第132話 聞き込み

 ママがね、この町に数日いよう、って言うんだ。

 特に明日はいた方がいい気がするってね。


 ママの・・・気がする、っていうのは、ほぼほぼ予言。ひいばあちゃんの血かな?

 てことで、ママが納得するまでこのザガの町で強化魔導師プロジェクト(ドク命名)と、貿易できそうな物や相手の調査をすることになったんだ。


 宿をいざ出発っていうときに、ふと思い出したようにママが言ったよ。

 「この町を出たらナッタジの名前は封印しようと思うの。私は冒険者のミミでダーは見習いのダー。博士もダーと言って欲しいの。」

 ママがそんな風に言うのは始めただったよ。


 ドクはね、アレクサンダーっていう名前をひいじいさんが大事に温めていて、僕が産まれるどころか、ママの産まれるずっと前からアレクって言ってたんだって。ひいじいさんがそう呼んでたから。

 それはカイザーも同じで、カイザーもアレクとかアレクサンダーとか、呼んでくる。「坊主」なんて言う場合も多いけどね。

 まぁ、カイザーの場合は前世の記憶でアレクサンダー大王を知っているし、カイザーって自分で名乗ったみたいだしね。定かではないけど、ひいじいさんはカイザーに対抗してアレクサンダーの名を付けたかったのかもしれない。カイザーの話を聞いてるとそんな気がするんだ。


 アレクサンダー、は、自分の子孫じゃなくても良かったんだって。もし自分と同じ異世界の記憶を持つ子がいたら、その子を養子にして、保護したい、というのが始まりだったらしい。特に同じ国出身だとね。平和だし、清潔だし、っていうところからのこの世界じゃ、カルチャーギャップからうまく生きていけないかもしれない、って思ったんだって。


 普通は、言葉をしゃべるぐらいには前世の記憶はなくなるんだって。

 赤ちゃんが前世の記憶をもつことは珍しくない、っていうのは、この世界の人にとっては常識に近いかも。もちろん僕みたいに異世界の記憶がある場合は少ないだろうし、大半はこの世界で生きて死んだ記憶を持ち、産まれてくる。


 この世界は魔法があるでしょ?テレパシー的な能力を持つ者も少なからずいるわけで、前世の記憶をまだ持ってる赤ちゃんの心を読むってこともあるから、前世記憶自体はあっても不思議じゃないって感覚なんだって。

 ただ、テレパシーって言っても、感情が察知できる程度の能力が多い。言葉として体系立てて感知、なんてのは、ほぼ無理。ていうか、お互いそういうつもりでなら念話ができるけど、会話が成立するのは、がちゃんと論理的に言葉にしてないと言葉にならないんだ。

 そりゃそうだよね。大人だって、常に頭の中で言葉で考えてるんじゃない。とりとめもないことだったり、何も考えてなかったり、なんとなくいらだってたり、ふんわりと思い出していたり・・・


 それなりに優秀な魔導師が側にいて、たまたまそのときに赤ちゃんが前世知識で論理立って考えているときに、その魔導師が赤ちゃんに触れて力を発動した、っていう、確率論的にとってもレアなことがおこって初めて、この子、前世持ちだ!って分かる・・・と、言われている。

 でもね、それにしては前世持ちって言われる人は多い。

 多分だけどね、親子の間にはテレパシーって通じやすいんだって。だから、赤ちゃんを抱っこしたりあやしたりと、身体接触が多いってこともプラスして、ちょっとしたテレパシー能力でも、わかっちゃう場合があるんだろう、ってのがドクの意見です。


 だいたい「前世持ち」なんて言葉があるくらいには、赤ちゃんが前世を覚えているってのは、不思議じゃないんだ。個人差があるから、全員がしゃべれるようになる前に記憶が消えるわけじゃないし、当然前世を話し始める子だっている。大人になっても記憶を失わない人だっている。

 前世持ちは優秀な人が多い、なんていう迷信もある。

 そんなこともあって、前世の話をしても、さほど抵抗はない世界です。

 ただ、目立ちたがり屋さんが、嘘の報告でさも自分は前世持ちだ、なんて主張して白い目で見られるのも良くある話。あんまりぺらぺらそんなこと言っちゃうと、前世でいうところの厨二患ってる痛い人って見られちゃうから要注意。



 まぁ、そんなこんなでドクとしてはダーというよりアレクという方がしっくりくるようです。この世界、名前は長い方が上流階級っぽい。逆に短いほど下の位っぽいんだ。実際、僕は奴隷として産まれたしね。で、仲間の奴隷はみんな2文字以下。もともと奴隷じゃなかった人も奴隷になったら2文字以下でしか呼ばれない。アンナがアンってなったみたいにね。まぁ、彼女の場合は潜入目的で自分でアンを名乗ったみたいだけど。


 でも、ドクたちだって、そんなに頑なじゃない。ママの要請を受けて、時と場合によってはダーもOKだって。冒険者のときは短い方が良い。戦いの最中に名前に時間をかけられないからね。アレクもダーもどっちもアレクサンダーの一部でニックネームだし、難しく考えなくていいってさ。



 てことで翌日、僕らは再び町へ繰り出したんだ。

 この町はモノトーンじゃない人は異国の人って感覚。

 で、別に外国人と思われても問題ないけど、目立ちたくないならここ風の服を着ようってなって、まずは服をゲットしました。僕はポッケがいっぱいついたのにしたよ。どこに何を入れたか忘れちゃいそうだけど、忘れた頃にビックリするようなものが出てきたら、それはそれで楽しいよね?



 お買い物しながら、いろいろ聞いたんだけど、この国のものは全部、国のものなんだって。土地も建物も人も全部!

 人が国のものってなんだよ!って感じでしょ?

 なんでもね、子供はある一定の年齢で学校みたいなところでお勉強しなきゃならないんだって。で、そこで才能のある子はしかるべき施設でさらに専門的なお勉強をする。その人達は官僚だったり、魔導師、兵士になるんだって。

 「で、あぶれたできそこないは、こうやって商売したり、物をつくったりしてるのさ。」

 ガハハハハ、と、豪快に笑いながら、屋台のおばさんは言ったよ。



 昨日聞いた感じだと、魔導師になれそうな子だけが連れて行かれるのかと思ったけど、もっと大がかりなんだね。適材適所って考えれば良いんだろうけどね、ってヨシュ兄が言ってた。

 町の人に聞いたら、特別な学校に行くっていっても、普通に下働きに出る12歳ぐらいまでは親元から通ったり、少なくとも普通に寮生活で、お休みには帰省もできるらしいです。

 タクテリアも含めて、この世界、成人は15歳。だけど、親元を離れて働く場合は、見習いという形で10歳から12歳に家を出るのが一般的。そうやって考えると、上の学校といっても、特別理不尽な扱いをされてるわけじゃない、むしろエリート街道まっしぐらの特別扱い、って感じかな?


 昨日冒険者の人から聞いたのは、どうやらその前提があって、なお、連れて行かれて、それがどこかも分からないし、帰ってくることもない、っていう、そんな子供たちの話だったらしい。そのピックアップ元として、学校も使われるし、町中で髪色だけを見て連れてっちゃう、てこともあるっていうんだ。

 学校だけだと、まだ魔力の道を通す前の子って優秀かどうかわからないでしょ?どうやらお勉強とか肉体能力とかに秀でた子だけが上へ進めるために、魔力だけ優秀そうな子ってのは外れちゃうんだろうってドクが言ってた。


 どうやらね、魔力をたくさん持ちそうな子が、いずこともなく連れ去られる、っていうのは、都市伝説と化しているみたい。

 ほぼほぼ、直接の知り合いがいるって話は出てこない。誰々さんの友達の友達の子が・・・なんて噂として流れているみたいです。

 

 これだけ噂だけは流れているってことは、考えられることは2つだそうです。

 1つめは、あえてそんな噂を流して、眉唾だねぇって感想に誘導している。

 もう1つは、事実だけど、事実を直接知っている人を何らかの形で排除している。

 どっちにしても陰謀臭プンプンだね。



 ママが、この町で貿易とかの調査、って言ってたけど、実際商人さんたちに聞くと、大正解ってのが分かったよ。

 なんかね、ここは対外貿易の拠点で、割といろいろ自由にできるんだって。まぁ、この国ではってことだけど。

 で、他に商人がそこそこいるのは首都なんだけど、そこでは国から指定された物しか売買できないし、作れないんだって。

 首都で商いをする場合、扱う商品を届ける必要があります。で、届け出ると審査があって、国の許可が下ります。で、扱って良いのは、許可のある商品だけ、なんだって。その代わり、その商品は「お国御用達」を名乗れる。海外でも名乗ってOK。ってことで、まぁ箔付けできるらしい。そもそも許可申請には、いかにお国に忠実かっていう審査もあるっていうから、ちょっと怖いよね。


 でも、お金儲けには首都の方がいい、らしい。

 税金が全然違うんだって。

 それと、首都に店を構えないと、海外に支店を出しちゃだめっていうんだ。

 ん?

 てことは、あのゼールク商会って、この国ではすごい商会、なの?首都で商売できる許可を持っている商会、ってことだよね?

 あそこは、もともとザドヴァの商会で、トレシュクにも店を構えている。で、なぜかダンシュタへ、詐欺まがいのことをして出店したんだよね。

 ひょっとして、でっかい商会か、エライ人に近い商会?ちょっと意外です。


 そんな感じで、とにかくいろいろと役に立つかどうか分かんない情報も含めて、集めたよ。


 で、今晩。


 ママが言っていた、何かありそうな予感、てのを警戒しつつ、貿易するなら何がいい?なんて、のんびり話し合っていたとき、宿屋の人がやってきて言ったんだ。

 「皆様にお会いしたいという方がおいでですがどうします?」

 さて、どうしよう。

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