第164話 再びの町々

 ゴトゴトと馬車が進む。

 パッデさんの馬車です。

 なんかね、お出かけの用意をしているときに、様子見に来たパッデさん、自分も行きたいっていってついて来ちゃった。本当はドワーフの誰かの馬車に乗せて貰う予定だったんだけどね。


 行きは、行商しつつだし、途中で捕まって道なき道の道中だったんだけど、首都からザガへは、メインの大街道を走ります。まぁ、リットンから伸びる街道と違って、ザガから伸びる街道は、町が直接街道に接していない。だから途中浅いところは町に泊まり、そうじゃないところは、街道沿いのまさに道の駅、みたいに整備されてる休憩所で野営をしよう、ということになりました。

 こういう判断材料は、まさに地元かつワークフィールドでもあるパッデさんの知識が大変ありがたかったよ。


 町はね、あんまり入らなかったけどね、あんまり遠回りにならないということで、ドロワの町は寄ってみた。

 ドロワの町。

 初めて教養所らしきものを実感した町。

 この町で、教養所に連れ去られたんじゃないかなぁという子供の話を聞いたんだっけ?


 「あ、ダー君だ。」

 町に入って、ちょっとした買い出しをしていたら、後ろから声をかけられた。

 振り返ったけど、知らない子供?

 「あ、ひょっとして覚えてないよねぇ。私、教養所でダー君に助けられたんだよ。」

 え、そうなんだ。

 結構な人がいたし、みんな同じように無気力っていうか同じような表情していたから個別認識は難しくて、正直直接話した子以外は、どんな子がいたかまで、全然覚えていなかったからなぁ。

 「えっと、ごめん。その、いっぱいいたから・・・」

 「いいのいいの。私はローネ。ひょっとして、うちの家を訪ねてきた行商人とその子供ってダー君じゃない?」

 確かに、連れ去られた子供のおうちにお邪魔して、いろいろ聞いたんだけど、そうか。確かにそうだ。ローネちゃんて言ってた!


 「立ち話もなんだから、うちに来ない?」

 「え、でも・・・」

 「お父さんたちもどうぞ。」

 一緒にいたパッデさんとカイザーにも声をかけてくれた。けど、いいのかなぁ。彼女の家族って確か彼女が連れて行かれたこと、出世だって喜んでいたんだよなぁ。

 でも、なんか嬉しそうだし、ってことで、僕たちはついていくことにしたんだ。

 僕とパッデさんにとっては2回目のローネちゃんち訪問だね。


 「まぁ、お久しぶり。元気そうね。」

 おばさんが、なんかウェルカムで向かえてくれた。

 あれ?ローネちゃんの出世話、潰した形の僕らのこと怒ってないのかなぁ?

 「ローネを助けてくれたそうで、本当になんと感謝して良いやら。」

 おばさんも、それにおじさんも、ちょっと涙ぐんでるよ。


 なんかね、自慢げに言ってたけど、そりゃお金はありがたいけど、子供を取られたって思ってたのは間違いないんだって。で、出世どころか、生きて会えない可能性だって分かってたんだそうです。

 でもね、そんなのを外に出したら、自分も他の家族も危険だから、他人には、ううん、家の中の人にさえ本心を隠して、子供が選ばれて嬉しいなって、言ってなきゃだめな国、だったんだそうです。


 まだね、こういう地方都市、クーデターのこととか、教養所の一件とか、そんな情報は入ってないんだって。でも、お役人様の様子がおかしい、って、みんな、そろそろ感じてる。お互いに感じてても、口に出すことはできないんだけど、だって。


 でね、ローネちゃん、騎士様がおうちに凱旋っぽい感じで連れてこられたんだって。よく聞いたら、甥っ子さんの部下みたい。

 おうちがちゃんとあって、大丈夫そうな子たちは、外聞っていうのかな、ご近所さん達に変な目で見られないように、騎士様が何人かでちょっと立派目の馬車に乗せて送り届けていたようです。

 これはクーデター成功前からやってたみたい。子供たちのデータは僕たちが奪取して、ギルドの人達に丸投げしたからね、それをうまく使って速やかな返還ができた、てことみたい。彼らの分析では、教養所にいた子を国で把握してないだろうから、とりあえず本人と家族に事実を話して、家族が受け入れたところから帰宅させたようです。


 ローネちゃんは、かなり初期の帰還だったみたい。で、クーデターの成功を教えたら、家族揃って大喜びしていたよ。なんでもね、クーデター成功したら、希望者はちゃんとした魔法学校でちゃんとした教育をして、仕官の道も整えよう、って甥っ子さんが言ってたらしい。といってもローネちゃんは甥っ子さんと会ったわけじゃなくて、保護していたギルドの人達がそう言ってたそうです。

 仕官しなくても、冒険者ギルドや商業ギルドで雇ってもいいし、ということなんだって。クーデターが成功しなくても、そっちの道は任せろ!て言って、送り出された、ということです。

 まぁ、各ギルドにしたって、彼ら彼女らが魔導師として優秀になるのは間違いないって知ってるから、青田買いとしても、超お買い得、なんだろうね。さすがにギルドは転んでもただでは起きないっていうか、なんというか。ハハハ、ウィンウィンだし、僕がどうこう言うことじゃないけど、だね。


 これまたローネちゃんからきいた話。

 もちろん帰られないっていう子もそこそこの数いたようです。

 すでに家族がいない、とかね、外国から連れてこられた、とかね。

 あとはリヴァルド派の子供たちは、数名脱出したって話です。ナハト、その脱出組のリーダー格なんだって。ちょっぴり気になるけど、どうなったんだろうね。


 帰られないっていうこんな子たちは、本人の希望に合わせて、ギルドの見習い、とか、商会だったり鍛冶師の弟子だったり、まぁ、そんな感じでやっていくことになるだろうって。また、クーデターが成功したら、騎士とか魔導師の見習いとして雇ってくれる、ってなってるようです。

 他には外国から来た子に関しては、その子の国へ行く貿易船にゲスト扱いで乗せてもらえるって。このへんはそうなるだろうって、話をきいただけで、ローネちゃん、すぐにおうちに帰ったから詳しくは知らないそうです。


 まぁ、そんな感じで、子供たちの将来とかも、新政府は考えてくれそう。良かったね。

 ローネちゃんは、そのうち魔法学校へ行って、もっと魔法の勉強をしつつ、その後のことを考えようかなって言ってたよ。

 あ、僕がパッデさんの子供ってローネちゃんのおうちの人を騙していたことは、お詫びして、正直に外国の冒険者です、って言いました。まぁ、見習いだけどね。

 そしたらね、冒険者もいいかなぁ、だって。

 女の魔導師さん、いっぱいいるよ、って言ったら嬉しそうに考えてみる!て言ってた。けど、後ろでお母さんが複雑な顔をしていたから、ちゃんと家族とも話し合ってね。




 と、そんな、再会とかもありつつ、僕らはザガへと馬車に揺られます。


 お国のトップが変わったことも、これからどうなるかも知らない人がいっぱいいるって分かったし、庶民にはそんなことはどうでもいいって暮らしてる。

 なんだか、そんなことも分かった旅だったなぁ。


 で、もう一つ分かったこと。

 この国で最も外国人そして商人が多い町、港町ザガ。

 一番首都から離れているのに、さすがの情報網で、クーデターの成功が届いていたってこと。

 初めてこの国で見た町だったから、他国と比べてしまって暗い印象だったけど、実は一番活気があったんだ、って、首都へ近づく中で、僕は知ることになった。

 そして、今。

 この町は港町。

 そしていろんな人種も多い。

 外国は海を経由だから、やっとこさの陸地って人もたくさん。


 これはね、季節が進んだから、だけじゃない。

 今のこの町は熱気が溢れている。

 港町らしい騒然としたざわめきが、この町を包んでいる。

 まだまだ地味だけど、そうだなぁ、タクテリアの田舎ぐらいの活気を抱いて、今正に変わろうとしいる、そんな期待とか不安とか何にもまして喜びが、ふつふつと潜んでいるのを感じるんだ。

 この笑顔が、少しずつ少しずつ、内陸へも浸透していくんだろうな、僕はそんな風に思って、なんかニマニマしてきちゃったよ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る