第103話 黒い魔石
白い光が消え去った。
残されたのは・・・・
白くなった一帯と、見たこともない、黒く輝くピンポン球大の魔石。
僕の中では、魔物に当てて倒す、という目的の中で、最大の出力で出したホーリー。
ちゃんとコントロールできたから、魔力もしっかり残ってる。
ただ、同じ魔法はもう、撃てない、そのぐらいの魔力残量。
うん、意識もしっかり。魔物を倒したし、成功、だよね。
この、周りがちょっぴり、何もない空間になっちゃってるのとか、どうもこの辺りの魔力が枯渇状態で白っぽくなっちゃった、とか、うんセスの集落で樹海が白くなっちゃったのと同じになってる。あ、でも、範囲は全然狭いよ。トレネー手前のクレーターぐらい?アハッ。
「まぁ、なんだ、あれを倒すには仕方の無い範囲だな。」
鼻の頭を掻きながら、ゴーダン。
「それはそうなんですが、説明はどうします?」
と、セイ兄。
「それよりも、あれ。」
黒い魔石を指さしてアーチャ。
・・・・
そのとき、ふわふわ、ふわふわ、と魔石に飛んで近づく小さな影。
エア?
そういえば、村に入ってから隠れてたっけ?
エアは、ふわふわと魔石に近づくと、それを手に触れず持ち上げた。
そして、それをこちらに連れてふわふわ飛んでくる。
「ダー様。はい。」
エアは僕の手の中にぽとりと、黒い魔石を落とした。
「んとね、精霊様がね、これはダー様が使うんだって。」
「使う?」
「うん。あのね、反対の魔力をごっつんこさせたから、魔力が無くなって、色もないんだって。だからね、大地が必要な、良い感じの魔力を吸わせれば元に戻るって。土の魔力が戻れば、精霊様が、木々やお花を咲かせるって。」
僕は、分かったような分からないような、で、みんなの顔を見たよ。
「あー、そのなんだ、博士に聞くか?」
ゴーダンってば役に立たないなぁ。
僕は、首をすくめて、ドクに念話を送ったよ。
『ドク、聞こえる?』
『アレクか。うん聞こえるぞい。さっき白い閃光が見えたがあれはお前さんじゃな?』
『うん。それで相談なんだけど・・・』
僕は、これまでのあらましと、エアの話をかいつまんでドクに話したよ。
『ふむ。ではアレクのあの白い魔法を直接見たのはメンバーだけじゃな?』
『うん。虐殺の輪舞が他の人を連れてってくれたから。』
『できれば、魔法のことは秘密じゃ。なに、冒険者はいくらでも秘密があるもんじゃ。特にうちぐらいだと、誰も突っ込みゃせん。問題は白い大地じゃのぉ。それで、精霊は元に戻せると言っとるんじゃの?』
『たぶん。エアと精霊は繋がってるって言ってたしね。』
『その魔石をアレクが使う、というのは方法は言っておるか?』
『ううん、聞いてみる。』
「ねえ、エア。僕が魔石を使うってどうすればいいの?」
「魔石の中には、ギュッて魔力が詰まってるの。みんなをおかしくしちゃう濃い魔力だからね、それをダー様のさっきの魔力でかき混ぜるの。」
「魔石の中の魔力をかき混ぜる?」
「うん。」
「どうやって?」
「んとね、グルグル。ぐるぐる?」
・・・・わかんないよ・・
『ドク、エアがね、魔石の中の魔力をホーリーの魔力でグルグルかき混ぜるって言ってるんだけど、わかる?』
『魔石に魔力を注ぐということかの?それならお前さんも普段やっとるじゃろ?』
『?』
『魔導具に力を注ぐじゃろ?』
『うん。』
『あれは、最終的に魔石に魔力を送ってるんじゃ。魔石に集中するじゃろ?』
『ああ・・・・うん・・・』
魔石に集中するというより、魔導具にどんな仕事をさせられるかをかんがえてるだけなんだけどなぁ。あ、でも船のバッテリー充電みたいな感じかな?あれは、魔石自体は見えてないんだけど・・・
『といっても、魔石に直接魔力を流し込むのは安全とは言えんがの。もともと魔力が凝縮してできたのが魔石と言われておる。そこから魔力を引っ張り出すのがふつうの魔導具じゃ。魔力をさらに注ぎ込むと、爆発せんとも限らん。しかもあの黒い魔力じゃろ?』
『そうなの?危険か・・・でも・・・』
僕はまわりを見回した。
白くぽっかりと森に穴が空いたみたいになってる。
森なんてのは魔力やら生命力やらが溢れているものなのに、そこには何もない。
そう、からっぽ・・・・
『アレクは、森をもとに戻したいんじゃろ?』
『うん。』
『で、その元に戻すにはどのくらいの時間がかかるんじゃ?』
『え?』
『精霊の時間感覚は人間とは違うからの。引き受けたはいいが、100年後に戻るとか言われても、アレクはつきあえんじゃろ?』
確かにそうだ。
僕は慌ててエアに聞いてみた。
「グルグルまぜまぜは、ダー様しだい。早くやったら一瞬だし、ゆっくりやるなら、ご飯を食べる間ぐらい。」
「そうなんだ。」
「完成したら混ざった魔力が溢れてくるの。それを大地に埋めてあげる。寝て起きたら、このぐらいならある程度の魔力が土にしみこむから、あとは精霊様がパパッてやってくれるよ。」
僕は、エアの言葉をドクに伝言。
『分かった。儂もそちらに行くとしよう。ヤーヤンの家に置いてきたリュックを持って、そちらに向かう。今夜はそこらで野営じゃのぉ。』
しばらくして、ドクと子供たち、そしてバフマがやってきたよ。
どうやら騎士組は村に残って、他のチームを足止めしてくれるらしい。
ドクによると、村に迫った魔物はあらかた駆逐されたんだって。
なんだかんだ言っても、最前線の村。最初の衝撃を躱せたなら、なんとかなる程度の戦力はある、ということらしい。もっとも虐殺の輪舞の大暴れも十分貢献した、ということだけど。
虐殺の輪舞と森の咆哮により、障気が凝ったような魔物の報告はされたらしい。
そして、僕らがそれを討伐した、という報告もドクがしたんだって。
今夜一晩、その討伐できる力を持った僕らのパーティが、森で警邏をする、という形で、話をすすめてきたようです。
森へは、僕らの要請が無い限り、誰も来ないようにギルマスのヤーヤンさんにお願いしたらしい。虐殺の輪舞と騎士組が、他が行っても足手まといだ、とか援護してくれて、しかも、ここを拠点にしているナンバーワンチームの森の咆哮リーダーハンスさんが、あれを倒すヤツらなら自分でも足手まといだ、と言ってくれたから、安心して作業できる、ということらしいです。
そして。
僕は、ドクの指導の下、黒い魔石を手に持った。
ゆっくりと魔石にホーリーの魔力を込めていく。
初めはものすごく押し返される感じ。
で、プチッて、感じたと思ったら、スーって魔力が引っ張られるみたい。
白と黒で灰色になる、わけではなくて、そう夜空みたい。濃紺が限りなく黒になって。あっ、なんかパチパチと閃光がはじけてる。
大丈夫なの、これ?
「大丈夫。ダー様上手。きれいねぇ。」
エアが保証してくれる。
彼女も、どうやらちょっぴり補助してくれてるみたい。
何かが導いてくれる気がするんだ。
「ほんとだ。ダーの髪の毛みたい。」
確かに、夜空の中に白や赤や緑に青、色とりどりの閃光がきらめいてるね。
子供たちが、僕みたいだと、大喜びで近寄って魔石を見るけど、危ないのに。
ほら、大人たちに遠ざけられちゃった。
でも、そのぐらい離れててくれた方が安心だよ。
濃紺の中のパチパチが激しくなってきて、これ大丈夫?て不安になった頃、僕の掌の上で魔石が変化した。
なんていうかね、もともと硬い石そのものだったんだよ。
それが、風船っぽい、いやちょっと違う。なんか知ってる感触なんだけど・・・そうだスーパーボウル!あの硬くて、でも、こっちに跳ね返る力を伝えるあの感じ。
「ダー様、ストップ!」
同じくして、エアの制止が聞こえ、僕は魔力を入れるのをやめた。
僕らは、エアの指示に従い、この魔石をちょうどもともと落ちていた場所、つまり、あの魔物が倒れた場所に埋めたよ。
今日できることはこれで終わり、だって。
僕が魔石に力を注いでいる間に、テントは完成。
野営準備はばっちりだ。
まだ夕飯には早い時間。
僕らはここに来る途中に亡くなっていた冒険者を弔うことにしたよ。
後からやってきたみんなの話だと、村の近くの方は村からの人員が出されるって。虐殺の輪舞から、ここに到着直前の乱戦地帯、つまりセグレが応援を呼びに戻るときに戦っていた場所のお片付けを可能ならやって欲しいって、伝言持ってきたんだ。
魔物も人もいっぱい死んでる。
冒険者の人達の身分証と、価値のありそうな装備や道具を一緒にして持って帰る。本当はね、身分証以外は見つけた人の物にしていいんだ。けど、遺品として、遺族とか仲間に届けてあげたいな、って、みんなで決めた。
魔物は、素材になる箇所と魔石を収穫。
それが終わったら、人と魔物に分けてゴーダンが穴を掘る。
ドクがそれぞれに火を放ち、空気穴を開けた蓋でゴーダンが地面をふさいだ。
そうして、テントに戻りご飯を食べて、就寝です。
翌朝。
といっても昼近くになった頃。
花の精霊が姿を現したよ。
どうやら十分に必要な魔力が土にしみこんだらしい。
僕と挨拶のハグをして、魔石を埋めた場所へ。
花の精霊は、それは美しい歌を歌い始めた。
心に染みる歌。
優しさと勇気が湧いてくる気がする。
いつまでも聞いていたいなぁ、と夢見心地の僕。
と、歌声に乗るようにキラキラとした魔力が土に降り注ぐ。
歌に合わせてゆっくりと広がるようにキラキラと降り注ぐ。
そのキラキラが土に触れると、
すごい!
土に力が満ちあふれ、早回しを見ているみたいに草木が顔を出し、
あれよあれよという間に、大きく成長。
種類によっては、もう、立派な木。
本当に精霊ってこんなことができるんだ。
すごいよ、すごいね!
僕らは、みんなこの神秘の光景に釘付けだ。
ずっと余韻に浸っていたい、そんなことを思ったとき。
花の精霊が僕にすぅっと近寄って、髪に優しくキスをした。
ふと、顔を上げると、精霊はもういない。
キラキラ降る魔力ももう注いでいない。
だけど、前の通り、いや、それよりも生き生きとした大地が、昨日の戦いの痕跡を完全に失って、力強く萌えていた。
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