宵の明星他として、共にこの国でやっていこう、そんな感じ。
そんな一言で返事できないようなこととかも、世間話みたいに色々話して、僕らはギルドを後にしたんだ。
隠れ家に戻ってからね、みんなにいろいろ聞いた。
商業ギルドも冒険者ギルドも、本来は国と関係のない超国家的組織。
で、本来は政治的な言動はギルドとしては行わないもの、なんだって。
領主がね、どの国の人か、この土地がどの国のものか、そんなのはギルドとしては関与しない、ってのが建前。
で、個人としてどこかの国への協力、ってのは問題ないんだけどね、組織としてはパーティ単位ですら、国への強制、ってよくないこと、って思われているんだって。
でも、やっぱり、どこかの国で暮らしているんであって、やっぱり国が変わるといろいろ変わっちゃう。ザドヴァではギルド長ってのは国から派遣される、みたいなことまであるしね。
だから、ほとんどの人達は、タクテリア聖王国のままでいたい、ってことなんだと思う。
でね、そもそもの話、ってことでね、領主って領主にすぎないんだって。どういうことかっていうと、国王様から命じられてとある地方を統治している、ただそれだけで、領地ってのは国のもの、なんだって。だから、領主の勝手で国を離脱するとかって、タクテリア聖王国からしたら、単なる反乱とかクーデターとか、そんなレベルの話。もちろん、ザドヴァに所属します、って領主が言ったからって、はいそうですか、はないんだよね。当然、そこには派兵されるはず。
うん。
戦争、なんて話、実感してなかったんだ。
ザドヴァでクーデターに巻き込まれたけど、でも・・・
領主を止めなきゃ、トレシュク領を巡るザドヴァとタクテリア聖王国の戦争、なんて話がチラチラ出てきちゃって、僕、なんだか怖いです・・・
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