第177話 海から?川から?

 政治がからむ、とか、誰の管轄、とか、僕としては、どうでも良いんだけどね。

 でも大人はそうはいかないんだって。

 僕は子供だもん、わっかりっませーん!


 でね、現地の人と話したいなぁ、って、会議が終わってみんなに言ってみたらね、トンツーならできるって言うんだ。でも僕モールス信号なんて分かんないし、カイザーの作った対応表もメンドーだなぁ、て、思ってたらね、ママが、

 「だったらダーからは普通にお話しして、向こうからの返事はトンツーにしたら?」

だって。

 僕は、できないできない、ってばっかり思ってたんだけど、僕からの言葉は結構くっきりと届くらしいです。ヨシュ兄でもキャッチはだいたいOKだし、アーチャなら、こうやってお話しするのと変わらないぐらいの精度で聞き取れるって。

 そういえば、普通に念話でも、僕発信の言葉はみんな聞けるんだった。向こうからは僕が受けに行かなきゃわかんない感じだけどね。

 だったら、僕からは普通にお話しして、返信をトンツーしてもらったら、こっちでリアルタイムに筆記して貰えば完璧じゃん!てことで、さっそく会話しました。


 あのね、こっちでお手伝いしてたバンミとかクジとかも完璧に覚えてました。

 なんかね、念話じゃなくても、光で、だとか、音で、だとかで会話できて便利なんだって。うちのメンバーで覚えてないのは、僕とセイ兄とママとアンナ?え?ママとアンナはこっちにきてから覚えた?うそー!僕とセイ兄だけ?

 うー、早急に覚えた方がいいのかも。暗記は苦手~。


 まぁ、今は、筆記して貰おう。てことで。


 捕まっているのは、ドワーフがほとんどで、僕の知り合いみたい。うん。ザガで一緒に、いろいろ作った人達だね。僕が材料をバラバラでつくって、後で組み立てると効率が良いし、コストダウンできるし、性能が上がるって言って、みんなバラバラの部品を作ってたの。で、組み立てた完成図はわかんないから是非見たいってことで、たくさんの技術者がのりこんでたみたい。どうやらザガでの突き上げもうるさいから、直接ミモザへ行こう!て、やってきたんだって。


 それと分かったことはもう1つ。

 協力者はお医者様、なんだって。

 基本は風の魔法の使い手で、モスグリーンの髪をした人みたい。

 治癒魔法はほとんど使えないんだけど、魔法を使わず人を治療するびっくり人間(この世界だとね~)として、ひっそり生きてたんだって。まぁ、もぐりのお医者様だね。

 でね、昨今は、どうしても強い魔導師を作りたいリヴァルドの方針の下、探されていた濃い髪色の人間たち。子供は半分掠うみたいに教養所みたいなところに捕まってたけどね、大人はもっと露骨に徴兵みたいなことされたんだって。

 普通の庶民は、昔は特に教会でお勉強することもなく、素質はあっても魔導師じゃなく生活している人はいっぱいいる。そんな人たちを、子供たちより露骨に、お国のためにって徴兵されてたようで、くだんのお医者様も、そんな中捕まって、ここ10年近く、リヴァルドの近くで未知の治療(=地球的医学)をさせられてたようです。

 周りの人には、彼の体を視たりすることから、側近だと思われてるけど、本人としては誘拐犯的にしか見れない、そうで、今回の協力に至ったとか。

 積み荷から、ひょっとしたら同じ世界に生きてた人が関係してるかもって期待もしたらしいです。


 ていうかんじで、お知り合いのドワーフさん達とかね、僕みたいなのがいそうって期待して危険を承知で協力を申し出た元地球人とかね、そんな人がいるなら、いろんな難しいことは考えずに、さっさと助け出したいでしょ?

 僕としては、ほんと、一日も早く助け出したいって思うよ。


 作戦とか、地図を出してリーダーたちで、長いことお話ししてる。

 人数が多いとまとまらないからって、パーティリーダー3人でお話し中。

 僕は、セイ兄と、トンツーを覚えなさい、って言われて、対応表を眺めてるんだけど、全然頭に入らないや。

 うん、事件解決まで、絶対ムリです!


 だよねぇ、と、セイ兄と頷いて、剣のお稽古。

 ちょっとずつ自分の剣も振れるようになってきたけど、実践にはまだちょっと難しいかな?



 3日後。

 みんな、いろいろ忙しそう。

 僕は、あんまり忙しくない。

 たまにミモザの子供たちがやってきて、いっしょに遊んだり・・・

 エッセル号を修繕、強化中のカイザーのお手伝いをしたり・・・


 で、気持ちは焦りつつ、ただそんな風にすごしてたんだけどね、やっと夕方になってゴーダンに呼ばれたよ。


 「船をリュックに入れる。」

 リュックはいつもどおりバフマが持ってきてて、お船はミモザからちょっと動かす。いっつもエッセル島に向かうときに使ってた、昔ゴーダンが作らされたっていう崖の下の船着き場。そこまで来て、エッセル号はリュックの中へ。ほら、突然お船が消えちゃうとみんなびっくりしちゃうからね、ここまでお船を持ってきたってわけ。


 「お船、使わないの?」

 「目立つからな。それに今回は小舟で分けて進むことになった。」

 「小舟?」

 「ああ。海路じゃなくて、川を渡る。」


 えっとね。トレシュクはトレネー領のお隣の領。ミモザからもうちょっと西へ行ったところが領境なんだけど、その領境は川なんだ。

 この川越えをして陸地を進む方法と、ミモザから船でトレシュクの港へ渡る方法がある。

 お隣だしね、ルートにもよるけど、入るだけなら時間はそんなに変わらない。

 目的地はかなり内陸奥深くだから、馬車で結局行かなきゃなんないし、それなら川で行こう、ということになったらしい。何より目立たないし、複数のルートが使えるんだって。



 トレシュクは一応領主がいる。けど、実質は多くの商人が実権を握る自治領の集合体なんだそうです。領の中に自由都市がいっぱいあって、細かい道もいっぱいある。基本商人のでっかい馬車が通れるように整備された道なんだって。

 だから、領主のいる中央へ向かうにしても、ギリギリまでバレずに進みたい。川を使う陸路の方が隠密性にすぐれている、ということです。


 でね、複数のルートがあるから、各パーティごとに分かれて侵入、各種情報収集をしつつ、領都で合流、なんだって。

 僕の目的は、人質の解放だけど、ほら、一応国際問題っての?他国からうちの国に来た船を拿捕したし、それを領主がやったってんなら、それは領を上げて賛成してる行為なのか、独断専行なのか、それにより、王様の判断は変わるんだそうです。だから、領内の声の収集も大事なんだって。

 もう。そんな悠長なこと言ってたら、取り返しのつかないことになっちゃうよ!


 「まぁ、焦るな。鍛冶師たちは大丈夫だ。いいか、あの船には鍛冶師以外にも船員や、商人だってそれなりの人数いたはずだ。なのに、船員の見習いが1人いるだけで後は全員鍛冶師、ってのは、そういうこった。見習いは若い上に髪の色が濃いそうだから使い道がある、と考えたんだろうが、鍛冶師は純粋にその腕が欲しいんだ。だから、生かされてるし、これからもしばらくは大丈夫だ。」

 「それって・・・」

 僕の背中を嫌な汗が流れたよ。


 僕は、知り合いらしい鍛冶師が何人も牢屋に捕らえられてるから早く助けなきゃ、って思ったんだ。

 みんなもそうだと思ってた。

 でも、僕以外はみんな気付いてたんだ。

 今、生き残ってるのは、ってこと。

 他の人達はどうなった?

 なんてこと!


 やつらはいったい何をやったんだ!

 僕はヤツらに対して、そしてそのことに思いも至らなかった自分自身の愚かさに対して、ただ唇をかみしめるしか出来なかった。

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