第133話 商人ギルドからの訪問者
「昨日、入港した船はエッセル商会の物で間違いありませんね。」
訪ねてきた2人の男の人は、お部屋のソファに座ると、まずそう言ったよ。
なんかね、商人ギルドの人らしい。
昨日、ママたちが行ったときはまだ情報がなかったんだけど、どうやらこの二人は、港で入港チェックの時にエッセル号を遠目で見てたんだって。で、昨日ギルドの人に聞いたら、ここでお商売しそうな雰囲気だったし、と思って今日一日ギルドにいたけど、ママたちが現れなかったもんだから、いてもたってもいられないって感じで、ギルドの伝手でこのお宿を割り出し直接来たんだそうです。
この二人、どうもドワーフ族か、少なくともその血が入ってそう。
一応、商業ギルドの人って聞いて、ママとヨシュ兄が対応してるんだけど、なんかこっちをチラチラ見てる。
あ、ママがドクを呼んだ。
なんかね、ここのお話しが盗み聞きされないようにできないか、って相談してるみたい。ドクには朝飯前だね。
どうやら、このお部屋は、結界を張られたみたいです。
僕は、ママがなんか気にしてるみたいなんで、こっそりエアにも索敵お願いしておいたよ。エアはちょっと違う次元だけど、ずっと僕の側にいてるんだって。ほぼ重なっている次元からここら辺で僕らのことをうかがっている人がいないかチェックして貰おうって思ったの。
「ダー様、普通にずっとここのお部屋を見張っている人いるよ?着いたときからずっと2人ずつ交代で見張ってるよ?」
だって。
どうして教えてくれなかったの!って言ったら、聞かれなかったから、だって。うん、エアは悪くない。
僕はこっそりゴーダンに耳打ちしたら、みんな気付いてたって。多分お宿の人だって言ってた。
え?いいの?
・・・・
どうやら外国人を見張るのは、どこの国でも定番らしい。
でもこういう外国人向けのお宿は、簡単には国に報告しないんだって。なんでもチクるなんて思われたら商売あがったり。でも、全然調査しなかったら、お国から怒られちゃう。ってことで、一応ある程度お宿でどんな様子だったかを、国に聞かれた時に報告できるようには、見張ってるらしい。聞かれない限り、何があっても自分から報告はしないんだって。客もその辺は分かってるから気にしないってことです。
まぁ、前世の防犯カメラと思えば良いのか、な?
でも、ドクの結界って大丈夫かな?悪いことしてるって思われない。
そう聞いたら、大丈夫なんだって。
プライバシー保護のために結界を張るのは珍しくないそうです。客は見張られてるのを知っている。宿は結界張られても別に気にしない。国から言われたときに、そういえば結界張ってて何やってるか分かりませんでしたって報告すれば問題なし、ということです。それぞれの、ちゃんとやることやってますよ、って立場を主張できればいいんだそうで・・・なんか、微妙に無駄なシステムだなぁ、って思っちゃうね。
「ひょっとして、ワージッポ・グラノフ様ですよね?」
メインで話している人=商人ギルドのサブギルド長のヤーノンさん、が、言ったよ。ドクのことを知ってるの?
「それにあちらにいるのはカイザー様。夢の傀儡のお二人ですよね?」
ん?夢の傀儡?それって、ゴーダンとアンナのいた前のパーティ?
「いかにも、ワージッポにカイザーじゃ。夢の傀儡はとうにないがのぉ。」
「ない、ですか?どうりで・・・」
「冒険者ギルドに問い合わせたんじゃが、夢の傀儡がこの町に入ったという報告はなかったんじゃ。代わりといえばなんじゃが、宵の明星じゃったか?恐ろしく強い子供がいるパーティがやってきた、と聞いたんじゃが、ひょっとして?」
もう一人の人、ギルド所属の鍛冶師でザーバンさんが、僕をチラチラ見て、そう言ったよ。
なんだか、あっちとこっちでチラチラするのもってことで、全員集合して、ソファの周りに行くことに。
「夢の傀儡はなくなったが、そこにいた人間がここに4人集っとる。今はそのゴーダンがリーダーで宵の明星という。」
ドクの紹介でゴーダンが二人と握手をしたよ。
「宵の明星のリーダーをやってるゴーダンだ。俺とこのアンナも夢の傀儡にいたんだ。」
「ゴーダンにアンナ。ほぉ、あの『弾刃撲滅』と『灼熱の砦』か。若造だと思っとったが、まぁ、立派になって。」
あ、この人、あのこっぱずかしい名前知ってるんだ。
たまに、二人をその名で言う人がいるんだ。二つ名って言うの?
昔、なんだか有名だったって聞いたけど、そっか、こんな外国まで知ってる人、いるんだ・・・
僕だったら恥ずかしくって死にそう、ってニヤニヤしてたら、ゴーダンにパチンってはたかれた。ひどいなぁ。
「で、その子は?」
「まぁ、俺の見習いでダーだ。」
「間違いだったら済みません。その子はひょっとしてミミセリア・ナッタジ様のご子息で『宵闇の至宝』と噂に聞く坊ちゃまでは?」
ヤーノンさんが、そう言った。
あれ?話が違う。
その名前、どこから漏れてるの?
「あ、警戒しないでください。アレクサンダー・ナッタジ様の噂は、ごく一部にのみ知らされているものです。うちのギルド長も知りません。」
ギルド長知らずにサブギルド長が知ってるの?
「このことは内密にしていただきたい。われわれ一部の者のみ把握している情報です。」
ヤーノンさんは、内緒事をするように息を潜めて言ったよ。
「実は、国から全ての外国へ渡航する者にある命令が昨年出されました。5歳前後の夜空のような髪を持つ男児を見たら、必ず報告をするように、というものです。これを怠った場合、首都での出店許可を取り消す、という最も厳しい罰則とともに周知されています。首都で出店していない者は、他国での出店は不可能という法があるんです。」
うん、その話は知ってる。実際手配書も見たしね。
「この特徴を聞いて、我々は、噂に聞くエッセル・ナッタジの系譜、宵闇の至宝ことアレクサンダー・ナッタジ氏ではないか、そう考えました。」
「ヤーノンが言う我々っていうのは、エッセル氏を信奉する者の集まりでの。こんな国でも、こっそりと自由を望む馬鹿者どもの集まりがあるんじゃ。そして、それを支えてくれる外国の有志もな。」
ヤーノンさんとザーバンさんが言う話を、僕らは聞いたよ。
みんなの様子を見ると、なんか無表情。
たぶん、僕の情報が当たりともハズレとも教えたくない、ってことなんだろうけど・・・
僕はちょっぴり困った顔をしていたと思う。
「お話しは分かりました。ご推察の通り、その子は私の子でアレクサンダー・ナッタジ。タクテリア聖国王より宵闇の至宝などと愛でていただいている子です。そして、この国より捜索をかけられているのも、その子で間違いないでしょう。」
しばらくの沈黙の後、ママがにっこり笑って、社交モードでそう言ったよ。
えっと、・・・いいのかな?
話していた張本人の二人ですらびっくりした顔をしてママを見てるよ。
「よろしければ、どこから我が子の情報を?」
「あ、ああ。我々の最大の理解者であるリッチアーダ商会より、と言えば?」
あらま。ひいばあちゃんのおうちじゃん。
「やっぱりそうですか。そうじゃなかったら、今日はお帰りいただけないところでした。」
ママがにっこり。
って、エー?!
ママが、なんか黒いこと言ってる。
僕がびっくりしてると、ミラ姉が僕の肩を抱いて耳打ちしたよ。
「ミミがダーを害しそうな存在、放っておくわけないからね。」
僕のためならかしこくもなるし、冷たくもなるって、これ、僕の知らなかったパーティの常識、らしい。後で問いただしたら、「何、当たり前のこと言ってるの?」って逆に全員に不思議そうな顔されたよ。
やってきた二人は冷や汗たらたら、だったろうね。
でも、なんか納得してにっこりしてた。
「しっかりとされているようで安心しました。是非とも我々に手助けをさせてください。」
僕らがここに来た目的=僕のことを掠おうとしている人は元から絶たなきゃダメ作戦で、リヴォルドをやっつけに来たんだってこと、ついでに強化魔導師プロジェクトをたたき壊す!を説明したら、協力を申し出てくれた。
彼らが、今日来た目的がまさに僕らが何かしようとしているだろうから、お手伝いするよって言いに来たんだって。こんな国に来る目的は、きっと僕の捜索絡みだろうって読みだったらしいしです。
ちなみにこの二人、昔、我が国沖でエッセル号に助けられたらしい。
エッセル号自体は、この国に入るのは初めてなんだけどね。
どうやら、ミモザ沖で魔物に壊された船に乗っていて、救出したんだって。
そのときにひいじいさんと話して、夢の傀儡のメンバーとも話して、自分たちの知らない、自由と夢が溢れてたのに感化されたそうです。
その後に国に帰って、同じような志の人と、独裁からの解放を掲げて活動をしているんだって。見つかっちゃ命はないから、ひそかに、ね。
二人は一生懸命出世して、上からこの国を変えていこう、と活動をすることにしたんだって。しかも国からの口出しが少ないギルドを中心に同士を集めてるらしいです。冒険者ギルドも同じように上の方に同士がいる。けど気をつけないといけないのはトップは国からやってくるから、絶対に体制側、なんだって。
てことで、ナッタジ商会のことも宵の明星のことも、この国に入ったってことを国の知るところになるのは間違いない。けど、僕の場合、まだ髪の毛については気付かれてないって。坊主にしてて大正解だね。
各地に協力者はいるそうです。
特にギルドではそれなりの地位の人が手助けになるって聞いたよ。
長はだめ。それはしっかり頭に入れたよ。
僕がこの国に入っている、そのことを出来るだけバレないように、素早い行動を、って言われちゃいました。
明日にね、案内人を寄こすって。
その人が協力者を分かってるから、道案内も兼ねて同行して欲しいって。
本当ならありがたいよね。
でも、スパイだったら・・・?
そうだったらそうだったときのこと、なんとでもするさ、というセイ兄の言葉にちょっぴり安心。
明日は内陸に出発です。
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