第97話 合流

 エアが伝言を伝えて帰ってきたから、あっちは安心。

 チビッコズは少々ご不満だったようだけど、バフマが面倒見てくれるみたいで安心です。

 その後は、騎士組がお外に出て、屋台で早めの夕ご飯を調達。それだけじゃなくて、セイ兄のお洋服も買ってきました。

 なんでも、ロッシーシの屋敷あたりは、いわば貴族街。この国は貴族とかないことになってるけど、実質的な貴族とか金持ちが集まるところってことだね。

 セイ兄は冒険者の格好をしてて、町中ではそんなに目立たないけど、貴族街だと、目立っちゃうかも、ということで、人族は主に下働きでうろうろしてるから、それにふさわしい格好を、と、買ってきてくれたんだ。

 冒険者の格好も、セイ兄は格好良い。けど、こういうのもまたいいんです。

 白っぽいフリル付きのシャツに茶色の足首までのパンツ。同色の短めベスト。メインの剣はおかしいからって、ベルトに短剣。これぐらいなら護身用で、あり、なんだって。


 夕方からちょっと暗くなる時間。

 僕らは、ロッシーシの屋敷の近くへとやってきたよ。

 この辺りは、二人からも聞いていたけど、並木道みたいになっていて、ところどころに街灯もある。帰宅する人とか、夕飯準備とか、人通り、馬車通りもそこそこ多いね。家は敷地がとっても大きくて、塀替わりの大きな木で囲んでいるところが多い。そういうところは平屋か2階建て。

 所々にある石の塀、石の3階以上の建物は、議員宅らしい。ロッシーシ邸と同じく、議員の家はいざという時の避難場所を兼ねるから、丈夫な石の屋敷になるんだって。ちょっと不思議な町並みです。


 見た目アンバランスな町並みは、隠れる場所としてはかなりいい。

 セイ兄は、大通りから、裏道へ入り、屋敷の裏に回ったよ。僕は、姿を消したままその後をついていく。

 裏は裏で人がそこそこ多い。裏といっても、馬車がすれ違えるような広さ。その道に面してもほとんどの家が門を持っていて、どうやら使用人とかはこっちを利用するみたい。あちこち家から、セイ兄みたいな格好の人が出入りしてたり、アハハ、サボってるのかな、っていうぼんやりと佇んだり座り込んだりしてる人もいるよ。

 おしゃべりに夢中なお姉さんたちのところで、その内容を立ち聞きしたら、どうやらこの時間は、家の人のご飯の時間。そのお世話係以外の人は、そろそろ帰る時間か、休憩時間みたい。さぼってる、なんて思ってごめんなさい。お姉さんたちは、どうやらこの後ご飯を約束してるお兄さんたちと待ち合わせ、みたい。この裏通り、そういう待ち合わせの場所でもあるみたいで、セイ兄が裏で見張りしてても、目立たないみたいだね。


 僕らはそうっと、裏から屋敷を見たよ。

 正面玄関の方は広くお庭をとっていて、家まで随分ありそうだけど、こっち側は、そんなにお庭部分が広くない。しっかり屋敷の様子が見えるけど、窓からいえば、やっぱり2階が小さい部屋いっぱいで。3階4階はゆったりの間取りっぽいかな?外からだと塀が邪魔して、1階はわかんないけど。


 裏の門は、人が結構出入りしてるので、どの家も半分開きっぱだ。門の所に一応警備の人がいるみたいで、ちゃんと出入りチェックはしてるけどね。

 僕やエアにとったら、この状況は嬉しいね。

 僕らは計画通り、まずはエアに潜入して貰うことにしたよ。

 ドクたちに、僕たちがここにいることを知らせて、今後の行動の指示をもらう。

 幸い、窓は小さくあちこち開いてある。

 空が飛べるエアなら簡単だ。

 ひょっとしたら、1階でご飯中かもしれないけど、とりあえず3階で待機しててね。僕は3人の特徴をエアに伝えたけど、ちょっぴり不安。だってエアは人間を僕より大きいか小さいか、とか、僕の魔力と比べた魔力量とか、そんな感じで尋ねるんだもん。一度会えば、その人の魔力で個別認識はできるみたい。だけど、魔力がどんなの?て言われても、ねぇ。

 『多分、魔力量でいったらドクとゴーダンが1位2位じゃないか?』

 と、セイ兄。

 多分そうだね。

 だったら、魔力量の1位2位の人の側でしばらくいて、僕の名前出したら、それが正解、てことだよね。エアもそれなら分かるっていうし、ダーかアレク、って言ったら、その人たちに念話で、僕がエアと一緒に姿を消してここに来ていいか聞いてみてってお願いしたよ。

 でもさ、みんなびっくりして、攻撃したりしないよねぇ。ちょっと不安だけど・・・

 『二人がダーの魔力に気づかないはずないだろ。そこに攻撃、なんて、絶対無い。』

  ていう、セイ兄のお墨付きを信じて、エアを送り出したんだ。



 で、今、僕は、姿を現して、3人と向き合って、今までのことをお話ししています。


 うん、やってみたら簡単でした。


 エアはすぐ帰ってきたよ。

 どうやら3人でドクの部屋に集まってご飯を食べてたみたい。エアが入ってすぐ、というか入る前からドクが気づいていて、わざわざ窓を開けてくれたんだ。

 聞けば、僕とよく似た気配が外から近づいて来るのを感じたんで、窓を開けたんだって。エアは別の開いてる窓に向かってたけど、ドクに合図されて、その部屋へと飛び込んだ。そしたら、ゴーダンだけじゃなくてアーチャまで、エアの気配に気づいたらしい。

 エアはちゃんと伝言してくれて、僕と一緒に姿を消したままこの部屋へおいでって言ってくれた。

 僕は姿を消して、開いていた門から入り、開いていた屋敷の裏口を通って、物置や厨房のエリアの先にあった、あぶり出しに描かれた奥の階段を見つけたよ。

 普通に階段を登ると3階へ。

 廊下を歩いていると、ある部屋の扉がグッドタイミングで開いた。アーチャが僕に気づいて開けてくれたんだ。

 そのまま部屋に入って、言われるままに、エアと姿を現したよ。


 一番驚いてくれたのはゴーダン。


 どうやら、この国では、昔は精霊もいて、共闘もしてたらしいんだ。

 特にセスなんかには情報っていうか伝説もいっぱい残っていて、その能力も、千差万別とはいえ、エアが来た段階で、このぐらいはできるって分かってたみたい。

 今まで特に言わなかったけど、リュックの精のことも、多分そうだと思ってたみたいで、僕と精霊が近しい、というか、僕が精霊に好かれるタチだ、て思ってたから、そんなに驚かないって言うんだよ。


 まぁ、そんなわけで、こちらのお話しは終わって、次はゴーダン達。


 と言っても、だいたい僕らが推測したとおり、だったけどね。


 ロッシーシは、セスを北の戦線へと派遣したいみたい。

 アーチャは、そんな余力は無いし、第一セスはそんなこと望まないって言う。そりゃ、魔物がどんどん進出したら困るけど、そのために騎士だとか冒険者がいるんだから、中央で勝手に防衛戦を張れってことみたい。セスは西の樹海で手一杯。僕のやらかしたことへの対応だけでも、頭を悩ましてるのに、これ以上戦線を支えきれない、って、あは、僕も、か・・・ごめんね。


 「といっても、本命は北の問題をネタにした、議員どうしの覇権争いだな。ダーが望むんなら、お前の力をバラしても良いが、あの、樹海を押し戻した力を知れば、使える使えないなんて関係なく、あちこちの勢力がお前を確保しようと動くだろう。今のところ、ダーについちゃセス側でうまく情報を止めてるようだが、それも時間の問題かもしれん。」

 「僕もそう思います。この3日ロッシーシについて、情報を仕入れれるだけ仕入れましたが、あの白砂の現象をどこも血眼になって調べているようです。下手したらダーを手に入れた者が元老院を手に入れる、なんてことになりかねないぐらい、バラバラに牽制しあってるようで。提案ですが、一刻も早く、この国を、最低でもこのトゼを離れるべきです。」

 アーチャがそういうのはありがたい。けど、セスは大丈夫なのかなぁ。

 「セスを含め、この国の問題はこの国で解決すれば良い。ダーが悩む必要なんて無いよ。それに、ダーはもうセスの仲間だろ。セスは仲間を売ったりはしない。」

 アーチャは僕の頭を撫でながら、そんな風に言ってくれた。

 ありがと。僕、きっと、セスの役の立つ魔法、創るからね。 

 

 3人は当然、出ようと思えば出れたけど、この国の内情を知るには、議員であるロッシーシの元にいるのが都合が良いと思って、彼に言われるまま逗留してたんだって。

 で、やっぱり僕らを別の場所にしてるって匂わせてたみたい。

 アーチャが、昨日の昼に人を宿へやってるのをロッシーシの近くで見てたから、僕らが捕まってる可能性も視野に、おとなしくしてたのもあるって。

 ただ、セイ兄がいて、僕らが捕まるとか、ないだろうって思ってたみたいだよ。

 ここんところは、ほぼ念のため、ぐらいの計算だったって。


 でね、本当は、脱出騒ぎを起こしたときに、僕らが外から協力しようとして、僕の存在をこの国の人に印象付けたら拙いってことで、連絡を取ることを優先できればって思ってたみたい。うまく行けば、あの伝言メモのあぶり出しで、最悪は動きやすいアーチャを伝言役に、て、考えてたみたいだよ。


 ということで、僕らは捕まりもせず、気づかれるような魔法も使わず、しかもこんな風に連絡が取れて、100点満点以上の行動だって、たっぷり褒められました。へへへ。


 てことで。


 3人は裏口へ続く道は知らないって言うから、一応姿をエアと一緒に消して、僕が先導する形で外に出ました。

 なんかね、普通に警戒心もなく歩いて出たよ。

 堂々としてるとね、普通に屋敷を退出する家の人にしか見えないみたいです。警備員さんの前も普通に通って門の外へ。

 拍子抜けする簡単さ。

 警備員さんも、すれ違った使用人さんも、出ていく3人に疑問を持たないみたい。

 ロッシーシや側近ならまだしも、普通の使用人が、こんな堂々とした人が軟禁中の人だ、なんて思わないよ、だって。

 無事、脱出、セイ兄とも合流です。


 ここで、ちょっぴり問題。

 冒険者ギルドも、ひょっとしたら他の議員も、有名人のゴーダンやドクを連れてこうと考えるかもしれない。いったん完全に姿を消した方がいいんじゃないか、って話。

 で、僕が、例の抜け道?ていうか、僕らが出入りしたところから、先に3人を花園へご案内しようってなったよ。

 セイ兄はいったん宿へ戻り、騎士組や虐殺の輪舞と情報交換。

 その結果を僕らは花園で待つことに。


 もう暗いけど、心強い人達が一緒だから、安心です。

 僕は、姿を消したまま、みんなを僕らの出入り口へと案内して、無事に森へ。

 森へ出たらエアも一緒に姿を現し、エアの案内で花園へ到着したよ。

 感動してる3人の表情に、僕はなんだかとっても自慢したくなっちゃう。

 素敵な場所でしょ?

 フフフ。

 一番安心できる人達と、一番安心できる場所で、今日はゆっくりお休みなさい。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る