第178話 川を渡ろう

 エッセル号を仕舞った僕らは、パーティごとに分かれて馬車で出発することになったんだ。


 トレネー領とトレシュク領。この間には大きな川がある。

 タクテリア聖王国最大の川で、単に川とか大川っていうとこの川のこと。名前はトレゼンタルトワミシップ川とかいうけど、長すぎて誰も正式名称は言わない。うん。川か大川で充分だね。


 ミモザから西へと向かう海岸沿いの街道をまっすぐ行くと、この川の河口へとぶつかるんだ。一応小さな村とかは海沿いにあるんだけどね、どれも集落としか呼べない感じの漁師町で、点々としている。


 でね、川の河口付近。ここにも小さな集落がある。ここのお仕事はちょっと変わってて、船で対岸へ馬車や人を運ぶんだ。

 対岸にはでっかい港町があるんだって。

 トレシュクには無数、は、いいすぎだけど、海岸沿いに小さな港はいっぱいあって、その中でも三大港町と言われる港がある。

 その中でも一番でっかい港が、マエサル港。

 東は川に面していて、北は海に面している町なんだって。

 トレシュクで考えると、北東の角っこ。

 川の流れが速いのと、川幅やら深さの差が大きいので、川を使うのは小さな船や筏だけど、他領や他国に行くなら船を乗り換えて、大きな船でってなるでしょ?その乗り換え地点として、大きくなった町なんだって。

 商人さんでも船を持ってない人の方が多いし、馬車移動が中心。

 てことで、前世のフェリーみたいに、馬車ごと船で移動ってなるんだけどね。


 トレシュクから、他領や王都へと移動する場合、船でミモザまで行くか、マエサルで川を渡り、陸地で行くかって選択になるんだけどね。船で行く方が高いんだ。速度は変わらないし、自前の船で大量に物を輸送するのでないなら、川を渡った方が安くつく。で、このルートもそれなりに有用なんです。少なくとも定期船があるぐらいには、ね。

 この定期船をメインに、こっち=トレネー側で待機している人もいて、それがこの端っこの集落ってわけ。

 ちょっとした宿泊施設とか、食堂とか、そんなのだけしかないかなぁ、ていう、集落っていうにも特化してるところなんだけど、ほぼほぼフェリー乗り場をイメージしてくれたら正解、かな?


 トレネー側はそんなんで、何にもない感じだけど、対岸は大都市です。

 川を渡る船もあれば、海を行く船もある。

 当然外国からの珍しい品物もあって、お買い物天国、らしいです(不屈の美蝶さんたち談)。なんでも、ナスカッテ国からの品を乗せた船もあるんだって。行き来しているのは、トレシュクの商人さんがほとんどだから、だそうです。ミモザよりもそういう面では強い、らしい。さすが本拠地!


 ということで、第一弾の離脱は不屈の美蝶さんたち。

 マエサルへ定期船で渡り、調査しつつの、いくつかの村を回って首都へ向かう、だそうです。

 うーん。なんでそんなにウキウキしてるのかなぁ。

 ふうん。ナスカッテからもザドヴァからも名産品が集まるんだ。ふうん。なんの調査、なんだろうねぇ、とか思っても言わない。言ったらどういう目に遭うかは、アルが証明してくれたからね。ハハハ、相変わらずアルは一言多いようです。



 僕たちは、不屈の美蝶と別れて、川沿いに南下します。

 えっとね、川沿いにはこっち側は集落はありません。

 道はね、一応馬車がかろうじて通れるかな、ってのがある。

 けどね、東側は深い森だし、普通は通らないんだ。まっすぐ行っても南って山にぶつかるだけだしね。

 ちなみに東側の森も南の山も、かなりの面積が人外未踏の地。

 一応、トレネー領だし、無茶苦茶面積はあるけど、森の中を切り開いて、そこに道を敷き、人の住む地域を繋いでる感じで、人の住める場所って案外少ないんだ。

 僕の産まれたダンシュタだって、この森の中だからね。町や街道から離れると、とっても危険なんです。


 どうして、川沿いに小さな道があるか、っていうのはね、資源確保のためです。

 川の魚介類を獲る漁師さんとかね、南の山も鉱山として採掘する人もいるしね。

 あとは森に入って狩りをする人、とか。植物採取とか。

 で、そういう人のための道がいつの間にかできてた、みたいな感じ?通るから切り開いたっていうね?

 そういうレベルの道が一応続いてるんです。

 あ、ちなみに住んでる人はいなくて、数日間テントとかそんな感じで過ごしながら、いろいろ確保するんだって。永住するには、いろいろと厳しいんだとか・・・

 気候とかだけじゃなくて、時折、川が氾濫するんだそうです。

 でもこの氾濫が森に恵みをもたらすんですけどね、ってヨシュ兄が教えてくれたよ。


 ただし、集落がないってのは、こっち側の話。

 対岸のトレシュク側にはいくつかの村や集落が川沿いにあるんだって。

 川の氾濫は地形や高低差から、ほとんどこっち側に来るらしい。

 だから比較的対岸の方は大丈夫。

 川や南の山岳地帯での恵みってのは、対岸側からでも同じでしょ?

 だから、それを採取する人と商人がタッグを組んで、いくつかの村ができてます。

 でね、そんな村からも、こっち側へ遠征したりね、商人さんが馬車で渡ってきたりする。もちろん船賃の関係で、今、僕らが使ってるこの道を使うんだ。


 上流に行くほど川幅は小さくなるからね、船賃は安くなる。

 でね、そんな対岸沿いの村でも大きめの村には、定期船ではないけど船を融通してくれる商売をする人もいるんだ。

 こっち側には、河口みたいな施設はないんだけどね、川縁に焚き火台が置いてあるの。そしてね、黄色っぽい砂粒みたいなのが、焚き火台にくっついてる箱に入ってるの。

 でね、焚き火をたくでしょ。そして黄色い砂を焚き火に入れるんだ。

 そしたらね、焚き火から出てる煙がね、ピカピカって光るの。

 それが合図で、馬車が数台乗るくらいの船が来てくれるんだって。

 一応ね、合図は日が落ちた後でするんだって。

 夜の方が目立つからね。

 で、その側で野営して、朝一でお迎えが来るって算段。

 まずは川の中腹近くのレンソ村前で、虐殺の輪舞たちとはバイバイです。


 最後に残ったのは、僕ら宵の明星だけだね。

 虐殺の輪舞の、焚き火パチパチは見学して、早朝、まだ船が来る前に、僕らは出発です。


 で、もうちょっと上流に行き、ナナカ村っていう村の前で、夜を待って、焚き火に砂を投入!

 朝になれば、船が来るんだって。楽しみだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る