第182話 森を行こう

 パッカパッカパッカ・・・

 ガラガラガラガラ・・・

 のどかだなぁ。

 シューバに乗ったミラ姉。

 1頭建ての馬車はゴーダンが手綱を握り、僕はその馬車を曳くシューバの背中に寝っ転がってる。

 他の人は馬車の中。


 この領は、ほんとうに道路事情は優れてる。

 舗装はされていないむき出しの土道だけどね。

 商人御用達の大きな馬車も通れる道が、村と村をしっかり繋いでいる。

 すれ違いは難しいけどね。でも、けっこうな頻度で対向車を避けるスペースが取ってあって、休憩は随時そんなスペースを使って出来るんだ。


 大きな村はないけど、以外と村と村の間は近い。

 だから村を使わせて貰う気なら、対向用のスペースを使わずに旅が出来る。

 といってもよそ者を嫌う村も多いんだ。なんだかんだ言っても特殊技能を各村が持っているって言ってもいいからね、技術秘匿のためにちょっぴりよそ者嫌いの村も、それなりの数ある。

 そういう村の近くはね、割とわかりやすい。

 普段この道を使う商人なら当然知ってるからね、村に入らず、対向用スペースで休憩することが多いんだって。

 で、そんな風に使われるスペースは、ご自由にどうぞ、的な焚き火の石積みだったり、良い感じに丸太で椅子なんかを作っていたり、休憩が楽にできるスペースになってたりするんだ。


 逆にとってもウェルカムな村だってある。

 そういう村はね、自分のところの特産品を自慢したいって人が多いかな?それと、商人の持ってる珍しい物とか、ふつうに食料品や日用品なんかもいろいろ見たいっていう好奇心、だったりがすごい。あとは、冒険者捕まえて、冒険話を聞きたい、とかね。


 アンナが言ったよ。

 「警戒してくる村が悪い村ってわけじゃない。彼らは技術をしっかり守りたいんだ。技術が広がると粗悪品も出回るしね。それはダーも分かってるから、焼き印を思いついたんだろう?あれはあれで立派なありかただよ。だからといって、歓迎してくれるところが脳天気ってわけでもない。彼らは広く受け入れることで、より多くの顧客を掴むのさ。ダーが将来どうしたいかわからないが、商会を継ぐならすべての村々をしっかり見ておくんだよ。どんな商会にしたいか。ここの村々のあり方は立派なお手本だよ。たんと見て、たんと考えて、しっかり自分の糧にするんだよ。」

 うん。

 僕は冒険者も商人もどっちもあきらめたくないしね、やるからにはどっちも一流になりたいんだ。そう言うとママはダーならできるって、とっても喜んでくれる。ひいじいさんみたいに、世界を回り、たくさんの出会いをして、どこまでも自由に生きるんだ。

 そんなの無理?

 ううん。やってみなきゃ分からない。

 まだまだ僕の人生は始まったばかりなんだから。




 なんてことをみんなと話したりしながらの、のんびりした道中です。

 森は命の気配を湛えていて、とっても気持ちいい。

 普通だったら、危険いっぱいだから注意しなきゃ、って思うけど、このメンバーで僕が気を張る必要はなさそうです。


 カランカラン、と、馬車につけられたベルが鳴ってのどかだなぁ。

 魔獣だって、無駄に争ったりしないからね、こういう音を聞かせて、人がいっぱい通ってますよ、ってお知らせしてるんだって。

 お腹ぺこぺこじゃないと、わざわざ人がいっぱいのところに姿を現さないんだ。彼らは強いものが分かるからね、よっぽどじゃなきゃSだAだって冒険者がいるような馬車を襲ってこないし、仮に襲って来ちゃう腹ぺこさんやお馬鹿さんは、退屈しているお兄さんお姉さん方が瞬殺しちゃってます。ハハハ。


 てことで、シューバの背中で僕はのんびり転がってます。

 こうするとシューバが喜ぶんだ。仰向けになったりうつぶせになったりしながら、シューバが疲れた、とか、おいしそうな草がある、とか、こっちを見てる魔獣がいるよとか、そんなお話しを聞いてるんだよ。転がっていっぱい触れ合う場所がある方が、思ってることがはっきり分かるんだ。人間より鋭いから索敵係も兼ねてくれてる超優秀なお仲間だよ。



 ブビッヒッ!

 のんびり転がってたら、急にシューバが警戒音を出したよ。

 どうしたの?

 ちょっぴり怯えているシューバ。

 そしてミラ姉を乗せてるシューバも僕に鼻面をつけてきた。

 ?

 血?

 悲鳴?

 近くで誰かが喧嘩?

 「シューバが近くで争いの気配を察知したみたい。血の匂いがするって。あとは悲鳴も聞こえるって。」

 僕の言葉を聞いてミラ姉はシューバに鞭を入れたよ。このまま現場に走らせるようだ。僕はその子にミラ姉を連れて行って、って声をかける。


 僕の声を聞いて動いたのはミラ姉だけじゃなかった。

 まず馬車から飛び出したのはセイ兄、そして続いてヨシュ兄も!

 ミラ姉の乗ったシューバを走っておいかける。

 僕も慌ててシューバから飛び降りた。

 二人の後を追う。

 「ダー!」

 そんな僕を見てさらに追ってきたのはアーチャ。

 「ダーは後ろへ!」

 そう言いながら追い抜いていっちゃった。

 うー、全然追いつかないや。

 みんな早すぎ!


 しばらく走ると、カキンカキン、と剣戟の音が聞こえたよ。

 そちらに慌てて走って行く。

 急所を金属の鎧で覆った3人の人が、セイ兄相手に1対3で打ち合っている。

 少し離れたところには、彼らよりちょっと覆われているところが多そうな小太りの男が地面に転がっていて、ミラ姉が右手を突き出しているから、きっと魔法で突き飛ばしたんだろう。


 ヨシュ兄は?

 あ、誰か地面に転がっている人のところに駆けつけているところ?

 って、誰だあいつ。

 ヨシュ兄がその人のところに着く前に飛び出した村人風の男が、転がっている人を後ろから無理矢理半身起こして、首筋にナイフを突き付けた。


 「動くな!動くとこいつを殺す!」

 突き付けられたのは女の人で、腕から血を流していた。

ヨシュ兄が慌てて止まり、気付いたセイ兄たちも、そして今正にセイ兄のフォローに入ろうとしたアーチャも、そしてミラ姉も、視線を男に向けた。

 

 一瞬、静かになった、森の中。

 そして・・・・


 「ヒッヒッヒッ。良くやった!お前たち全員武器を捨てろ!女がどうなってもいいのか!」

 ミラ姉の相手がそう言いながらゆっくりと立ちあがる。


 全員がいまだフリーズ状態。


 しばらくしてしびれをきらした先ほどの男が「早くしろ!」と叫ぶ。


 僕は、そんな中、無造作に飛び出したよ。できるだけ足音を立てて飛び出したんだ。

 「ねえねえ、何してるの?騎士ごっこ?ずるーい!僕も入れてぇ。」

 そう言いながら捕まっているお姉さんのところに走り寄る。


 こんなところに僕みたいな子供がニコニコ飛び出すとね、ほとんどの人は唖然、ってしちゃうんだって。これを教えてくれたのはナッタジ村の子供たち。

 喧嘩している大人をとめたけりゃ、喧嘩に気付いてないふりして、自分も入れて、って近づけば良い、だそうです。あんたたちだけ遊んでずるい!って感じがベスト、なんだって。

 コツは喧嘩してる人のテンションをダダ下げること。

 どう?うまく下がったかな?


 でね、僕は唖然とさせるだけが目的じゃないからね。

 みんなの目が僕を追ってるね。

 フフフ、僕は捕まってるお姉さんに向かってニコニコと近づく。

 でね、


 シュパッ!

 カキン!


 僕のことを見て、お姉さんの首から浮いたナイフ。

 僕はそのナイフに向かって、内から外へ、斬りつけた。

 素人が握るナイフなんて、簡単にはじき飛ばせるよ。


 「え?」

 ナイフを持っていた男はさらにおバカな顔をして飛ばされたナイフを目で追った。

 なんで僕が斬りつけた時点で注意をしないのかな?


 「トリャー!」

 僕は、ナイフを追ってがらすきの首元を思いっきり蹴り上げたよ。


 「グビッ!」

 変な声を出して、男はそのまま地面に倒れ白目を剥いた。

 へへ、やったね。


 みんなを見れば、唖然としている敵方と、とっくに僕の意図を分かっていた味方。当然、あっという間に制圧完了です。


 バフッ


 ?

 突然、背後上方から僕に覆い被さるもの?

 包まれるように拘束された?

 え?

 油断した?

 く、苦しい・・・

 まだ、誰かいたの?

 背後から胸と頭が羽交い締めにされる。

 額の辺りからは、鉄のような・・・血?・・・の匂い?


 焦ったけど、上から「ウッウッ」っていう、押し殺した・・・泣き声が・・・


 て、お姉さん?

 捕まってたお姉さんが背中から僕をきっつくハグしてる?

 僕は身動きできず、アップアップしちゃったよ。

 

 

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