第171話 王様とのお話(中)

 ザドヴァのお話し。


 王様も僕らしき子供の手配のことは知っていて、外交的になんとかしようとしてくれたんだけど、冒険者の子供と思われる、って感じで手配されてたってこともあって、この国の子だって確定させたくなかったみたい。

 もともと、ガーネオと初めてぶつかったのってトレネーの領都近くの街道だったんだけど、その後のミモザだし、どこを拠点としているか、まで、あの程度の会敵では、わからないからこその手配だろうってことみたい。


 で、藪をつつく必要はないってことで、国とか王様とかは関係なく、けっきょくはあちらへ自分たちがパーティとして乗り込もうってことにしたんだよね。向こうのあの魔法陣のことも研究したりして、対策も考えたり、とかしたしね。


 まぁ、こういう個人的なことという形で行ったんだけど、なんだかんだでクーデターに巻き込まれちゃって、あの国も変わらざるをえないからね、直接見てきた僕たちの感想を聞きたいってのが、第一の呼ばれた理由。表向きは、ね


 で、本当は、僕の身柄?問題、なんだって。

 なんかね、僕としてはまともに会ったわけじゃないんだけどね、新総統になる予定の甥っ子殿、レニボード・ザウ・フォン・ザドヴァっていうらしいんだけどね、ゆくゆくは僕を養子に迎えたい、って、正規のルートを使って、打診してきたんだって。

 なんで?


 どうやらね、僕個人が誰か、までは把握してないらしいんだけどね。

 教養所でのことを、召し上げた子供たちからとか、あの場で教員やっていた人の聞き込み、とか、まぁいろんなところで、『行商人パッデの息子のダー』っていう子の存在を知ったんだって。

 もちろん、ギルド関係者は僕が宵の明星のダーだって知ってるけどね、甥っ子殿には、教えてなかったみたい。

 で、あくまで、自国の行商人パッデの子を召し抱え、できれば養子に、と思って探したところ、パッデがタクテリアに向かって出港したらしい、できれば彼の子のダーを見つけて引き渡してくれないか、まぁ、そういうようなことを、ぐだぐだと国宛てに、クーデターの報告と一緒に手紙に書かれてたそうです。


 「儂としては、アレクを余所の国にやるつもりはない。」

 まぁ、僕も行くつもりはないけどね。

 王様、そんなにパッデを睨まないで。パッデの子供の振りは、こっちからお願いしたんだからね?

 「だが、正式なおたずね、ということで、知らぬ存ぜぬができるわけでもない。むろん、おぬしが彼の養子になりたい、というのであれば、残念だが送りだそう。しかし否であるならばどうするかを考えねばならん。とりあえず、その行商人の息子がフェイクで実は我が国の冒険者である、と伝えるのか、それともクーデターの巻き添えにななって死んだために、その傷を癒やそうと、行商人が異国へ旅だったのだ、という嘘の報告を出すか、それとも・・・」

 王様は思いの外、真剣な感じで言ったんだ。

 「それとも、アレクよ、儂の養子にならんか?」

 はぁ?なんでここでそんな話が出てくるのかな?いや、冗談でそんな話はよくしてくるんだけどね、ここで出す冗談じゃないでしょう?


 「冗談のつもりはない。」

 王様はくるっと僕を180度回して、僕と向かい合うようにした。

 「おぬしのことは色々把握しておるつもりじゃ。その記憶も力も、そして自由に生きていきたいということもな。儂としても、望むように生きて貰いたいが、今度のことでも分かるように、おぬしを欲する人間も多かろう。今後もどんなやつらが、手を出してくるか、分からんしな。ならば、誰にも手出しをさせぬだけの後ろ盾が必要じゃろ?儂ならば十分にそれに値する、そうは思わんか?」

 「・・・僕は、ママの子だ。」

 「そうじゃのぉ。」

 「冒険者見習いで、ナッタジ商会の子だよ。」

 「そうじゃのぉ。」

 「それ以外はいらないの。」

 「しっとるよ。」

 「だったら!」

 「そう慌てるな。おぬしの生活はそのままで良い。」

 「そのままで?」

 「貴族が冒険者や商人をやることなど珍しくはあるまい?」

 「・・・うん。」

 「アレクは今までどおり好きに生きれば良い。ただし、身分は儂の子供として、じゃ。小耳に挟んでるだけでも、我が国においても、他国に置いても、おぬしを取り込もうとする輩は少なくない。まぁ、それは今はよかろう。儂の考え、というか、願いかな、それを言ったにすぎぬ。まぁ、なんじゃ、あちこちから子供になれと言われて鬱陶しいと思わば、儂の名を出して、養子の第一候補は儂に決まってるとでも言えばあしらえるじゃろ?」

 「あ・・・ありがとう?」

 「まぁ、いつでも本当に養子にするから覚悟が決まれば言ってくれれば良い。」

 うーん、そんな日は来ないと思うけどなぁ・・・


 「その話はこれまでじゃ。本題に行くとしようかのぉ。」

 え?これが本題じゃなかったの?さっき、本題って言って、話し始めたよね?まぁ、いいけど。


 「リヴァルドをはじめとして、数名の脱獄者が出たのは聞き及んでおるか?」

 僕は頷く。

 「潜伏先がトレシュクの可能性が高まった。」

 え?


 トレシュクって言えば、我がタクテリア聖王国の最西端の領だ。トレネーの隣で山を隔ててザドヴァに隣接している。商人が多くて、自治領と言っても良いぐらいの自由自治の地域なんだそう。

 一応領主っているのはいるんだけど、商人たちの議会の方が力を持ってる、って聞いたことがある。

 ザドヴァとの交易も港があるし、交流も盛んだと聞いたけど。

 ていうか、ザドヴァの軍事国家的な不自由がいやで逃れてきた商人が作った、みたいなことを聞いたよね?我が国の別の領地の商人も元を正せば、このトレシュク出身だったり、修行はトレシュクに行く、なんていう、商人にとっては聖地みたいな場所、らしいけど・・・


 そういや、ザドヴァの商人が外国で支店を作るのは、まずはトレシュクだって言ってたっけ?そうやって考えたら、ザドヴァ派の商人がかくまっててもおかしくはない、んだろうけど。

 でも、それにしてもリヴァルド、か・・・


 「まだ、やつもおぬしをあきらめておらぬ、儂はそう予測しておる。」

 王様は、怒ったような口調で、そう言ったんだ。

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