第143話 教養所2日目、午後の出来事

 みんなと別れて、教養所の中へ戻ったよ。安全を期して、ヨシュ兄があてがわれたお部屋まで運んでくれたんだ。で、一応ヘンなものはないかのチェックもしてくれた。なんかね、ドアは大丈夫だけど、窓にはなんかの魔導具がついてるって。全部の窓に一応同じのがついてるみたいで、窓からの出入りはしないようにって言われたよ。教官用のお部屋で個室のが少しあって、その窓には魔導具がついてなかったんだって。で、正面の玄関からか、その教官用=多分エライ人の部屋 から、みんな出入りしてるって言ってたよ。


 ちょっと待ってると、アホルとナハト、そして昨日戻ってきてた人が帰ってきた。ナハトってだいぶ前に教練室出たのに何してたのかな?気になって聞いたら、別の教練室で、違う訓練やってたんだって。倒れた人のこと聞いたら、興味ないって言われたよ。さらに言いつのったらびっくりだ。急にパシンって叩こうとするんだもん。思わず避けたら、アホルも含めてもう一人も、それにナハトも含めてすごくびっくりした顔をしていた。

 いや、攻撃されたら避けるよね?


 「なぜ避けるか!」

 一呼吸置いて、我に返ったナハトが今までにないぐらいの怒声で怒鳴ったんだ。

 「え?だって叩こうととしたよね。」

 「当然だろ!」

 「なんでだよ。僕はただ質問しただけだ。」

 「上に口答えする気か!」

 「はぁ?意味分かんないよ。」

 「貴様!おい、お前たち押さえろ。」

 ナハトは、無表情だと思ってたけど、なんか、顔を真っ赤にして怒り出した。アホルともう一人の人が、慌てて僕に掴みかかり、二人がかりでベッドに上半身をおさえつけられたんだ。


 僕の弱点。

 まだ小さいから、押さえつけられると弱い。

 割とスピードはあるから、普通に戦うなら、この人数、大人相手にもD級冒険者相手ぐらいまでなら負けないけど、捕まっちゃうとダメ。力ではかなわない。

 しかも今回、僕も何がどうなってるのか分かんなくて、油断してた。

 アホルだって僕より2歳も上。僕は年齢よりちょっとばかり小さいから、アホルの口ぐらいまでしか身長はない。もう一人はもっと大きい子。ひょろっとしてるけど、身長なんて僕より頭一つ以上、ううん、2つ近くでかい。押さえつけられると逃げられなかった。


 ヒュン、パシッ!

 アツッ!


 風切り音に続いて、何かを打つ音。一拍おいて、僕のお尻が焼けるように痛んだ。

 何コレ?


 僕はその熱い痛みに呆然としてると、また、バシッと音が鳴る。


 「何するんだ!」

 頭ごと上半身をベッドに押さえつけられてたからくぐもった声だったけど、僕は思いっきり叫んだ。僕、鞭かなんかで叩かれてる?

 僕の声を聞いたからか、バシッバシッと、さらにスピードを上げてたたき出した。

 痛い、というよりも熱いと言った方いいようなその攻撃に、僕は思わず反撃しようと、魔力を高めようとした。けど、痛みで集中できなくて、それと同時に、みんなの注意が微かに思い浮かんだんだ。

 「魔力の検知器はあちこちにありそうだ。与えられた服の下に、ちゃんとベルトをして、魔法は極力使わないように。」

 せっかく潜入してるのに、みんなもがんばっていろいろ探ってるのに、こんなことで魔法を使って、ぶちこわすの?僕の中からそんな声が聞こえた気がした。


 そんなことをしている間にも、お尻に対する攻撃は続いていて、ナハトがずっと何か叫んでる。生意気な奴はこうだ!とか、上に逆らうな!とか反省しろ!とか、ずっとそんなこと言ってる。

 知らないこと、分からないことを聞けって言ったのはあんただろう!そう思っても、気がついたら僕はエンエンと泣いていて、そのまま随分叩かれたと思う。


 しばらくしたら、僕を押さえつけてる力が緩んだ。

 ナハトはゼイゼイと肩で息をしている。

 手に細長い木の棒を持ってるから、あれで僕を叩いていたんだろう。

 そういえば、入り口近くに、アレ、立てかけてあったっけ?そんな風に僕はぼんやりと思う。なんか、お尻がじんじんして熱を持ってるのが分かる。なんで、僕はぶたれたんだろう、ぼんやりした思考でそう思う。


 「昼食の時間だ。」

 そんな僕に目も向けずナハトは言った。

 ちょっと戸惑う雰囲気もあったけど、僕を押さえつけていた二人がそうっと、僕を抱き上げて、床に立たせた。

 「行くぞ。」

 そうひょろ長い人が言う。

 「・・・いい。」

 食欲なんて、湧かないや。そう思って僕は断った。

 あきらかにムッとした顔をその人がしたのが分かった。

 何か言いそうなその人に慌ててアホルが僕の頭と一緒に自分の頭を下げた。

 「こいつ、ちゃんと教育を受けてない年齢の行商人の子で、分かってないんす。俺がちゃんと教えますから今日の所はこれでかんべんしてやってください。」

 ひょろ長い人はしばらく何か考えていたけど、「行くぞ。」とだけ言って、踵を返した。


 「ダー、いいから大人しくしてろ。上の人の言うことは絶対。反論も疑問もなしだ。気に入らなくても返事は『はい』。ぶたれたくなかったら言うことを聞いてくれ。」

 アホルが必死に早口で言った。

 あまりに必死なので、何か言うことも出来ずに、とりあえず頷く。少なくとも、僕を守ろうってしてくれたんだって直感的に分かったよ。

 でも、なんだろう。

 すっごく嫌な感じ。


 僕はアホルに手を引っ張られながら食堂へ向かった。

 「おそい!」

 到着するやいなや、ナハトが僕とアホルのほっぺを平手打ちにした。

 僕は避けようと思ったら余裕で避けれたけど、アホルの目がダメって言ってたからがまんしたんだ。アホルが、叩かれたのに「すみません」って深々とお辞儀したのにビックリしたのもあるけど、僕もアホルに頭を押さえられて、お辞儀させられた。

 僕が口を開く前に、とアホルは思ったのかもしれない。そのお辞儀の姿勢のまま、アホルは僕を引っ張って、食事を取りに行く。

 渡されたトレイは、人ごとに違うようで、どうやら年齢や素養に合わせて、健康管理をされていると聞いたのは本当みたい。ナハトたちの食事とは、量を中心に色々と違った。

 テーブルに着くとき、ぶたれたお尻が痛くて、思わず飛び上がったよ。ナハトたちに睨まれたけど、アホルが僕の手を引っ張って無理矢理座らせ、耳元で「それも含めてのお仕置きだからがまんして。」って言われた。

 僕はお仕置きされるようなことはやってない。納得はいかないけど、アホルに免じて、とりあえず我慢することにしたよ。治癒の魔法も使っちゃダメなのかな?バレるかな?

 そんなことを思いながら、ご飯を食べた。

 完食しなきゃまたぶつって言うから、頑張って食べたけど、おいしくないし量も多すぎて、これも正直辛かったよ。



 午後の座学。

 テスト、だった。

 文字が読めるかのチェックみたい。

 もちろん僕は全部読めるよ。

 これって満点出して大丈夫な奴なんだろうか?って、そっちの方が問題かな?

 6歳になったばかりで、文字が全部読み書きできるってのは異常?その辺がわかんない。

 みんなの様子を見ると、両極端みたい。

 全然ダメって子と、すらすら書いてる子。うんうん唸ってるのは、習ったはずだけど分かんない、って感じかな?

 確か、商人って早くから字を覚えるって言ってたし、ここは分かってる派にしておいていいのかな?何かで読めるってばれてもまずそうだし。

 問題を見ても、全部簡単。大丈夫だよね?あ、でも満点はまずい?そうだ。できるけど時間が足りなかったって体にしておこう。

 僕はそう思って最後の2問を解かずに置いておいたんだ。

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