第96話 手紙の仕掛け
僕たち、つまり僕とセイ兄、そして騎士組二人が、セイ兄の持ってる鍵の部屋に入ったよ。騎士組二人の話では、ここの前払いの5日間は、普通に使って大丈夫そう。部外者は絶対入れません、って、昨夜、二人が戻ってきたときに言ってたんだって。
セイ兄と僕は二人にロッシーシの屋敷の位置を確認し、また、二人が分かる範囲での屋敷の見取り図を描いて貰った。でも、二人が使ったのは、玄関からすぐの応接間、そしてそれに連なる食堂。また、玄関ロビーから伸びてる階段。その2F上がってすぐの客間、ぐらいらしい。
ロッシーシとの雑談から聞いた話だと、議員というのは各部族の代表でもあり、何か(基本的には魔物の襲撃を考えてるみたいだけど)起こったときには、その部族を中心とした避難場所になるんだって。だから一般的な木を多用した家と違って、石が多めの屋敷だそうです。見た目は聖王国の貴族とかお金持ちの商人の屋敷と変わらないんだって。
そういうこともあって、二人の話では小さなお部屋が2階にはいっぱいあるって言ってたよ。二人も、個室貰ったって言ってたし。ゴーダン達も、そんな風にお部屋を借りてるんだろうか?
二人の話だと、初日はもう夕食後だったから、応接室でちょっとお酒をいただいて、そのまま二人は部屋へ案内されたらしい。他の3人は、そのまま応接室で残らされたみたい。もうちょっとお話しがある、という感じ、というよりも、外国の騎士はちょっとご遠慮をって感じかな?もちろん貴族的なオブラートに挟んだ物言いだったそうだけど。
翌朝、応接室の奥の食堂で朝ご飯。その時は二人だけだったんだって。
で、食事を終えたタイミングで、ロッシーシとアーチャが現れて、アーチャの口から、自分たちはもうちょっと、ここに残るから二人は、僕たちに伝えて欲しい、と言われて、ゴーダンの伝言メモをもらったらしい。
てことで、ゴーダン達とは夜以来会ってないんだけど、おそらくは彼らが泊まった部屋の近くには、誰も来なかったって言うんだ。戻ったら話もしたかったし、ってことで、二人とも気配がないかは探ってたんだって。だとしたら、避難所になる予定の辺りにはいない、ってことだよね。
で、ゴーダンの伝言メモだけど、他に何か書いてないのかなぁ。一応、暗号まではいかないけど、ほら、僕らにしか分からないみたいな言い回しもしてるしさ。
そう思って、セイ兄にメモを見せて貰おうと思って、セイ兄を見たんだ。そうしたら、たぶんおんなじようなことを思ったのか、セイ兄、メモを上から下から見回してる。
「なぁ、ダー。この匂いだけどさ、お前たちが遊んでたのに似てないか?」
しまいには、くんくんと紙の匂いを嗅いでいたセイ兄が、そんな風に言いながら僕にメモを渡して来たよ。
僕は、セイ兄のまねをしてクンクンしてみた。
あ、柑橘の匂いがする。
ひょっとして!
僕は、いや、やめだ。木のおうちじゃ危ないね。セイ兄にお願いして、軽くメモをあぶって貰ったよ。
そう、あぶり出し。
ナッタジの子供たちが文字を覚える途中にね、モチベ上げようと暗号ごっこをしたんだ。なんとなく覚えてたのが、ミカン汁で文字を書いて乾かし、それをあぶると浮き出てくるってやつ。でね、ミカン自体はないんだけど、柑橘っぽいのはいろいろあるから、実験だ!て、いろんな果物でやったんだ。
お外だったし、子供たちだけでこっそりやったんだけど、僕が森の中で火を使っちゃったってので、みんなでたっぷり叱られた、なんて苦い思い出も・・・ハハハ。
今日はちゃんと、僕よりもコントロールはいいセイ兄に、火はおまかせです。
あ、なんかリネイがむくれてる。
しまった、リネイってば本職で、地水火風すべて使える天才魔導師、なんて、自己紹介してたもんねぇ。そりゃセイ兄より上手かもね。
でもね、火っていえば、本職はアンナで、日常使いは(てネリアの前で言っちゃだめなやつだけど)セイ兄って頭に入っちゃってるから、つい、ね。
僕は、掌の上にかざすようにして、慎重にあぶってるセイ兄に集中してる風にして、リネイの視線をさけたけど、魔導師さんってば、本来は新しいものに興味を持つもの。もうお手紙に釘付けです。
おおーっ!
騎士の二人から、歓声が漏れたよ。
このあぶり出し、当然、ゴーダンはよく知ってる。なんていっても、僕らを叱った張本人だしね。その後の実験にはセイ兄かゴーダン、アンナの誰かがついてくれたんだ。
で、どうやら屋敷の見取り図、かな?
ああ、なるほど。
どうも応接室から食堂に行く間には騎士組が使ったでっかい2枚扉のドアの他にも、小さめの1枚扉があるみたい。で、その奥の廊下の先に、もう一つ階段があって、3階にゴーダンたちはいる、てことかな?それぞれ個室もらってるみたい。
他にもロッシーシの寝室や書斎かな?簡単な絵で描いてるけど多分そうだと思う。
あとは、その階段、3Fの上にも伸びてて、2階は飛ばしてる。2階は避難所とか普通のお客さん用ってことかもね。あとは、どうも地下もあるみたい。
「こっちがプライベートスペースってことなのかな?」
僕はみんなにそう言ったよ。避難所になったときに動線が離れている方が、いろいろと便利そうだもんね。
「軟禁スペースとしても優秀ね。」
と、リネイ。
確かに、階段とか、奥の廊下を使わなきゃ通れないもんね。窓はあるけど3F以上って、普通は躊躇する。でもあの3人だと関係なくない?
「アレクたちを探しに来たってことは、悪く言えば人質にしよう、と考えてるんだろ?子供たちを保護した、なんて言えば、3人も簡単には動きづらい。」
トッチィはそういうけど、僕らだしねぇ。その気になったら人質の意味ない、と思うんだ。
「だから、ダーが暴れちゃったら、この国の人に目をつけられるだろうが。」
セイ兄ってば心配性です。別に目をつけられたって、僕、冒険者&商人しかやんないよ?
そんな風に言ったけど、なぜか、3人でため息をつかれちゃった。
ま、とりあえず、です。ここでぐだぐだ話してても仕方ないよねぇ。
3人が逃げようと思ったら逃げられるはず、というのが、僕らの共通認識。
でも何故帰ってこないのか。
言うこと聞かないと、僕らが危ないよ、なんて匂わされてる?
ひょっとして、ロッシーシに協力するために、用心棒とか傭兵とかそんな感じで、自分の意志で残ってる?
他にもあるかもだけど、会って聞くのが一番、だよね。
忍び込むとしたら、僕が一番だろうけど・・・いいよね?また一人じゃ危ない、とか言われても困っちゃう。
それにしても、エア遅いなぁ。
なんて思ってたら帰ってきたよ。
知らない人がいるので姿を隠してる、のかなぁ?僕には普通に見えるけど。
僕の様子で、まずセイ兄が、なんとなく感じたみたい。
「精霊?」
すぐにリネイも気づいた。しかも、うっすらと正解だし。
「ううん、妖精。精霊から産まれた子、みたいな感じ?」
ちょっと違うけどね。
トッチィはまったくわかんないみたい。リネイにしても精霊っぽい気配を感じた、だけみたいだね。しかも、僕らが見てたから、ってのが大きいって。
僕はエアに言って、姿を見せて貰ったよ。
二人はまずはビックリして、リネイはかわいい!と、大騒ぎ。
僕はエアに念話で僕ごと消して、ってお願いしたよ。
トッチィが、こんどは大騒ぎ。
でも、リネイにはほぼほぼ目が合う?
「アレクの魔力を知ってるからか、ほぼアレクの形に何かぼんやりと感じるわ。」
だって。
セイ兄は、いると思うとなんとなく分かる、らしいし、トッチィは気配がある気がするけど、気のせいで済む程度、だって。
ロッシーシの屋敷の人ってどうなんろう?
「見た感じ、ロッシーシ本人が私とラッセイの間かな?あとは、あまり魔力がありそうな人はいなかったわ。何人か出入りしていた騎士も、ほぼ人族かドワーフね。あとはセスかな、いろいろ混ざってそうな人はいたけど。」
騎士でも、純エルフはセスに仕えたりしない、みたいな感じ?
魔導師レベルはいないなら、僕が行く?
「一度エアだけで行って、博士辺りにダーが行っても良いか聞いた方が良いかな?」
と、セイ兄。
でもエアのことみんな知らないよ?
「それは大丈夫だと思う。エアからはたっぷりとダーの魔力が感じるからね。」
え?
確かに僕の魔力を上げてるけど、そういうのってにじみ出るものなの?全然気づかなかったよ。そういや、自分の体臭って気づかないって聞いたような・・・それと同じかなぁ?なんか複雑・・・
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