第185話 ヨートローの冒険者ギルド
領都ヨートロー。
さすがに塀がある町です。
ヨートローってね、南の山に面した場所。領の最南端にして東西では中央部、かな?
山の麓には領一番のでっかい湖がある。その湖を南の端としてるから、塀自体は南側にはなくて、東西北を囲んでるんだ。
僕たちは、グルグル巻きにした鎧の人とかを運んでるし、ドクやゴーダンなんかの冒険者証を見せて、貴族の門からさっさと入場したよ。
鎧の人とかのこととか聞かれて、村を剣で脅した人達って言ったんだけどね、ほら、本人たちはザドヴァの騎士だ、なんて言ってるからさ、単なる領の門番さんが、勝手に投獄、とか、ちょっと困っちゃうって感じだったんだ。だから、とりあえず冒険者ギルドへ連れてこう、ってことになってね、町中をこんなドナドナ状態で進むことになっちゃった。
冒険者ギルドには、大概地下とか、離れ、的なところに、投獄できる場所があるんだ。ほら、素行のよろしくない人、なんてのもいたり、特にお酒で暴れちゃったりね。そんな人の面倒を憲兵さんとか、騎士さんが見るのも、ってことで、主に悪い冒険者を冒険者で確保する、ていう施設。
だけどね、時折、こういった普通の憲兵とかじゃ管理できないって人も、お預かりしたりするんだって。高ランカーがいれば、そこらの兵隊さんたちより強いから、強い犯罪者とかね、あとは、ギルドって国際組織だから、外交問題が発生しそうなときとかね、そういう場合は、冒険者ギルドへ、っていう図式があるそうです。
てことで、外国の騎士を名乗る人は冒険者ギルドへ。
「またですか。」
ゴーダンが代表で受付に捕まえた人のことを言ったら、そんな風に言われてため息をつかれたんだ。
「また、とは?」
「えっと、けっこう噂になってはいますが、奥でお願いできますか?ギルド長が参りますので。」
一応、僕らが連れてきた人達を投獄(ここのギルドは地下だったよ)したあと、僕らは奥の会議室、というところで待機することになったんだ。
しばらくして。
一人のでっかい女の人が、背の低い男の人を連れて入ってきたよ。
「ギルド長のセーシア・ドードレットだ。こいつは事務員のリック。」
でっかい女の人がゴーダンに手を差し出しながらそう言ったよ。
「リック・ノーマです。ギルド長の専属の事務員みたいなもんです。」
「みたいなもん?」
「あー、彼女、細かいことは苦手で・・・荒事以外は私が・・・」
ハハハ、なんか、見たまんま、というか、大変そう・・・
てことはリックさんて、秘書というか、実質的なギルド長?
「一応、私はふつうにギルド・スタッフとして働きたい、それだけだったんですけどねぇ。ハハハ・・・」
乾いた笑いをするリックさん。
「ハッハッハッ、こいつは優秀でねぇ、何事も私がやるより早いんだ。彼が来てから2年、もう彼なしではやっていけんよ、ハハハ。」
豪快に笑うギルド長。
いや、リックさんって若そうに見えたけど、本当に若いんじゃ?
何かでギルド長に目をつけられて、そのままズルズル・・・
うわぁ、ご愁傷様です・・・
僕だけじゃなく、メンバーみんな、気の毒そうに彼を見ていたよ。
あとで聞いたんだけどね、リックさん、まだ18歳、なんだって。座学限定だけど優秀な成績で王都の魔導師養成校を卒業。平民でそんなに魔力量は多くないから、事務方で、ってそれなりのエリートコースである冒険者ギルドの職員になったんだそうです。て、だったらドクの知り合い?
ハハハ、一学生が学長と接点なんてないですよ、僕の方はお見かけしましたけどね、だってさ。会議室でドクを見てすぐに分かったそうだけど、そのとき特に反応しなかったってのは、とっても優秀な証拠、って、ヨシュ兄が言ってたよ。
でね、ギルド長と元夢の傀儡のメンバーは、名前だけはお互い知っていたようです。お互い絶賛売り出し中の高ランカー。一度会って手合わせしたい、とかなんとか・・・。あ、そう思ってたのはギルド長だけみたい。強い人、とくに同じ女でもあるアンナとは勝負してたい、って思ってたらしいです。てか、さっきも勝負挑もうとしてリックさんに止められたよ。
いろいろあって、結局今日が初めまして、だったんだけどね、でもめずらしくアンナは一人でギルド長と飲みにいっちゃいました。なんだかなぁ・・・
それでね、会議室で聞いた話。
「またですか。」て言われたのは、そのまんまで、いくつかの村で冒険者が悪い騎士を捕まえてきては、ギルドに連れてきたみたい。まぁ、実際連れてきたのは、僕らで3件目なんだけど、被害の訴え、ていうのかな、ギルドに持ち込まれた案件ってのはそれなりの数になってるんだって。
なんで、冒険者ギルドに、って思うけどね。だって、一応騎士が来て契約書結んじゃったら、ちゃんとした商取引ってなっちゃうし、脅しが入ってるっていうなら、ギルドじゃなくて領主様とか憲兵さんとかに言うべきなんだもん。
外交問題になるから無理?
いやいや、それなら領主が国王に訴えるべき、ていうのが正規のルート、なんだそうです。
「ここの領主ってのは、他の領と違って、本来は力がないからねぇ。」
有力商会の会頭の方がよっぽど実権を握っているんだって。
憲兵さんを使って町の犯罪を取り締まってくれたらそれでいい、政治に口を出すな、な、お土地柄なんだそうです。
なんでもね、商業ギルドの役員たちが、こういう風にやって欲しいって治世の案をだしてくるんだそうです。予算とか公共事業とか、そんなこと全般。でね、一応建前上は要望書ってことで法的な意味はないんだけど、実質はその案で領の運営がなされているんだって。
それだけ聞いちゃうと、商人がわがままだって思っちゃうけどね、案外ね、この要望書は筋が通ってるんだそう。ていうのも商人さんって自分の利益を大事にするし、そのために信用を大事にするでしょ。だから、上手に話し合いで利権がらみのことも調整できてるんだって。
そりゃ、商人に有利な施策になるけどね、一応冒険者ギルドとか、官僚とかも話し合いには参加もしてて、良い感じにずっとまとまっていた、そうです。
ところが、数ヶ月前のこと。
領主が勝手に税金をたくさん取りだしたんだって。
まずは貿易関係。
入って来る商品だけじゃなくて出ていく商品にも税金をかけ出した。
持っている船にも税金、港に入って税金、出て税金。
当然、商人たちは反発したんだけどね。
文句言った人の商品は没収、投獄する、なんて暴挙に出だしたそうです。
商業ギルドも直接抗議に行ったんだって。だけど、そもそも税金ってのは、領主の専権事項、つまりは領主だけがもってる権利ってやつ。何にどんな税金をかけるのかも率をいくらにするのかも、本来は領主が好きにやっていい、ってのが国の決まりなんだ。
ちなみに、国はあなたの今年の税金はいくらですよ、て言うのを決めて徴収するんだけど、その税金と領が実際集めた税金の差額が領として勝手に使っていいお金、ってこと。基本的に秋の収穫時期の後、いろんな報告書をもとに各領の税金は国の方で決めます。だいたい春前ぐらいに各領に通達されるんだ。
というお話しは、リックさんが丁寧にしてくれたよ。
この原因なんだけど、どうやら領主には協力者ができたみたいです。結局、領主が好きに出来ないのは、力を削がれてるせいだ、って、誰かがささやいたみたいです。
あのね、そもそも領主ってのは国王様に任命されるんだ。
で、統治自体は、ほぼ丸投げ。でも問題が発生したら、国王が領主を変えちゃう。そうやって、悪いことをしないようにはできている。
そんなわけで、しっかり治めるためには武力だって必要。
でもこの領では、一人が突出した武力を持っちゃったら、商人の自由が奪われるからダメだ、って思想が強くて、はじめっから領主は必要最低限の武力しか持たない、ってきめたんだって。
でも、そんな古い取り決め、守ってられるか!て考えを持っているのが今の領主様。そこに、じゃあ手を貸しましょう、って武力を提供してきた人がいたら、喜んで手を組むだろうな、ってお話し。
これは、ほとんど推測で話し合われた会議室での内容だけどね、そんなに間違ってはないと思うんだ。
そして、その組んだ相手、ってのが、リヴァルドだろうね。
そうは言っても、商人さんってしたたかです。
あのね、どうやら港に入る税金が高いってことで、トレシュクの港には入らずにミモザまで船を出す、という商人が増えてきた、そうです。外国との取引船も含めてね。
そうしたら、何艘かトレシュク沖で捕らえられたり沈没させられたりした、んだって。どうもその1つが、そもそもミモザへ行こうとした船で、僕らに情報が回ってきたやつってことらしいです。
この領の中だけで起こった事件に関しては、外に情報が出てきてなかったってことかな?
何度も言うけど、これは推測。
ちゃんと、裏取りをしないとね。
僕たちの行動は決まったようです。
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