第181話 交叉都市パパラギ村の調査と・・・

 「どうしたの?」

 市場で思い思いに散策していると、難しい顔で店のおじさんと話しているミラ姉を見つけたよ。それで、後ろから声をかけたんだ。

 「これはこれは、また可愛い子だね。坊やは冒険者かな?なかなか似合ってるぞ。あ、坊や、でいいよな?」

 おじさんが僕を見てそう言った。

 「うん。ダーだよ。これでも、ちゃんとした冒険者見習いなんだ。」

 「ほぉ、今時はこんな小さい子でも見習いになれるのか。こりゃびっくりだ。」

 「へへへ、これでもけっこうやるんだから、ねぇ、ミラ姉。」

 「フフフ。まあね。調子に乗ってやり過ぎなければ、言うことないけどね。」

 「ええ~。」

 「お子さん、というわけでもなさそうかな?」

 「ええ、母親も同じパーティですけどね。それはそうと、さっきの話は本当ですか?」

 「ああ、あくまでも噂だがね?」

 「噂?」

 「ハハハ、坊やにはまだ早い話かな?」

 「この子は大丈夫ですよ。で、その戦争になるかも、というのは?」

 「え?戦争?」

 「本当にこんな小さい子の前で話す話じゃないんだがな。でも、まぁ、そんな噂はある。どうもあちこちで食料品や武器防具あと、魔石やなんかも買い占められてる。それらの物資がどうやらヨートローへと流れているらしい。」

 「ヨートロー、ですか?」


 ヨートロー。それってこの領の首都だよね?

 「最近じゃピノの肉さえ高騰してるって話だぞ。」

 ピノっていえば、どこにでもいる中型犬ぐらいのサイズのうさぎみたいな魔獣なんだ。場所によって多少の色の差はあるけど、ダンシュタの近くだと綺麗な空色をしている。食料として一番で回ってるかもしれないお肉かな?食べ方によってこってりした鶏肉か、さっぱりした豚肉かっていう、なかなかグッドな安いお肉なんだ。


 「ピノですら、値上げですか。だとしたら戦争か反乱か、どっちにしても、きな臭いですね。」

 「まぁ、もし姉ちゃんたちが凄腕だったらよ、この町にいて俺たちを守ってくれや。ハハハ。」

 怪しげな雑貨を並べている露天商のそのおじさんは、そんな風に大声で笑っていたよ。後でミラ姉に聞いたら、このおじさん、いつもはヨートローで商売してるけど、ここまで拠点を移してきたと言ってたので、お話しを聞いていたら、とんでもない情報を持ってた、ってことらしいです。



 お宿に戻って、いろんなところに散らばってたみんなも、なんだかんだとお話しを集めてきたみたいです。

 あ、カイザーとゴーダンは、いったん戻ったけど、また出かけちゃった。なんでも大人の社交場=酒場で情報収集してくる、だそうです。ハハハ、カイザーを連れていている時点で、きっとメインの目的はお酒、だね。



 ママとパッデは商業ギルドへ行ったそうです。その後でカイザーがお供にアーチャ連れて商業ギルドへ。ママたちは行商人の情報を中心に、カイザーたちは職人さんの情報を中心に調べたんだって。



 行商人さんたちはね、今ヨートローから逃げ出してる人も多いんだそう。

 食べ物を中心に物価が上がり買い占めとかもあって、商業ギルドが手を打とうとも焼け石に水状態なんだって。そもそも首都ヨートローでは商業ギルドが二手に分かれちゃってて大変だ、そうです。

 なんかね、ヨートローではもともと領主派と自由派っていう感じで分かれてるんだって。普段は意識しないんだけどね、そもそも領主の権限がそんなに強くないらしいし。

 どっちかっていうと、領主って何か施策を打ち出したら突き上げくうし、かといって何もせずにいたら、貧富の差とか雇う側雇われる側のいざこざとか、そんなことをなんとかしろって突き上げくうし、で、お気の毒様、状態なんだそうです。

 でね、そんな領主を助けて一緒に頑張ろう、ていう感じの人達が領主派、そうじゃなくて自由こそこの領の発展に必要だって言うのが自由派ってことだったんだそうです。


そう、、んだね。

 それがここ数ヶ月でなんだかおかしなことになってるぞ、ってことのようです。

 領主様、なんだか強気!て感じ。

 今までなかった税とかね、急に作ったり、露天なんかは出店料が払えない、なんて状態になってるんだって。


 また、職人さん達。こちらはもっと深刻そうです。

 カイザーたちがね、そのまま冒険者ギルドへ行ったぐらいやばい!んだってる

 なんかね、村ぐるみで職人さんたちが消えてたりとかね、皮や金属が強引に安価で持ってかれたりとかね、そういうのが想像以上に発生してるんだって。

 僕たちもここに来るまでに、そんなお話し聞いたけど、さすがに村ぐるみで人が消えたことまで分かんなかったよ。

 商業ギルドと冒険者ギルドで、情報をすり寄せつつ、情報収集する、てことになったよ、って言ってました。


 ちなみにゴーダンとヨシュ兄セイ兄は冒険者ギルドに情報収集に行ってたらしいです。あ、ドクはお留守番ね。


 冒険者ギルドでは、やっぱり戦争準備の噂は、かなり出てたみたい。

 ヨートローから来た人もいて、あっちでは傭兵的なの募集されてるみたいです。思ったより深刻だね。

 それと、食用の魔獣なんかの提出依頼が、割高になってあったらしいです。

 明日、換金するから行こう、って言われたよ。リュックの中には道々狩った魔獣がいっぱい。もちろん食用にできるのもあるからね。でもさ、これ放出したら戦争準備に貢献することにならない?て聞いたらね、この町から出さないことを条件に卸すって約束をとりつけてあるんだって。さすがに高ランクの人は発言力が違うね。



 でね、こうやって情報を集めてるとね、やっぱり不穏な空気が首都には流れてそうってことなんだよね。でも、他の地域では物資不足が起こりそうな気配、ってぐらいで、大きな影響はまだなさそう。もちろん首都に近づくとそうも言ってられないかもしれないけど、領主権限で命令が来ても、納得いかずに従うこことはしない、っていうのがギルドの持ち味であり、商人たちの矜持だ、そうです。



 「あの、お願いがあります。」

 これからさらなる物資不足が大変だよね、と話していたとき、珍しくパッデが口を開いたよ。

 「今はまだ大丈夫でしょうが、このパパラギ村でも、今後、食料や武具の供給に不安が残ります。」

 パッデは僕らを見回したよ。

 「できればこの町で、商品を供給させてもらえないでしょうか。」

 「商品の供給?」

 「一商人として、このパパラギに貢献したい、そう思います。」

 「つまりおまえさんは、ここに残って物資を売る、そう言っておるのかのぉ。」

 カイザーが聞いた。

 「はい。」

 「まぁ、悪くないのぉ。避難地区として立地もいいしのぉ。」

 「みなさん、それに会頭、私にナッタジ商会のものとして、食料や魔獣の素材を売る許可をいただけないでしょうか。」

 「ナッタジ商会のものとして、ですか?」

 ママが聞いたよ。

 「はい。私は商人として坊ちゃんのお側にいたいと考えています。」

 「分かりました。ゴーダン、いいですか?」

 「ああ、俺は構わん。別に全部ギルドへ卸すと言ったわけじゃないしな。」

 「じゃが、そうなると、解体場所が必要じゃな。リュックにはそのまま放り込んでおるじゃろ?」

 ドクの言うとおり、途中で狩りをしてもそのままリュックに入れちゃってるんだよね。リュックの中は異空間で、宇宙空間みたいになってる。真空で超低温だから、急速冷凍されたみたいになってて、時が止まったみたいに劣化しないからね。

 この仕様はひいじいさんの発案みたい。リュックを管理する精霊が異空間を作るときにひいじいさんのお願いでこんな空間を作ったって言ってたよ。


 「そこは安心せい。儂が残ろう。ナザとクジは儂の助手じゃ。」

 「坊ちゃんも残してください。リュックから取り出せるのは坊ちゃんだけです。」

 「そこは、待ってください。明日、商業ギルドへ行って解体できるスペースのついた家を借りましょう。販売用の商品はそこへ置けばいいでしょう?ダーは私たちと首都へ向かった方が良いです。」

 ママがそう言ったよ。


 パッデは何か言いたそうにしてたけど、結局口を開かなかった。

 きっと、僕をここにおいておけば安全だって考えたんだろうって、後でヨシュ兄が言ってたよ。カイザーが助手としてナザとクジを残したのも、同じ理由だろうって。カイザーは僕を入れなかった、ってのは、ちゃんと僕が行くべきだって思ったからだろうってことも・・・



 翌日、ママが希望どおりのおうちを借りてきて、パッデとカイザーの指示の下、いくつかの魔獣と穀物、乳製品を出したよ。あとは解体道具とか、皮やなんかの加工道具、簡易の炉。ちょっとした金属。


 解体はナザとクジも得意になったしね。

 なめしとかもカイザーの指示で上手にできるようになってるし。


 てことで、製品作成はカイザーたち。販売は露天の場所を借りてパッデ。


 そんな居残り後方支援組と分かれて、僕らはさらに首都ヨートローへと、馬車を進めたんだ。

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