第121話 エッセル島の探検

 翌日、カイザーは鍛冶で忙しいようなので、僕はミラ姉と、以前から気になってたところへ探検に行くことにしたよ。

 あのね、この島の反対側。

 海からは見たことがあるんだ。

 この辺りの海は、この島だけじゃなくて、大小の人の住まない小島がいっぱいある。海から出てる部分だけじゃなくて、海中、というのもおかしいかな、海底っていうのかな、とにかく、島じゃないとこも、起伏が激しいんで海流が複雑なんだって。だから、船の座礁ポイントとして有名で、普通はほとんど人は近づかない。

 だからこそ、ひいじいさんは隠れ家を作ったんだけどね。

 その秘密は、魔法、ではなく、魔法も使ってだけど、カイザーとドクの合作、ソナーシステム。単純に魔法の跳ね返りをキャッチして海底の様子を探るっていう、前世のソナーを魔導具化したものらしいけど、ひいじいさんの要望を図面におこせるカイザーとそれを魔導具に落とし込めるドクのとんでも技術がなければ、出来てなかったんだろうね。

 まぁ、ソナーの力に、メンバーの技術、そして船の硬度や技術力、そういった諸々のお陰で、僕らだけの島になっているんだ。


 現地の漁師は、この辺りの海域は魔物のせいで海が乱れる、なんて言って近づきません。だけど、魔物だって生き物。海流が厳しいと生存も厳しい。て、ことで、でっかい危険な魔物はほぼ近づかないよ。強いんだったらわざわざ苦労するような場所に住む必要がないのは魔物も人も一緒。むしろ弱い生物が、この過酷な環境を利用するように適応して、それなりにいます。大体は体の小さなのが多いかな?子供の遊び場としてはいいかも。岩場から釣りとか貝採り、海藻採りとかね。


 そんな島だから、僕らが侵入するルートはいつも使ってるルート1本なんだけど、島の周りを船で海側からぐるっと回ったことがあります。

 反対側は、切り立った崖になってて、どうも、海鳥が巣を作ってる。複数の種類の鳥がいるみたいだけど、お肉とか卵とか、獲ったらだめかなぁ?以前あれを見つけたときには、この辺りの島にはいっぱいいる鳥だって、ドクに聞いたんだ。



 「見に行くだけよ。どんな魔物が途中にいるか分からないから、私が帰る、と言ったら帰るのよ?」

 なんか、アンから宿題的な物を渡されて、ずっと籠もってるミラ姉だけど、息抜きに付き合ってくれることになりました。1泊2日。途中まででも、今日行けるだけ行って、キャンプして、明日はちゃんと戻ってくる。そうお約束しての、早朝出発。

 お泊まりだから、バフマも行くって。キャンプ設営は自分の仕事だって言うんだもん。まぁ、戦力的にもアップするし、バフマが来てくれたら進行速度も速くなるから嬉しいけどね。ていうのは建前で、本当はバフマが来てくれるとちょっと嬉しい。

 僕たちがお留守の間ミラ姉って、主にミモザで不屈の美蝶のお姉さんたちと行動することが多かったじゃない?やっぱり僕のことが話題になってたみたいで、僕のことを知らない人に会ったときに、、と思われるところまででせめて留まれる子に育てなさい、って言われたんだって。どうやら今のままだと、、て思われる、らしい・・・

 おかげで、ちょっとお小言が多くなってて、周りの人、どうやらミラ姉のこと、僕のお母さんだって思ってる人までいるみたいです・・・



 僕たちは、途中、カイザーに2日分のお弁当と、1泊2日行ってきますのメモを置きに鍛冶小屋に寄り道。

 そうして、いざ、反対側へ向かって、道なき道を進みます。

 うん。本当に道なき道。

 だってね、僕ら3人とも、初めての道、だからね。


 帰り道が分かるように、木にしるしを付けながら歩きます。

 ミラ姉が風の魔法で、ちょっとだけ目印替わりに、木の皮を傷つけます。

 なんかね、人差し指に小さな風の魔力を纏わす。

 木を撫でるような、実際はその魔力がちょっとだけ触れるような、そんな感じでほんのちょっとだけ、傷つけさせて貰うんだって。

 この程度の魔力ならミラ姉でも、1日中纏って、使っていけるんだけどね、ここでお勉強。これが簡単なことだと思ってはいけません。風の魔法使いでも、これでしるしを付けられるのは1時間。中堅でも3時間程度。単純に魔力量の問題。魔力量があっても集中力が切れてもダメだしね。

 使う時は、僕のことを知っている人の指示でやるか、もしくはバレないようにこっそりやること、だって。今見せて貰った方法だったら、木に手をついて一生懸命、またはふざけて、歩いてるように見えるから、練習しようってことになりました。


 うん。難しい。


 見た目、ミラ姉と同じぐらいに指に纏ってるって感じにするのは簡単なんだけどね。コップに飲み水を入れるぐらいの優しさでやれば、できる、って思ったし、できたように見えたんだ。

 なんかね、初めて水の魔法を使ったのって、ママにお水を飲ませようと思ったからだったの。だから、ママの手のひらに優しく水道から水を出すみたいに出せたんだ。だから、割と水は優しく出せる。ていうか、水を飛ばす攻撃、とか安定しないかも。もっぱら貯める的な使い方?それに水に関しては、ちょっと前世の知識に引きずられてるのか、他の人と魔法の使い方がそもそも違うっぽい。


 あとね、火はコントロールが一番うまい。ていうか、一番仕込まれたってのが正解かな?薪に火をつける練習、赤ちゃんの時からいっぱいやらされたよ。失敗すると一番危ないからね。木の多いところでは絶対にダメ、って小さい炎でも、それこそ種火でも、無茶苦茶怒られます。コントロールも使いどころも、一番練習した。


 逆に土はおおざっぱ。ほとんど力業しか使わないしね。


 で、風は、というと、ミラ姉が上手で、また格好良いし、戦闘にも便利ってことで、実戦には一番使うかな?ウィンドカッターはミラ姉のおはこ。発動するのも早いし、正確だし、ついつい戦闘中でも魅入っちゃう。で、真似して僕も使うから、結構上手になりました。ただちょっとばかりコントロールと適量の大きさ、は難しいけどね。ハハハ。実戦で使う=ついつい力が入っちゃう。てことで、一番だめ出しが多いのも、この魔法かな?



 魔法については、いろんな人にいろんなところで教わったりします。今みたいに、ね。

 この、指に纏わり付けて木にしるしをつける、なんて使い方は初めて。

 そうっと纏わり付けて、見た目は同じ感じの魔法を木に触れさせました。


 ドン!


 あれれ?

 なんでかな?向こうが見える・・・

 そういや、指舐めて、障子に穴を開けて覗く、なんてシーン、マンガでみたなぁ・・・

 何故か、そんな前世の遠い記憶がかすかに浮上しちゃったよ。


 でも、なんで?

 見た目同じだったのに・・・。


 「ちょっと、魔力が多かったかなぁ。もうちょっと減らしてみようか。」

 ちょっぴり凹んだ僕の頭を優しく撫でながら、ミラ姉は言ったよ。けど、ミラ姉と同じぐらいだと思ったのに・・・

 「次は頑張って、見えないぐらい薄くやってみよう?」

 僕は頷いて、さっきのところからゆっくりと消えちゃうぐらいまで減らしたよ。そこに風の魔力がある、って思わなきゃ見えないぐらいうっすらと。

 「うん、それで、そうっとしるしてみようか?」

 僕はそうっと、近づけた。

 一応、できた?

 ミラ姉みたいにきれいな線じゃなくて、厚さも幅もギザギザ。

 「うん、ダー上手!できたね。ほとんど魔力が見えないから私よりも使えるね。」

 ニコニコとミラ姉、嬉しそう。

 その後は、練習と魔力量の問題から、僕がしるしをつけての行軍です。

 うん。お昼ご飯の時間には、なんとかきれいな線がかけるようになったよ。

 でね。

 テントを設営する頃には、集中しなくても、そうだね、他のことを考えながらだけじゃなくて、索敵とかおしゃべりとかをしながらでも、簡単にできるようになりました。練習って大事だね。


 残念ながら、向こう岸に1日では着かなかったよ。

 途中で、いくつかの小型の魔物も出てきたしね。

 狩ったり、逃げたり、逃がしたりしながら、とりあえず日が傾くまで前進して、水辺を見つけてそこでキャンプです。


 何種類か狩ったけど、僕たちだけでは、確実に食べて大丈夫っていうのは、またまたのピノと、あとはルルルぐらいしかわかんない。分からないのは持ち帰って、詳しい人に聞くしかないね。

 あ、ルルルってのはね、何だろう、空飛ぶリス?

 顔は前世で言うコウモリみたいなネズミというか・・・あ、モモンガとか?サイズもそんな感じ。色は赤黒い。ちょっとね、色がね・・・

 森の中で木の上を滑空する感じ、なんだけどね。色がねぇ・・・あと攻撃方法。

 上から顔に振ってきて、ベチャッてくっつくの。で、窒息を狙う。こうなると無理矢理剥がすのはやばいんです。下手したら顔の皮ごと・・・

 だから、くっついたまま、背中から刺すか切る。だけど、顔にべっちゃりついちゃうから、被害者を傷つけずに、こいつだけを殺すのはかなりの腕がいります。まぁ、くっつく前にやっつけちゃえばいいんたけどね。

 で、その攻撃方法と、色が乾いた血液みたいなところから、みんなにとっても嫌われてます。不吉の象徴、みたいな?

 でもね、おいしいよ。

 てことで、今日の晩ご飯はルルルの唐揚げでした。



 翌日、僕らは、昨日僕が標した木のしるしをたどって、無事帰りました。行きと同じ感じかな?でも、帰りはちょっと早い。しるししないし、知った道だし、てことかな?

 帰ったら、カイザーが帰ってました。

 途中、鍛冶小屋に人の気配がなかったからそうかな、とは思ったんだけどね。


 「帰ったか!坊主、明日から、素材採りに行くぞ!」

 すでにお酒を飲んでできあがってたカイザー。僕らを見るなりガハハって笑いながら、そう言ったんだ。

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