第137話 掠われて・・・(上)
少なくとも大街道じゃない道をずっと、馬車は進んでいるみたい。
あのね、ザガからまっすぐに南へと大きな街道。もう1本はリットンていう港がザガよりもずっと西にあって、そこは軍港なんだって。うん。普通のお船は行っちゃいけないとこ。リットン周辺は軍の海域だから、商船は入れない。てことで、実質、ザガの漁業域が、この世界の普通の船が通れる最西端ってことなんだって。パッドさんに聞きました。
パッドさんはまだまだ駆け出しなんだけど、将来は商船に乗って世界を相手に商売したいんだそうです。冒険のワクワクと商売と。なんだか僕の夢とも、ひいじいさんの夢とも似ていて、しかもちゃんと夢に向かって地理とか歴史とかも含めてお勉強しているらしく、色々と教えてくれるんだ。ご両親が船に乗ってたから、色々と教えて貰ったて。
この国で育ったから、教会でお勉強もしたし、本当の学校、っていうのもヘンかな、教会の上のお勉強するところでも学んだらしいです。あとは、親戚の商人さんとこで修行して、ご両親の構えている店でも修行して、やっと、独り立ちの行商を始めたところって感じ。
外国は行ったことないんだって。あ、トレシュクの親戚=本家?は別。近くても外国だよって言ったらそうだそうだ、って笑ってました。
親戚はみんな商人で、タクテリアに本拠を構えている人も少なくないらしい。一番はトレシュク領にある商会で、そこに本家が移動して、さらに分家のトッドさんたちみたいなのが各地に根を張ってる。情報は商人の命ってことで、貿易でナスカッテに行く親戚もいるし、タクテリアにもセメマンターレにも親戚はいるし、で、交流はさかんなんだって。親戚一同仲良しみたいです。
そんな環境だったから、おうちで学ぶことと、学校で学ぶことの違いに小さな頃から違和感があったそうです。気がつくと、『名もなき志士』に加わっていた、そういう感じ?まぁ、商人とか冒険者って、土地にがっつり根付くか、自由に国さえ越えて活動するか、大きく二つに分かれるからね。後者には『名もなき志士』に加わったり協力したりする素地はあって、実際たくさんの人がそうやってメンバーになってるんだって。
そうは言っても、この国では当然良く思われていないわけで、もしメンバーだなんて思われたらテロリスト認定。よく分からないんだけど、そういう意味もあって、この団体は団体ではない、らしいです。メンバー同士のつながりはなく、義務も権利もない。そもそも『名もなき志士』ていうのは団体の名前でも何でもなく、どっちかって言うと思想、の名称みたいな感じなんだって。それぞれが好き勝手に行動する。団体としてではなく、個人ベースで協力したり、情報を交換する、ぼんやりとしたもの。
だから、パッデさんも、知り合いであるサブマスターから声がかかって、他国の冒険者が、自分のところの子供をザドヴァの魔導師に狙われているから喧嘩を売りに来たので、協力してやってくれないか、なんていうざっくりとしたものだったのに、喜んで引き受けてくれた、ってことみたいです。
まぁね、外国人の狙われてる子供、ってのが、1年ほど前から手配されている僕だろう、ってのは気付いてたらしいし、パッデさんなら気付いてて引き受けるだろう、っていうサブマスターたちの狙いもあった、って、お茶目な顔で教えてくれました。
そんなパッデさん。当然この国の地理は詳しいです。
でね、この国には大街道って呼ばれる道があって、それがザガから南に繋がる道と、リットンから南に繋がる道。そして内陸の中央近くにある首都ザドヴァーヤから東西に延びる道。この東西に延びる道に西はリットンからの、東はザガからの道がぶつかって、四角になってる。まぁ、北は海だし、道は3本だけどね。
僕らは行商でザガから大街道を南下しつつ、左右に小さな道に入っては小さな町に行き、また、戻って大街道を南下、を繰り返していました。
普通はそうするんだ。
どの町も道かどうか怪しい道の先にあって、その向こうは行き止まり、ていうか道はない。各町に行く道だけの道があるはず、なんだけど・・・・
明らかに、大街道ではなく、ずっとゴトゴトと町へ行く用みたいな細い整地されてない道を進んでいる。太陽から考えると、東から西へと進んでいる、みたい。
当然、町とかはない。
休憩は、馬車から降りて。
馬車はどうやら3台あるみたい。
ていうか、途中で合流した感じで3台。
その各馬車に僕かもうちょっと大きな子供が乗っているみたい。
2人と1人。僕とパッデさん含めて5人が運ばれている人。
で、各馬車に、3人の魔導師ですって格好の男女。順番に御者をしたり、警戒をしたり、そんな感じで進んでいるんだ。
始め、僕は縛られていたけど、あの過呼吸になったところで外されてからは縛られていない。なんでも、僕らは栄誉ある市民で、僕以外の子供たちは普通に納得して連れられてきてるんだって。たまに僕みたいに問答無用で連れてくる場合があって、そういう場合は、パニックとかで突然魔力が溢れて危険だから、目が覚めて落ち着くまでは縛っておくんだそうです。気付かなかったけど、手と足を縛っていたロープは特別製で、魔力を吸っちゃうんだとか。あれをした状態では魔導師の魔力は、気絶しない程度に減っちゃうんだって。
うーん、僕は気付かなかったよ。
普段から余剰魔力は、ドク特製のベルトに仕込まれた魔石に吸収するようにしてるのもあるから、気にならない程度、みたいだったようです。魔力を吸うといっても、微少ってことかな?僕の魔力なら全然誤差レベル?ってドクが言ってたよ。
そうです。ドクとはお話しできるよ。まぁ、ドクだけじゃなくみんなと出来そうだけど安全策をとってます。
あのね、馬車の魔法陣はドクも感心するレベルで魔力を通さないみたい。
でもね、休憩はお外でしょ?
エアが僕を見つけては、連絡係をしてくれました。
で、直接お話しできないかな、ってドクが念話で慎重に話しかけてきたんだ。
ほら、魔導師なら、その魔力の流れで、バレちゃうかもしれないからね、ドクの技巧でこっそり話しかけてきたみたい。
ドク曰く、ザドヴァの魔導師ってのは、やっぱりレベルが高めらしいです。
うちの国はドクが底上げしてるようなもんだからね。うん養成校の校長としてってことだけど。そこから国に雇われる人が最高峰。
てことは、自主的に学校へやってきて、無理のない程度に訓練して、って感じ。
けど、ザドヴァは、国中の子供から才能のありそうな子を強引に連れてきて、無茶な強化をしたり、そもそも普通の訓練自体が、体や心のケアを考えないようなもの。どっちが強くなるかは、自明の理ってことだそうです。
それでも、個人の生まれ持っての資質とか、あと効率的な指導方法とかの影響もあるし、魔法特有のイメージ力が重要ってのもあるし、全然うちの国がダメってことではないんだけどね。でもアベレージって考えるとどうしてもザドヴァの魔導師は優秀なんだそうです。
そんな優秀な魔導師が各馬車3名。計9名。
当然気配を感じる索敵、なんてやってるから、魔力感知もなかなかのもの。
その隙間を狙っての念話は、さすがにドクでないと危険、てことみたいです。まぁ、バレたら、奪還作戦に切り替える、てことになっちゃったので、僕からは魔力を出すのは控えてるんだけどね。
そんな感じで、みんなとは念話やエア便で十分にコンタクトを取れてる僕としては、落ち着いて、パッデさんのお話しを聞けるってわけ。
ドクからもたらされた情報では、どうやら、僕が掠われたカトロンからちょっと南西の森の中に、転移陣があって、その側には小さな小屋が建てられていたらしいです。
なんかね、転移陣のところまではエアが着いて来れたらしい。で、僕が袋を被せられすぐに気を失って、手足を例のヒモで縛られ、馬車に入れられるまでは見てたんだけど、馬車に入ったとたん分かんなくなっちゃったんだって。違う次元で見てたら、馬車の魔法陣で弾かれた、って感じかな?
で慌てて、ママをめがけて移動して、その転移陣のところまでみんなを連れてきたそうです。
その転移陣のある小屋からは、まっすぐに道らしき馬車の跡が西に延びていて、そっちに行く?って話をしていたときに、エアが僕に気付いたって感じみたい。
で、エアの案内で僕が始めに休憩させられたところに到着、無事ヨシュ兄に解読された僕のメッセージを見て、後を追ってきてくれてたんだ。
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