第125話 ほぼ全員集合!

 えっと・・・ドクを除いて全員集合、です。

 何が?って?

 僕のパーティ、宵の明星だよ。


 僕はミラ姉と一緒に、ママのお迎えに来ました。

 いつもの崖の上で待ってたら、ママだけじゃなくて、ゴーダン、ヨシュ兄、セイ兄、アーチャもいっしょだったんだ。

 なんかね、このメンバーってほぼ初期メンバーだね。あ、アーチャはいるけど。

 でも、ナッタジは大丈夫?

 聞いたら、うちの番頭は優秀です、だって。


 なんでも、僕らがトレネーを出発した頃にってことで、ゼールク商会に、憲兵さんが踏み込んだんだって。もちろんうちのメンバーも一緒にね。

 倉庫では、僕が見たまんまの、うちの配達箱と怪しげな魔導具の山があったって。他には、うちや他のダンシュタの商会で集めまくった商品とかね。

 でも、踏み込んだはいいけど、どうやって逃げたのか、会頭はじめ幹部は誰もいなくって、従業員とは名ばかりの、ザドヴァで雇われた傭兵やら冒険者ばかり。彼らの言うのを信じるなら、踏み込む直前までは幹部たちもいた、というから、前と同じで転移の魔法陣を持つアクセがあったんじゃないか、って話していたんだって。

 でもね、あれって距離はすごく短かったから、きっとまだ近くにいるはず、と、かなり探したそうです。その捜索で時間が食ったうえに、結局不明、のままになってるんだって。

 少なくともうちの配達箱は、盗まれたもの。それを証拠として、残った人を捕らえて尋問中&商会は営業資格取り上げ、だって。まぁ、本店はザドヴァだし、ちゃんと営業していたわけじゃないから、あんまり痛手はないかもしれない、ってのが、ゴーダン達の意見です。


 すくなくとも、ゼールク商会がなくなり、表面的には平和を取り戻したってことで、商会のお仕事は優秀な番頭さん始め従業員さん達にお任せです。今は、ナッタジ製の陶器のお皿が売りナンバーワン、だって。


 そんなわけで宵の明星総出でこっちまでやってきた、ということなんだそうです。


 で、島に着いたら、なんかみんな大忙し、です。

 ママはね、バフマと一緒にごちそうを作るって言って、真っ先に消えちゃいました。

 ゴーダンはカイザーに用があるって、鍛冶小屋へ行っちゃいました。

 アンとヨシュ兄は、ミラ姉とご相談。


 ・・・・


 残ったのは、セイ兄とアーチャ?


 今まで何やってたの?と聞かれたので、採掘とか、狩りや採取のことを話してたら、アーチャ、狩りに行くって一人で行っちゃった。


 残りはセイ兄。


 なんかマジマジ見てるの。ちょっと怖い雰囲気?


 「なぁ、ちゃんと修行してる?」

 ハハハ、してますよ。ノルマの素振りと走り込みは、一応・・・・

 だって、終わるまでバフマは探検行かないって言うし。

 一度お寝坊したときは、バフマったら一人で行っちゃって、追いかけようとしたら、ミラ姉がノルマこなしてないからダメだって、採掘場につれてかれて、その日は一日採掘させられた。ミラ姉いわく、採掘は素振りと見なす、だからね。


 「ふうん。」

 だから、その目つきはだめだって。

 「なんか、成長してる感じがしない。」

 うっ・・・

 セイ兄曰く、僕ぐらいの年齢だと、ちゃんとお稽古すれば、ちゃんと強くなっていく、だそうです。でも僕を見た感じ、弱くはなってなくても、成長が見られない、って。会わない間にどれだけ成長してるのか楽しみだったのに、とっても残念だ、とか言うんだもん。

 人間、そんなに簡単に成長しないよ、ね?


 「僕が思ってるってことは、ゴーダンも思ってると思うよ。」

 えっと、一応僕の剣の師匠は、ゴーダンってことになってる。実際、そうだしね。で、サブにセイ兄。正直ものすごい贅沢な先生たちです。

 でね。

 僕のことを思ってくれてる、とは思うんだけどね、お稽古の時は、控えめに言ってオニです。そんな人達の前での素振りだから、まったく気を抜けません。ちょっとでも気がそれちゃったら、容赦なく追加。振りが甘かったら剣を弾かれるのは優しい方。実戦形式で稽古をつけてもらうとなれば、なおさらです。怒らせた後なんかで、修行だ、とか、稽古だ、なんて言われたら、いろいろ覚悟しなきゃならない。うちのメンバーは、叱るときに暴力は振るわない、とはいっても、実質このお稽古が、罰ゲームになっちゃってるんだよね。


 で、です。

 この島には二人の怖い目はなかった。

 一応、自分なりに真面目に素振りとかやってたつもり、だけどね。やっぱりどこかおざなりな部分、ってのがあったってこと、自覚してます。

 だから、つよく、ちゃんとやってた!て言えない自分が悲しい。

 たぶん、セイ兄は正確に僕の気持ちを把握したんだろうね。

 「お稽古、やろっか。」

 はい。僕はドナドナされる子牛ちゃんになりました。



 で、夕方。


 僕は、セイ兄にしごかれまくって、立てなくなって、ベッドに放り込まれたまま。

 そこへママがお迎えに来てくれたよ。

 「ダー、ラッセイと久しぶりにたくさん遊んでもらって良かったね。いたいのいたいの飛んでいけ~。お怪我は、もうないかな?ご飯食べれる?」

 う。僕はセイ兄に遊んでもらって、たのか・・・?

 ま、いいや。

 ママのお陰で、ちょっとだるさは残ってるけど、痛いところはないし。

 今日はママのごはん?うれしいな。



 僕が、ママと食堂へ行くと、みんな揃っていたよ。

 でね。

 「おめでとう!」

 みんなが、なんかきれいなお花を僕に投げかけてきた。

 え?何?

 「ダー、お誕生日おめでとう。こんなに大きくなってくれて、ママ、とっても嬉しい。」

 ギューと僕を抱きしめてくれるママ。

 誕生日?

 そっか、もうそんな時期か。

 え?ひょっとして、そのためにみんな来てくれたの?

 僕はびっくりしてみんなを見たよ。


 お誕生会、なんてのは、この世界ではお貴族様とか大商人ぐらいしかやらないんだ。でも、僕は2歳からずっとやってもらってる。あのね、2歳の時は、僕はとあるダンジョンにいたんだ。実はそこはひいじいさんがダンジョンマスターになってた、っていう不思議ダンジョン。昔々に栄えた人達がゾンビやスケルトン、その他の不死者になって、管理してくれてるダンジョンなんだ。で、そこで2歳を迎えた僕に、彼らは誕生会を開いてくれた。それを感動したママたちが、毎年「生きてくれててありがとう。」って誕生日会を開いてくれるようになったんだ。まぁ、3歳の誕生日っていうのが、ちょうど諸々問題を解決した頃ってのも大きいかもしれないけど。



 でも、今年は考えてもなかったな。

 誕生日とか忘れてたし、そもそもみんなバラバラだったし。

 でもね、今朝、生クリームとか小麦粉とか果物とか、いつもと違う感じにリュックから出して、ってバフマに言われたときは、スイーツ?と首を傾げたんだ。ママたちが来るからごちそうつくるって言ってたけど、本当はママたちに聞いてた誕生日ケーキをママと一緒に作るってのが目的だったんだね。



 みんな僕をキラキラした笑顔で見てくれてるよ。

 なんか、ゆっくりと嬉しさがこみ上げてきた。

 と、同時に視界がゆらゆら。

 悲しくないんだよ?とっても嬉しい。

 でも、なんか涙が・・・


 「もう。泣かないの。」

 ママが改めて僕をハグする。

 みんな、ダーは泣き虫だなぁとか言いながら笑ってる。

 僕は、ママに導かれるようにお誕生席へ。

 すっごい、ごちそうだ。

 バフマ、腕を上げたね。

 ママのスープも最高だ。

 久しぶりのみんなの笑顔。

 ママもにっこにこだ。

 僕も、たべられるだけご飯を口に放り込む。

 あ、今年のケーキは、蜂蜜たっぷりだね。ナスカッテまで行って正解だ。蜂蜜とフルーツの相性はバツグンだね!


 「アレクサンダー。こっちへ来てごらん。」

 食事も終わって、みんなが思い思いにおしゃべりしていると、なんか、改まった感じでカイザーが僕を呼んだんだ。

 何?

 みんな、僕に注目して、今まで以上にニコニコしてる。

 なんだろう。

 僕が近づくと、カイザーは後ろからあるものを出した。

 剣?


 それは、ちょっぴり短めの諸刃の剣だった。

 柄の部分は滑らないように十字になっていて、十字の交わったところに見たことのないぐらいでっかい魔石?前世でいうならアレクサンドライトみたいな石。僕の髪に似ている、僕の名に似ている、そんな石がはめ込まれている。


 僕は、まだ体が小さいから、短刀を普通の剣みたいにして使っているんだ。ほとんど魔法特化、だけど、剣も練習しているからね。魔法が威力がありすぎて使えない場合も多いから、剣だけでも戦えるように、っていうのが、ゴーダンの指示。

 練習用には木剣を削って使ってる。

 この剣はその木剣よりも少し長い。

 練習を始めたときよりも、僕の体は一応成長してるから、体に合わせて長くしてきてるけど、もう少し長くても使えるね、ってナスカッテからの帰り道、セイ兄やゴーダンと言ってたところ。



 「これは、パーティみんなからのプレゼントじゃ。この島でみんなで採掘した鋼でわしが鍛えた剣に、ここに来る前、ゴーダン達が狩った魔物の魔石、そして、ワーレン作の魔法陣を刻んどる。ちなみにデザインはミランダ。ワーレンの魔法陣を落とし込むのに苦労してたようじゃのう。この島に来て一番時間を割いてたのは、その作業じゃろ?」


 え?ミラ姉、事務作業がって引きこもってたの、これだったの?

 みんなの力でできた剣?すごいや。


 「おまえさんが大きくなってこれでは長さが足りなくなったら、また作るがの。これは道具じゃ。大切に使い潰す。これが短くて使いづらい、となるまで無事にこの剣があるのは問題じゃぞ。こいつが役に立つ間に、しっかり使い潰せよ。おまえさんの成長をみんなで祈っとるからのぉ。」

 僕は、カイザーの言葉をじっくりかみしめて、みんなに感謝しつつ、最高のプレゼントを受け取ったんだ。

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