第118話 逃避行、には、したくない
バタバタと用意をして、僕とミラ姉、カイザー、バフマは馬車で出発したよ。
このあと、居残り組は、3回夜を迎えて、4日目の朝には、アンを中心にヨシュ兄、セイ兄、そして憲兵さん達がゼールク商会へ乗り込むんだって。はぁ。
僕らは、かなりのスピードで街道を進みます。
どのくらい早いかっていうと、魔物が出てきても、基本無視、なぐらいです。
僕は、多分、念話の応用で、人間に、というか、僕に心を開いてくれている魔物と、お話しできるみたいです。これはね、赤ちゃんの頃に気づいたの。家畜化されている子なら、ほぼ大丈夫。でも、頭の良さとか、感性とかが関係するのか、喜怒哀楽とか、お腹すいた、とか、ここが痛い、とか、そんなぐらいを言ってくるだけの子から、ほぼ片言会話できるよ、まで、レベルは様々です。
馬車を曳いてるシューバはね、とってもおしゃべり。
一番最初にお話ししたのも、シューバだったな。
で、僕らのこのスピード、シューバとお話しできるからこそのスピードでもあります。僕たちはあんまり人と会わずに、できるだけ急いで行きたいんだ、って言うと、2頭で引っ張ってくれてるシューバが、二人で相談しつつ、自分たちができる一番良い感じの走りで、良い感じに休みを要求しつつ、突っ走ってくれます。ご飯が欲しいとか、お水が欲しいとか、暑くてダメ、休憩!とか、自分たちから言ってくれるから、効率が良いの。
ミラ姉は僕がこんな風にシューバの気持ちを聞いて、指示するのを当然のように受け入れてくれるので、もっぱら御者はミラ姉なんだ。バフマも替わるって言うんだけど、僕との連携がまだまだです。
道中、僕はシューバとおしゃべりするのに、シューバの背に乗ったりもするんだけど、どうもそれがひやひやするらしくて、上手に操れないんだもん。別に鞍なんてついてなくったって、シューバが僕を落とすはずないのにね。
僕らは飛ばしに飛ばして、なんと3日目の夕方にはトレネーへ到着です。普通は5,6日かかるんだけどね。シューバって臆病なんだけど、その分索敵が上手。魔物ともほぼエンカウントせず、人がいる休憩ポイントは使用せず、突っ走ったおかげ、です。
一応、トレネーでは自分たちのおうちにお泊まり。
でも、翌朝はまた早々から、海岸線に向けて出発です。
誰にも会わなかったけど、なんだか僕ら逃げてるみたいで、ちょっと憂鬱。
これは、アンの指示。
だけど、なんでかはエッセル島についたら話す、ってことになってるんだ。知らないのは僕だけか、バフマとかカイザーは知ってるのかな?ミラ姉は知ってるみたい・・・
エッセル島に行くには、本当はミモザの港から出たら簡単なんだけど、ミモザは通らずに、昔ひいじいさんが作ったという、ドッグを使って出ます。ミモザにほど近い海岸線の崖下にあるの。
まだ若い頃のゴーダンがひたすら崖を削らされた、らしいです。
エッセル島の行き来は、いつも使う場所。この前ミモザから出入りしたけど、あれは本当に初めてのことだったんだって。このドッグは内緒にしていた場所だったけど、しっかり国や領主にバレてたことが分かったしね。でも、今は黙認して貰ってます。
そうそう、ミモザまでの道中、大物が出たよ。ピンクーター。ショッキングピンクに青で模様のついた象サイズの猫科っぽい魔物。なんと、僕とミラ姉で、倒しちゃったよ。
この前覚えた白い魔法、どうやら、魔物の動きを鈍らせる性質もあるみたい。素早いはずのピンクーターの動きを鈍らせて、まずはミラ姉の風の魔法である程度弱らせたら、僕がゴーダン仕込みの土の弾丸で急所を狙います。
ほとんどそれで動きが止まったよ。そこへミラ姉の剣技炸裂!
大人の親指大の魔石が取れました。他の素材も、みんなで頑張って採取したら、ちゃんと穴掘って、埋めるまでが狩りです。
まぁ、そんなハプニングもあったけど、無事ドッグへ。
エッセル島は、かなり海流が難しい。岩場の中だから、ってのもある。
いつもはゴーダンが操縦するし、ちょっと不安だったけど、なんとカイザー、ゴーダンレベルの腕でした。
「そもそもこいつは儂が作ったからのぉ。」
そうでした。まさかのエッセル号の産みの親はカイザーでした。
今回のエッセル島滞在で、カイザーは念願だったエッセル号のヴァージョンアップをする気満々です。
「アレクよ、採掘はやったことがあるか?」
エッセル島へ到着して早々、カイザーが聞いてきます。
採掘?なんだろ?
「岩を掘って金属を得るんじゃよ。ここにはちょっとした希少金属の採掘場があるでのぉ。」
え?初耳なんだけど。
エッセル島。
以前、1ヶ月ぐらい逗留したし、そのあとも何度か短期だけど遊びに来てる。でも考えたら、船着き場と屋敷の往復しかしてないや。そんなに大きな島じゃないし、なんていうか、山と木、みたいな何にもないところだし・・・
そんな風に思ってたけど、ほとんど探検もせずに決めつけてたって、今、気づいたよ。
実際、人の通れる道なんて、船着き場から屋敷しかない。屋敷の裏に魔法の練習が出来るような広場があって、ここに来たら、ひいじいさんの地下室に入り浸るか、広場で魔法の練習をするか、だもんね。
ご飯になる、小さな魔物は棲んでるし、それを狩りにいくぐらいはしたけど、他はどこも知らないってことに、カイザーの発言で気づいちゃいました。
「森の奥にの、採掘場がある。その近くに儂の仕事場をつくっとる。見たいか?」
「うん、もちろん!」
なんとなく、ここに引きこもらされた感があって、ちょっぴり拗ね気味だった僕だけど、なんだか楽しくなってきた。
この島に閉じ込められるんだったら、この島を冒険したらいいんだよね。
うん、明日からは冒険だ!
で、その前に・・・
エッセル島の隠れ家についた僕たちは、一息つくとリビングに集合。
僕は、ミラ姉のお話しを聞く気まんまんで、椅子に座ったんだ。
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