第135話 連れて行かれた子の話

 今いる町はドロワっていいます。

 で、僕はパッデさんに言われて冒険者じゃなく商人の子供っぽい格好をしているの。なんかね、やっぱり子供で剣を持って、冒険者の格好してたら目立つって。僕たち目立たないように、せっかくモノトーンで身を固めてるのに、僕で台無しだって。・・・あ、パッデさんは、やんわりとした言い方で言ってくれたんだけどね、内容はそんな感じ。


 で、どうしよう、って思って、じゃあパッデさんの子供ってことにしたら?だって。

 行商するときに子供連れって、って思ったけど、割と普通なんだって。片親がどこかに定住して、もう一人だけが行商するんならまだしも、夫婦二人で、とか、もう片親なんだって場合には、よっぽど頼れる親戚でもいない限り、子供を連れて行商するんだって。もちろん道中とか危険だけど、子供を預けて放置する方がさらに危険。言われてみれば確かにそうだね。

 そういえば、行商人ではないけど、ミモザのトッドさんも、ミンクちゃんと一緒に旅してたっけ?


 いくつかめの町、このドロワは、パッデさんとか、みんなが突き止めた、例の連れ去られた女の子のいた町、らしいです。



 「ぜひともお近づきのしるしに。」

 パッデさんがとある真新しい民家にやってきて、きれいな布を渡しました。

 最近建てたばっかりのおうち。しかも他のおうちよりちょっと大きめで、魔導具が充実した感じ?

 小金持ち、ってのが一番合ってるかも。


 ここはね、ドロワの町の中心に近い部分。

 立派な魔導師の才能がある、と、連れ去られた子供=ローネちゃんの実家です。


 あのね。僕らとしては、ひどい実験に子供を連れ去る悪い組織、な、イメージだけど、ここの人達にとっては違う。

 選ばれた人。優秀な人。家族にも富と名誉をもたらす人。

 そう。

 ローネちゃんが選ばれて連れて行かれた際、お国から支度金が出たんだって。

 そのおかげの、このおうち、だそうです。

 でね、これはめでたいことであやかりたいこと、なんだって。

 そんなわけで、わざわざ、行商の人が、貢ぎ物を持って挨拶に来ても、全然不思議じゃない。だって、将来安泰ってことなんだから、お得意さんにしようとするのは商人の本能、てことだそうです。


 パッデさんがね、僕を自分の子供扱いにしようと言ったのは、このおうちの人に会うのにも都合が良いから、だって。

 行商人が、出世間違いなしの子供の家族につばをつけるのは当然。

 でね、その行商人が、自分の後輩になりそうなら、親切になったり教えたがりになたりするじゃないかな、ってのが、パッデさんの意見。魔力ありそうな出世した(と家族は思ってる)子よりちょっと小さな子を持つ親としての商人さん。口も軽くなるっていうもんです。


 僕もね、ちょっと髪が伸びてきて、でも短いからいろんな色のラメみたいなのはわかりにくい。で、濃紺かな、って見える。色とりどりのがなくても、ちょっと生えてきたところの髪だけで、十分濃い色って分かるから、まぁ、社交辞令でも、「お宅のお子さんも将来が楽しみですね。」みたいなことになるだろう、だって。


 うん、実際そうなった。

 で、どういう状況でローネちゃんが発見され、魔導師様がやってきたか、今は会えないけど、将来が楽しみだ、とか、そういう生の声が聞こえたんだ。

 「お宅のお子さんも、きっと素質はいいと思いますよ。ちゃんと教会にはいかせてます?ローネも、教会で視察官様に見いだされたんですのよ。ホホホ。」


 教会っていうのは、別に宗教施設じゃないよ。教える会って意味。もともとは孤児院が子供たちが大きくなったときにちょっとでも役立つようにって色々教えているところに、ついでにって形で近所の子供たちも預かったところから始まったらしいよ。預かって貰う人はお金とか食材とか、いろいろ提供して、孤児院の財政難に一役買うなんていう、共存関係が出来たんだって。

 まぁ、こういう教会ってのは僕らの国にもあるんだけどね。


 でも、この国では、ほぼ義務教育。

 孤児院も関係なくって、名前以外ほぼ学校だね。

 で、国から派遣された先生が子供たちを見て、才能に合わせて進路を決定する、ってシステムが出来てるようです。


 どうも、この国では教会の先生が、青田刈りのスカウトマンを担ってるみたいです。で、この子どうでしょう?っていうのをお国に上げる。なんかね、強化魔導師プロジェクトのお眼鏡にかなう子をスカウトできたら出世するらしいです。

 でね。ローネちゃんなんだけど、そんなに濃い色って思われてなかったんだって。だから放置されてた。なんかね、濃くはないけど、ピンクとオレンジの間みたいな色らしいです。これが珍しいんだって。彼女の場合は魔力量っていうよりも、複数の属性を期待されての招聘みたいだね。

 プロが見なきゃ分かんない感じで、新しく来た魔導師の先生が、これは!って国に報告したんだって。その先生?首都へと栄転、みたいです。


 まぁ、ローネちゃんの発見のお陰で、この町や近隣の町の教会関係者は、血眼になって、優秀そうな子供を探している、らしいです。濃いだけじゃなくてめずらしい色もOKってなったら、そりゃ張り切るってことらしい。目の前で栄転した先生も見てるしね。

 ほら、町の人もローネちゃんの家族を見てるでしょ。どっちかっていうと貧しい方で教会もろくに行ってなかったみたいなんだけどね、今は誰が見ても裕福なんだもん。うちの子はどう?って思っちゃうよね。

 そんな親と教会の先生は一緒になって、この子はどうかなってやっているのが、この辺りの集落の現況、だそうです。


 でね。見つけて報告、それが望んでるような子なら、万々歳、教会の先生だけじゃなく一般人でもご褒美たくさんってことだから、僕を見つけたら、きっと報告されるだろう、って、ローネママのお墨付きを貰ったよ。たぶん、この家族だって、僕のことを教会か、直接知ってる魔導師に報告するんじゃないかな。



 あのね、ドクの考える、強化施設の発見には、きっと、彼らの手中に捕まるのが手っ取り早いと思うんだ。前々からみんなを、そう口説いてるんだけど、なかなかいい顔はしてくれないんだけどね。

 研究所の場所が分からない?連れて行かれれば分かるでしょ?

 なんかね、ローネちゃんの家族のお話だと、見つかってから連れてかれるまで無茶苦茶スピーディなんだ。きっとこれが一番手っ取り早いでしょ?


 みんなが難しい顔をする中で僕の援護をしてくれたのはなんとエアだった。


 「ダー様は私と一緒に消えれるじゃない?」

 うん。

 エアと消えればとっても安全。

 この世界とは、ずれてるんだもん。

 しかも僕の様子は逐次エアがみんなに報告する。

 どう?


 「ダーは強いから大丈夫だよ。あした、一緒に教会の見学行こうか?」

 ママが言ったよ。

 やっぱりママが一番分かってくれるね。

 だぁい好き!


 そんなお話しが昨日あって、僕はパッデさんと、ローネちゃんの家族に帽子を取ってご挨拶に来てたってわけ。



 ローネちゃんのおうちを出た後は、観光客を装って、教会へ。まぁ、観光客なんていない地方の小さな町。当然、しっかり目立ってます。


 教会は、何の変哲もない建物。

 中にいた太ったおじさんが、見知らぬ子供=僕に声をかけてきたよ。うん、教会の先生だ。

 「こんにちは。旅の人かな?」

 「こんにちは。」

 僕は、わざわざ帽子をとって丁寧にお辞儀したよ。

 「お父さんと一緒に行商してるんだ。」

 「ほぉ、坊やはしばらくここにいるのかな?」

 なんか、舌なめずりをしてそうな感じ。これはひっかかってくれたかな?

 「ううん。えっとね、明日か明後日には出発するの。次はカトロンの町だって。」

 「そう。カトロンね。フフフ、良い旅を。」

 うん。釣れた、ね。

 僕の情報は、このおじさんと、ローネちゃんの家族、そして町のたくさんの出会った人から、魔導師のエライ人に届くだろう。

 さすがに「宵闇」とは報告なくても、黒っぽい、とか濃紺とか、どう考えてもごちそうな子供だろうしね。

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