第172話 王様とのお話(下)

 リヴァルドがトレシュクに逃げてきた。そんなお話を聞いた僕たち。

 「ひょっとして、僕たちが討伐に行くの?」

 僕は、顔を知ってる人として、依頼されるのかな?と思って聞いてみた。


 「いいや、アレクはトレシュクには近づくな、そう言うために呼んだんじゃ。」

 えっと、行く予定はなかったけど、近づくなって言われても僕を諦めてないんじゃ、面倒なことにならないかな?


 「アレクさえ良ければ、王城にて保護をしようと思っているんじゃが。」

 「えー、僕、おうちに帰りたい。」

 もう長いこと帰ってないんだから。

 「うむ。まぁ、ダンシュタであるならば、そう危険ではあるまいが。」

 「それに、僕だって簡単にはやられないよ?」

 「んー、そうじゃのう。じゃが、ゴーダン達は戻れんが、大丈夫か?」

 「へ?なんで?」

 「ゴーダンと博士にはミモザに駐留して貰う。場合によってはトレシュク領まで行ってもらうことになる。」

 「え?」

 僕が?を飛ばしていると、参ったなぁとばかりに頭を掻きながら、ゴーダンが言ったよ。

 「ほれ、エッセル島を取り上げられたくなかったら、ミモザの代官を引き受けろって話、あったろ?一応博士が代官で俺が補佐扱いなんだわ。」

 「?バフマのママが代官でしょ?」

 「実質はな。だが、書類上は博士のままで、セジは代官代理、になったままだ。」

 代官でさえ代理なのにその代理って・・・

 「ちなみに、ミモザはトレネー領だったが、代官の任命責任のためにトレネーから取り上げて王の直轄地扱いだ。諸々報告義務はトレネーでなく、陛下へ、となっている。あくまで形式上は、だが。」

 

 んー。代官自ら外国の勢力を招き入れたってのは、確かに国の他の貴族からしても、十分叩きやすいんだろうね。そもそもトレネーって国の中でも豊かだし、その統治を任された領主のワーレン伯爵は嫉妬の対象でもあって、足を引っ張ろうという勢力は多いんだって。

 でも、色々お世話になってるし、実際いい領主様だと思う。領民のこと大事に思ってるし、領の発展と安全に心を砕いてくれてる。人使いは荒いけどね。ハハ。

 けど、今、王様から聞いた話によると、どうも足をすくいたい貴族からしたら、あのミモザでの事件って、恰好の的だったみたい。王様が直轄地として取り上げて、ドクを代官に据えるってことで、今までとあまり変わらないままに、僕らにとっても都合良く維持するのは、ギリギリの許容ラインだったみたいです。そうでなければドクもゴーダンも引き受けないって。


 はじめてそんな話を聞かされてビックリ。

 だって、ワーレン伯爵が次の代官を決めるまでのつなぎだって思ってたからね。

 あの事件の後、王様は宰相とか側近を慌てて集めて、なんとか変な貴族にここを渡さない理屈を考えてこうなったんだよ、って。

 考えてみれば、ミモザは外国とも交易がある、重要な港町。ここを押さえたらおいしいよって貴族が考えてもおかしくないね。

 ただ、ヨーヘンのおっちゃん=ミモザのギルドマスターは、あんまり変な人が来たら、お手伝いしてくれなさそうだけどね。前代官とも喧嘩状態だったし。

 今はいい感じに協力してくれてるみたいだけどね。

 それもある、そう王様もドクやゴーダンも苦笑いしてたよ。

 「じゃがなアレク。代官とギルドがお互い我を張っても、本当に困るのは民なんじゃ。それはできるだけ避けたいのぉ。」

 しみじみ言う王様の言葉が印象的だったよ。


 「陛下。ちょっといいか。」

 いろいろミモザ駐留とかトレシュク対応の話をしていたら、ゴーダンが難しい顔をして、そう言ったんだ。

 「この話、代官云々じゃなく、宵の明星への依頼として受けられないか?」

 「冒険者として、か?」

 「代官として動くとなれば、外交問題だけじゃなく、領と領、この場合トレシュクと陛下の関係ができてしまう。正直言うと、もともとは博士とリヴァルドの確執だし、今はそこにダーが入った関係である以上、あんまり国だのなんだの、ややこしい背景を絡めたくない。ま、端的に言やぁ、うちの問題なわけだ。一冒険者として、火の粉を払う、程度で、その後押しに、依頼という形でのお墨付きをもらえれば充分だ。」

 「しかしそれでは、あまりに危険じゃろ。代官としてなら、ミモザの駐留軍も動かせよう。そのために、組織したんじゃからのぉ。」

 「駐留軍?」

 「儂の直轄地ということで王都から派遣しておるんじゃ。トッチィとリネイが責任者となっておる。」

 「・・・なんか、身内だらけっぽい・・・」

 「まぁ、アレクが生きやすいように、のお。ハッハッハッ。」

 「?どういうこと。」

 「まぁ、それは良い。儂としては、安全をとっても、代官として動いて欲しいのじゃが。」

 「悪いが、小回りのきく冒険者として動きたいんだ。」

 「フォッフォッフォッ。ティオよ、儂としても我らがリーダーと同じ考えじゃよ。ことが始まったら、うちの王子様がどうせ黙っておらんじゃろうて。」

 ドクが僕を見て笑ったよ。て、うちの王子様って僕のこと?なんか、すっごいわがままっ子ぽくない、そんな言い方すると?


 「だからこそ、だよ。アレクには王都かダンシュタで待機して貰う。」

 「そこがわかっとらんと言っておる。アレクはお前さんが考えるより、ずっと子供じゃよ。仕方ないがのぉ。まだ6歳じゃ。のぉ、アレク。いじめっ子を見つけたら、棒っきれを振り回して追いかけてしまうじゃろうて?」

 え、僕?そんな脳筋じゃないけど・・・

 でも、そうだなぁ、きっとみんなが暴れるっていうなら、その場で一緒に暴れたい、かも?


 「なぁ、陛下。この子は小さいが、こっちとしては十分な戦力だ。下手な駐留軍なんかよりずっと役に立つ。それにな、自分のことなのに蚊帳の外で満足するような大人じゃない。ただし、ダー。お前は俺が呼ぶまで大人しくダンシュタで商会の手伝いでもしてろ。必要なら絶対に呼ぶ。それまで大人しくしていられるな?」

 「もちろん。」

 「陛下。宵の明星のメンバーとしてなら、こいつを自分の指揮下における。こいつが勝手をやって危険に飛び込むより、幾分か安全だと思うが?」

 「・・・うーむ。分かったよ。だが、アレクよ、きちんとゴーダンたちの言いつけを守って危ないことはしないな?」

 「もちろんだよ。僕は宵の明星のメンバーだ。メンバーとしてふさわしくないことはやらないよ。」

 「・・・はぁ。了承した。とりあえず、おぬしらは一度拠点に戻り給え。そして、博士とゴーダン、おぬしたちはできるだけ早くミモザで待機してもらうのは変わらんぞ。」

 「諾。」

 「ということじゃ。ロディ、後は任せる。」

 僕を膝から下ろした王様は、宰相さんにそう言うと、なんだかお疲れな様子で退室していったよ。

 「御意。」

 宰相さんは、そんな王様に一つ肩をすくめると、うやうやしくお辞儀をしたんだ。

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