第136話 誘拐?!

 ローネちゃんの家族と会って、小さな町をうろうろしつつ、行商のお手伝い。僕は、時折、帽子を脱ぐと、やっぱり何人かが、思わせぶりに目を止めて、さりげなく目を外す、っていう光景を確認できたよ。

 パッデさんの横で、愛想良くお客さんと会話をする振り。

 結構な人数に、いつまでこの町にいるのか、ってことと、次はどこに行く予定かって、聞かれたんで、出発予定の日と次の町はカトロンだよって、大きな声で答えていたんだ。うん、僕の情報が知りたい人にちゃんと伝わるように、ってね。

 他のパーティメンバーは、ちょっぴり離れて護衛です。

 だって、強面の冒険者がいたら、お客さん怖がっちゃう。

 まぁ、うちの若手メンバーは、逆にお客さんを集めちゃうかもだけど。タイプの違う美男美女揃いだもんね。


 パッデさんの扱うのは、メインは干した海鮮なんだ。

 実家がザガで、魚を扱ってるの。

 内陸にお魚を届けるのが大きな仕事。って言ってもまだ初めたばかりで、顔を売ってる最中なんだって。 

 メインはお魚だけど、服とか雑貨もちょっとは扱ってるんだって。

 外国から輸入されたものを内陸に運ぶのも、行商の仕事。

 お高いのは、店持ちの人が、でっかい町に運ぶけど、小さな町では、パッデさんみたいな行商が、とっても頼りになるんです。



 で、計画通り、ゆっくりと時間をかけて次の町カトロンへ。

 道中出てくる魔物なんかは問題にならずに、無事到着です。


 カトロンでも、僕たちは同じような配置で、僕をおとりに店開き。

 たくさんのお客さんに囲まれて、まずは町の中央広場かな?

 町の造りが同じなので、僕らが訪れるような、広場や宿屋、教会の位置がほぼ同じで、覚える手間がなくていいね。



 なんて、のんびり思っていた時もありました。


 なんだこれ?



 一瞬だったんだ。


 広場の近くには教会があって、そこから一人の男の人が出てきた。

 普通に、お魚を見て、「コレと、コレと・・・」なんて、指さしながら、どう見てもお買い物のおじさんだった。

 背の高い人だったから、僕の胸の高さぐらいに店開きしていた商品に、目が悪いのかじっくりみたいのか、かなりかがみ込むように指さしていたんだ。

 でも、そんな人は今までいっぱいいて、商品を食い入るように見るのは、とても普通で・・・・



 ううん。

 言い訳だ。

 僕は失敗したんだと思う。


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 男が、つまずくような感じで、倒れてきて、僕とパッデさんによろけてきたんだ。

 僕もパッデさんも思わず助けようとして手を出して、男に捕まれた。

 次の瞬間、光に包まれて、気がつくと、見知らぬ森の中。

 僕らを掴んだ男は、血を吐いて足下に倒れていたんだ。多分、亡くなっていたんだと思う。

 その確認も出来ないまま、僕は何か頭から袋を被せられ、急速に意識を失ったんだ。




 ガタンゴトンガタンゴトン・・・


 僕は激しく揺れる中、目を覚ました。

 後ろ手に縛られ、その腕をさらに胴体にグルグル巻きに巻かれている。それに足も縛られてる?

 僕は床に転がされているけど、この振動は、馬車だ?

 見回すと、箱形の馬車。

 暗いけど、無造作に箱が積まれた隙間に押し込められた感じ?

 パッデさん!

 そうだ、パッデさんは?


 「ダー君、起きた?」

 「パッデさん!」

 「シーッ。私は大丈夫だからね。」

 どうも積まれた荷物の向こうにパッデさんがいるみたい。

 どうしよう。

 パッデさんが僕に巻き込まれた?

 体を起こそうとしても、力が入らない。何か薬物でも嗅がされたんだと思う。


 「パッデさん・・・ごめんなさい・・・」

 「おや、泣いてるのかい?どうしたの?どこか痛い?」

 「う・・・だって、パッデさんが・・・」

 「ハハハ。大丈夫大丈夫。それよりダー君が心配だよ。さっき、人が来て、話してたんだけどね、私と同じ量のお薬を嗅がせたって。ダー君、体なんともない?私より危険なはずだよ。」

 「まだ、ちゃんと動かないけど、大丈夫・・・・だと思う。でも、パッデさん・・・」

 「ああ、私はだいぶ前に起きたからね、犯人さんとお話しもしたんだ。」

 「お話し?」

 「ああ。なんかね、手荒なまねはしたくなかったんだけど、強い冒険者が護衛してるから、話をするのにこういう手段をとったんだって言われた。是非とも息子さんを預からせて欲しい、って。親の了承が欲しいみたいだよ。」

 「親?」

 「うん。私はダー君のお父さんってことになってるからね。」

 あぁ、やっぱり巻き込んじゃってる。

 「ひょっとして、巻き込んじゃった、とか、思ってる?」

 「・・・」

 「あのね、不謹慎だけど、今、私はワクワクしてるんだ。」

 「え?」

 「ダー君は知ってるかな?海を渡ってずっと北へ行くと、こことは別の大陸、うーん、陸地?がああるんだ。」

 「うん。」

 「私の両親はね、その大陸にある国と貿易、えっと他の国との商売だね、それをする商会で修行をしていたんだ。二人はその商会で出会って、夫婦になったんだって。あるとき、船でその大陸から帰ろうとして、海を渡っていたら、嵐にあってしまったんだ。嵐は、船を大陸の方へ押し戻し、どうやら川に入っていたらしい。でね、嵐を避けてその川をどんどん上っていった。」

 それって、ナスカッテ国の話、だよね?

 川?

 「なんかね、嵐のせいか、川は逆流して、かなりの内陸まで押し戻されたらしい。で、運が悪いことに母のお腹には私がいてね。嵐のつかれもあってか、倒れてしまったんだ。」

 「・・・」

 「船は随分壊れていたし、なんとか上陸できるところはないかって探して、乗組員はいったん陸地に避難しようとしたんだそうだ。なんとか接岸したのはいいが、上陸したとたんに、現地人に見つかった。それは獣人だったらしい。ああ、知ってるかな?タクテリアでは獣人は見ないだろうけど、ちょっと外見は違うけど、優しい人達だったそうだよ。その獣人は、船の修理を手伝ってくれ、身重で体調を崩した母を村に案内してくれたんだそうだ。母は体調を戻し、間もなく私は無事彼らの村で産まれたんだ。私の名はその村の名をいただいたんだって。」


 パッデ村!


 はじめパッデさんの名前を聞いたとき、村と同じだ、なんてみんなと言ってたけど、まさかパッデ村で産まれたから、だなんて!


 「そんな話を聞いて育った私は、いつか、そんなちょっと怖くてワクワクする体験ができればなぁ、と、夢見ていたんだよ。」

 パッデさんは、とっても明るく言ってくれたんだ。

 「だから、ダー君。ほんとうに私は今嬉しいんだ。良かったよこの話を受けて。ありがと。私にこんな体験させてくれて。」



 これは、きっとパッデさんの強がりだ。

 こんなの不安に決まってる。


 きっと、あの光はペンダントの魔法陣だ。

 移転するあの魔法陣がバージョンアップしてるんだろう。術者を使い捨てにするのは同じだけど・・・


 僕は、なんとか魔法で脱出を試みるべきか悩んで、ふと違和感を感じたんだ。

 あれ?

 外の様子がまったく分かんない。

 いつもは、ちょっと感覚を澄ますと、近くの生き物の存在を感じられる。感情が大きいものにたいしては、その感情だって分かる。

 なのに何も感じない。

 ううん。パッデさんは、感じる。ほんの側にいる。なんか僕のことを心配してくれてるみたいで申し訳ない。


 でも、他は感じない。

 馬車を操ってる人やシューバの気配すら感じない・・・


 『エア?』

 僕は念話でエアを呼んでみる。

 みんなに連絡をして貰わないと・・・


 ?


 エアを感じない。

 なんで?

 いつだって呼べば来てくれたあの子がいない。存在すら感じない。


 はぁはぁはぁ・・・・


 「ダー君どうしたの?」


 はぁはぁはぁ・・・・


 「ちょっ、ダー君。!あの、すみません、すみません、息子の様子がおかしいんです。ちょっと、誰か!」

 多分足かなんかでドンドンと馬車を蹴ってるようなパッデさんの叫び声。

 それがなんだか遠くに聞こえる。

 ダメだよ。犯人刺激しちゃ。

 僕は心配してそう言おうとするけど。


 はぁはぁはぁ・・・・


 ああなんだろう。

 息が上手く出来ない。


 パッデさんの大声なのか、ドンドンと叩く音なのか、それに気付いて馬車が急停車した。



 「どうしました?」

 パッデさんのさらに向こう、おそらくは馬車の最後尾の扉が開かれて、2人の人が入ってきたのを感じる。誘拐なんかしてるのに、妙に丁寧で笑えちゃう。


 「息子の様子が!」


 バタバタっと慌てて入って来る気配。


 はぁはぁはぁ・・・・


 「まずい、過呼吸だ!」

 抱き上げられる感覚がして、口が何かの布で押さえられる。


 はぁはぁはぁ・・・・


 「拘束を外せ!」

 抱いているのと別の人が叫び、胴体のロープが外される。


 僕を抱いた人が、馬車の外へ走り出た。


 ん?


 生命の息吹だ。


 森の、森に生きる動物の、そして、周りの人間の、様々ないぶきが僕を包み込む。


 ああ、あの馬車に何かしかけがあったんだ。

 僕は、なんだかホッとしたよ。


 僕の体が誰かに、あ、パッデさんだ、パッデさんにむしり取られるように抱えられる。

 心配そうに僕を見降ろすパッデさん。

 ごめんね、心配かけて。


 もう大丈夫。


 気がつくと、僕の手と足の拘束も解かれてる。

 パッデさんも無事みたい。


 ここはどこ?


 『エア!』

 『ダー様!ああよかった。ダー様だ。ダー様がいた!』


 呼べば間髪を入れず、エアが現れた。

 僕にしか見えない姿ですぐそばに。

 エアが泣いてる。僕に纏わり付いて、泣いている。


 ごめんね、心配かけたね。

 でも、お願い。みんなに僕が無事だって伝えてきて。

 エアは、頷いて泣きながら姿を消す。

 ああ、もう大丈夫だ。

 「パッ・・お父さん?僕はもう大丈夫だよ。」

 危ない。人の目があるのにパッデさんはダメだね。お父さん、でいいのかな。ま、いいや。


 一瞬、パッデさんの目が大きく見開いて、そのあと、ギュッと強くハグをしてきたよ。もう大丈夫。大丈夫だから泣かないで。


 ある意味作戦は成功しているんだよね。僕が作戦通り掠われた。

 問題?

 大ありだよね。

 ここはどこ?まぁ、それはエアがなんとか追ってくれるだろうけど・・・

 パッデさんだ。

 どうしよう。

 あと、あの馬車!どういう仕組みか、あの馬車の外に魔力を通さない。逆も、かな?中に入れられるとまずい。連絡が取れないよ。


 今は、僕が落ち着くまで休憩、ってことで、僕らにも軽食が配られた。

 パッデさんにお願いして、地面に下ろして貰った僕は、他の人の目を盗んで、地面にこっそり字を書くことにした。

 ここまでは、きっとエアが来る。

 みんなを連れてくる。

 ヨシュ兄だっている。

 ヨシュ兄なら読めるよね。


 僕は日本語で「魔力を通さない馬車で運ばれてる。僕もパッデさんも無事」と地面にメモをした。

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