第179話 ナナカ村

 僕たちの合図を見て、船を出してくれたのはナナカ村の船渡しさん。

 といっても本業じゃないんだって。

 村で船を持ってるのが、その人=イトベさん家だけで、川の行き来はこの船でするんだそう。

 船っていってもでっかい筏。馬車が3台ぐらいシューバ付で乗れる感じかな?

 今回僕らは1頭建ての小さめ馬車と、シューバ3頭、宵の明星フルメンバーにパッデ、クジ、ナザ、バンミ。本当はここにバフマの予定だったんだけどね。バフマはご両親について修行中、になっちゃった。


 逆にナザ。

 ナザはまだ小さいからってことで、見習いにもしてもらえてないんだけどね。どうしてもって、ミモザまでついて来ちゃった。

 まぁ、ミモザなら来たことあるし、そもそも僕らと冒険するのはナスカッテでもやったから、この年齢にしてはちゃんと戦闘訓練はしてるんだけどねぇ、でも小さいし・・・

 そんな風に、ついてくるって言ったときに僕が説得してたら、セイ兄がブッて吹き出しちゃった。

 「ダー、小さいってお前が言っても説得力ないよ。ダーより年上だし、背は全然大きいし。」

 いや、セイ兄?僕は危ないから説得してるんだよ?何、変な揚げ足獲ってるの?

 「そうですねぇ。まだ7歳といっても、10歳の子と打ち合いして勝っていましたし、実力だけなら、見習い冒険者の中に入っても遜色ないかと。」

 「ほら見ろ!俺は、ダーをずっとまもらなきゃならないんだから、ついていかなきゃならないんだ。」

 「いや、そんなこと言ったって、僕の方が全然強いよ?」

 「そんなことは分かってるんだよ!でもいくら強くても、ラッセイ兄やミランダ姉に負けるじゃないか!俺だって2人に勝てないけど、ダーと2人がかりだったら、良い勝負だよな?」

 そりゃそうだけど・・・

 ていうか、良い勝負って程でもないからね?むちゃくちゃ手を抜かれて、やっと二人がかりで打ち合えるんだからね?しかもいろいろズル、じゃなくて、作戦考えまくって、やっとだしね?

 「ハハハ、逃げ足だけで考えたら、ダーよりナザの方が全然早いよ。ナザ、絶対に戦闘には参加しない、ダーが死にそうになってても、メンバーの許可なく近づかない、そう約束できるかい?もしできるなら、勉強のために連れて行ってくれるよう、僕からゴーダンに言っても良い。これからダーを守るためにパーティに入るっていうんなら、僕たちを見て、どうやってダーをフォローするか、しっかり学ばなきゃね。」

 ニッ、と、笑うセイ兄。

 こういう顔をすると、本当に男前だなぁって思う。

 多分、マンガで主人公なら絶対セイ兄だな。

 「そうですねぇ。私は修行のため同行できません。その分の皆様のお世話、リュックの管理、そういうのを専属で任せられる人がいれば安心なんですけどねぇ。」

 クスッと笑って、そう言うのはバフマ。

 「やる、やる、やる!バフマの代わり、やる!」

 「絶対、戦闘には参加しないこと、いいつけが守れない場合は、2度と宵の明星と行動はできないよ、いいね。」

 「うん。分かった。ラッセイ兄たちの動きを盗む。一生懸命見てる。」

 「よし、分かった。じゃあ、ゴーダンにお願いに行こう。」

 こんな風にして、ナザの同行が決まっちゃったんだ。



 てことで、これだけのメンバーが乗っても悠々とした船旅がわずか10分程度。

 まぁ、そこそこ上流の川の対岸に渡るだけだからね。

 でも、急流だっていうことで、まっすぐは進めないんだって。行きは村から斜めにこちら側へ。そして、さらに下流側へと斜めに戻ります。

 戻ったところには、船着き場があるんだけどね、単に繋いでおくだけの棒が立ってるだけなんだ。

 もとの村の乗船場所に連れて行くんだけど、それはお昼が終わってからなんだって。


 ちょうどこの辺りは開けてて、背の低い柔らかめの草がいっぱい生えるんだ。

 でね、村では家畜としてモーメーを飼ってるんだけどね、そのモーメーたちにここらの草を食べさせるために放牧するんだって。そして、モーメーを連れて帰るときに、筏に取り付けたロープを引かせて村に戻るんだそうです。

 よく考えてるね。

 だから、1日1便発注があったときだけの出航なんだそうです。帰りがね、モーメーの帰宅時間だけだから、出発時間は何時でも良いけど、モーメーが帰るまでに、この船着き場に筏を停めなければならない、というルールなんだって。



 船着き場からは、ゆっくりと村に向かいます。

 といっても10分程度かな。

 川沿いにゆっくり登る感じ。

 対岸とは違って、切り立った場所は少なくて、森は随分引っ込んでる、と思ったら、開拓したんだそうです。



 ナナカ村。

 この川沿いの村で大きいものとしてそこそこ有名だそう。

 大きいと言っても、50件程度の家があるって感じ。

 このトレシュク領では、でっかい港町とか、領都とか、いくつかの交叉都市といってあちこちの村から商品を持ち寄って、そこから地方や外国へと貿易する人があつまるような都市があるらしいけど、そういうところではない限り、各村々は本当に小規模で、村の特選品みたいなのを作ってる一族の集落、といった様相をしてるんだそうです。


 でね、このナナカ村。

 何が有名かっていうと、装飾品だそうです。

 この川沿いとか、川の中の石は、南の山から運ばれてくるんだけどね、鉱石の中にはきれいなものもあるでしょ。翡翠(カイザーの所見です)と、砂金がこの村ではメインで取れるんだって。川からそんな綺麗な石をとってきて、加工し、装飾品を作るのが、この村の産業だそうです。

 カイザーは翡翠、っていったけど、翡翠っぽいってだけでね、ひょっとしたら違うかも。あと少ないけど赤いの、瑪瑙っぽい?のもあるし、黄色っぽいのもあるよ。

 なんか、山から川に運ばれてくる石を割ると、そんなふうに綺麗な色の石があって、それを磨いたり削ったり、して、装飾品を作るんだって。

 川底を漁ると、砂金も取れるから、そういうのも組み合わせるっていってます。


 ここでできた装飾品。

 なんと、一番の得意先はまさかのナスカッテ国なんだって。

 きらきらしすぎてない石をぴかぴかに磨いたここの装飾品が、木の文化のナスカッテの美意識に響いたようです。


 とまぁ、そんな説明を開け聞きながら、船頭さんに村を案内して貰います。

 あ、この船頭さん、まさかの村長さんだって。ニモン・イトベさん。

 「村長、言っても、腕っ節ばっかり強くて、手先が不器用だから、村の仕事は任せられん、と、押しつけられてなぁ。まぁ、雑用係ってやつさ。ガハハハハ。」

 と、豪快に笑ってたけど、村を歩いていると老若男女から、挨拶されて、ちょっとばかりおしゃべりっていう姿を見てると、いい村長さんなんだろうなって分かったよ。


 で、トレシュク領で変わったことないですか?て村長さんや他の人にも聞いてみたんだけどね。

 こういうのは、自然と、男前のセイ兄やヨシュ兄がおばさんたちと、美人のミラ姉はおじさんたちと相手をしてるみたいです。


 あ、そうそう。ママが何人かの職人さんといろいろお話ししていたから、ここの装飾品、扱うのかな?

 え?作り方勉強してるの?石で買っちゃった?

 ママはどうやら自分で削ったり磨いたりしたいなぁ、て思ったみたい。うん僕も好きだからいいけどね。

 道具とか、発注してたみたいです。

 ああ、装飾品も気に入った作家さんから購入済み?

 こういうのは素早くて尊敬します。

 僕も商人として、こういう目を養わなきゃね。

 しかも、仲良くなりつつ、情勢の確認もしっかりしてるんだから、僕のママ、優秀でしょ?


 僕?

 僕はナザと、村の子供から情報収集。

 ごめんなさい、格好良く言ってみました。

 きれいな石の集め方を川で教えて貰って、石取り競争してました。

 でも、ちゃんと聞いたよ。

 外国の人は見たことないって言ってた。

 この村にはザドヴァの気配はありませんでした、はい。



 実際、この村って地理的にはトレシュク領なんだけどね、川の上流ってこともあって、水路での交易は難しいんだって。筏しかないから、川を上るのが大変なんだそうです。

 で、主に陸路で領都あたりで商品を卸すか、僕らの来た経路みたいに、筏で対岸のトレネーに入り、馬車でミモザへ。そこからナスカッテ行きの商人に卸す、ていう2パターンで生計を立ててるらしい。で、メインがナスカッテだから、まさかのミモザでの取引メインの村、でした。うん7割ミモザだそうです。


 そんな感じの聞き込みかつ、仕入れ?を行った僕たちは、村で1泊した後、陸路で領都を目指すことになったんだ。

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