第162話 ザドヴァ国問題の結末
ふわぁ、よく寝た。
僕は、フカフカのベッドで目が覚めたよ。
ん?
「ダー、おはよ。」
あ、ママ!
えっと・・・僕?
「覚えてる?ダーはちょっと頑張りすぎて、おねんねしちゃったんだよ。」
・・・
あ、そうだ、僕、お城に行ってたんだった!
あれは・・・魔力切れで、寝ちゃった?
考えてみたら、過魔力流す、って、普通の人だと無理な量のをバカスカ流したんだもんね。割とドアのロックとかは大丈夫だったけど、さすがにこの国トップの魔導師の魔力レベルを4つ、は、キツかった・・・
「ダーが頑張ったから、魔導師の人達、ほとんど無事だったよ。」
ママがニコニコ、笑う。
うーん、ほとんど、か。そうだよね、全員無事、は、さすがに無理だよね。
気にしない振りしてたけど、お城の外でも中でも、いっぱい倒れていた。
その人達が全員無事だとは思えない。
一応、作戦立てていたとおりの、ミッションどおり、あんまり狂わず終えたんだろうけど・・・
そう、ミッション。
もともと、僕らはこの国から密かに手配されている僕の、その手配ってのをなくすために、元凶にいろんな意味でお話をつけるために、この国にやってきたんだ。
僕は、他の大陸へと身を隠していた(にしては、大冒険だったけど)間に、国に残ったみんなとか、うちの国の王様の手配とかで、いろいろ調べてたらしい。といっても、大体は推測できてたんだけどね。
もう何年も前、それこそ僕が産まれる前どころかママの産まれるよりも前から、ザドヴァは急激に魔導師の強化に力を入れ始めていたんだって。これは元々有力なおうちの出身で、天才と子供から言われ続けたリヴァルドの台頭と共に始まったらしい。
それこそ事の起こりを突き詰めると、ひいじいさん生誕よりも前に遡る。
当時、ドクが冒険者として名を上げていた。世界一の魔導師。そんな呼び名が高かったんだって。
その噂は世界中に広まって、ここザドヴァにも届いていた。
ザドヴァの天才少年ことリヴァルドの耳にだって届いてしまった。
で、世界一は自分だ、と、魔法勝負や魔導具勝負をドクにふっかけるために、タクテリア聖王国まで留学しちゃったんだって。
実際、当時の王様もドクのお得意様だったこともあって、しぶしぶ受けて、ま、何をやっても、ドクの勝ち。しかも、リヴァルドってば、当時から人権的なことをまったく歯牙にもかけない人だったらしくて、ドクはそのあたりを注意したんだって。
人権、なんて言葉この世界にはないに等しいけど、思想的にはね、人にひどいことをするのはよくないよね、なんてレベルではあるからね。
たとえば、人に毒薬のませて魔力量を上げる、とか、小さいときに魔力の道を通して、気絶するまで魔力を使わせてはどんどん魔力量を上げる、とかね、実験動物みたいに人を扱うのは良くないよ、ていうのは、人として常識、でしょ?少なくともドクはそういうのは許さない人だった。
でも、リヴァルドは違った。有能な人間に実験道具にされるのは、無能な人間にとって幸せなことだ、なんて思想だったらしい。平民だとか奴隷だとか、そんなやつは人間に数えない、なんてことも平気で言ってたんだって。
ドクも、本人曰く、当時は若かった、ってことで頭に血が上って、全否定からの相手をズタボロにしちゃった、らしい。内容?ハハ怖くて聞けません。
負けちゃったリヴァルドは、命からがらお国に戻り、恨み骨髄、自分の理想の魔導隊を作り上げていった、そして今に至る、ということなんだそう。
でね、世界中からサンプルになりそうな、魔導師の卵を掠っていったりもしてたんだけど、特に僕。たまたま彼の右腕にして、とんでも魔導具を作り上げたガーネオが、見たことのない髪を持つガキンチョにやられて敗走してきたって聞いたから、興味津々。絶対自分の物にするぞ、ってことで手配、なんてことをしたらしい。
すでに僕とドクに接点がありそうだ、というのも、強引にこんな手配をした理由であるのは間違いない、ってのはドクの弁。
てな感じのことを、僕がナスカッテ国で楽しく蜂蜜採取やお餅つきをしている間に、推測を裏付ける形で取っていたようで、僕らはこのザドヴァに、直接リヴァルドと話をつけようと、やってきたってことだったんだけどね。
この国、そもそも軍事大国として魔導師と兵士ってのは両輪で運営できてたんだって。リヴァルドが台頭しちゃうまでは。
だけど、ここ数十年はリヴァルドのせいで、一般兵の扱いは下がる下がる。有力な人なんかは、中央から遠ざけられるし、文官武官とも、爆発寸前。しかも、教会を通じて一般市民までコントロールすることが続くと、庶民の間にも火種が燻ってきた、らしい。
今の総統ってね、総統になるときから、後ろ盾にリヴァルドがいて、完全な傀儡、ってことなんだって。
でね。実は今の総統のお兄さんの子供、要は甥っ子ってのが、やり手っていうか、商業ギルドや冒険者ギルドと手を組んで、しかも、リヴァルドの息がかかっていない者をまとめ上げていたんだ。幸いっていうか、お間抜けな、というか、ほらお城を囲む塀の中。この中には魔導師も兵士も精鋭って人達が集められているんだけど、この人達は、いわば今のお国に忠誠を誓う人達。単純にリヴァルド命の人達だね。
逆にこの中に勤務できない兵士や魔導師もいっぱいいるわけで、そんな人達は中の人達との待遇の差にも怒ってたし、そもそも、こんな政治のやり方じゃ世界に通用しない、って思っている人も多かった。まぁ、不満分子ってやつかな?
甥っ子さんは、そんな人達をまとめ上げ、国民の支持も各ギルドをバックに密かに集めて、さぁ、お国を取り戻すぞ、てな具合で決起間近。そんなときに僕らがやってきたんだ。
クーデター。
そう甥っ子さんやギルドがやろうとしていることは、そういうこと、だね。
甥っ子さんいわく、武力=魔導師のとんでも力、で、リヴァルドが今の総統を担ぎ上げ国体を変えたことこそがクーデター、だそうだけど。
ま、僕たちが関わることじゃない。
だって、僕たちは単なる外国から来た冒険者で、自分の用件をしにやってきただけなんだから。
だから、お国のことはその国民がやること。
僕らはご用があるリヴァルドとお話し合いをする。そのついでに依頼を受けて、冒険者として、進む方向が同じの皆さんを護衛、協力をする。
そんな感じ。
僕の手配の廃棄と、ナッタジ商会との交易が、僕らの報酬。
そういうお話し合いが、僕らが合流する前に話し合われていて、今回の作戦になったんだ。
で、無事、終了、てことでいいんだよね。
そういえば総統、とかどうなったんだろう。
「玉座後ろの秘密通路から逃げ出した総統を、出口から侵入したカイザーたちが捕らえて戻ってきたよ。そのときダーと目が合ったってカイザーは言ってたけど?」
うんそうだ。
あの捕らえられていた人、そういえば後ろにいた人だったかも。カイザーと目が合って、手を上げてきたから、僕も返答しようとして気を失っちゃった。
「いろんな人が捕まったり、なんか大変みたいだけど、私たちのお仕事は無事おしまい。ダーの手配ももう大丈夫だよ。」
ママのニコニコ顔は、僕にとって最高の報酬だよ。
「あ!」
「どうしたの?」
「ん・・・僕、ドクにごめんなさいしなくちゃ・・・」
「ん?」
「あのね、ドクの言いつけ守らなかった。」
「ああ。エアちゃんが言ってた内緒のお話?」
「うん。僕ね、挑発しちゃダメ、危ないからって言われてたのに、リヴァルドをドクより下だって言っちゃったの。そしたら、杖で殴られて、頭が割れた。」
「痛かったでしょう?」
「うん。一瞬意識が飛んで、血も出たんだ。」
「辛かったね。」
「・・・みんなに叱られちゃうね。」
「そうねぇ。でも、しっかり反省したんでしょ?それにとっても痛かったから、もうしないよね。」
「うん。」
「だったらみんな怒らないよ。ヨシュアがね、言ってた。ダーがとっても反省してたから、今回は良い勉強になっただろうって。」
「うん。」
「じゃあ、その話はもうおしまい。起きられる?」
「うん。」
「みんなが待ってるよ。さ、おいしいご飯、食べようか?」
「うん!!」
美味しいご飯とみんなの笑顔。
僕にとっての報酬はこれでいい。
ミッション・コンプリート!!
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