第147話 教練内容
図書室に本を返した後、ちょっと探検の続きするか?と、バンミに誘われたよ。
彼は、僕を下の階の教練室が並ぶところに連れて行った。
教練室はいくつかあって、番号が振られてる。
全部で6つだ、と、バンミは言って、その場所を教えてくれた。
「1と5,6はかなり大きくて、実際魔法をぶっ放す練習ができるようになってる。他の2,3,4だが、ちょっと小ぶりで、特に4は小さい。で、この小部屋の先には、それぞれ1つから3つの習熟室への入り口がある。」
「3の部屋の奥に3の習熟室のドアがあったのは見た。1人、練習で倒れた子が連れて行かれた。」
「うん。主に魔力操作の練習で倒れた場合は、救護室じゃなくて習熟室へ連れて行かれる。これは秘密な。教官たちには言ってないけど、俺には魔力の量が見えるんだ。大抵、中に連れて行かれるのは魔力欠乏で倒れた子だ。」
「教官たちには言ってないの?」
「ああ、ここの訓練では、髪を見ての通り土の訓練ばっかりだからな。そういう見える系のは、特殊色だって思われてる。俺が魔力量が見えるかも、なんて、頭の片隅にも登らないだろうな。まぁ、もともとは、訓練の最中に自分の残存魔力を気にするようになったんだけど、それがなんとなく分かるようになったら、気がついたら、人の魔力量がなんとなくわかるようになってた。」
「それで、・・・その、僕の・・・」
「ハハ。ダーを初めて見た時は、思わず2度見したぜ。それ、なんかで押さえてるだろ?」
「うー。」
「まぁ、そんな顔すんなって。他の奴にはバレてないから。ここにいる奴は、特に大人は、たいした魔導師じゃないさ。魔力量含めてな。」
「前にも言ってたね、そんなこと。」
「ああ。子供は魔力量の多そうなの集めてくるから、たまには俺に近い奴もいる。あ、ダーみたいなのはさすがにいないぞ。その中から優秀な奴は魔導隊に普通にエリートとして入るからな。教官になんてならんさ。あの連中が来るとやばいぞ。基本俺レベルの魔力は持ってる。」
「あの連中?」
「ああ。国立魔導隊の中でも隊長様直々の特選隊だ。主にここ出身のエリートで作られてる部隊でな。時折、物色がてら視察に来るんだ。あいつらはヤバイ。なにがやばいって、魔力量だけじゃなくて、その技も忠誠心もおかしなことになってる。」
「おかしなこと?」
「あいつらは、死んでも尽くすんだ。いや違うな。死んで尽くすために、魔導師をやってるんだ。」
「死んで?」
「ああ。お前が見たっていう訓練な、ナハトが出てたやつだろ?あれは、魔力を魔導具に吸わせる訓練さ。魔導具に勝手に魔力を持ってかれそうになると、普通は本能的に拒否するんだが、その拒否感を取り去る訓練だ。」
「・・・どういうこと?」
「まず最初のきっかけに魔導具に魔力を流すんだ。すると後は魔導具が勝手に魔力を吸っていく。分かってるとある程度は吸わせられるけど、やってみるとな、体が拒否するんだ。これ以上吸わせないぞってな。この体の拒否をなくすようにする訓練だ。フフフ。この訓練、ダーにはきつそうだなぁ。いや、逆にそんだけ魔力あれば訓練にならないか?」
「どういうこと?」
「あの玉=魔導具にはレベルがあってな。玉自体に吸える限界があるんだ。最初の頃は、俺は玉の限界まで吸わせても、平気だった。今使ってる奴は、第一段階の拒否までは体験してるけどな。」
「第一段階?」
「ああ。人間って面白いもんでな。限界って言っても、何段階かに分かれてるんだよ。知ってるか?肉体的でも精神的でも、持たないかもって思ったら、人間は気絶するんだ。拷問とかってな、この気絶から先の状態に行うと、効果があるんだぞ。」
「拷問って・・・」
「まぁ、ここの訓練はそんなもんかもな。まずは玉に容量が残っているのに、吸わなくなる。これが第一段階だ。体の方が拒否して吸わせなくなるんだ。だが、この段階では、実は余裕がある。でだ、ここの教官連中が何をやるかっていうと、お前さんの大っ嫌いな鞭打ちさ。」
「鞭打ち?」
「ああ。この段階までに、自分が怠けたら、自分が悪かったら、鞭で打たれるって染み込んでるからな。徹底的にしばかれて、魔力吸収を止めてるのが自分が悪いことをやってるからだ、なんて思ったしまうんだ。まぁ、叩かれたくないっていう思いと、吸われる危険性を天秤にかけてる、ともいうけどな。で、大概の子供はもう1度玉に魔力を吸わせられるようになる、って算段さ。」
「ひどい・・・」
「それでもな、次にダメなところまで来るんだ。それが第二段階だ。」
「第二段階?」
「鞭より魔力が吸われる方がマシから、鞭で打たれてもこれ以上魔力は吸われちゃ死んじまう、ってレベルで、本能が魔力を止めた段階だ。」
バンミが僕をのぞき込んだ。思わずゴクッて生唾を飲み込んだよ。
「ここからはルートが分かれる。延々とこの段階で終える奴。教練室行きの奴。教練室では、さらに分かれてる、と思う。この先は謎だな。」
「バンミは?」
「言ったろ?魔力が多いからな。今までは平気だった。けど半年ぐらい前に初めて第一段階を超える玉を渡されてな。今までの比じゃなかったなぁ、あの鞭は。で、おかげさんで、第一段階を超えてからは、まだ玉の容量を超えていない。一応、ここの中では最大級の魔導具らしくてな、あれの容量以上なら合格とかで、吸われる練習はするけど、より強い魔導具は渡されていない。」
「じゃあ、昨日の倒れた子って。」
「ああ。多分第二段階で止められずに、そのまま吸われ続けて魔力欠乏に陥ったんだろう。そういう奴は優秀っていうことで、習熟室に連れて行かれる。」
「優秀?」
「ああ。本能レベルで、絶対逆らわないっていう忠誠か、鞭の方が怖いか、どっちかだからな。どんなことされても、文句は言わない優秀な魔導師として認められるのさ。」
「・・・・習熟室って何が行われているの?」
「さあな。俺は魔力の受け渡しの実験をさせられた。あと、なにやらクスリを使われた奴もいたなぁ。」
「実験?クスリ?」
「ああ。個別にいろいろ研究している教官、いや博士って呼ばれてる人達がいて、あの中はそいつらが仕切ってる。俺は初めは魔導具に魔力を込めるように人に込めろって言われて、知らない魔導具を媒体に人に魔力を注がされたんだ。最初は別の奴だったけど、今は最終フレーズとかで、ナハトにもっぱら魔力を渡す実験だな。」
「ナハト?」
「ああ。見たら分かると思うけど、同じ土属性だが、俺の方が何倍も魔力が多い。だが、国としては魔導師として仕えさせたいのは奴だ。実際、奴もそれを望んでいるしな。奴はこの国の貴族的なランクの御曹司ってやつさ。魔法に自信があってここに来たのに実際は、ってやつでなぁ。そんなときに、俺から魔力を供給って形なら特選隊も夢じゃない、そう言われて、ほいほいとこの実験に名乗り出たみたいだ。まぁ、ある意味かわいそうなやつだけどなぁ。」
実際二人とも茶色い髪って言えるけど、ナハトはベージュでバンミはこげ茶っていう感じ。魔力量の多い外国人と、魔力量は少なくてもこの国で家柄の良いやる気満々のエリート。国として抱えたいのはナハトで、道具に最適なのはバンミ。
「あのさ、今更だけど、習熟室のこと、しゃべっちゃだめ、なんだよね?」
「だな。けど、ぶっつぶして自由にしてくれるんだろ?だったら俺の情報、良くね?」
「・・・信じてくれるの?」
「おや?嘘だった?」
「ううん。嘘じゃない。嘘じゃないけど・・・」
「だったら期待してるぜ、ヒーロー。俺の出来ることはする。お前が救う。そんな顔しなくても、ほら、俺の勘はあたるって言ったろ?ここに連れてこられたときから、助け出されるのは分かってたんだ。だから、な。泣くなって。」
その夜、こっそりとエアに、明日のこと、お願いしたんだ。ここにいるみんな、全員集合ってね。
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