第126話 剣のお稽古

 僕、アレクサンダー・ナッタジ。6歳。

 うん、6歳です。

 立派な大人?

 残念ながら、この世界でもまだまだ成人じゃないけど、お誕生日に大切な仲間=家族から、マイ剣を貰ったから、真剣を振り回して良いだけ成長したって認められた、って思いたい。


 僕は、セイ兄に付き合って貰って、新しい剣で素振りをしたよ。いつも使ってた木剣よりも長くて重い。重心も違う。なんか振り回されてるなぁって自分でも思ったよ。

 同じように作られた剣だって、そう、量産型のだって、この世界じゃ一つ一つ手作りだから、重心が全部ちがう。すごい剣士なら、どんな剣でも自分にあつらえたように使えるんだけど、やっぱり自分用に調整した剣は違うんだって。

 今は、まだ馴染んでなくて振り回されてるけど、この剣は僕の体型だけじゃなく、筋肉の付き方や体裁きの癖なんかも見て、凄腕鍛冶師が作ってくれたもの。間違いなく、馴染むって、セイ兄の保証付き。


 実際、振れば振るほど寄り添ってくれてる気がする。

 うまく振れないのは僕が悪い。

 絶対に、僕と一体にしてみせるぞ!

 セイ兄は、僕の一振りごとに、ちょっとずつ修正してくれる。ほんの数ミリの角度。ほんの数ミリの握る場所。なんでわかるんだろう。手直しされたことをなぞると、なんかとっても軽く感じる。ていっても十分重いけどね。



 午前中素振りして、ご飯を食べたら、ヨシュ兄も加えて3人で、狩りに出たよ。

 僕が覚えた魔物の習性をヨシュ兄ったら、根掘り葉掘り聞くんだもの。僕の新しい剣を練習するのが目的だったのに、ヨシュ兄に説明してる間に、ほとんどセイ兄が狩っちゃった。

 文句言ったんだけどね、僕が午前中頑張りすぎてるから、今無理したら怪我しちゃう、だって。テンション上がってて体力が削れてるのに気づいてないでしょ?って2人に指摘されちゃったよ。うー。だって僕だってセイ兄みたいに格好良く剣で狩りがしたかったのになぁ。



 「んー。これは、ちょっと拙いんじゃないですかねぇ。」

 休憩中、ヨシュ兄が、僕の体をチェックして、そんな風に言ったよ。どうも僕の筋肉が気に入らないらしい。

 「だよなぁ。カイザーに文句を言わないと。」

 セイ兄もヨシュ兄に同意する。

 なぁに?

 「ツルハシ持って、石を掘ってたんですって?」

 「うん。この剣の金属、それでできてるんでしょ?」

 「そうなんだけどねぇ。」

 二人が顔を見合わせてため息をつく。

 「ダーぐらいの年齢だと、すぐにヘンな癖ついちゃうからなぁ。」

 「ですよね。バランスが悪くなってる。」

 ・・・・

 ?

 二人が僕の手とか足とかをいろんな風に動かして、ああだこうだと言ってます。

 どうも、採掘でヘンな筋肉がついちゃったってこと、なのかなぁ。そんなに長いことやったわけじゃないけど、確かに剣よりツルハシ振り回してたかも・・・


 「でも、ミラ姉は、採掘は素振りより効果的だって、ずっとやってたよ。僕も何度か付き合わされた。採掘した日は素振りはいらないって・・・」

 「あー、ミランダはなぁ・・・」

 「そうですねぇ。彼女は筋肉ができあがってますから、ちょうどいい負荷になったんだと思いますよ。でもダーは、ねぇ。」

 「まぁ、しゃあねぇな。よし、ダー。せっかくいい剣、貰ったんだ。明日から、この剣に合う筋肉、つけてくぞ!」

 「え?」

 「あ、そうそう。誰かに聞いたかもしれませんが、その剣を持って魔力は使わないでくださいね。魔法陣があることからもわかってると思いますが、魔法に関しては博士に指導してもらわないと危ないですから。」

 「ま、そういうことだ。当分魔法禁止な。」

 ・・・・

 いや、なんかおかしくない?

 僕、魔法職、だよね?

 違う?

 剣と魔法の両刀遣い?

 えっと・・・


 まずこの世界、戦い方は、剣か魔法かどっちかに分類されます。強い人ほど両方使えるんだけどね。でも一応分類されるんだ。ちなみにすごい魔法使いだけど、ゴーダンは剣士。逆に剣でもものすごく強いけど、ミラ姉は魔導師。何が違うかっていうと、前衛後衛ってのがすぐに頭に浮かぶけど、実際のところ武器、なんだ。武器に魔石があるかどうか。

 イメージ的には魔法の杖。魔導師が持つ杖なんかは魔石が埋め込んであって、それを媒介に魔法を使う。この魔石は杖の他にアクセサリーとして身につける場合も多いけどね。腕輪、指輪、ネックレス。ちなみにミラ姉は、アームカバーみたいなのが手の甲まで伸びてるみたいなの。中指にリングみたいに引っかけるタイプ。ガントレットみたいにごつくはなくて、魔物の皮でできてるんだ。小さな魔石がいくつかと、魔法陣が組み合わさっていて、貴婦人のグローブみたいに見えなくもない。このおかげで、効率よく魔力を引き出せるんだって。魔法を放つときは何も武器を持ってないみたいに見えるけど、実際はこのアームカバーが武器になってます。


 こういうこともあって、僕は分類としたら剣士じゃなくて魔導師だと思うんだ。実際ベルトはたくさんの魔法陣が仕込んであるし、昨日貰った剣にも、見たこともないぐらいのでっかい石がついてるし。だから魔法禁止、は、ちょっとおかしいって思うんだ。


 「あ、ダーのつけてるベルトも剣も、魔導師の武器扱いにならないから。」

 びっくりの、セイ兄発言です。なんで?

 「武器、というのは、力を増強するものです。けど、ダーのは、逆、ですからね。」

 ヨシュ兄が当然でしょ、みたいに言うけど、そんな定義初めて聞いたよ。ていうか、逆って何?

 「ダーのベルトもその剣の魔法陣も、主な能力は魔力を押さえてコントロールを補助するものだと聞いています。武器、とは言えませんね。」

 「そういうこと。ダーの武器は剣だけだから、剣士として修練を積まなきゃな。」

 でも、僕、どう考えても魔法の方が戦える・・・

 「フフフ、ラッセイもからかいすぎですよ。ダーが魔法が得意なのはよく分かってます。ゴーダンだって戦いには魔法を使ってるでしょ?実戦には使えるものは何だって使っていいんですよ。ただ、武器の構成が剣士のそれだってだけです。せっかくなんだからそれが使いこなせるように、魔法をなしで訓練しましょうってことですからね。」

 それなら、まぁ、いいや。

 僕の魔法が使えなさすぎる、って思われたんだったらショックだけど、確かに剣のお稽古で魔法に頼っちゃったらダメだよね。僕、剣士としてもすごくなるね。



 そんな風に、プレゼントの剣を堪能したその日の夜。



 「今から言うことをよく聞いて、ダー、お前が決めろ。」

 みんな集めたダイニングで、ゴーダンが重々しく、そんなふうに言ったんだ。

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