第105話 転生者
僕らは海に出て、順調に南下です。
うん、順調。
良い感じに、おいしい海の魔物も飛び込んでくるし、食材も増えて運動も出来るしね。退屈もせずにちょっぴり寒く感じる海を南下です。
海岸線は相変わらず切り立ってるね。
トゼの沖を過ぎてちょっと行くと、内陸部は切り立った山みたい。
ゴーダンとドクが、上手に舵を取ってるんで、僕は魔力の補給につきっきりです。あんまり急いで急速充電をしちゃうと、バッテリーを傷めるんだって。ハハ、なんかスマホの充電の注意事項みたいだね。
僕には違いは分からなかったけど、二人はどうやら何かを見つけたみたいだよ。舵を切って大陸に近づくと、どうやらたくさんの岩でカモフラージュされた場所。気をつけないとすぐに座礁するんじゃないかってドキドキするみたいな岩場の奥に、船が余裕では入れる洞窟がパックリです。ゴーダンはそのなかに船を進めたんだけど、うわぁ、びっくり。エッセル島のドッグと似た感じになってるよ。
「降りるぞ!」
ゴーダンのかけ声の下、下船した僕らだけど、少なくともエッセル島に上陸した人なら、同じ造りだって分かるよね。
「こっちが元だ。」
って、ゴーダン。
そうなんだ?
「まぁ、この船はここから出港したんだからな。」
ええーっ!
「ハハハ、まぁ、行けば分かるさ。」
ゴーダンはそういうと、どんどん坂を登ってく。こんなところも一緒。ドッグからはきれいに整備された馬車が通れそうな道が上へと続いている。
そして・・・
島と同じように、森の中に出たよ。
今回はシューバがいないから馬車はおあずけ。
僕らは徒歩で森を進みます。
体感で1時間ぐらい歩いたかな?
道なき道を歩きます。うん。馬車が通れそうな道は、洞窟となったドッグの入り口まで。あとは森にかき消されてました。
1時間ぐらい歩くと、森はどんどん緑を失い、なんだか岩の砂漠みたいになってきたよ。
そして、さらにもう少し歩くと、集落だ!
集落のあちこちからは、モクモクと煙が立ち上り、なんとなく火が燃える匂いが充満してるよ。
一応、低い柵が集落外構に張ってある。けど、あちこち壊れてて入り放題かな?門に門番さんらしき影もない。そもそも、門番さんの詰め所とかもなさそう。
そんなに人通りが多いわけじゃない。
でもなんだか違和感?
て思ったら、会う人会う人、ほぼドワーフ族だ!
ここってドワーフの集落なの?
「そういうことじゃな。ドワーフは物作りが得意なもんが多い。この町は鍛冶や木工、金細工等で成り立つドワーフの集落じゃ。名をジブの集落という。」
そう言われて、いくつかの商店や露天を見ると、確かに見事な細工物。日常の食器から武器・防具にいたるまで、思い思いに販売しているみたい。
多種族はそれを買い付けにきたお客さんが中心かな?ドクによると、あとは気に入った職人さんに弟子入りする他種族もいるんだって。
「こっちだ。」
僕らみたいな異質だろう集団が歩いていても、さほど気にされないってのもちょっと新鮮。
ゴーダンの引率でどんどん集落の奥地へと進んだよ。
この集落はちょっとした山肌にあるのかな?奥ほど坂の上になっている。
なんか、ごつごつとした岩肌に張り付くような建物がポツポツと出てくるのが見えた。
そんな、山肌にくっついた建物の中でも、一番集落から離れてそうなとある建物。煙がモクモクと出ている建物にゴーダンってば、ためらいもせずに入って行ったよ。
「仕事中じゃ。誰も入るなと言っておろうが!」
僕らがゴーダンに付いてゾロゾロと建物に入ったら、大音声で地面が響くぐらいの声がしたよ。もう、僕らはビクッだよ。
「ホッホッホッ。相変わらずじゃのぉ。」
そんな大声を意にもかけず、ドクが中に声をかけたよ。
「ん?その声は?」
言いながら、奥から出てきたのは、いかにも、な、ドワーフのおじいちゃんだった。
「やはりワージッポか。久しぶりじゃのぉ。なんじゃ急に。それもゾロゾロと。」
「なぁに、おぬしがもう死んだかと、様子を見に来てやったんじゃよ。」
「ぬかせ。先にくたばるのはそっちだろうが。ん?ゴーダンか?」
「おお、久しぶりだなぁカイザー。元気そうで何よりだ。」
「まぁいい。入れ。」
どうやら、二人とは既知の間柄らしいね。
僕らは招かれて、ゾロゾロと中に入って行ったよ。
入ってすぐは、応接スペースかなソファセットな感じのが置かれてる。
その奥は、鍛冶屋さん!
数名のドワーフと1名の獣人族の人が一生懸命、火の番をたしり、トンテンカンテンと槌を振るったり。
僕らは、応接スペースと鍛冶スペースの間の階段を登って、居住スペースにやってきたよ。
上がってすぐは、ダイニング?
まぁ、何人も座れるでっかいテーブルがある広場、かな?
後は左右にいくつかの部屋があり、お泊まりが出来るんだって。
ちなみにお弟子さんは通いだけど、お仕事によっては泊まり込みが必要だから、彼らの仮眠のための部屋も用意されてるって言ってたよ。
「しかし、雁首揃えて珍しいのぉ。しかもちびっこいのがいっぱいじゃ。」
怖い顔が歪められる。
怒ってるのかなって思ったけど、どうやら破顔してるらしい。なんだか、ドワーフってね、総じて子供が大好きなようです。
小さければ小さいほど愛でるのか、彼の視線が僕で止まったよ。
「坊、その髪を見るに、苦労しそうじゃのぉ。」
わぁ、びっくり。
この大陸に来て髪のお話しはあんまりなかったんで、最初に触れられて、久しぶりに身構えちゃったよ。
「そんなにかまえんでもええ。ん?もう魔法の道が通ってるじゃないか。なんて無茶な。」
ハハハ、久しぶりだね、そのネタ。ゴーダンがちょっと小さくなってるよ。
「まぁ、いろいろあったんだよ。」
「なんじゃ、ゴーダン、なんか知っておるのか。」
「・・・俺が通した。こいつがまだ1才になる前だ。」
「なんじゃと!馬鹿かおまえは!こんなめんこい子になんてことを。良くここまで生きていられたもんじゃ。」
「まぁまぁ、カイザー。その子は特別での。」
「なんじゃワージッポ。ゴーダンをかばうのか?」
「いや、そういうわけじゃない。じゃがのぉ。その子は、まぁ、なんじゃ。エッセルやお前さんと同じ、なんじゃ。」
え?と言ってそのドワーフさん、カイザーって言ってた?は僕をマジマジと見たよ。
そうか。あの転生者リストの一人だ。ナスカッテ国ジブの集落、ドワーフのカイザー。確か、ドクがすぐに会えるって言ってた人だ。そうか。知り合いだったんだ。
「坊。転生者か?」
「まぁ、そうみたいです。」
「いつ思い出した?記憶はどこまである?」
「・・・カイザーさんは?」
「儂か。儂はドイツで技師をやっとった。主にエンジンを開発していたんじゃ。おそらく、戦争で戦車を作る工場で働いていたところ、その工場が空爆されて死んだ、んじゃろうな。」
「戦争?」
「後世では第二次世界大戦と言うのかのぉ?エッセルが言ってたのぉ。」
「・・・」
「儂の話はええ。お前さんはどうじゃ?」
「僕は・・・僕は自分が何をしていた人とか覚えてないです。多分21世紀の日本生まれ。その頃の時事ネタとか文化とかは、普通に思い出せるんだけど、自分のこととか分かんない、です。」
「ほぉ。エッセルと同郷か。エッセルは知ってるんじゃろ?」
「えーっと、僕のひいひいおじいさんに当たる人です。」
「なんじゃと!」
なんか今までで一番驚いたみたい。
「なんで、言わん!」
ドクに噛みつくみたいに言ってるよ。
「言う暇もなかったろうが。」
「・・・・」
カイザーさん、ちょっぴりドクとゴーダンを睨んだけど、改めて僕を見つめ始めたよ。
「おまえさん、名前は?年はいくつじゃ?」
「僕の名前はアレクサンダー・ナッタジ。5歳、もうすぐ6歳だよ。」
「アレクサンダーか、フフフ、そういや奴は言っておったのぉ。儂がカイザーなら息子はアレクサンダーだ、とのぉ。そうか。そうじゃったか。主がのぉ・・・」
「あのカイザーって・・・」
僕は良くこの世界のことを知ってるわけじゃない。けど、あんまり聞かない名前だよね。しかもカイザーって前世じゃ皇帝じゃん?
「フフ。エッセルと同じことを聞くのぉ。ちょうどお前さんぐらいの年じゃと思う。儂は急に前世の自分を取り戻してのぉ。気づくとこの集落の側の森。火の匂いが届くそんな場所じゃ。儂は、この集落になんとかたどり着き、保護された。そのときに聞かれて名乗ったのがカイザーじゃった。森に現れるまでのこの世界の記憶がまるっきり抜け落ちてたからのぉ。」
カイザーは、そのあと、とある職人に弟子入りという形で引き取られた。
しっかりとドワーフとしての、職人としての、技を身につけつつ、前世の知恵を使って頭角を現した。今となっては、この国1、いやこの世界1のビッグネームだそう。すごいね。
昔、ドクやゴーダン、そしてひいじいさんと一緒に冒険者もやってた、らしい。なんと、僕らの乗ってきたお船、作成者・設計者は、カイザーさんだって。
カイザーさん、僕や他のみんなからこれまでのことを根掘り葉掘り聞いてきます。主にひいじいさんが殺されてからママがナッタジを取り戻すまで、表情豊かに聞いていきます。
「そうか。よく頑張ったのぉ。アレクよ。ほんによく頑張った。しかし、聞けば聞くほど、エッセルの後継者じゃのぉ。そうか。後継者か・・・。のぉアレクよ。おまえさんは、これからの夢とかはあるのかの?」
「夢?夢はママと幸せになること。周りのみんなと一緒にしあわせになるんだ。」
「ほぉ。具体的にはなりたい職業はないのかのぉ?騎士か大富豪か、今なら何だってなれるのぉ。」
「僕はママのお手伝いがしたい。あと、それとね、世界を見てみたいかな?冒険者になって世界中で冒険してみたい。それでね、商品になるようなものをいっぱい探すの。」
「それはすごいなぁ。・・・よし決めたぞ。アレクよ。儂も共に行くぞ。お前さんの見る世界、見てみたくなった。ハッハッハッ。」
なんかまた新しい仲間が増えた、のかなぁ?
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