第123話 子供の仕事

 カン、カーン、カーーン・・・

 ドシュッ、ドシュッ

 ハハハハ、タ・ノ・シ・イ・ナ・・・ハァッーー


 うん。

 マイツルハシ。

 思いっきり振り下ろして、岩を砕いて。

 知ってる?

 岩、って一言に言っても、いろんな種類の鉱石が入り交じってて、石の種類にもよるけど、違う種類との間が砕けやすいんだ。

 石によって、バラバラになるのとか、層っての?シート状に砕けるのとか。

 一見グレーに見える岩肌も、所々黒っぽかったり、茶色や白、金に銀、透明なのとかメタリックなのとか・・・

 そんな発見に楽しくってキャイキャイ騒いだ1日目。

 いろいろコツがつかめてきて、上手になっていくのが楽しかった2日目。

 スピードトライアルだったり、砕けた石のでかさにチャレンジしたり、まぁ、それなりに楽しめた3日目。

 ・・・・

 そして・・・

 ハァーーッ

 なんだか飽きちゃった・・・


 「ハッハッハッ。飽きたか。そうかそうか。」

 何故か愉快そうに笑うカイザー。


 ミラ姉はね、初日から何かに目覚めたみたい。

 今でもずっと、「これは素振りより断然良いね。」とか良いながら、剣術修行の様相だし。

 バフマは・・・

 いつも通り黙々とノルマをこなすのが、至上の楽しみ・・・らしい。


 「坊主。いいか、仕事ってのは、結局は同じことの繰り返しじゃ。違うように見えても、どんな仕事だって、同じじゃよ。飽きる、飽きない、なんてのを考える時点で仕事、というものに対する心構えがそもそも不足してるってことじゃ。」

 カイザーは、そう言うと、僕の頭を乱暴に撫でたんだ。

 「じゃがな、坊主はそれでええ。坊主の仕事はこれじゃない。いや、違うのぅ。んじゃからな。」

 僕が首を傾げるのを、さもおかしそうに笑うカイザー。

 まぁ、僕は、採掘師じゃないけど・・・

 「ホッホッホッ。勘違いしとるかのぅ。いいか、お前さんは、こまっしゃくれているし、実績を出していて、大人顔負けじゃ。じゃがな、大人顔負けって言われとる時点で、大人じゃないってことじゃ。つまりは、ガキなんじゃのぅ。」

 こら、そこ、確かにって頷いてるんじゃない!

 なんだか、他の二人が微笑ましそうに僕を見るのが、なんだか悔しい・・・


 「なぁ、アレクよ。知っとるか?子供の仕事は、のぉ、学ぶことじゃ。どんな世界でも、どんな身分だって、子供、というのは学ぶのが仕事じゃよ。学び方ってのは、それぞれじゃがのぉ。学校や家庭教師、みたいな形で座学する者。遊び、という形で、自分の立ち位置を学ぶ者。親や周りの大人に教えられる者。学ぶ、というのは、どうやって生きるかを吸収することじゃ。人間だけじゃない。動物だって、エサの捕り方や狩りの仕方、逃げ方を学ぶんじゃ。直接教える者を失った者ですら、敵や環境から生きる術を吸収する。いいか。子供はどうやって生きていくかを吸収するのが仕事じゃ。お前さんは子供で、たくさんの大人に守られ教えられている立場じゃ。まだまだ一つのことをやっていくだけの力はない。飽きることに耐えるだけの成長が出来てない。いや違うのぉ。お前さんは『飽きる』ことが許される立場にいるんじゃ。保護される子供の特権じゃのぉ。」

 再びのカイザーの高笑い。

 保護される子供の特権、かぁ。

 そうだよねぇ。

 いくら子供だって、これをしなきゃ食べていけない、ってなると、飽きた、なんて言ってらんないもんね。

 たくさんの大人に保護されて、わがまま言える環境に感謝だね。

 てことで、僕は鉱石掘りからの離脱!

 おや?


「じゃが、だからと言って、途中で放り出すことを許すか、と言ったら、それは別じゃ。子供は学ぶ。保護者は教育する。途中で放り投げん忍耐を子供に付けさせるのも保護者の仕事じゃ。ほれ、休憩は終わり。続けて掘るぞ。」

 その場を離れようとした僕の首根っこを掴んでカイザーがそう言ったよ。

 はぁ。

 まだ続けるのか。

 あぁあ、飽きちゃったんだよなぁ。



 ということがあったのが、4日目でした。


 そして本日は6日目。


 まだまだ続く採掘作業。


 あのね。人力なんです。

 たった4人。

 掘れども掘れどもたいした量にはならず。

 だってさ、使える金属はビックリするぐらい少ないの。

 しかも、ここの土地の良い点であり悪い点。

 使える鉱石が数種類混在してる。

 つまりは取り出せるそれぞれの鉱石量は微々たるものってこと・・・



 あのね、魔法で削ったら?っていう提案はしたんだよ?

 火、または火+風で爆破!

 そうダイナマイトみたいに。

 どう?

 無理みたいです。

 なんかね、岩場って上手く爆破しないと崩れる危険があるんだって。

 僕らが手掘りしてる時点で分かるけど、そんなに固い地盤じゃない。あ、岩として、ていう意味だけどね。無茶苦茶ふつうに硬いけど、ね。

 どうも、爆破!てなると、強さと方向、爆破する場所、もろもろの計算が必須、なんだって。で、その計算をする能力も、土地を調査する能力も、カイザーですら持ち合わせてはいない。それに爆薬で量を調整するんじゃなくて、魔法だとそんな精密な威力計算できるか?と言われて、即あきらめました。うん。僕じゃ無理。


 じゃあ土魔法?

 それも同様、地盤問題。

 むしろ、そっちの方が難しいみたい。

 それだけじゃなくてね、土の魔法は多少、土の性質を変えちゃうんだって。

 気にしたこともなかったけど、柔らかくした時点で、もう別物だし。

 魔力を使う、ってことは、この土地独特の持つ魔力が魅力の鉱石を狂わせちゃうってことらしいです。

 なんでもね、魔力と相性の良い鉱石なら、敢えて魔力を注いで性質を変える、なんていう力業にも対応するんだそうです。そういう使い方が出来るだけの吸収能力があるのに、土魔法で組成変えちゃダメ、ってことみたい。


 で、結局、人力でチビチビ掘るのが正解、だとか・・・

 やれやれ・・・



 とはいえ、カイザーからいったん今日で終了の宣言が出ました。

 やったー!


 チビチビとしか掘れないとはいえ、そこはチリツモってことで、6日も掘るとそれなりの量になってるようです。

 しばらくは、鍛冶小屋に戻って、まだ岩の段階の鉱石を、必要なものを取り出し、仕分けし、使える塊にするんだって。で、いざ諸々の武器や道具を製作開始、となるそうです。

 一応、まだまだ量は足りないはずだけど、今すぐに欲しい分は手に入るだろうってことらしいよ。

 後はカイザーが鍛冶小屋で作業するからってことで、採掘したかったらしてもいいってお話しでした。


 なんかね、ミラ姉は、朝の修行に掘るんだって。

 午後からは書類仕事みたいで、体を動かすのにちょうどいい、らしいです。

 僕も誘われたけど・・・・

 僕は・・・もうやだ。


 「だったら、ダー様は僕と食材の確保に向かいますか?」

 バフマは、島の探検をしつつ、食材になりそうな動植物から魚介類の確保に動くらしいです。

 僕も、冒険者(見習いだけど)として、護衛任務に就くとしよう、てね。へへ。

 ミラ姉がバフマに「ダーのお守りよろしくね。」って言ってたのが、納得いかないけど、明日からの探検、楽しみですっ。

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