第186話 先行チームとの合流

 ギルドを後にした僕たちは、アーチャの案内で、先行チームの泊まっているお宿へ行ったよ。

 え?お宿じゃない?

 おうち、借りたの?

 へぇ、でっかいからお宿かと思ったよ。



 あ、そうそう。

 僕たちがうまく合流できるように、て、トレシュクに入った時点で、それぞれのチームに1人ずつお迎えが向かってるはずなんだ。こんな風に、仮拠点をつくったら、その場所を安全に伝える必要もある、ってのも大きな理由かな?

 他のパーティは誰が行ってるのか知らないけど、うちはアーチャがパパラギ村でお出迎えしてくれてたんだ。

 各チームそれぞれが、通る予定の交叉都市で合流してるはず。ていうのは、交叉都市以外だと小さな村とかだから、お泊まりするほど長く逗留しないし、ってことと、情報収集のために動いてくれてるから、先行チームの訪ねていない村を行かなきゃ効率悪いでしょ?情報収集のためには、早めに合流して、領都へと向かうのが正解なんだ、って。


 てことで、パパラギ村でアーチャと合流していた僕らは、領都で他のパーティとも出会う予定。誰か到着してるかな?

 て、僕たちがどうやら1番乗りだったみたいです。



 でね、残っていたヨシュ兄たちと、情報を付き合わせることにしたよ。


 あのね、今の領主は、お飾りみたいな現状を嫌って、そもそもがザドヴァ寄りの人だった、ってことが分かったみたい。ザドヴァ寄りって行っても仲良しさんは前政権、ていうの?リヴァルドたちだよね。

 なんかね、上の人の命令に下の人はちゃんと従うべき。平民の商人が貴族の領主に意見するなんて、あってはならない、ていう考えをザドヴァ側から習った、ってことみたいです。



 どうやらリヴァルドを脱獄させた人達は、そのままトレシュクへと入り、領主に保護されたみたいなんだって。リヴァルドと一緒に多くの魔導師も脱獄を成功していて、あと、リヴァルドとべったりだった多くの有力者=我が国だと貴族みたいな立場の人達も吸収しつつ、って話だから、どうやらこの一連の流れは、トレシュク領主が、がっつりと協力した上で、としか思えないんだそうです。


 それとね、人と物資が強引に、領主所有の屋敷とか倉庫に集められているんだって。

 ほら、ジャンゴがトッソーの村のお薬を領主に売る、みたいな話、あったじゃない?あれって、領主ってのは、相手の人が勝手に言ってるだけだろうって思ってたんだけどね、本当に相手は領主だろう、だって。

 どうも、ジャンゴみたいな人を間に立たせて、略奪(て、セイ兄は言ってる。買うって形を取ってるけど、実質は奪ってるのと同じなんだって)に、正当性を持たせようとしてる、そうです。

 ほら、地元の人が納得して売買契約したよ、ていう、そんな形だけは作れちゃうってことらしい。商人さんにとって、契約ってのは何より重要、なんだって。



 「ここからは推測なんですが、おそらくリヴァルドは、トレシュクに戦力を集めた上で、独立、または、ザドヴァ奪還を狙っているんではないでしょうか。どう考えても、挙兵の仕込みをしているとしか思えない物流です。トレシュク領主とリヴァルドが手を取り合って、と考えるのが自然かと。」

 ヨシュ兄が言ったよ。

 「もしくは、トレシュクを切り取ってザドヴァに併合、もちろんザドヴァを手に入れた上で、と考えてるかもな。」

 ゴーダンも難しい顔で、そんなことを言った。

 「まぁ、考えていたところで答えは出んよ。ところで、その協力者、というのは会えるのかのう?」

 と、ドク。

 うん、それは僕も知りたい。



 地球から転生してきた、というお医者様。

 元脳外科医だという協力者。

 ヨシュ兄たちが報告してきた後でも、何度か会って、いろいろ話をしたらしい。

 どうやら彼は、ママと同じ珍しい治癒魔法を使うんだって。

 前世がお医者様だから、なのかな?

 でも現実は、そんなにいいもんじゃなかったみたい。

 どうやら本当は外科手術的なこともこっそりやっていた潜りの医者として生きてたみたいなんだ。

 外科手術なんて、こっちの世界じゃ人を切る悪者、としか思えないんだって。まさか医療行為だ、なんて分かる人はいない。けど、実際救えるってことで、裏の世界で怪しい術を使う医者として生きてきた、っていうんだ。

 で、リヴァルドに見つかって、彼の実験についてのアドバイザー的なことをやらされていたようです。


 人体実験をやりたいわけじゃない。

 けど、人間を切り貼りして生きさせる技術なんて、この世界では誰も知らなくて、リヴァルドが驚喜したんだそう。魔力に関係ありそうな内臓を探そうと、人を切り刻むよう要求されたんだって。拒否したらね、技術も何もなく、他の人が切っちゃうんだって。当然麻酔もなく、ね。

 そんなひどいことを見てられなくて、できるだけ安全に麻酔もして、実験後の縫合も丁寧にすることで、なんとか生存率を上げていたんだそう。

 見よう見まねでやろうとする人を防ぎながら、っていうんだから、大変なことだったんだろうね。


 協力者さんがいなかったら、うーん、ひょっとしたら人を切っちゃうなんて人体実験はなかったかもしれない。でも、誰かがそのうちはじめてそうだよね。

 協力者さんが何をやっているかわからないから、切られた人が生き返る奇蹟をリヴァルドに認められ、側近みたいなことになってるらしい。

 おかげで、今回もたくさんの鍛冶師が助かったのは間違いないだろう、って実際に鍛冶師たちと話をしたアーチャやヨシュ兄も頷いてる。


 「まずは、捕まっている鍛冶師たちと共に協力者をこちらで保護する。他にも保護対象があるか?」

 ゴーダンがヨシュ兄に聞いたよ。

 「協力者によると、連れてこられた者の中には子供も多くいるようです。有力者子弟に、魔導師の卵、教養所のような組織の在校者、と言えば分かりますか?中には、リヴァルドの失脚自体を知らない者もいる、ということです。彼らを保護するかどうか、というところでしょうか。」

 「それは、その協力者が言ったの?」

 ミラ姉が不思議そうに言ったよ。

 子供とか、物を知らない、とかで保護、という発想は、ちょっと難しいんだと思う。判断能力がない人ってのは保護しなきゃ、とでも考えてるのかも、って僕は思うけど。うん、前世の考え方ってそんな感じじゃなかったっけ?


 僕としては、子供でもちゃんと自分の頭で考えて選べるよ、って思うけど、いろんな知識がなければ、考える、ってことすらも難しいのかもね。それは気の毒だけどね、だから助けよう、ってことになるのは、みんなに余裕があるから、だと、この世界に生きる僕なら思っちゃう。自分のことは自分で決めなきゃ。弱くったって人に救って貰うのを待ってるだけじゃ、だめだと思うんだ。


 「うーむ。その協力者としては、自分と同じように強要されているような者は一緒に、ということかのぉ。じゃが、そこまでは手に負えるかのぉ。」

 「子供だろうが、現状が分からなかろうが、リヴァルドに心酔してるような者もいるだろう?彼らまで保護は無理だな。」

 「そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかい?こちらに味方する、もしくは助けを求める、そんな人達は可能な限り保護すれば良い。今、考えることじゃないだろ?」

 みんないろいろ言ってるけど、結局アンナの言うように、こっちに来る人以外は、助けようがない、よね?


 「よし。まずは予定どおり、船の乗組員と荷物の回収。と、同時に、その協力者を保護する。彼がどの程度リヴァルドに必要とされる人物かは分からんが、場合によっては、そのまま全面的にぶつかることになるかもしれないから慎重にな。決行は、美蝶も虐殺も揃った時だ。それまでは協力者と連絡をとりつつ、リヴァルドの動向を探る。ダー、そわそわしているようだが、協力者との話は、彼を保護した後だ。勝手に飛び出すなよ。」

 ちぇっ。わざわざ言わなくても分かってるもん。

 まずはみんなの命が第一。

 だから、ちゃんと待つときは待つ。

 本当だよ?

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