第104話 この国のことはこの国で、ね
「終わったな。」
言ったのはゴーダン。
あの黒い魔石を落とした魔物のせいで起こっただろう、魔物の南下は、ここの冒険者や騎士たちの活躍もあって、一応は一息ついたんだろう。
樹海が広がって近くに迫ってきた、って聞いたけど、10年や20年でって話でもないらしい。
花の精霊の歌の効果は、かなり大きいみたいで、この辺りの森がなんだかさわやかに感じる。
僕らは、町へと戻ることにしたよ。
クッデの町は、さすがに最前線ということもあるのか、すっかり落ち着きを取り戻していたよ。他の町じゃこうはいかないね。
亡くなった人の遺品は、外の塀と中の塀の間に丁寧に並べられ、仲間や遺族が、引き取っていく。
僕らが持ってきた遺品も、普通のリュックの振りして取り出し、同じように並べていたら、誰かから聞いたのだろう、騎士組と虐殺の輪舞、森の咆哮、そしてギルマスがやってきた。
僕らは、そこから少し離れて、人のいない場所へ移動した。
さっき決めたこともあるしちょうど良かったよ。
「改めて聞くが、昨日の白い光。あれはおまえさんたちの仕業かの。」
ギルマスが鋭い目で聞いてきたよ。
「まぁ、そんなところだ。だが詳細は企業秘密でね、答えるつもりはない。だが、脅威は去ったと思って貰って良いはずだ。」
「あの魔物を倒したのか?」
ハンスさんが言った。
ハンスさんをリーダーとする森の咆哮はこの国らしい冒険者のパーティだって、さっき改めて自己紹介したときに思ったよ。
リーダーのハンスさんはドワーフ種。僕らを呼びに来たセグレは人種だったし、ジャヌさんとレウーさんは、それぞれ獣人族の男女。もう一人はエルフと人種のハーフのラックルボウさん。ありとあらゆる人種の混成。なんか素敵だな、って思う。
そう言ったら、セイ兄に、うちも大概だけどな、って言われた。確かに・・・
「あの魔物を倒したのか?」
そう驚くハンスさんに、ゴーダンは頷いた。
「まぁ、方法は聞かないでくれ。だが、奴はもういない。それだけは保証する。」
「そうか。分かった。さすがA級は伊達じゃないということか。ありがとう。あんたらのお陰で命拾いしたよ。あのままでは手の施しようが無かった。」
「気にしないでくれ。冒険者として義務を全うしただけだ。」
「それにしても、チビをあんなところに連れてくなんて、あんたら正気の沙汰じゃないよ。」
セグレがそう言った。昨日、バンに強引に連れられてなかったら、僕をあそこから連れ出そうとしたんだろうね。
「ま、何事も経験じゃよ。この子も見習いとはいえ冒険者じゃからのう。」
ドクが言ったら、森の咆哮のみんながびっくりしてたよ。
この国では、保護者としての見習い制度利用はないようです。
「まぁとにかくだ、現状の危険は去った、そういう認識でいいんだな。」
ゴーダンがギルマスに聞いたよ。
「まぁ、そうじゃのう。じゃが、のう。」
ギルマスが言いよどんだ。
「なんじゃヤーヤン、まだ問題かのう?」
「ロッシーシ議員とタウロスギルド長、それぞれの手の者が、間もなくここ、クッデに到着するようじゃ。」
えっと、ドクのおじさんとトゼのギルマス、だよね?
この国での2大面倒な人だ。
「ロッシーシ議員の方はどうやらセスともめたらしい。それでこの地から、セスへの救援要請を出すよう申しつけるつもりじゃろう。タウロスの方は、逆に自分の子飼いでこの辺りの魔物を駆逐して北上するよう命じるつもりじゃろうな。」
「じゃったら、脅威がもう去ったと両者とも追い返すがよかろう。」
「そのために、お前たち3パーティには同席を頼みたい。」
3パーティって、僕らと虐殺の輪舞、森の咆哮ってこと?
無理、だよね?だって僕たちもう決めたし・・・
「悪いが、我々宵の明星は他国の所属だ。この国の内政に関わる気はない。それに、雪で海が閉ざされる前に、帰国したいんでね。そろそろ出発することにしていたんだ。」
そう、それがさっき決めたこと。
ドクによると、この国でもう1つ行きたいところがあるんだ。僕のリクエストのあった場所、だって。トゼよりまだ南だけど、海からトゼの沖を越えて、その村へ行かなくちゃ、ね。
「俺たちも、同席は遠慮させて貰う。こっちもそろそろ帰国したいしな、宵の明星に世話になる予定だ。」
と、バンさん。
寄り道するけどいいかな?
こっそりそう言ったら、港が閉ざされているから、僕らと一緒じゃないと足がないって、ダムに教えて貰ったよ。そういや魔物がいっぱいで船が出せないって言ってたね。
そんなことをこそこそ話していた間に、ごねてた(ってちょっと失礼かな?でも、なんとか引き留めようとするギルマスはごねてるようにしか見えないんだもん)ギルマスをなだめつつ、最初はひきとめようとしていた森の咆哮も説得して、いつの間にか別れの挨拶を始めてるよ。
なんか町中に入ったら面倒そうだ、っていうみんなの意見。
僕らは、今きた道を戻って森の中へ。しばらくここで活動していた虐殺の輪舞が言うには、すぐ東に海岸線があるんだって。
ダムの案内で森の中を移動して、ほんとだ!すぐに海が見えたよ。
すっごい崖だけど・・・
どうしようかな、って思ったら、ダムってば僕らを先導して、崖の中で下に降りられる道を案内してくれた。
無事海へ到着して、僕は船を浮かべたよ。
いろんな人が色々言ってるけどね、この国のことはこの国の人で解決して貰わなきゃ、だよね?
僕らは僕らのことをやろう。
と言いつつ、セスにはまたいつの日か戻るつもり。
パッデにはちょくちょく交易で来るだろう。
さぁ、帰国へ向けて出発です。
途中寄り道も、楽しみだなぁ。
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