第131話 ギルドでの話

 僕たちが冒険者ギルドで聞きたいのは、概ね3つ。


 まずは、単純にこの国のこと、だね。

 地理とか、特産品とか、冒険者の待遇、とか。特に、僕らみたいに外国から来た人でも、歓迎されるのか、とかね。

 これは、僕らがこの国でうろうろした場合の、注目度にも関係するから、結構大事。


 次に、最近、何か変わったことはないかってこと。

 冒険者ってのは情勢に敏感。魔物が大量発生している、とかはもちろん、物資の流れがおかしいから、近々紛争があるのでは、とか、そういうことにとっても目端が利くんだって。だから、僕らの目的、戦争が始まるの?っていうのは、かなり正確に予測されるもんなんだって。けど、この情報は、商人ギルドの方がさらに上のはず、ってことで、こっちは補強資料としての、噂の収集です。


 最後に。これが一番大事。

 この国のトップの情報。性格とか今までの行ってきた事業、とか、あくまで市井の民からの感想。

 うっすらと僕らが掴んでいる、怪しい魔導師量産・強化計画って、国内ではどの程度の認知度なのかってのが、一番知りたいってこと。

 普通の人よりは情報通の冒険者が知らないなら、トップシークレットだろうし、冒険者以外でも知っているなら、それがまかり通る、ちょっと怖いお国柄、ってことになるだろうし。


 てことで、1つ目は、ギルドの資料室である程度漁って、他の二つは併設の食堂とか、ロビーで雑談がてら集めることになりました。

 僕が、D級のお兄さんを瞬殺したことから、思いの外、これがはかどっちゃった。


 「ぼうず、強かったなぁ。びっくりしたぜ。」

 「頭がそんなになるぐらいの訓練したのか?すごいなぁ。」

 「でも、あんまり暴れない方がいいわよ。ぼうや、結構髪の色濃そうじゃない?編成局につれてかれちゃったらもったいないわ。」

 坊主にしてもある程度濃い色なのはバレちゃうもんね。ツンツン生えてきちゃうし。


 でも、なんか怪しげな単語ゲットです。編成局?

 「編成局?なに、それ?」

 「ぼうやはここに来たばかりだから知らないか。魔法庁人事編成局っていうお役所のことなんだけどね。魔法に才能のありそうな子を連れてっちゃうの。」

 「連れてっちゃう?」

 「うん。召喚命令ってのが出されると、国民は従わなくちゃならないのよね。坊やみたいな年頃の子が一番狙われるわ。あそこに召喚されると、なかなか親元に帰って来れないって噂よ。まぁ、魔導師として大成すれば、国でも優遇はされるらしいから、親にも相当、金が入るらしいけどね。」

 「魔導師?」

 「坊主は知らんかもしれんが、この国で一番稼げるのは魔導師様だ。リヴァルド様ってすごい世界一の魔導師様がいてな、国王ですらリヴォルド様に逆らえん、なんて言われてる。あのお方の目にとまれば出世間違いなし。特に編成局に目を付けられ召喚された子供ってのは、特別な教育を受けさせてもらえるエリート中のエリートってやつさ。」

 「そうそう。まぁ、それは表向きの話だけどな。」

 「実際は、なんかヘンなクスリを飲まされたり、体をいじられたり、とまぁ、実験動物みたいなもんだ、なんて噂もあるわな。」

 「そういうことを口にしたら命はねえぞ、ガハハハ。」

 「そうそう。魔法庁に喧嘩売ったら、あっという間に行方不明、てか。ハハハ。」


 えっと・・・そんな怖い噂があるのに、こんなにぺらぺらしゃべっちゃって良いのかな?僕が戸惑ってると、最初に教えてくれたお姉さんが、笑いながら言ったよ。


 「一応冒険者ギルドの中での噂話ぐらいは大丈夫よ。余所からきた冒険者にはできるだけこの情報を与えるようにっていうギルド長の方針でもあるしね。でも、外で魔法庁とか編成局、って単語、出しちゃダメだからね。どこに耳があるか分かんないから、注意して。とくに坊やは危険よ。道を通す前の有望そうな子は特に危険なの。ここだけの話、この国で召喚するだけじゃなくて、外国からも連れてきてるらしい、っていう噂まであるの。冒険者だから、とか、外国人だから、って油断しないでね。」

 お姉さんの話に、周りの冒険者の人達も、しっかりと頷いていたよ。

 みんな心配してくれてるみたい。


 冒険者の人達ってやっぱり好きだな。

 一度、仲良くなったら、本当に身内、って感じになるんだもん。

 国が違っても、こんなところは同じだ、ってすっごく嬉しいって思います。

 うん。僕は大人になっても冒険者でいたいなぁ。



 て感じで情報収集した僕ら冒険者ギルド班ですが・・・・


 商人ギルドの方でもバッチリいろいろ情報をゲットしたみたいです。


 あのね、食料品とか、薬草とか、そんなものの値段が急騰しているそうです。多分どこかで買い占めが起こってる。これは、戦争とかが起きる兆候なんだって。

 それとね、外国に行く商人たちに、魔力のありそうな、つまり髪色の濃い乳幼児の情報をあげるように、要請しているらしいです。

 この国の商人が外国から戻った場合、最低1人の情報を提出しなくちゃならないんだって。これはもう何年も行われてるらしくて、もう誰も不思議にも思わないくらい、入国審査の1項目になってるらしいです。

 まぁ、有力者の子供とかは割と髪色が濃い子も多いし、さほど困らない情報ではあるんだけど、に関しては、後日、結構な褒美が出るらしい。だから知り合いの貴族とかに赤ちゃんが生まれた、っていうと、慌てて挨拶回りに行くらしいよ。それ以外では、この褒美狙いで、町中で見つけた子供の情報を上げる、とかの人もいるんだって。庶民で髪色が濃いのは、超レア、なんです。そういうのを血眼に探しているような商人もいるんだって。


 「ダーの噂だろうな、というのもかなりありましたよ。」

 ヨシュ兄が教えてくれた。

 タクテリア聖王国に国王から『宵闇の至宝』なんて言われる子供がいる、って噂だね。ハハハ・・・だけど、実際に僕を見た人ってのはそんなに多くないはず、って、あ、そうか、あれって、ママが正式に商会を継ぐ式典だったから、商人ギルドの関係者はそれなりにいたんだった。商人たちのネットワークを考えれば、ナッタジの子がそれだ、とか、バレちゃうか。


 「商人ギルドは味方だからねぇ。ダーのこと、告げ口する人、いないと思うよ。」

 ママがニコニコ、そう言ったけど、どういうこと?

 「利を見るのに長けた商人なら、ナッタジが産む利益をザドヴァに取られるようなことはしないってことさね。あの場にいたのは、タクテリアの有力商会のドンたちだろ?ザドヴァの怪しい報告義務にダーを乗っけるようなことはさせない、ってことさ。」

 アンが説明してくれる。

 「そうですね。報告するような商会に、情報は流れないでしょう。」

 ヨシュ兄も頷いているよ。


 ママは王都で、商人としてすごい才能を見せて、瞬く間にランクアップした、有望な若手商人。あの式典の時にはすでにそういう意味でも有名になっていたらしいし、そんなママのお陰で、僕の情報も守られてるってことなのかな?

 「ダーも、すっごい商人になるって、有名だよ。」

 ママが言ったよ。

 「ダーのいろいろな発明や、発想は、常に噂の的ですからねぇ。」

 ヨシュ兄も言う。

 なんでも、牛乳配達のシステムとか、燻製とか、そんな諸々が僕発って、めざとい人にはバレちゃってるんだって。商人ギルド全体で保護育成したい人材として、ママ共々、目をつけられているようです。

 まぁ、今回はそれで助かってる、のかな?



 にしても、やっぱりあんまりよろしくないみたいだね、この国の魔導師。

 本当に人体実験してたりとか、この国の子供たちや、外国からも掠ってきて、なんかやってるなら、僕は許したくないよ。

 別に正義の味方になりたいとか、世界の警察になる、とか、そんなことは考えてないけど、知っちゃって放っておくのは、・・・そう、・・・なんだか気持ち悪いんだ。

 それに、僕って、きっと狙われてる。

 だったら、やられる前にやっちゃってもいい、よね?


 僕は、リヴァルドって人に、どうしても、会いたい、そう思ったんだ。

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