第112話 盗難事件発生!
「坊ちゃんはだぁめ。」
「いいじゃない。僕も行くって!」
「リュックは使いません!」
「じゃあ引っ張らせてよ。」
「だぁめ。ダー様はお留守番です。」
「僕も行くの。」
「心配しなくても、僕らだけで大丈夫だって。」
「ついていくだけでもだめ?」
「もう、そんな顔しないでよ。そうだ。ダーちゃまの手形で手を打とう。」
「あ、いいね、それ。」
「そうだね。手形くれるならついてきても良いよ。」
「何?手形って?」
早朝から僕たちは大騒ぎ。
何かって?
久しぶりにダンシュタへの牛乳配達に出動だ!て早起きしたら、今日の当番のみんなが僕はきちゃダメって言うんだ。当番は決まってるし、リュックなくても配達できる、だってさ。僕はお邪魔、なの?
ちょっぴりごねたら、何か渡せばついていってもいいってことなんだけど、手形ってなんだろう?ま、みんなが僕に無理は言わないと思うから、一応OKして、ダンシュタの町へと出発です。これ以上もめてても、時間遅くなって、大人たちに叱られちゃうからね。
で、道々、手形って何?て聞いてみました。
まず思いついたのは前世での怖いマンガ。手形ってなんか借金みたいなやつ?よくわからないけど、なんたら金融みたいなのが手形を売ったり買ったりしてたような・・・
まさか、みんなが僕に借金させようなんて、違うよね?
そんな心配してたら、どうやら違うみたいでした。
手形は手の型だった。
ほら、一番最初、僕が作ってもらった焼き物って、魔法陣を写すためのペンダントだったでしょ?まさかの、陶芸には、あれが必須だって思われたみたい。そういや、できあがったお皿、見せて貰ったやつ全部、何かの模様が押されてたよ。
で、なんでも、押す物を思いつかなかった人達が、手形とか指型を押しつけて焼いてるんだって。で、先日ある村人が、自分の手形を押したお皿を渡してプロポーズしたんだそうです。それからは、自分のだって標しのためとか、好きな人のとか、そんな手形とかをお皿につけて焼くのが流行ってるんだそうです。で、なぜかみんな僕の手形を欲しがったってわけ。そりゃお安いご用だけど、なんでそんなの欲しがるのかなぁ?自分の手形の方がもっとオリジナリティ出そうだけど・・・
「ダーちゃまのっていうのがいいの。」
「この手形持ってるぞって自慢できるからな。」
よく分かんないけど、ブランド感?いやいや僕の手形にそんなの・・・
て、そんなのでみんな喜んでくれるなら、ひょっとして、あのプランすすめようかな?フフフ。帰ったらカイザーに相談しようっと。この考えは、前世の世界を知らなきゃ理解してもらえないと思うしね。何かって?フフフ。秘密。
僕らは、わいわいとおしゃべりしながらダンシュタについたよ。
荷車は鮮度維持のためにVIP用の門を通してもらいます。この光景もダンシュタでは当たり前になっていて、なんか嬉しいね。
子供たちが曳く荷車がゴトゴトVIP門を大きな声で挨拶しながら通り過ぎる、もう立派なこの町の名物です。
「おや、坊ちゃんじゃないか。帰ってきたのか。」
顔見知りの門番さんが、声をかけてきたよ。
「ただいま!」
「おう、おかえり。そうだ、悪いがちょっと詰め所に寄ってくれないか?」
「なぁに?」
「あ、・・・商会の人に聞いてないか?まぁ、とにかく頼むわ。」
「?分からないけど、分かった!」
僕は首を傾げながら、門を通り抜ける。
気がつくと、ちょっとおしゃべりしている間に置いてけぼりだよ。みんなに知ってるか聞きたかったのに、なんだよ・・・
僕は仕方ないなぁ、とか言いながら、門番さんのいう詰め所、つまり憲兵さんの詰め所に向かったんだ。
詰め所にはほとんど人がいなかったけど、よく知ってるジップっていうお兄さんが留守番してた。昔、いろいろ遊んで貰ったお兄さんなんだ。
でね、彼は僕を見るなりびっくりして、中に入れたよ。今は僕がAランク冒険者ゴーダンの見習いで、この町一番の商会の息子って知ってるしね。だからって、そんな、急に引っ張り込まなくても良いのに。
「ジップのお兄さん、痛いって。そんなに引っ張らないでよ。」
「ああ悪い。で坊ちゃん、すまない。まだ分かってないんだ。鋭意捜査中ってやつだから、もうちょっと待ってくれ。」
?
なんの話だろう?
僕が首を傾げたのを見て、
「ひょっとして、分かってない?」
だって。だから何の話?
相変わらず、先走るお兄さんです。
「実は、ナッタジ商会が貸してる?のか?その配達箱だかの盗難が相次いでいる。」
「配達箱が?なんで?」
「なんでって、そりゃすごい魔導具だからだろ?」
「でも、あれ魔力登録してないと使えないよ?」
配達箱。牛乳を配達する際、入れておく箱を定期購入者に配布してるんだ。定期の売り上げが見込める上に、外に置いて貰ってるから、宣伝効果も抜群。使うには魔力の登録が必要。だから、盗んだっていまいち意味ないはず、なんだけど・・・・
「使えない?」
ジップのお兄さんが首を傾げたよ。
そっか。貸す人にはちゃんと言って、魔力登録して貰ってるけど、一般には知られてないのかな?別に内緒にしてるわけじゃないし、広めて貰った方がセキュリティ的にもいいから、営業の時にはしっかり説明して貰ってるはずだけど・・・
僕はそのへんのことも説明したよ。
「そっか。それは知らなかったな。しかし、あれだけの魔導具だ。表に放っておいたら、そりゃ欲しがる奴も出てくるぞ。」
うーん。タダで貸してるし、ある程度は固定してるんだけどなぁ。
「まぁ、憲兵みんなで犯人捜ししてる。じきに捕まえるさ。」
「うん。」
でも、別に僕だけでもいいけどね。
えへ。一応ちゃんと仕込んでます。いわゆるGPSの魔法だね。どこにあるかは、僕が把握できるようにしてるんだ。これは秘密の機能。一応、これ作ったときの宵の明星メンバーと、番頭のクルスさんだけが知ってる。
僕は、ジップさんにお礼を言って、商会に急いだよ。
商会に行って、詳細を確認しなくちゃね。
で、どこか集中できる部屋で、配達箱の所在地をチェックするぞ!
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