ナッタジ商会編

第111話 ナッタジ村はすごいです

 「うわぁ、すっごぉい!」

 「ちょっ!ダー危ないって!」

 セイ兄に怒られるけど、僕は走る馬車から思わず飛び降りちゃったよ。

 ほんと、すごいんだから!!


 トレネーから僕ん家ぼくんちに向かう途中、ていうか、ほぼほぼ僕ん家の直前に、元は名もない村、今はナッタジ村なんて言われている小さな集落がある。

 で、ナッタジ家の畑があって、集落と畑と僕の家以外のところは全部森だったんだ。僕がお出かけする前はそんな感じ。

 なのにね、その畑と家の間にすごいものができてたんだ。

 煙がもくもくしてるよ。

 そう。

 前世で見たのと同じ。ううん、たぶん前世でも実物は見てないと思う。

 そこには、でっかい、そうだなぁ、ちょうど馬車の荷台ぐらいのサイズの窯がデーン!てできてたんだ。


 すごいすごいすごい!

 僕は大興奮だよ。

 だって、ね、僕がちょっと離れている間に、こんなすごいのできてるんだもん。

 ドーム型っていうの?ちょうどネイティ山のカマクラっぽい形?

 煙が出てるってことは誰か何かを焼いてるの?うわぁ、見てみたいなぁ。


 って、思ってたら、誰かが首根っこ掴んできたよ。て、セイ兄だ。

 「ったく、走ってる馬車から飛び降りたらダメだろ。」

 「ごめんなさい。でも、ほら、これ!」

 「うん、確かにすごいなぁ。」

 セイ兄は小さいの作ってくれたからね、このすごさ、わかるよね。

 セイ兄は、僕を普通に抱き直してくれたから、顔がすぐ前に来たんで、思わずハイタッチしたよ。


 「これは、立派なもんじゃなぁ。」

 あ、カイザーだ。子供たちも、馬車が止まったから走ってきたみたい。

 ママもにこにこしながら、やってきたよ。

 「すごいでしょう。ダーが教えてくれたからね。」

 「これどうやったの?僕の話だけじゃ無理だよね。」

 「エッセル氏のノートにヒントがありましたからね。」

 そう言ったのは、御者をしていたヨシュ兄だ。

 「ノート?そういや、陶芸やりたいなって、考察あったね。」

 僕も、それをヒントにしたんだった。

 そのノートはおうちに置いてたから、見れるとは思うけど、日本語だよ?

 「窯に関しては、絵もありましたしね。それにダーが翻訳してくれたのあったでしょ?あれを参考にちょっと勉強しましたからね。」

 ?

 翻訳?

 僕、陶芸のノート、翻訳なんてしてないよ。

 「ほら、簿記のノート。」

 ああ。


 ひいじいさんは、ノートにたくさん前世の知識を日本語で書いて残してくれていたんだよね。それらはあちこちの隠れ家に点在してて、それを見るのも僕の楽しみだったりする。前世の知識だけじゃなくて、こっちの知識もあんまり大っぴらにしたくないのは日本語で書いてたり・・・


 で、この本宅っていうのかな?ナッタジのお屋敷の地下にある秘密の部屋で、僕は商売の知恵、みたいなノートを見つけたんだ。そこには複式簿記、っていう、この世界にはない商売の帳面の作り方を書いたのもあったんだ。

 その方法で帳面を作ると、色々分析が出来る。こっちの世界だと、勘だけを頼りに仕入れたり売ったりするからね、分析、なんて発想はまだないんだ。

 僕だって、前世ではそんな知識なかったけどね。国語の時間に漢字テストで「帳簿」とか「出納」なんて読み方出たなぁ、ぐらいかな、エヘッ。

 でも、技術畑だったひいじいさん、どうも資格マニアっぽいのか、それとも、なんでも知りたがり屋だったのか、あちこちいろんな知識を持ってたっぽい。さすが、定年後も余生をたっぷり楽しんだ、なんて言えるだけ生きてただけのことはある、ということかもしれないね。


 で、僕はこの複式簿記を初めとする、ひいじいさん特製商売便利ノートを、ヨシュ兄やママに請われて翻訳したんだ。こっちの言葉で写しただけなんだけどね。

 それが、ナッタジ商会のバイブル的に、今はなってる。番頭のクルスさんなんかは、自分も覚えたいし、とか言いながら、自分で書写して大切に持ってるみたい。


 でだ。ヨシュ兄、マジ天才すぎです。

 どうやら、この僕の翻訳ノートを原本とすりあわせながら、日本語をちょっぴりマスターしたみたいです。もちろん読み方なんかは分からないけどね。文字情報をピックアップして、すりあわせつつ、陶芸のノートを解読した、らしい・・・もちろん完璧とは言わないけど、辞書もなしだよ?

 で、この窯、作っちゃって、おまけに使ってる、っと。


 今は、村人もこの窯を使ってるらしいです。新たなナッタジ村の名物にするって、張り切ってる人達もいるんだって。

 この世界、食器は木や石をくりぬくってのが定番だからね。あとは魔物の素材を加工したり、とか。

 あ、貴族とかは、金属製もあるけどね。

 陶磁器なんかは、前世でもチャイナなんて言ってたし、育たない地域ってあるのかもね。魔法があるから、石や金属の加工が簡単っていうのも、陶芸が産まれてない理由かも、です。あ、でも世界のどこかにはあるかもね。


 今、焼いているのはさすがに見れないけど、おうちに戻ればいっぱいあるよってママが言うから、僕たちは、慌てておうちに帰ります。って言っても、とっくに見えてるけどね。

 アハハ、僕らが帰ってきたのを見つけた、元奴隷のみんなや、村の人達がいつの間にか、門や庭に集まっているよ。


 「ただいま!そうだ、今日はみんな航海中に捕まえたお魚を食べさせて上げるよ。夕飯時に、集まってね!!」

 僕はそんなみんなに手を振りながら大きな声で、誘ったんだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る