第141話 教練室にて

 教練室。


 大小あるっていってた魔法の練習場所。


 魔法の練習ってどうやるんだろうね。

 一応、簡単な訓練らしきものは、ナスカッテ国のパッデ村で見たし、僕を教えてくれる魔導師のみんなもいるし、なんだけど、なんとなく、こういう学校的なところだと違うんじゃないかな、なんて思ってます。

 少なくとも、1歳で魔力の通り道を通した上で、次の瞬間には、その魔力を使われて、土の弾丸を撃ち出したり、壁を作ったり、が、初めての魔法、なんて馬鹿なことはないと思うんだ、うん、きっとあれはおかしかった。

 そのあともまだ森をまともに歩けないのに、でっかい魔獣を風の刃でしとめて、重力魔法で血抜き、とかさ、そういう訓練、ちょっと違うと思うんだ。

 でね、そんな訓練ととか実戦とかしてきた僕としては、普通よりもちょっとばかりすごいはずのこんな施設での訓練ってどんなことするのかな、なんて気になったりするわけで・・・

 ハハハ。

 教官からOK出てるし、まずは堂々と教練室に潜入しようっと。


 入ったのは、教練室3。

 なんでかっていうと、扉が開けれたからです。さっきの指導室からすぐだったしね。1つめの扉は開かなかったの。で、2つ目がここ。


 入ると、あ、ナハトさんもいる。

 ナハトさんも含めて6人の男女と、教官2人?

 こそっと入ったけど、教官の1人が僕に目を向けて、すぐに興味ないのか、練習中のみんなに目を戻したよ。

 見学OKってことでいいよね?


 でね、練習、なんだけど・・・・


 ?

 何やってるんだろう?


 生徒たちはみんな手のひらを合わせて、なんか魔力を込めてる?

 よく見ると、手にすっぽり入る程度の小さな玉を両手で持っていて、その玉に魔力を注いでいるみたい。


 ドサッ。

 コロコロコロコロ・・・・


 あ、一人の男の子が倒れた!

 転けた拍子に、手から玉が転がり落ちる。


 !


 あの玉!


 僕はびっくりしたよ。玉に描かれていたの、あのペンダントのに似てる!

 いくつもの文様があって、まったく同じって分けじゃないと思うけど。

 あのペンダントや、ゼールク商会の倉庫にあったやつの簡易版って感じなんだ。

 倉庫のは、ものによって使い道が違いそうってドクが言ってたけど、基本、持ち主の魔力を強引に吸い取って何かするものだって聞いたよ。

 攻撃だったり、結界だったり、転移だったり、そんなあらかじめ決めた魔法を、強引に魔導師から魔力を吸い上げて、発動するものだ、そう分析してるみたい。


 てことは、あの玉もおんなじように、術者から魔力を吸い取って何かをするんだ!


 思わず僕はその倒れた子にかけよりそうになったけど、その前に教官の1人が、その子を抱き上げて、奥に行っちゃった。その子の落とした玉と一緒に、僕が入ってきた扉とは違う、反対側の壁にある扉から出てっちゃったんだ。



 人が倒れて運ばれたのに、他の生徒ももう一人の教官も知らん顔。

 倒れた子に一瞬目を向けたけど、何人かが舌打ちしたぐらいの反応。て、なんで舌打ち?倒れた人が悪いの?なんかヘンだよね。


 「そこまで。」


 間もなくして、教官が声をかける。

 残った生徒が、教官に玉を渡して、次々に部屋を出ていく。

 なんか、誰もしゃべらない。

 僕にも見向きもしない。

 教官も、全部の玉を集め終わると、何か言うでもなく、生徒と同じように黙って出ていった。


 僕はちょっと唖然としちゃったよ。

 だって、僕のこと、見えてないみたいにみんな行っちゃったんだもん。

 倒れた子とその子を抱いた教官以外は、僕が入ってきた扉から出ていったんだ。

 でも、僕としては、奥の扉が気になっちゃった。

 誰も、そちらに視線すら持っていかなかったけど、何か引っかかる。

 単に医務室的なものがあるだけかもしれないんだけど・・・


 僕は、そちらに向かって歩いて行く。

 扉に『習熟室3』と書いてあった。


 習熟室だって?

 習熟室って勝手に入っちゃいけないって言われたところだよね。しかもその中で何があったかも誰にも言っちゃいけないって・・・

 そんなところに気を失った子を連れて行くの?

 あれって、魔力欠乏だよね?

 そんな状態の子を内緒の部屋にって、やっぱりなんかダメなことが行われてそうな予感。


 僕は、助けるべきじゃないかって思って、そぉっと、ドアノブに手を伸ばした。


 !!


 僕の背後、それも頭の上からガシッと僕の伸ばした手首を誰かが掴んだ!

 体がビクッて、硬直する。


 危険そうなことをしている自覚もあったし、辺りには気を張っていたのに、全然気配を感じなかった。

 上から伸びる手から、間違いなく大人。しかも、強い!

 絶体絶命。

 どうしよう。

 僕は手を伸ばした状態のまま固まっちゃってまったく動けない。僕を掴むその人も動く気配がない。

 しばらくそのまま、時が止まったみたい。

 心臓だけがうるさくばくばくいってる。

 あぁやっちゃった。

 力尽くでなんとかなる、だろうか。

 僕は意を決して、振り返った。



 ・・・・・



 な・・・ん・・・で・・・?


 一瞬、思考が真っ白になって・・・・


 はぁーーーー


 僕は、そのままへたり込みそうになった。


 けど、しっかり捕まれた手首がビクともしなくて、座り込むことができずにちょっぴり宙づりだ。


 その人は、そんなへたり込みそうな僕に、それを許さず、僕の手を逆に引っ張り上げた。

 そのまま、僕の顔をその人の顔の位置まで持ち上げられる。


 ハハ、おかしいなぁ。

 目が合ったと思ったら、僕の目から涙がボロボロこぼれてくるよ。


 「はぁーー。何か言い訳は?」

 そんな僕の様子に心底呆れてます、みたいなため息をつくと、その人はそう言った。

 僕は、ブンブンと首を横に振る。

 「ごめんなさい。」

 危ないことをしちゃダメって伝言受けてたのにごめんなさい。

 あぁ、怖かった。

 ここの人に捕まったかと思った。

 僕は、思わずつかまえられていない方の手で、その人=ヨシュ兄の頭に抱きついて声を押し殺しながら泣いちゃったんだ。

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