第127話 今後の方針
「今から言うことをよく聞いて、ダー、お前が決めろ。」
みんな集めたダイニングで、ゴーダンは重々しく言った。
「おそらく遠くない将来、戦争が始まる。」
え?
せんそう・・・?
僕はびっくりしたよ。だって、戦争って・・・
「トレネーで魔導師たちがこそこそしていたのは覚えてるな。あれは、その準備行為だった、ということが分かったようだ。」
あの魔導師が使い捨てされた事件?僕がクレーターを作っちゃったやつだよね?
「ナスカッテ国へ行く前後、俺が伯爵や国王から呼び出されたのも、この関連だった。」
・・・・
確かにゴーダンとかドクはしょっちゅう呼び出されてたよね。帰ってきてからは王都にまで行った。ドクなんてまだ帰ってきてないもん。
「俺たちは冒険者だ。基本的には国に所属はしてないし、戦時、滞在中の国に肩入れする必要はない。ただし冒険者といっても、生まれた国だ、とか、住んでる国だ、という理由で、ある国に肩入れすることはあるし、そのことに関しては、問題ない。戦争が始まっちまったら、それこそパーティ内でも敵味方別れる可能性だってある。それはわかるな。」
僕は頷いた。
もし、タクテリアとナスカッテが戦争したら、場合によっちゃアーチャとは敵対するかもしれない。そうなれば僕はどうするだろう。本当は中立をしたいけど、生まれた国で、王様たちにもよくしてもらってるし、この国に立っちゃうかもしれない。
「さっきので分かったと思うが、対戦国になるだろうと思われているのはザドヴァだ。」
だろうね。
あの魔導師を送り込んだのはザドヴァだって、僕だって知ってる。
「戦争準備をしているという情報を受けて、俺はダーを連れてナスカッテに向かった。ダーを隠すためだ。」
?
どういうこと?
「ザドヴァという国はいろいろと謎に包まれているが、魔導師が幅をきかせている、と思われている。が、実際は魔導師としての才能を軍がかき集め、特殊な方法で強化している、と考えられている。彼らは基本自国の子供たちから、魔力のありそうな者をかき集めているが、他国からもかなりの数、誘拐し、強化や洗脳を行っている、と思われている。確証はないが確信はある、といったところだ。そこで、ダー、おまえだ。」
僕?
「お前は複数にわたってガーネオに見られている。その髪だけじゃなく、能力も、な。」
真面目な顔で、ゴーダンが僕を見る。
僕は、ゆっくりと頷いた。
だって、僕ぐらいの年齢の子は魔法が使えない。普通だったら、道を通すには小さすぎるんだ。僕の容姿を見て、特殊な強化が行われた子供って思われても仕方がない。しかも、僕と一緒にドクがいるの、見られてた。少なくともガーネオは、僕の能力とドクの研究につながりがあると誤解してた、って、今なら分かるよ。
ガーネオが逃げ延びて、報告を聞いたら僕が欲しくなっちゃうってのも、想像がつく。どうやったら、僕みたいな魔力のある子が作れるのか、その実験とか、単純に戦力として洗脳するとか。おっかないけど、噂に聞くザドヴァなら、考えられる、てことでしょ?
「いったん、ナスカッテ国に逃れたのは、上手い具合にミモザだったからだ。ナスカッテ国に行くには、昨今の海は普通の船では危険だ、とヤツらも知っているからな。逆にナスカッテ国との関連を疑ってくれれば御の字だという思惑もあった。あの国はエルフが多い。エルフが魔法に秀でてるのはヤツらも当然知ってるからな。実際、その後の調べで、ダーをナスカッテ国から来たのではないか、という意見が大勢をしめたようだ。念のため、ダーの人相、というか髪色と年齢を使って、外国に出る者には情報収集するように命じていたようだがな。これはタクテリアだけじゃなくセメマンターレでも同じだ。捜索は広く浅く、となり、ナスカッテ国に行ったことは無駄じゃなかった、そう俺は思っている。」
ゴーダンは息をついて僕を見た。
「無駄じゃなかったとはいえ、捜索自体はまだ続いている。じっさい、あの国と関係があるだろうゼールク商会の書類からも、ダーのことを見かけたら、国に一報を入れるよう書かれた指示書が見つかっている。話に聞くと1日だけだったとはいえ、ゼールク周辺をうろついていたダーを認識したかは分からないし、その報告を国に上げたかは分からない。が、少なくとも、商会幹部は、あのとき使われたと同様、いや、ひょっとしたら機能が拡大した魔法陣を使ってあの場を逃れている、という事実は残る。」
僕がナッタジ商会の関係者だって、ザドヴァが知ったかもしれない、ってこと?でも、ダンシュタだけじゃなくて、トレネーでも、王都でも僕のことを知ってる人はいっぱいいる。僕の髪の色は特殊だから、どこに行っても注目されるし、僕がゴーダンの見習い冒険者で、ナッタジ商会会頭ミミセリア・ナッタジの一人息子だってことは、そんなに難しくなく手に入る情報だって思う。今更感がないこともないけど・・・
「ダー、おまえさんが今考えてることは分かるよ。誰かに聞いたらすぐに分かるんじゃないかってね。だがおそらく直接おまえさんのことを知っている人間が簡単に話はしないと思うよ。せいぜいが冒険者見習いの幼児、で情報は止まるはずだ。冒険者ギルドまでやってきたら、逆にそいつがおいつめられることになるだろうよ。」
アンが、そんな風に言う。
うーん・・・
「それに、ダンシュタなんかで、お前さんのことを根掘り葉掘り聞いてみな?それこそ、ダーを知っている奴は警戒するだろう。相手が情報を得る前に、こっちにダーを探ってる奴がいる、って情報が入るはずさ。」
「実際、私が調べた情報でも、そういう結果が出ています。一番ダーの情報が出たのはミモザだと思いますね。といってもアソコの場合は、そもそもトップが内通者でしたし、ダーが暴れた場所ですから、目撃情報も有益なものとは言いがたいでしょう。調べられていた時期を考えると、ナスカッテ国へ向かって船を出した、という情報が中心でしょうし。」
ヨシュ兄が、そんな風にアンを補強したよ。
「でも、なんで、戦争、なの?」
僕は聞いた。戦争なんてしようとするから戦力が必要で、子供を集めて魔導師として強化、なんて、人体実験みたいなことをやらなきゃならないんでしょ?
なんで?
「あの国は、貧しいんですよ。穀倉地帯がほとんどない、と聞いています。」
と、ミラ姉。
貧しいから他国から奪う。
良いことじゃなくても、生きるための方法の一つ、なのかな?
この国はなんだかんだと穀倉地帯も多いし、豊か、なんだろうね。あくまでこの世界基準でってことだけど・・・
「そこで、だ。われわれの立ち位置、だが、個々人に任せようと思っている。どちらかの国に立って戦争に身を投じるも良し。第三国に行き、冒険者なり好きなことをやるもよし。どこかに身を隠すもよし。」
ゴーダンは、僕だけじゃなくてみんなに言ってるみたいです。
「ダー。おまえはまだ子供で、本当は母親であるミミか、冒険者としての責任者である俺が決めるのが本当だろう。だけど、お前はちゃんと自分で考えて行動するだけの能力がある、そう俺は思っている。俺としては、ここだって危険だ、と、正直言やぁ、思ってるんだ。だから本当はダンシュタダンジョンに籠もることを提案する。だがな、ミミが反対してるんだ。だから、ダー。お前が決めろ。これからどうしたいか。俺はそれを優先しようと思う。」
ダンシュタダンジョン。
ひいじいさんが攻略し、ダンジョンマスターになったダンジョン。
今は、僕が一応ダンジョンマスターを引き継いだ形になってる。
そこには、普通じゃいけない空間があって、お城なんかもあるんだ。そのお城でなら快適に安全に過ごすことが出来る。確かにあそこならどこよりも安全だね。
でも・・・
僕、隠れてなきゃダメなの?
確かに、僕が狙われてるってのは本当だろう。
で、いろんな人に守られてるのも本当、なんだよね。
でも、僕を守ってくれてる人が、僕が隠れている間に、どうにかなっちゃったらいやだな。もし、僕のことを聞きに来たザドヴァの人に危害を加えられたりしたら?
それはいやだな。
僕のことを本当の孫みたいに可愛がってくれてる王様が、僕が隠れている間に戦死したら?
きっと僕は後悔する。
ドクは?
今ここにいない、ってことは、王様の側にいるってこと?
「ドクは?」
「ああ。博士はリヴォルドのご指名だからな、この国に助太刀するらしいぞ。」
「リヴォルドのご指名?」
「魔導師の強化について、その昔、リヴォルドとやりあったらしい。やつは魔導師を道具や兵器としか扱わん、と、怒っていてな、リヴォルドの強化魔導師を施設ごとなんとかする許可を王にもぎ取ろうとしている。」
リヴォルド。
ドクと並ぶすごい魔導師。
ザドヴァの魔導師のトップ。
僕の前に現れたガーネオの師匠。
なぁんだ。
ドクとやりたいことは一緒だ。
僕は、人体実験するようなこと、許せない。
ガーネオの時にも思ったんだ。
なんで、人に対して、こんな使い捨てみたいなことできるんだろう、って。
だったら隠れてるなんて問題外。
この国について戦争をしたいわけじゃないんだけど・・・
「ねぇ。僕が決めて良いの?」
「ああ。それぞれが決めていい。もちろんダーもだ。」
「僕は、ドクと合流したい。」
「ん?」
「でね、冒険者がやりたい。」
「冒険者?」
「あのね、王様でも誰でもいい。誰か依頼出してくれないかなぁ?人体実験の施設を潰せって、ね?」
「依頼?・・・」
ゴーダンは一瞬呆けたみたい。
しばらくフリーズ。
そして・・・
「フフ、こりゃいい。依頼かぁ。そうか、そうだな。我々は冒険者だからな。ハハハ。こりゃまいった。そっか。依頼かぁ。」
ゴーダンってば、狂ったみたいに笑い出してビックリだよ。
「ね、ダーのことはダーが決めれば間違いないんだから。ねぇー。」
ママがニコニコしてるよ。
「なんか、戦争だ、と肩肘張って考えていた自分が馬鹿らしくなりました。とっくに貴族だ騎士だ、という気持ちは捨てていたつもりだったんですが。」
と、ミラ姉。
ヨシュ兄とセイ兄なんて、なんか、ちょっと涙目だけど、なんで?
「あ、でも、僕はそうしたいってだけだからね?みんなに強制するつもりはないよ?」
「ばぁか。冒険者が冒険者の仕事以外を優先するわけないだろ。」
セイ兄が僕の頭をガシガシ撫でる。やめて!首がもげちゃうよ。ってか、何、泣いてんの?
「そうとなったら、依頼者捜しですね。」
そう言うヨシュ兄に、
「そっちは俺がやる。」
と、ゴーダン。
「まったく、揃いも揃って馬鹿だね。分かってるのかい?その依頼を達成するには、ダーを狙ってる敵国のど真ん中に潜入する必要があるんだよ?」
アンが言う。
そうなんだけどね。
なんか、みんな、付き合ってくれそうだし。
そうなったら、最強パーティでしょ?
あ、でも、商会に誰か残る?
「商会には優秀な番頭もいるし、戦争になったら、どうせ通常営業はできません。商会のためにも、早く悪者やっつけちゃおう。」
うん。ママがそう言うならそれが一番だね。
こうして僕ら、宵の明星の方針は決まった。
でも、まずは依頼を貰わないと。
てことで、ゴーダンとアンが王都へ向かう。
GOが出るまで、ここで僕は力を磨く。
ハハ。
6歳もなかなか波瀾万丈になりそうです。
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