第138話 掠われて・・・(下)
みんなとちゃんと連絡取れるし、今のところ危険な状況でもないし・・・てことで・・・
せっかく掠われたんだし、作戦続行となりました。
本当は早くパッデさんを解放しなきゃ、なんだけどね。
一応、僕が魔法を使えるのは内緒なので、ヨシュ兄のアドバイスで、近くにパーティが来てるって秘密の合図を見つけたからって言って、一人で逃げてくれないかな?て言ったの。僕が捕まる予定なのは教えてたし、パッデさんが危険でしょ?ってね。
でも、パッデさん、僕といるって言うんだ。なんでも、僕を正式に国に差し出す、みたいな契約書を交わす必要があるんだって。親が契約しないとだめだから、って、もうすぐしたら町に入るから、そこで契約するそうです。で、そうしたら、親=パッデさんは首都に送ってくれる、って言ってる。お金とかもそこで貰うんだそうです。支度金ていう名の、子供を売ったお金ってことだね。
パッデさんとしては、本当に我が子をお金に換えるようなことが行われるのか知りたいし、ちゃんと相手を確かめたい、って言ってる。ここにいる人達はみんな「我があるじ」としか言わないから、相手は国か魔導師の誰かかそれとも魔導師の団体か、そのあたりが不明だって気にしてる。聞いたら国の魔導隊だ、って言うんだけど、「あるじ」とか言うと気になるよねって話。
こんなこと言ってるけど、本当は、少しでも僕といて、守ってくれようとしてるみたいな感じ。
僕らを運ぶ魔導師は、こうやって旅してると結構普通の人っていうか、よく知ってる下っ端の兵士さんと同じ感じなんだ。全員が全員真面目な方のタイプってのが、気になる感じだけどね。なんていうか、悪いことをしてる人って感じはしない。
そこそこ親切で、気も遣ってくれるし、縛ってたのも本当に万が一の魔力の暴発を予防するため、って思ってるみたいだし。
まぁ、人が死ぬような転移魔法で連れてきて、クスリで無理矢理寝かせて連れ去る、なんてことを、普通のお仕事、って思ってる時点で、ちょっとおかしいんだけどね。
みんなと相談した結果、下手に逃げ出す危険より、解放の予定があるならそれを待つのもありだ、ってことで、しばらく親子ごっこしながら、旅は続きます。
そんな森の悪路を行くこと数日。
突然、左に馬車が曲がったよ。ずっとまっすぐまっすぐ進んでたけど、初めての左折。で、曲がったとたんにガッタン、ゴットン、ドン、ドン・・・って、ひどい轍の音だったのが、ガタガタガタガタ・・・と規則正しい音に変わったんだ。
良い道に入ったの?
そう思っていたら、どうやらどこかの町に入ったみたい。
僕らが、馬車から降ろされると、とある宿でした。
僕はパッデさんと別に連れられます。
別の子供たちと、一部屋に入れられたんだ。
連れてきた魔導師のおばさんが言うには、お父さんとはここでお別れ、だそうです。僕たちは1日休んで、まだ先の、お勉強する場所まで、今度は、子供たち全員が同じ馬車に乗って行くんだって。
てことは、いよいよ?
おばさんが、出ていった後、子供だけになった僕は、こっそりとエアを呼んだよ。
エアに念話で状況を説明し、みんなに話して貰うことに。
どうやらこことは別の宿にみんなは宿泊するようです。なんでもここって、リットンから繋がる方の大街道沿いにある町みたい。
ザガからの道沿いの町とは違って、街道沿いの町ってのは、大街道にくっつくみたいにあるんだって。向こうみたいに道かどうか分かんない道を通って、ってことがないからか、そこそこ大きな町らしいです。
ザガくらいはありそうで、でも、ちょっと怖い感じ。
あのね、一般の人もいるけど、そういう人はみんなザガから大街道沿いに南下し、途中で西に曲がって首都ザドヴァーヤを通り、さらに西へ行って、大街道を突き当たると北上するっていう形でしかたどり着けない町々なんだ。このリットンからの大街道沿いの町は、そういう意味でも守られてるし、上流階級の人や軍人のための町。そして彼らのために働く人達の町ってことらしいです。
お昼ぐらいに町に着いたんだけど、夕方ぐらいになって、エアが戻ってきたよ。
どうやらパッデさんを無事に回収したらしい。
なんでも、首都まで送るという話だったんだけど、パッデさん、こっそりと僕を回収するために、この町の観光して自分で帰る、って送って貰うのは断ったんだって。
あのね、このリットン側の街道沿いにある町ってのは、ザガ側より立派なんだ。だから、売ってる品物も質はいいし、珍しい食べ物とかもこっち側に偏ってる。
僕を売った形になってる商人のパッデさんが、お金を手にして、物を買いたいって考えるのは至極自然だろうって思うはず、と思って、自分で帰るって言ったんだそうです。で、別に不思議がられもせず、解放されたんだって。
パッデさんってば、僕が、近くにみんないる、って言ってたのを信じてくれてなかったみたいです。なんかね、パッデさんを逃がすために僕が嘘を言ってるって思ってたんだって。
で、自分一人ででも僕を救い出すんだ、って、様子をうかがってたんだそうです。うん、良い人だね。商人としては、そこそこ腕に自信があったみたいなんだけどね。ほら、未知の世界へ赴く商人が夢だから、危ないところにも行くだろうって思って、体とか剣とか鍛えてたっていうし・・・
でも、素人としては、なんだから、危ないよね。
そんなパッデさんをうちのメンバーは発見、慌てて回収し、今に至る、ということだそうです。
エアがね、その時のことをプリプリ怒りながら何回も言うんだ。
あー、ほんとに良い人だなぁ。
エアの言うことを聞いたら、ますます好きになっちゃった。
2日後早朝。
言われてたとおり、僕らは今までのより、ずっと大きな馬車に乗せられました。
魔導師の人は4人に減ってた。
僕を運んでいた3人はいなかったので、僕からしたら全然知らない人ばっかりだね。
僕以外の子供は、7歳の女の子と、8歳の男の子と女の子。昨日1日いっしょだったけど、ほとんどしゃべってません。んとね、普通の子だと、やっぱりあの馬車移動はきついかな?
道がガタガタだし体力減っちゃう。それになんだかんだ言いくるめられても、親と離されての、こんな旅だしね。みんな無口。かろうじて聞き出したのが年だけって、ねぇ。僕が年下じゃなかったら、これも危うかった感じだし。
どこに連れて行かれるか分かんないけど、せめてお名前はゲットして、こんなに憔悴しきっている子供たちを親元に帰して上げられればなぁ、なんて思いつつ、馬車に揺られる僕でした。
ああ、それにしても道はいいし、ちゃんと座席があるだけでも、今までの馬車より快適だ!
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