第167話 ミモザへ帰ってきたよ

 ミモザ!


 戻ってきたよ!


 僕は、船から飛び降りる。


 「こらぁ!なんて危ないことしてるのぉ!」


 ん?下からでっかい声で叫んでる?

 あ、ネリアじゃん!


 僕は風のクッションを敷いて着地して、パンと両手をYの字に上げる。

 10点10点10点!

 体操選手みたいに格好良く決まったでしょ?魔法のコントロールも完璧だ。


 「また、なんて危ないことを!」

 ネリアが着いて早々、杖を振り上げてきたよ。

 ハハハ、って笑いながら、僕は易々と避ける。

 ネリアの後ろには、虐殺の輪舞のみんなもいたよ。

 「ただいま!」

 「おう!」

 アルにハイタッチ。

 うん。僕、帰ってきたんだ!



 船がね、沖に見えたから、って、僕らのことを知っている人が港に集まってくれてたんだ。

 どうやら、知っている誰かが、冒険者ギルドにも報告に走ったらしい。

 他にもね、港近くの屋台のおばちゃんとかさ、覚えてくれてたみたい。

 で、


 「ダー君だ!本物のダー君だ!」

 ドン、って僕に抱きついてきた女の子。

 ワーッて泣き始めながら、僕の頭にほっぺをこすりつけている。うん、僕の方が随分小さいから。

 「ミンク、ちゃん?」

 「ダー君、ダー君、ダー君!」

 えっと、そんなに泣かれたら僕、悪い子みたいじゃない。離れてくれると、助かるんだけど・・・

 いつの間にか近くに集まった仲間や、顔見知りの人達に困った顔を向けるんだけど、みんななんかニコニコこっちを見てて、助けてくれないんだもん、困っちゃう。


 「お帰りなさい、ダー君。ミンク、ダー君も困ってるよ、離して上げないと。」

 ようやく助けてくれたのは、あ、トッドさん、ミンクちゃんのお父さんだね。

 優しく肩をトントンされて、ミンクちゃんもハッとしたみたい。

 自分がワァワァ泣きながら僕に抱きついてたことに今更気付いて、キャアっていって、僕を突き飛ばすんだもん、びっくりだよ。

 「ワワワワ、ごめん、ごめんなささい!」

 そう言うと、真っ赤になった顔を隠しながら、ビューンってどっかへ走り去っちゃった。なんか、あんなに落ち着きのない子、だったっけ?

 尻餅をついたまま僕は唖然と見送ったよ。


 そんな僕を、やさしく抱き上げて起こしてくれたのは、パッデだった。

 そういや、パッデってば、トッドさんの親戚、だったよね?

 二人は僕を挟んで握手してる。

 うん、いいんだけどね。

 頭上で握手とか、僕はどう動けば良いの?


 ちょっと困ってたら、小さい手が僕の手を掴んで引っ張ったよ。

 ん?

 あ、久しぶり!

 名前は覚えてないけど、このミモザでミンクちゃんと一緒によくいた女の子だ。

 貝を探すのがとっても上手な子だよね?

 「おかえり、ダー君。」

 その子が二人の間から救出してくれて、ちょっと一息。

 「ボゥジンのおばちゃんが呼んでるよ。」

 「ボウジン?」

 「一緒に遊んだでしょ。青髪の男の子。」


 ああ、とっても綺麗な水色頭のやんちゃ坊主か。ほとんど白に近い水色だけど、それがキラキラ輝く水面みたいで、そう褒めたら、ものすっごく怒られた記憶がある。

 ほら、この世界じゃ髪の色が濃いほど魔力強くて、魔力が強いほど出世しやすいからね、白っぽい子に僕みたいな夜色の人間が言うと、ものすっごい嫌味に感じたらしい。僕はほんとにきれいだと思ったんだけどね。そのあとしばらく僕は睨まれてた。最後には仲良くなった、と、僕は思ってるんだけど・・・


 女の子はユミって言うんだって。

 で、ユミちゃんに連れられて、ある屋台に行ったんだ。

 うん。港に近いところで、魚介串の屋台をボゥジンのおばちゃんはやっていた。

 「おかえり、ダーちゃん。ほら、あんたが渡しな。」

 ニコニコしているおばちゃん、その後ろに隠れていた男の子、ボゥジンを乱暴に僕の前へと引きずり出したよ。ボゥジンの手には、おいしそうな貝の串が握られている。


 グイグイ背中を押すおばちゃんに、背中でイヤイヤをしながらも、ボゥジンは串を持つ手をのばしてきた。

 「やる。」

 無愛想に一言。

 パチン、っておばちゃんがボゥジンの頭をいい音鳴らして叩いたよ。

 あれ、音の割には痛くないやつだ。

 「謝るんだろ。ちゃんとおし。」

 「え?」

 僕は首をかしげたよ。謝るとしたら僕と思ったし。

 「ごめんね。こいつ、バカだからダーちゃんのこといじめたまんまで別れたってグチグチしててね。」

 「え?僕いじめられてないよ。」

 「ん?そうかい?あんた、優しいねぇ、きっといい男になるよ。まぁ、どっちでもいいさ。仲直りにこの子が焼いた串、もらってやっておくれよ。」

 「ボゥジンが焼いたの?」

 「ボゥジン、おばちゃんのお手伝いしてるんだよ。でも、まだ商品は焼かせてもらえないの。」

 ユミが注釈を入れてくれた。


 「俺のは売り物にならないからな、やる。」

 さらに突き出された串を、僕はありがたく貰ったよ。

 パクッ。

 「おいしい!」

 上手に焼けている。塩加減もばっちりだ。

 僕はニコッて、わらいかけたよ。

 「お、おう。」

 なんか顔を真っ赤にして目をそらすボゥジン。

 シャイなんだね。

 ニコニコ笑うユミもちょっとうらやましそうに串を見てるから、どうぞってお口に串を入れて上げた。

 びっくりしたみたいだけど、貝を1つもぐもぐ。

 「ね、おいしいよね。」

 ユミちゃん。目を思いっきり見開いて、うんうんってすごい勢いで頷いてるよ。

 ほら、彼女も美味しいって、って言いながら、ボゥジンを見たら、なんでか、ボゥジンもビックリお目々。

 僕と、ユミちゃんを交互に見て、串を見る。あれ、ボゥジンも食べたいの?

 そう思って、ボゥジンのお口にも串を突っ込んだよ。

 目を白黒させながら食べるボゥジン。

 僕は残りの1つをいただいて、完食だ!


 「ね、おいしいでしょ?」

 なぜか、真っ赤なお顔の二人だけど、おいしいって一緒に食べたら、もう仲良しだよね?

 「おまえ、ばかだろ・・・。」

 失礼な。

 小さくつぶやくボゥジンに、僕はちょっと唇を尖らせた。

 でもね、これだけはいっておきたいんだ。


 「あのね、ボゥジン。僕は本当に君の髪はきれいだって思ってるんだ。嫌味とか見下したり、とかそんなつもりは全然なくって。本当にほんとうに綺麗だとおもうんだ。」

 「・・・おまえ、ほんとうはバカだろろ・・・」

 「ブゥ!本当なんだから!」

 「わかった、わかった。信じてなくて悪かったって。だけどな、お前の髪の方がずっときれいだ。そんな短くしちまって、もったいないだろうが!」

 なんか、怒られた。


 でもそれからもう1本、違う貝の串を焼いてくれて、みんなで食べようと思ったら、シェアはなしだってまた怒られて・・・

 で、3本。

 1人1本ずつ焼いてくれて、海を見ながら、おいしくおいしく、いただいたんだ。

 フフ。ミモザに仲よしがいっぱいできたよ。

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