第134話 行商人パッデ
翌日、僕らはすぐにギルドの人達に感謝することになったんだ。
早朝、冒険者ギルドから指名依頼を受けるように、と人がやってきたんだ。昨夜の件です、という伝言と共にね。
僕らは、依頼を受けれるように準備して、チェックアウトをすると、すぐにギルドへ向かったよ。
で、指名依頼として、とある行商の護衛で首都へ向かって欲しいとあり、それを受け、指定の南門広場へと移動した。
すると若い商人の人が声をかけてきて、ヤーノンさんから推薦を受けて僕らを雇った行商人のパッデって名乗ったよ。
パッデさんの先導で、南側の門、つまりは内陸へ向かう町の出口へ向かう。
パッデさん、主に海鮮を首都へと届けるんだって。
「どうして、護衛が外国人なんだ。」
門番さん、怖い顔をして言ったよ。
なんでも、普通は、外国人はザガから出ることはないんだって。
「最近は魔物も盗賊も多いと聞いてます。今回は会頭の指示で、将来の首都出店へ向けて各所へと多額の寄付をするため、大量の金銭を所持しており、高ランクの冒険者パーティを所望したところ、生憎、主立った者は出払っているとのこと。そこで、外国人ですが、高名なAランク冒険者が率いるパーティがたまたま訪れていたとのことで、彼らに無理を言って、護衛をお願いした次第です。このことは、こちらに冒険者ギルドからの証明書を貰っております。」
パッデさん、いつ用意されたのか、懐から書類を出したよ。
それはホンモノの書類で、ちゃんとサブギルドマスターの署名入り。
門番さんは、なるほど、とその証明書を返し、念のためと言ってゴーダンのギルドカードを確認、無事内陸へと向かう許可が下りたんだ。
なんかすごいね。冒険者ギルドと商人ギルドがタッグを組んで、証明書の発行。
でも、迷惑かけたりしないのかな?
「大丈夫ですよ。証明書自体はホンモノですが、確認したのは下っ端の門番一人。ギルド側で知らぬ存ぜぬを通したら証明しようがありません。」
パッデさん、にっこり笑ったよ。
「パッデさんも大丈夫なの?」
「はい。私はこの国のA級冒険者に依頼したことになっています。ちゃんとギルドではそうなってますから、こちらも知らぬ存ぜぬで押し通せますよ。」
どうやら、気にしなくても良いようです。
港から領主の館に向かってでっかい道路があったけど、それはこの南門に通じていました。
門を出ると、半分ぐらいの広さになるけど、それでもまっすぐな道路が南へ向かって敷かれています。
これをまっすぐ行けば首都ザドヴァーヤなんだって。
インフラ、すごいです。
石畳をとりあえず南下します。
でも、門を通れない人は密入国?っていうかわかんないけど、まぁ犯罪者的な手法で抜けるしかないんだって。で、その一番の方法は、東の山を抜けるぐらい。ある程度の高度まで生産工場が密集する地域が続くから、そこから山のさらに上を通るんだって。でも、険しいし、どんな魔物がいるか分からない魔境として怖れられている山を行くってのは、自殺行為、らしいです。
だから、本当に彼らに手伝ってもらえてラッキーだったんだね。
首都までの道はまっすぐだけど、その所々には左右に道が繋がっています。
簡単な休憩所みたいな開けたところがあるんだけど、それらが一応、村々へと向かう道標を兼ねてるんだって。
しっかりしたものもあるけど、ほとんどは獣道よりはマシ、程度の道が、奥へと向かい左右に伸びてるんだって。
ギリギリ小さな馬車は通るんだけどね。
うん、嘘。
ところどころ木や草、根が邪魔して、馬車は通れない。
その邪魔者を伐採しつつ進む感じ?
どうやら、この季節は木々の繁殖がすごくて、切り払いながらじゃないと進めないそうです。
僕も、おニューの剣で手伝ったよ。
まさか、魔物討伐より先に、木の伐採に使うとは思わなかった。
大活躍は、ミラ姉の魔法だね。
風の刃がある程度大物を伐採です。
で、ゴーダンとかヨシュ兄が地面はちょっと整地。
本当は僕もこっちに参戦したら良いけど、情報を出さないために、魔法は封印なんだ。で、剣でセイ兄とバッシュバッシュやってます。
うん、切れ味はバツグンだよ。
ゴーダン達から連絡が来るまで、バッチリ訓練して、今じゃテツボなら瞬殺です。あ、この剣限定だけどね。切れ味が違うし。
パッデさんは行商ってことで、こんな馬車も難しいところにある村々も訪れるんだって。
で、小さい村なんだろうね、って言ってたけど、実は僕の思ってたのと違いました。
小さいは小さいんだけどね。
どこの村も、ちゃんと石で整地され、子供が学ぶ体制がとられているんだ。
なんかね、子供はいるけど、はしゃぐ子はいない。
やっぱりモノトーンの服。
真面目で実直って感じかな?
どこもそれなりの人口がある感じだけど、なんていうか活気はないかな。
でね、複数の村を通ったけど、なんていうか、個性がないんだ。
どこも同じ。
誰もがくっきりはっきりしゃべる。背筋をまっすぐに歩く。無駄な話はしない。感情に乏しい。誰もが丁寧で、大声は聞こえてこない。
でね。一日に何度か鐘が鳴る。
仕事が始まる時間と終わる時間。休憩の時間にご飯の時間。みんなロボットみたいに鐘に従って、真面目に生きている。
「驚いたでしょう。みんな幽霊みたいで。」
宿に入ると、パッデさんがそんな風に言ったよ。
「これが当たり前だと思う教育ってのは、正直どうかな、って思うんですよ。こんなことを思うこと自体が異端なんでしょうけどね。」
パッデさんも、サブマスターたちと同じ、同士なんだって。
その集団には名前はない。名があると、名に縛られるからだって。かわりに「名もなき志士」なんて自分たちは名乗ったりするんだそう。
自分の考えを持つことでも良い。単に笑って生きる、を目標にしたって良い。ただ自分の自由な理想を掲げて、今の体制を覆したい人々の緩くて強い集まりなんだって言ってたよ。
あのね。パッデさんが参加したのは、もともとザガの生まれで親戚が出奔して、トレシュク、はたまたそこからさらにミモザへと行ったからってのも大きいんだそうです。
たくさんの商人が我が国へ逃れてだいぶ経った今では、ザガとトレシュクに拠点を置く商会も多いんだって。ほとんどは、首都にも商会があるらしい。そうでないと外国に支店は置けないからね。
でも裏技で、別の商会を他国で立ち上げて表面上無関係な商会だって装うことがある。ていうかこれが多いんだって。たとえば子供の一人が独立して外国へ行き、商会を立ち上げる、だとかね。
商会自体はCランクの商人になって、ギルドの許可を経なければ設立できない。僕の国だと、その許可に国王様の許可がいるんだ。
だから修行してCランクの商人になれば普通に設立できる道がある。っていっても、信頼とか信用とか、実績なんてのも加味されるから、結構むずかしいんだけどね。その点支店なら、別に土地建物を購入すればOKなんで、
パッデさんの親戚の場合は独立してトレシュクに商会をかまえ、そこからまた独立してミモザに商会を構える親戚がいるっていうから、すっごく優秀だね。
親戚は何年かに一変トレシュクで集まるんだそう。
ん?
よくよく聞いてみると、なんだ、トッドさんのこと?パッデさんのお父さんがトッドさんといとこなんだそうです。
親戚からいろいろ聞いてる、ていうのは、どうやらトッドさん発だそうで、特にミンクちゃんから弟だっていう赤ちゃん冒険者のすごい話を聞いてる、って・・・それって僕のこと?ハハハ、魔法隠す必要、なかったかも。
ママも含めて、パッデさんのことは信用できると思ってるようです。
実際に協力もしてくれて、上手に天才魔導師になりそうな子が連れ去られた話を聞いてくれたりしてます。あ、ちなみに横で聞いていると、「魔導師として期待されて招聘される幸せな子たち」の話って感じで、連れて行かれるのがいかにも光栄なことで、うらやましい話として、話題を振っていたよ。そういう発想はこの国の人ならではなのかもね。
で、いくつかの村を過ぎた頃。
とある女の子が連れて行かれたことを突き止めてくれたよ。
僕らは、その女の子の家族や周りに、その状況とかを詳しく聞こうと、その子のうちへと、向かったんだ。
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