第106話 帰国

 ドワーフが多い職人の町ジブの集落で2泊して、僕らはまた船に乗ったよ。


 カイザーは集落のリーダー的な存在で、そんな人が町を離れる、って言ったら、ちょっとばかり大騒ぎになりました。でもね、昔、ひいじいさんたちと冒険してたから、不在には慣れてるって。カイザー談だけどね。


 実はカイザーにはお嫁さんも息子さんもいました。でね、前にひいじいさんと旅に出るときにその息子さんに家督は譲ったんだって。息子さんの名前はカエサル。って、同じ名前じゃん。カイザーが戻ってきたときに、自分は隠居じゃ!て、趣味だけで物作りをしている、ってことらしいです。カエサルさん曰く、カイザーは引退していると言い張って、趣味のものしか作らないけど、それがすべて国宝級だから、好きにさせてる、んだそうです。いやぁ、よくできた息子さんだね。


 カイザーは趣味だから、一生懸命打ち込める、オーバーテクノジーを詰め込めるって言ってます。実はこの船、相当オーバーテクノジーらしいです。うん、なんかそんな感じはしていた。

 カイザーってね、前世で専門は動力機関の設計だったんだって。だからこの船には魔法だけじゃなく、前世の科学技術も使ってる。でね、そこに(カイザーからしたら)未来人のひいじいさんの知識もくっついて、相当すごいことになってる、らしいです。

 ひいじいさん、家電メーカーで基板の設計に関わってたらしいです。カイザーとはそういう話もできたみたい。他の人じゃ分かんないもんね。僕もそっちはちょっと、ね。始めてドクにあったとき、催眠療法の一つで逆行療法を使って前世の記憶を探ったことがあったんだけどね、どうも僕はまだ就職する年齢の前に死んだんじゃないかな?って感じだったから、二人みたいにプロフェッショナルな会話は出来ないのが残念です。


 「じゃが、アレクにはマンガやゲームの知識はあろう?平和な世界で生きるのがどういうことか、ってのも分かってる。違うか?」

 僕が残念だなぁって言ったら、カイザーはそんな風に話したよ。

 「儂は、戦争の真ん中で生きて、死んだ。平和には憧れていたが、実感なんてもんはなかったよ。エッセルは、戦後の復興を生きた。そう聞いちょる。日々、進化する、自分たちの世界が楽しくて、どんな仕事も苦にならなかったと言ってたぞ。無事、定年退職した後は趣味三昧。そのうちの一つがゲームじゃったらしいぞ。お陰で、こっちで前世を思い出した時は有頂天になったと言っとったよ。まだまだ人生で遊び倒せる、と思ったそうだ。奴はなんて言っとったが、頭も体も精神も、子供の頃から鍛えまくったようじゃ。それが楽しくって仕方ない、なんて言っとったのお。」

 「フフフ。本当にゲームのつもりだったんだね。」

 「とにかく、楽しめ。いや、一緒に楽しもう、そう言われ続けてのぉ。そのときに、仕事じゃなくて趣味なら全力で打ち込める、そう教えられた。お前さんに生きる目標は幸せになることだ、なんて、言われて、奴の影を見た気がしたよ。」


 そっか。ひいじいさんってば、人生を一生懸命だったんだね。

 僕は漠然とママと幸せに、なんて考えてたけど、そうだね、生きることを趣味にして、思いっきり楽しんでいこう。せっかくゲームみたいな世界に生を受けたんだから、みんなと一緒に楽しめば良いんだね。


 僕がそんな風に思ってたら、カイザーが思いっきり頭を撫でてきたよ。

 「のう、アレク。思いっきり遊ぶぞ!」

 「うん!」



 出港して2日目の朝。

 僕は、船の甲板に立って、まだ見えるナスカッテ国の海岸線を見ながら、この国で会った人のことをぼんやり考えていたよ。

 ほんと、いろんな人に会ったね。

 獣人族、エルフにドワーフ、精霊に妖精。初めて見る魔物に障気の塊のような樹海。

 ひいじいさんに繋がる人々ともたくさん出会って、さらに、なんてめちゃくちゃな人だ、って思い知らされて。

 僕は、自分の口から出る白い息を、ぼーっと見ながら、考える。

 やっぱり、ひいじいさんってば、僕のヒーローだ。


 ひらり


 ん?


 白い息に混ざって、花びらのような白いかけら?


 あ!雪だ!


 結局、見られなかったね、なんて、チビッコズで話していたんだけど・・・!


 ひらひらと白い欠片が空から落ちてくる。


 「みんな、雪だ!起きろ!」


 朝早くて、まだ子供たちはハンモックの中。

 僕は、みんなをたたき起こして、再び甲板へ。


 「うわぁ。」

 「冷たい。これ食えるのか?」

 「氷とは全然違うね。」

 寝ぼけ眼が、あっという間にパッチリだ。

 みんな、馬鹿みたいに空を見上げてるよ。うん、僕も含めてね。


 気がつくと、大人たちも集まってきた。


 上を見てると、なんだか吸い込まれそうだね。


 僕は、みんなを見回す。

 ハハハ、ずいぶん増えた。

 初めは、僕とゴーダン、ドクにセイ兄。

 ミモザで、虐殺の輪舞にナッタジ村の3人の子供たち、そしてバフマに騎士組。

 これだけで、出国して異国へと旅だったんだ。

 そのあとにアーチャが入り、エアもついてきて、最後はカイザー。


 ハハハ、いろいろ行ったのに首都は散々だったね。

 結局、見物できず、逃げるみたいに出港しちゃった。

 でも、またリベンジするよ。

 まだまだ僕の遊びは始まったばかり。

 ひいじいさんに負けないぐらい、この世界を遊び倒すんだ。

 趣味だからこそ一生懸命、手は抜かない。そうだよね、ひいじいさん。

 この白いひらひらがエッセルじいさんからのエールみたいに、僕は思うんだ。



 雪が降ったり止んだりする中、船は進む。

 雪が降り出してから、魔物はあまり出ない。

 お土産のストックはいっぱいできたから別に良いけどね。

 

 それから10日近く。

 雪がもう降らなくなって3日。

 遠くに海岸線が見えてきた。

 僕らの国。ミモザの海岸線だ!

 みんな元気かな?

 海の照り返しでキラキラ見える、僕らの産まれた大陸。

 みんなただいま!

 物もお話しもいっぱいお土産あるんだ。

 僕たち、帰ってきたよ!! 

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