第148話 仲間とバンミとここの人達と

 エック、エック、エッエッエーンック・・・


 押し殺した泣き声は、僕だ。


 翌日。


 今日も今日とて、午前中は僕の放置は決まっていたようで。

 そんでもって、またまたバンミが教育係として僕に張り付くってことになっていたんだ。

 昨日と同じように、指導室前で僕を待っていたバンミ。

 でも、本当は、今朝は違う。

 バンミにお散歩という名の、外への連れ出しをお願いしたんだ。


 建物の外にさえ出れば、仲間たちは僕を簡単に回収できる。昨日のうちにエアに頼んでみんなに集合して貰ってたからね。

 てことで、外に出てすぐにヨシュ兄の背中を森に見つけた僕は、導かれるままにバンミを連れて、隠れ家にしている場所まで、喜び勇んで行ったんだ。


 で、その隠れ家なんだけど・・・


 この前にいなかったアンナがいたんだ。


 「あ、アン?」

 僕の口からはアンナじゃなくて、昔の名前、アンって出ちゃった。

 みんなが集まってたんだけど、僕の目にはもうアンナしか写ってなかったんだ。

 アンだ!アンおばさんがいる!

 気がついたら、僕は夢中でアンの胸に飛び込んで、恥ずかしながら、声を殺して泣いていたんだ。やっぱり僕には産まれた時からずっといてくれるママとアンおばさんは特別、みたいです。


 「おやおや。ダーはいつまでも赤ちゃんみたいだねぇ。」

 アンナは優しく僕の頭を撫でながら、そう言ったよ。

 「潜入は、そんなに辛かったかい?」

 「うん。エーン。あのね、みんなすぐにぶつんだ。僕のこと棒でいっぱいぶつんだ。」

 「そりゃひどいね。そんな奴はこのアンおばさんが燃やしちゃおうかねぇ。」

 「ううん。みんなね、知らないんだ。ぶつのが悪いことだって、全然思ってないんだ。」

 「そうか。そりゃかわいそうだ。暴力はダメだって教えて上げないとねぇ。」

 「うん。アンおば・・・ううんアンナは、みんなを助けてくれる?」 

 「そりゃ助けるさ。ダーが助けたいって人はみんな助けるよ。」

 「アンナ、だぁい好き。グスングスン。」

 「さあさ、いつまでも泣いてないで。みんな心配してるじゃないか。もうダーの潜入はおしまいでいいさね。みんないるんだ。もう泣きやみな。」

 「ダメだよ。最後まで、僕がんばるんだ。」

 「そうかい、そうかい。だったら余計に泣いてちゃダメだろ。」

 「うん。うん。ごめんなさい。僕ね、アンナの顔見たら、ダメになっちゃったよ。この前はいなかったから、こっちには来てないって思ってた。」

 「ああ、あのときは都まで馬車を調達にね。」

 「馬車?」

 「ああ、子供たちを救出したいんだろ?馬車が足りないと思ってね。」

 そう言うと、アンナはリュックを持ち上げた。


 あれは僕じゃないと出せないけど、入れるのは誰でも出来るから、あの中に馬車を入れてきたんだろうね。帰るときは僕も一緒だ、って言われたみたいで、とっても嬉しい。

 「ところでダー。紹介してくれるんじゃなかったのかい?そこのお友達を。」



 アンナに言われて、僕は気まずそうに少し離れて立って、僕を見ていたバンミを思い出した。

 うわっ、恥ずかしい。今の、バンミに見られちゃったよ。

 僕が気まずくって、ほっぺたが熱くなったのを見て、ちょっとニヤニヤしてるのもも、なんか、悔しい。

 でも、放っておいた僕が悪いんだもん、仕方ないね。


 「えっと、バンミさん。同じ部屋の人で、ナスカッテから掠われてきたんだって。」

 「ナスカッテですか?同郷ですね。」

 ヨシュ兄が、バンミに握手の手を出した。

 「えっと、・・・ダーの言ってた仲間?」

 「はい。冒険者パーティ宵の明星と言います。私はヨシュア。ダーを抱いているのが副団長。この場でのリーダーのアンナです。」

 「えっと、ダーのお母さん?」

 「いや。どっちかってっとおばあさんの位置かねぇ。この子の母親を育てたもんだ。」

 「え?若くないですか?」

 「そりゃどうも。まぁ、この子の母親はこの子を13で産んでるからねぇ。」

 「え?」

 「まぁ、それはいいさ。おいおいね。で、ダーが連れてきたってことは、こっち側につくってことでいいんだよね。」

 「ええ。ここに2年います。お役に立てると思います。」

 「分かった。ヨシュア、その子と情報を共有しておきな。」

 「了解です。バンミ君、だったね。ちょっと私と話をしようか。」

 「え?え????あの!」

 「なんだい?」

 「その、僕がスパイとか、思わないんですか?」

 「おや、あんた、スパイかい?」

 「違います!けど、そんなに簡単に信じて・・・」

 「だってダーが連れてきたんだろ?問題ないね。」

 「・・・なんか、・・・すごいっすね。」

 「何が?」

 「いや、いろいろ・・・」

 「そうかい?」

 「はい。あ、すみませんでした。あの、ヨシュアさん?情報、ですよね?」

 「ああ、お互いにね。ちょっとあっちで話そうか。」

 そう言うと、少し離れたところで、お話しをはじめたよ。


 その間に、ミラ姉とバフマが、僕にお薬を塗ってくれたり、ちょっぴりお昼寝したりしてすごしたよ。

 で、僕ってば気を抜きすぎてたのか、起きると教養所のお部屋のベッドだった。


 「お、起きたか。おまえ、気、抜きすぎな。」

 ククク、と笑いながらそんな風に言うバンミ。

 でも、実際その通りで言い返せないね。

 「もうすぐしたら、みんな戻ってくるぞ。顔でも洗ってこい。」

 「はぁい。」

 そう言って、僕は洗面所に向かったよ。


 でもさ、なんかバンミが変わったよね。

 明るくなった。

 みんな戻ってきたら、また仮面を被りなおすんだろうけど、ちゃんと息をしてるって感じがして、僕も嬉しくなるよ。




 午後。


 僕は、教練室3にいたよ。

 この前に見学したときと違って、机と椅子が並べられていて、僕以外の子供たちは初めて見る子ばかりだった。

 ここは、どうやら字を書くのを合格した子が集められる教室みたい。教官が木でできた、黒板に、どうやら火魔法で焦がして文字を書いてる。カンナみたいなのが置いてあるから、授業が終わったらあれで削って消すのかな?


 ここで教えてる単語は、どうやら魔法の単語みたい。

 普通の生活では使わないけど、詠唱に使う言葉。

 僕は使わないけど、他のみんなは使ってるから、一応耳にしたことはあるかなって単語が多い。

 魔法の本を読んだら出てくる、そんな単語なんだろうね。


 それにしても、無茶な授業だなって思ったよ。


 初めは前回の復習からって言うんだ。

 そして単語を書いていく。

 生徒にあてて、答えられなかったり間違えたら、当然のように鞭。

 あのね、僕は前回出てないんだよね。

 知らなくて当然でしょ?

 なのに、同じように出来なかったら叩くって言うんだ。

 僕?

 全部答えてやったよ。

 あのぐらい、全部読めるもん。

 全部出来たのに、なぜか生意気だって、何度かぶたれた。

 やっぱり意味がわかんないよね、この人達。

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