第165話 ドワーフたちの集落にて
ザガの港。
言わずと知れたザドヴァの玄関。
北に海を持つこの国は、東西南を深い、深すぎる森と、その果てに見える山々に囲まれている。
で、特に東。
険しい山が南北にそそり立ち、この山々が隣国タクテリア聖王国と陸地での通行を不可能にしている。
その山の下方の山肌には、主にドワーフたちが工場を作り、その強固な金属でできた諸々が、この国の屈強な軍をはじめ、主要施設の強化を可能にしている。
とまぁ、この国の地理のお勉強で教わることなんだって。
そして、僕は今、そんなドワーフたちの集落に来ています。
うん。絶景!
何がすごいってね、山肌にあるってことは高い所にあるわけです。
下には港町が広がっている。
港には大小の船が忙しく行き来しているし、倉庫街を湛えた港の近くでは、たくさんの人達が船や倉庫、また町へと思い思いのスピードで動いている。
よくぶつからないもんだなぁ、なんて、この距離からでは点でしか見えないその人達を見ているのも面白い。
この国の町は、基本計画してつくられたものだから、直線的。
高い所から見ると、モノトーンで、整然としていて、見ようによってはSFの町みたい。鉛筆で定規を使って写生したらこんな感じになるんじゃない、なんて思えちゃうほど。
この集落。
点々とあるらしく、ここいらでさえ、可能な限り直線的に並ぶ工房群。
こういったドワーフの鍛冶師の集落ってのは、カイザーのジブでも見たけど、あちらはもっと有機的っていうか、無秩序っていうか。あれはあれで素敵だけど、こっちは本当に近代の工場か、ってぐらいの整然とした配置。
ジブの集落もそうだったけど、こういう集落が山の中に作られるのは、山で鉱石が取れるから。それと、どうしても煙が出るから町中では敬遠されるしね。あ、熱とか音とかも、同じかな?
ここいらの集落は、外国人も訪ねることがあるから、基本的には軍関係の武器や魔導具は扱えないらしい。といっても冒険者用の武器や防具はもちろんあるんだけどね。
でね、ドワーフっていう種族は鍛冶がうまいってだけじゃなくて、器用で工夫や発明好きの人が多いんだって。この国の総統を務めるような人って基本的にはこういうことも分かっていたのか、ある程度のノルマをこなせば、研究を好きにしていいっていう方針で、ドワーフの人々をやる気にさせてきたんだって。
あ、現、?もう前になるののかな、の無能な総統さんとかは別だよ。でも、無能ってことはある意味便利で自分の目の届かないことは、気にもしないから、ドワーフたちのこの生活様式は変わらなかったそうです。そもそもリヴァルドはいかにすごい魔導具をつくって、他国にマウントとろうかってことばっかりで、ドワーフの作るものなんかに興味はなかったみたいだしね。
で、ドワーフさん達。工夫して作るのは好きだけど、作ったものを褒められるのはもっと好き。使ってみて、どう、すごいでしょ?ってドヤ顔出来たら超しあわせ、って人がなんと多いことか。
ハハ、考えてみたらカイザーもそうだし、けっこうドワーフの血が強く出ているドクもそうだね。
そういや以前、できるだけ薄い解体ナイフが欲しくでカイザーにお願いしたことがあった。そしたらね、すっごいお願いどおりのができたんだけど、柄にねすっごい模様が彫られてたのね。もったいなくて使ってなかったら、あれはどうした!って言われて、綺麗すぎてもったいないからしまってる、って言ったら、ゴチンて拳骨落とされた。
「使うために作ったものを使わんとかわいそうだろうが!」
だって。
それ以降、どんなに、どう考えてもこの彫刻国宝級だよな、って思ったって、カイザーから○○できるようになるまで使っちゃダメだぞって言われた物以外は、即使い倒すことにしている。
あのね、僕が一生懸命使って壊しちゃうとね、カイザーは文句言いつつもすっごく嬉しそうなんだ。だからね、わざとじゃなくてちゃんと壊れるぐらいに使おうって決めてるの。
ちなみに、カイザーは世界的有名人で、彼の作る武器は片手間の物でも十分国宝級です。それをシューバ用の飼い葉桶とか、火起こし用のトングに使う僕たちって、ハハハ。
今回、カイザーと僕がこのザガの工場地帯にやってきたのは、もちろんここで働いている人に是非来て欲しいって言われたから。
まぁ、僕が退屈をもてあましてて、しかも当分みんな動けないだろうってことから、ちょっと面白そうなこの町へと一緒に連れてきてくれたってのが真相だろうけどね。
で招待された理由は、彼らの作った面白道具を見せて貰うことと、こんな商品があったらいいなぁ、なんて思う物を教えること。
カイザーが、僕がナッタジの御曹司(!)でもある、なんて紹介して、しかも最近のナッタジ商会の新製品の開発者だって言ったもんだから、大騒ぎ。
どうやら、港町だけあって、話題の(自分で言う?)ナッタジ商品、とりわけチーズが、この飲んべえ軍団の心を捕らえたようです。
ごめんね、モーメーいないとチーズ作れないから、うちで買ってね。
僕は、宣伝も兼ねて、チーズと燻製の諸々を出して上げたよ。
おかげさまで、僕はちっこい坊主から、彼らの大親友に昇格したんだ、えへん。
いやぁ、面白いよ。
数日かけて、いろんな人のいろんな道具(?)を見ました。
外に置いておくと卵が焼ける板。
うーん、魔石使ってるけど、これ意味ないよね?冬場は使えない?そりゃそうだ。多分、それって鉄板が太陽で熱せられて卵が焼けただけ、じゃないかな?
黒い色って太陽の熱をよく貯めるんだよ、って知らなかったの?
そうだね、金属の種類によって熱の上がり方は違うかもね。
何?そう。冬でも卵が焼ける金属板作るぞ、って、頑張ってね。
とか
飛び出す刃。
へぇ、ナイフの刃が飛び出すの?
なるほど、中に伸縮性ある金属を何本か入れて押さえ込んでるんだね。
板で押さえて、その板の上に刃を置くんだ。
ほぼ使い捨て?
意味ないじゃん。
コイルみたいにしたら?
え、コイルしらない?バネって分かんない?こうやってグルグルするの。
え、色々使えそう。うん使えるね。衝撃の吸収とか。
やってみる?うん頑張ってね。
とか
金属で箱を作った?
へぇ、溶接しないで切って穴開けて折りたたみ式にした?
熱い物を入れるんだけど、切ってるから強度が足りない?
ていうか、打ち出すんじゃなくて、展開図描いてつくったら?
え?展開図が分からない?
ほらこうやって直方体、こうすれば三角錐だし、グルッとこうすれば円錐に円柱だね。溝でも最初から付ければ組み立ても簡単だし強度が出ないかな?
え?うん、色々やってみて。
とか・・・・
まぁ、色々なアイデアグッズは、見てて飽きないけど、ちょっと残念な感じ。
カイザーは楽しそうに僕のアドバイスを見てるけど、この程度はカイザーだって分かるじゃん。
「そうじゃなぁ。じゃが、見て見ろ。連中はもうアレクのことをちっこい子供と思っとらん。立派なナッタジ商会の開発責任者として、プロモーションしてるじゃろ。ほれ、アレクは色々つくって売りたいとか言っとったじゃろ。儂でも作るだけならできるが数がのぉ。それはジブでも同じじゃ。一点物はいいが量産となると、のう。」
え?まさかの僕の希望を受け入れやすくするようにって、教えてくれたの?
「ドワーフっちゅうのは頑固もんの集まりじゃ。じゃが一度受け入れた者にはとことん尽くす。ほれ、もうお前さんのことは、ちっこいボスと思っとろうが。」
「・・・彼らにお願いしても・・・?」
「お互いがいいのなら、是非もない。」
「あのね、工業化とかさ、あと規格の概念とかさ、持ち込んじゃってもいいのかな?」
「んまぁ、いいんじゃないか。分業の概念ならあるから、工房単位では規格も考えておるしのぉ。鋳造もあるにはあるんじゃ。どうせいつかはたどり着く。それが今じゃ、というだけなら、誰も困らんさ。」
「へへへ。なんかありがとう?」
「なんじゃ、改まって。」
「僕にこんな素敵な人達との間を持ってくれたんだもん。」
「なぁに、これはお前さんの人徳じゃよ。それにナッタジの発展に使うんじゃろ?言っとくが儂はお前さんが死ぬまで世話になるからのぉ。まぁ、どっちが先にくたばるか微妙なところじゃろうが。ナッタジに養ってもらう以上、ナッタジが発展してもらわにゃならんからのう。」
「もう、カイザーったら。いいよ。僕はママやみんなと幸せになる。もちろんカイザーもね。だから、そのためにはカイザーにもしっかり役に立って貰うんだから。よろしくお願いね。」
「ハハハハ。良かろう良かろう。じゃあ、まずは二人でここのドワーフの心をがっしりと掴もうかのぉ。」
そうやって、みんなが戻ってくるまで、集落の人達ととっても仲良くなるために費やしたんだ。
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