ザドヴァ編

第128話 ザドヴァ国へ

 東西南の三方を険しい山に囲まれ、北に海を抱く国ザドヴァ。

 地理的には、ミモザからまっすぐ西に沿岸沿いに海路を行くことになる。

 領都トレネーから北へ上り、海岸線へ。

 東がミモザ、西が隣の領であるトレシュク。トレシュク領とトレネー領の領境は、海岸付近では大きな川が流れていて、トレシュク領と隣国ザドヴァの国境は巨大な山岳がある。


 この山岳がザドヴァにとっては東を閉ざす山、ってことだね。


 ザドヴァってのは、謎が多い国だ。


 ちなみにトレシュクは我が国の領土なんだけど、ちょっとした自治領扱い。なんでかっていうと、トレシュクは商人が治める自由都市の集まりで、この商人がもともとはザドヴァから逃げてきた人達、なんだって。

 なんでも、ザドヴァは軍事独裁国家、らしい。

 で、好き勝手に物を売ったり買ったりすら難しい。

 あるとき、商人の蓄財をがっつり取り上げようとした国主がいて、多くの商人が逃れたんだって。で、でっかい隣国である我が国に助けを求めた。けっこうな人数が逃れてきたから、難民として受け入れるのは、我が国でも大変。でも商人でお金を持ってるし、貿易の技術もある。特に北の大陸への航路を持ち、高度な造船技術を持っていた彼らのスキルは手放しがたい。

 とりあえず、人が住んでいなかった、現トレシュク地域に住むことを許可し、代わりに税とか技術を受け入れることになったんだそう。

 BY ミラ姉の歴史講座でした。



 あ、そうそう。このとき開拓を手伝ったのが冒険者ギルド。一応、国の依頼ってことだけど、そんな縁もあって、商人さんたちは冒険者を頼りにしてくれます。必要なときだけ人材を頼んだり、また素材の調達を頼んだり、商人からしても常時人を雇わなくて良いし、ウィンウィンのいい関係。


 これは素晴らしい、ということで、ザドヴァにも冒険者ギルドは幅をきかせられるようになりました。ギルドが政治不介入をうたっていたこともあるし、傭兵はザドヴァでは許してないんだって。個人で武力を持つことはNGな国だそうです。

 そうは言っても移動すれば魔物も盗賊もいて、それらから荷をまもらなければならない。その戦力として、冒険者。

 そんなことだから、ザドヴァに残った商人にも冒険者はしっかり根付いたってこと。

 今では、国としても冒険者ギルドを認めないわけにはいかず、ザドヴァを含めて、知られている範囲の国では冒険者ギルドは独立した組織として優遇されているんだって。なんたって海を越えたナスカッテ国にまであるんだもんね。

 ちなみに、これも、もともとはトレシュクやザドヴァに残った商人が護衛として雇った冒険者がナスカッテ国でも活躍を始めたから、っていう、まぁ、歴史は繋がってるんだね。



 地理的に見たら、ザドヴァとそこから逃げた人が住むトレシュクはお隣あわせです。でもそこは簡単には行き来できないんだ。大きな山脈があって、これを超えるのは難しい。だから、わざわざ海路で行くんだけど、基本崖だからね。港を作れるところは少ない。トレシュクにはナナハ港っていう大きな港があるけど、そこ以外はおおきな船は接岸できないかな?小さな漁村の港は複数あるけど、大きな船ならナナハ一択。その次に接岸できるのはもうミモザだからね。

 彼らが逃げてきた当時は港、ていえるだけの設備はもちろんなくて、でもまぁ、一応お隣の国の脅威から守る準備の備えをしているような拠点ではあったらしいです。

 最初はその拠点の海兵が、難民のたくさんの船を発見し、ナナハに誘導した、てところから始まるんだって。だから、隣国との警戒網は当時でもしっかりあった、ってことだね。



 で、さきほど、あれがそのナナハだよね、なんて言いながら西へと進み、今、僕らはザドヴァの国はザガ港から上陸したところです。


 僕の6歳の誕生日の後、ゴーダンとアンで王都に行きました。

 で、いろいろお話し合いの上、ドクを引き連れてミモザ、ではなく、海岸線にぶつかってすぐにある小さな宿場町で合流したんだ。


 一つ季節が巡って、もう夏。


 宿場町近くから、船を出して、本当の本当に全員集合で、海路ザドヴァへやってきたんだ。



 このザガ港、商港として栄えています。


 えっとね、ここは都市としても国境近く。山裾にある町です。

 もっと、国の中央付近まで西に行くと、この何倍も大きな港があるんだけど、そこは軍港なんだって。リットン港ていうんだけど、そこから視認できる位置に船は出せません。自分の国の船でも関係なしに沈められるんだって。怖いよね。

 普通の船が通れるのは、だから、このザガ港が最西端ってことになります。


 あ、そうそう。

 僕らの船エッセル号は、ナッタジ商会の立派な商船でもあるんだ。

 なんせ会頭のママが乗船している。

 正式な商業ギルドの商会としての免許もある。

 てことで、商業都市の商港であるザガ港へはすんなり入りました。


 お船はね、沿岸沿いにいくつもあるドッグの影に隠れてリュックへ収納、です。

 このザガ港、湾の入り口で入港チェックしたら、それぞれのドッグに入れるようになっているんだ。大小のドッグがあって、隠れるのは簡単でした。

 まぁ、見られていても信じないだろうね。この世界に唯一の無限収納バッグだし。へへ。



 てことで、2回目の外国。

 しかも、初めてのちゃんとした入国!


 多分、僕はこの国の軍部に狙われてる。

 けど、(この国から考えて)外国にいるって思われてるから、逆に安全かもね、なんて、みんなで言ってます。


 一応、作戦。


 坊主頭にしちゃいました!


 本当はね、髪の毛をあまり短くするのって、この世界では歓迎されないんだ。なんせ髪の毛を見れば魔力が分かる、なんて言われてるしね。だからってのもあるんだけど、髪の毛がなくなると魔力がなくなる、なんて言われてる。でも、これは嘘だ。だって、立派な魔導師のおじいさん、毛が生えてない人いっぱい知ってるもん。

 あとね、やっぱりステータスでもあるから、坊主にしちゃうと、能力を偽装している悪い人って思われるかな。坊主にしただけで不良扱い、って、前世では真面目なイメージあるのに逆だよね。

 まぁ、さすがに僕の年齢だと不良っぽくはならないけどね。


 普通なら好き好んでこんな髪型にしないから、この頭は、ある意味目立つ。

 でもね、帽子被っちゃうとそんなに目立たない。長い髪だと帽子からはみ出して目立つもん。


 さすがに、昨日、こっそりと剣で髪の毛を切っちゃったのを発見された時は、みんなに驚かれたし、無茶苦茶怒られたよ。でも、僕の作戦をきいて、仕方ないなぁって、一番器用なヨシュ兄がきれいに整えてくれました。

 「なんか、赤ちゃんみたい。」

 そう言って、ママが赤ちゃん抱っこしてくるのは、ちょっと困っちゃったけどね。


 なにはともあれ、僕らは宵の明星フルメンバーで新しい冒険に踏み出したんだ。

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