第119話 道を切り開こう!

 カーン、カーン、カーン、

 ドドドド・・・・


 「オーライッ、オーライッ、オッケー!」


 我が前に道はなし、我が後に道は出来る、フフ、物理的にね。


 ハハハ、て、ことで、絶賛探検中です?


 今ね、僕とカイザーは、エッセル島中央部に向かって森、というか山というか、まぁ、そんなこんな樹木に覆われた場所を前進しています。

 カイザー曰く、植物の成長は早いね、ってことで、もともと道を作ってたらしいけど、今はすっかり周囲と変わらず密林状態。


 でね、カイザーってば、今の世では、ドワーフの凄腕鍛冶師。なんだけど、一応ひいじいさんと冒険者やったりして、ドクと同じS級持ってたりします。なんかね、ひいじいさんと愉快な仲間たち、いろいろと、あれなことやこれなことをやらかしていたようです。おかげで当時20歳そこそこだったゴーダンもA級だったり・・・何があったか、は、いろいろな秘匿事項があって、今のところ僕たちにも秘密だそうです。ゴーダンに「見習いが知って良いようなことじゃねぇ!」って怒鳴られた経験あり。僕だって好きでいつまでも見習いなんじゃないんだけどね。15歳まで見習い取れないって、なんとかならないのかなぁ。まだ10年だよ、長くない?


 まぁ、それはいいとして、今まであんまり戦いに参加してこなかったカイザー。僕、彼の力を見誤っていたよ。

 カイザー氏、今は絶賛2刀流。といっても刀を2本持つってわけじゃないよ。1本ずつ使うけど、2種類の違ったを振り回すんだ。ただし、今いるのが2種類だから2本しか背負ってねぇだけだ、って出発前に言ってました。

 そう、背負ってるんだ。背中にバッテン型にして。1つ両刃の斧。1つでっかい鎚。ハハハ、両方超重量級。僕は1本も手では持てなかったよ。重力魔法を使えば浮かせて運べるけどね。

 聞いたところによると、カイザーは何でも使う。曰く、鍛冶師が鍛えるもん使えんと、どうやって善し悪し判定するんじゃ!だそうです。

 「だったら、カイザーんとこの鍛冶師って、みんなどんな武器でも扱えるの?」

 「そんなことできるのは、儂だけじゃ。」

 うん、言ってることの矛盾はスルーが正解、だよね?


 ということで、カイザーってば、その場に必要な物を背中に担ぎ、相手に会わせて器用に持ち替えつつ、接近戦を行う、パワーファイター、だったようです。


 で、今なんだけどね、とにかく目的地に向かって、邪魔な木をカーン、カーンって数振り斧で叩きつけ、くるっとハンマーに持ち替えて僕に向かって倒します。

 それを僕は重力魔法を使って受け止めつつ、リュックに放り込む。

 そして、僕らの後には、立派な道が出来ている、って寸法です。

 まぁ、道っていっても、切り株残ってるからね。

 カイザーは雨でも土で汚れんから便利だろう、だって。切り株の上を移動する、が正解なの?でもさ、でこぼこのギザギザなんだけど?ま、いっか。



 ちなみに・・・


 昨日、到着して、色々お話し聞きました。

 バフマはね、あんまりその辺りは気にしてないみたいで、どこまで知ってたのかは謎です。

 一応、なんで、僕にここに隠れているように指示が出されたのかっていうと、この前のミモザでのゴタゴタが色々なところに影響を及ぼしているから、ってことのようです。

 ミモザの代官をしていたザワランド子爵が隣国ザドヴァの大魔導師リヴォルドの弟子ガーネオと色々やらかしてくれた、あの事件。ガーネオが無事?逃走したのだけど、その事件で使われた魔導具がいろんな意味でやばかった。てことで、この報告は国王の下にまで届けられ、色々調査されていたんだ。


 ゴーダン達が危惧したのは、そのとき、僕が結構な大魔法を乱発しちゃったこと。この髪と相まって、僕が魔導師として有望だろう、と目を付けられた、だけならまだ大丈夫だけど、すでに理解不能な魔法を使うヤバイ奴、認定されたのは間違いないってことで、僕の拉致はお約束だろう、ってことらしいです。

 なんでも、ザドヴァという国は魔法先進国、しかも軍事に絶賛利用中、な国だとか。しかも、なんかリヴォルドっていう、その魔導師のトップってのが、どうもドクのことを目の敵にしているらしく、その弟子としての僕を放置できん!となるはず、と、あのときドクが実はめちゃくちゃ焦ってた、ということのようです。


 なんかね、あの時点では、ドクがどこかで見つけた有望そうな子供を無茶な育成でもしてる、と思われただろうってことらしい。で、徹底的に僕がどこの誰かを隠すために、まずは国を出せ!となったのだとか。海に出ちゃえば接近遭遇なんて、とんでもなく低確率だもんね。実際、僕はドクごと消息不明、と相成りましたってことのようです。


 実際に、諜報筋がそういう情報をゲットしてきたところまでは、僕が戻る前に分かってたことらしい。僕の人相、ていうより、『濃紺に色とりどりのラメをぶちまけたような夜空の髪をもつ幼児』てのをザドヴァ国がこっそり手配してる、ということも含めて、の情報ってことだそうで・・・

 ハハハ、僕ってお尋ね者、ってこと?


 「なんとしてもダーを手に入れたい、というのが、リヴォルド、ひいてはザドヴァの意向のようです。こと、国の問題にもなりますし、万が一、ダーに何かあったら、ジネミアス王が黙っていないでしょう。下手に両国を刺激するよりも、ダー自体を隠した方が良い、宵の明星として、またあなたの保護者として、我々はそう決断しました。」

 ミラ姉が話してくれたけど、なんかいつの間にか話が大きくなってない?たかだか5歳児の動向に国が動くはずないでしょ?


 「なぁ、坊主。たぶんお前さんの価値について一番分かってないのはお前さん自身じゃな。下手するとな、ナスカッテ国も、お前さんの争奪戦に乗り込んでくるぞ。あっちは、樹海っていう目に見える案件も持っているからより切実じゃ。お前さんが、戦争したいって言うなら、みんなついてくだろうさ。だがそうじゃないんだろう?前世ではエッセルと同郷じゃったな?やつは戦後に産まれ、ずっと戦争のない国で育ち死んだ、と、聞いとる。奴より後の時代なら、戦争の残滓すらなかったんじゃないのか?本当に平和、という中で生きるのがどういうことか、というのは、この世でお前さんだけが知っている、儂はそう思うんじゃがのぉ。」


 僕は、前世の記憶がはっきりあるわけじゃない。

 でも、平和ぼけ、とまで言われた超平和な国で生きた、って思う。小さな女の子だって、深夜に一人でコンビニに行けるぐらい、超平和な国だ。魔物も出ない。強盗や変質者に襲われる心配も、ほとんどない、そんな国で、僕は生きたんだ。今の世界では考えられないような、夢の国・・・

 だってさ、親に殴られた、先生にひどいこと言われた、たったそれだけで、ビッグニュースになる国なんだよ?今じゃ考えられないね。他のチームの人に甘やかされすぎだ、なんて言われている僕だって、悪いことして怒鳴られたり、頭やお尻を叩かれたり、そんなのは日常茶飯事だもん。うちの人達はほとんど暴力を振るわないけど、それでもゼロってわけじゃない。前世とは本当に違うんだ。


 うん。平和な中を生きるっていうのがどんなことか僕は知ってる。そして、争いがいかに怖いかってことも現世を生きる僕は知ってる。僕みたいな子供が、人権なんか無視して簡単に戦争の道具になることも、うん、分かるよ。兵器としての僕を手に入れたい、僕の意志なんか無視して手に入れる、うん、その発想も分かる。僕にそこまでする価値があるのかは謎だけど、カイザーがそんな風に言うのなら、そしてみんなが僕を隠そうとするのなら、うん、それが正しい認識、なんだよね。


 「僕、みんなが良いって言うまで、おとなしくエッセル島にいるよ。」

 僕は、ちゃんと理解したよ?

 「ハハハ、良い子じゃ。じゃがな、おとなしくエッセル島にいることはいいことじゃが、エッセル島でおとなしくする必要はないぞ。」

 ニカッ、といたずらっ子のようにひげ面のおじさんは僕に笑いかけたよ。

 そうだね。

 僕はしばらくこの島で大冒険をするんだ!



 そして、今日。

 僕とカイザーは、新たな道を、(物理的に)切り開く・・・

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