第101話 クッデのギルマス
「さて、セスのことなんじゃが、おまえさんたちは、どういう立場か、まずは教えてもらえるか?」
ギルマスの言葉に、僕らに緊張が走った。
僕らの視線は自ずと、ドクに集まる。
ふむ、と、おもむろにドクが言った。
「ふむ。ヤーヤンよ。まずは、ここには大きく分けて2つのパーティがいる。バンジー率いる虐殺の輪舞とこのゴーダンが率いる宵の明星じゃ。ただし、宵の明星と言ってるが実際のメンバーは、ここには5名。他は、まぁ、色々と立場があるものもそうでないものもいる、というところかのぅ。」
ギルマスは、ドクの言葉に、僕らを見る。
きっと虐殺の輪舞の方はすでに知っているのだろう、残りのメンバーに視線を向ける。
視線から、どの5人がメンバーだろう、考えつつも、きっと間違ってるよね、と、僕は思ったよ。だってね、僕ら4人のチビッコは視線がスルーしたもの。たぶんだけど、冒険者の格好をしてる騎士組二人と、ゴーダン、ドク、セイ兄だと当たりをつけたんだろうね。僕らの大陸ではほとんどエルフなんてみかけないから、アーチャははずしちゃってそう。バフマは、ほら執事っぽくカチッとした姿だし・・・それに一応未成年。ひょっとしたらバフマが新人か見習いかもぐらいには思ってるかもしれないし、ドクを外してるかもね。
「俺たち、虐殺の輪舞は、セス云々は知らん。そもそもセスがなんなのか、正確には知らんしな。あんたが、冒険者への依頼として俺らを雇うなら、それに従うまでだ。悪事には手を貸すつもりはないし、内政に巻き込まれたくはないから、その辺は受ける段階で考えるがな。」
バンが腕を組んだまま言う。
そうだね。冒険者としてはそれが正しい。
だけど、アーチャはどう思ってるんだろう。
僕は、気になってアーチャをそっと見たよ。そしたら、すぐに気づいて僕ににっこりと笑いかけてきたんだ。
そしてね、僕の肩に手を置いて、念話で
『心配しなくても、僕はセスより宵の明星の決定に従うよ。セスのためにダーを利用させるつもりはないから安心して。』
なんて、言ってくるんだ。
セスにはお世話になったし、迷惑かけちゃったし、出来る範囲ならお手伝いはしたいな。でも、政治とかになったらイヤかも。
「我々としても、内政にかかわる気はない。」
ゴーダンが、そう言った。
「ふむ・・・」
ギルマスは腕を組んで悩ましい表情をした。
「セスとは関わらない、そういうことか。」
「わざわざ積極的に関わるつもりはない。ただし、うちにはセスに関わりのあるもんもいる。そいつらが個人的にどうするかまでは知らん。」
ギルマスはドクとアーチャをチラッと見た。
言ってないのに、アーチャもセスだって分かるのかな?
でもね、実は僕も一応セスの仲間だって長老さんたちに言われたんだよ。僕としては、ドクやアーチャもいるし、身内のつもりなんだけどなぁ。
て、僕がわざわざ言わなくても、みんな僕の気持ちは分かってくれてるみたいだけどね。
コホン、と、ギルマスは咳払いをしたよ。
どうやら僕らが微妙に警戒心を抱いていることに気づいたのかな?ちょっと困ったような顔をドクに向けて、また、うちのメンバーをグルッと見回した。
「そんな風に警戒されても困るんじゃが。ぶっちゃけて言うとのぉ、ワージッポよ。おまえさんがもし、ロッシーシと組んでるなら、教えてくれんか。儂としては、波風立てずに、袂を分かたねばならん。」
・・・・
びっくりです。
この人、ぶっちゃけすぎだよね?
これってロッシーシと自分は対立してる、て、言ってるようなもんじゃない?
みんなちょっとびっくりしたけど、しばらくの沈黙の後、ドクが大笑いを始めたよ。
「ハッハッハッ・・・ぬしもかわらんのぉ。少しぐらい腹芸を覚えよ、と、言ってたのに、まったく・・・じゃがまぁ、それがおまえさんじゃろ。変わって無くて何より、と、思うとしようか。での、答えじゃが、ここに来るまでトゼで我らはロッシーシに軟禁状態にされとったが、抜け出して、門を使わずにトゼを出てきた。これでいいかのぉ?」
「・・・まったく無茶苦茶な奴じゃ。」
「なぁに。儂の仲間は優秀じゃからな。」
ギルマスはため息をつくと、僕らの顔をグルッと見回した。そして、ドクに向かってニカッと笑う。
「おまえさんが言うんじゃ、間違いなかろうて。」
「少なくとも、今、お前さんが考えている倍は化け物揃いじゃよ。」
「・・・そっか。フッフッフッ、それは頼もしい。そうじゃ誤解して欲しくはないのじゃが、ロッシーシ、なぁ、悪い奴じゃないのじゃよ。あれはあれでセスのことを真剣に考えとる。」
「ああ、わかっておるわ。じゃが、のぉ・・・」
ドクがアーチャをチラッと見る。
「あの方は、すでにセスの本分と異なる位置にいます。」
「おまえさん、セスじゃの?」
「はい、ランドルとウィンミンの子でアーチャといいます。」
「ほぉ、あの二人の・・・」
「僕は、セスの集落で産まれ、ずっとそこで育ちました。僕の中にはセスの思想が根付いています。」
「ふむ。」
「セスの地位を向上させるために戦っておられるロッシーシ様には頭が下がります。けど、そのために樹海を離れた戦線にセスを送るなんて、本末転倒もいいところです。おそらくは長老方も、同じ意見かと。」
「うむ。儂はそこのワージッポ同様、セスの集落からとっとと飛び出した変わりもんじゃが、儂とてこの国を愛し、セスの誇りを胸に秘めておる。セスの力を無駄に権力争いに使うものじゃない。それはセスの誇りが許さない、儂はそう思っておる。」
アーチャが、嬉しそうに頷いた。
うんそうだね。
樹海の脅威から人々を守る、その使命を大切にしてきたセスの人だもの。その仕事を放り出すことは、その志を捨てることになるんだろう、って、僕でも感じたよ。
「ここの北は、樹海が版図を広げたものであることは間違いない。だからこれをくい止めるのがセスの仕事、と言われれば、そうかもしれん。実際そう考えて、ここの戦線に身をおくセスの者もいるんじゃ。」
なるほどね。
樹海って、どんどん広がってきてる、って聞いたよ。
フミ山が中心となって広がってるみたいだし、結界だってきれいに囲ってるわけじゃないから、結界の外側をぬって広がっていくのは仕方が無いんだって。だからそこらは魔物の版図。
人間の住んでいる場所とは、距離的な隔離がまだあるから、と、放置されていた緩衝地帯。
その緩衝地帯がどんどんと狭まって、結界から離れた、ここの北あたりから魔物が湧いてくる、ってことになってるみたい。
結界を張って400年。じわじわと緩衝地帯を狭めて、こちら側へと魔物が出てきてる。
「樹海自体が、この近くまで来てるわけじゃないんじゃ。魔物が樹海部分を超えて、人間側へと越境してくる。その量は増加の一方。儂としては、セスではなく、この国全体で、この苦境を乗り越えるべき、と思っとる。」
「では、結界を作ったり、樹海を押し戻す、なんてことを考えてるわけではなく、人間のいる場所に魔物が多くなったから、それを駆逐したい、そういうことだな?」
ゴーダンが、改めて、そんな風に聞く。
あれ、でも、それだったら・・・
「それなら、セスだなんだいう必要はないだろう?増えて人々に危害を加える魔物を狩る、普通に冒険者の仕事じゃねえか。我々宵の明星としては、クエストさえ張り出されれば、普通に受ける仕事だぞ、なぁ、お前ら。」
そうだよね。冒険者の通常業務だよね。
僕らは、力強くみんなで頷いたんだ。
そのあとは、なんとなく、お茶をしつつ、冒険者の仕事にセスは関係ないよなぁ、なんて、まったりと話したりしていたんだけど・・・
バタン
「ギルド長、大変です!外塀を魔物に突破されそうです!」
突如ドアを開けて、若い冒険者が飛び込んできたんだ。
「おい、セグレ、どういうこった?!」
その若者を知っているのであろうバンが、いち早くその若者に問いただす。
知り合いみたいだね?
「バンジーさん!お願いです、うちのメンバーを始め、何組かが塀の外でものすごい数の魔物を相手にしてる!見たこともないやつもいる。騎士連中が魔物を引っ張って村まで逃げてきたんだ。なんとか外塀で攻防してるけど、いつまで持つか。頼む、あんたたちなら、やつらの相手ができるだろ?頼むよ!」
騎士が魔物を引っ張ってきた?
意味わかんないよ。
でも!
僕はゴーダンを見る。
「虐殺の輪舞、そして宵の明星よ。力を貸してはくれんか。」
ギルマスが厳しい顔をして、頭を下げた。
バンが自分のメンバーに合図をし、そのセグレという冒険者に案内しろ!と声をかけて、飛び出そうとしていた。
「ちょっと待て。町の警備にチビどもを置く。アルすまないがこいつらと行動してくれ。土地勘が必要だ。バフマもそっちに。」
「え、・・・ダーとってことか?」
「いや、ダーは前戦に連れてく。他の子を頼んだ。」
「ウィッス。」
アルはバンとアイコンタクトをしてから、ゴーダンに頷いたよ。
「トッチイ、リネイ、お前らはどうする?」
「政治的に問題のありそうな場所は・・・」
「だよな。」
「なら、外塀と内塀の間を守護してくれないか。」
バンが口を挟んだ。
「ジムニもそこに置く。同行してくれ。外がしくじった場合の村との緩衝地帯だ。最後の防衛戦だと思ってくれたら良い。」
二人と、ジムニが頷く。
「博士、どうする?」
「儂はギルドで情報収集じゃな。アレクを通じて、状況を伝えよう。」
僕らは、バンとゴーダンのかけ声で、ギルマスの家を慌ただしく飛び出した。
途中、僕はセイ兄に抱えられる。
残念ながら、まだまだみんなと一緒に走るには力不足、ってこと。
悲しい、なんて言う間もなく、北へ北へと村を抜ける。
途中しっかりした石塀のある門を抜けた。
広い訓練場みたいな場所に出る。
その外側にさらに塀。
こちらは丈夫そうだけど木の塀で、何カ所か見張り塔のようなものが併設されている。
そこに騎士組たちが離れていって、僕らは木の塀の外へと躍り出た。
すでに視認できる場所では、たくさんの冒険者や、多分騎士も混ざって、魔物と対峙している。
なんとか複数人でとはいえ、戦線は拮抗、いや優勢か?
「奥の方にやばいやつが!」
セグレが、ゼイゼイ言いながらも、指を差す。
みんな、しっかりと頷いた。
そのとき、始めて僕がだっこされてその場にいることに気づいたみたいで、ギョッとした顔をしたけど、それどころじゃないと、思ったんだろう。
「こっちです。」
僕らがついてきているのを見て、さらに森の奥へと走り始めた。
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