第95話 それぞれの思惑
「で、そのロッシーシというのが博士の叔父ってので間違いないんだな。」
二人の報告を黙って聞いていたバンが、一息ついたところで、そんな風に発言したよ。
「はい。」
「セスの長老から元老院の議員になったという認識で?」
二人はセイ兄を見たよ。
セス、って微妙だからねぇ、どこまで虐殺の輪舞が知っているか、情報開示をどうするか、ってのは、こっちに任せようってことなんだろうね。いっても、彼らは王国騎士で、この問題は宵の明星の問題だ。
「バンジーさん。実は僕らは博士がらみでセスと深く関わってるんです。だから・・・」
「だから、面倒にならんうちに引けってか?俺たちは信用ないと?はん?」
「そういうわけでは・・・むしろ、我々も巻き込まれたくはない。が、最悪を考えると、あなたたちまで飛び火させるのは、しのびない、というか・・」
「よう、ラッセイ。お前はそんな風に俺らを見てんのか?ガキども連れてドンパチやるかもしれねぇ奴を、しかもそれなりに気に入ってるヤツらを自分らが面倒ごとに巻き込まれるのはご免だ、と、見捨てちまう、そんな情けないパーティだと、そんな風に俺らを見てんのか?」
うわっ、バンってば、敵に回したら怖いのは知ってたけど、この状況でも無茶苦茶怖いです。僕は、セイ兄の背中に隠れちゃったよ。
セイ兄は全然ひるんではないんだけど、なんていうか、ちょっと困っちゃったなぁって顔をしてる。
「あなたがたがそんな風に義理堅いのを知ってるから、巻き込みたくないんですけどね。あなたがたがそんな風なのと同じに、うちのゴーダン、相当プライドが高いんですよ。あなたたちを巻き込んで、それこそゴーダン救出なんて流れになった日には、僕が彼にボコボコにされる未来が見えるんですけど・・・」
ハハハ、それはありそうだ。
「そんなのは知らん。そっちの中で始末しろ。」
「ですよねぇ。」
セイ兄は苦笑してたけど、どうやら考えがまとまったようだ。
まあこの流れで、虐殺の輪舞を仲間はずれに出来るはずもないけどね。
「一つ確認なんですが、ロッシーシは集落の出来事を把握してますか?」
トッチィたちに、まずセイ兄は聞いたよ。
「いや。たぶんそっちはまだ正確には上がってないようだ。ギルドで聞いたのと同じ程度の情報と思っていい。」
「ということは、現セスの長老と、直接にやりとりはない、と思った方がいいんだろうな。」
「アレク、か。」
「ええ。だとすると、アーチャとロッシーシの違いってのはどういうとこだろう。」
「食事中の感じだと、彼はとにかくセスの地位向上のために働いてるということみたいね。そのためにセスをどこへやらか派遣すべき、と言っていたわ。アーチャがそんな余力、セスにはないです、なんて言ってたけど、えらく反論してねぇ。途中で外国の騎士がいるのに気づいて、急にクールダウンしてたけど。でも、ああいう自分こそが正しい、なんて、力説しちゃう老人って危険なのよねぇ。」
「聞く耳持たないからなぁ。政敵もいそうな感じのことを匂わせていたし、途中で博士がアーチャを引かせたから、あの場では大事にならなかったけど、面倒、だなぁと思ったよ。」
「博士は、ロッシーシにつく感じはなかったんですか?」
「あの人は、儂は冒険者だから難しい話はわからんよの一点張りよ。力を貸してくれれば、なんて言われても、儂の力は世界を旅するためにある、なんて言って、冗談にしてたし。」
「でしょうね。」
ドクは、権力とか面倒がるもんなぁ。国でも研究したきゃこの地位もらってくれ、みたいな感じで王様に押しつけられた、なんてよく言ってるし。でもその嫌いな地位を使って僕のために駆けつけてくれたり、島の管理人になってくれたり、頭があがんないよね。
セイ兄も僕と同じことを思ったのか、苦笑して、チラッと僕を見たよ。
「えっと虐殺のみんなはセスをどうとらえているか知らないけど、セスは強力な魔物を閉じ込める結界を守る一族だ、と思ってくれたら間違いない。過去にこの国を魔物の侵攻から救った一族、なんだ。」
セイ兄が簡単に説明を始めたよ。
「今でも彼らは結界を守りつつ、魔物の被害を食い止めてる。その戦力はおそらくこの国でも有数のものだろう。」
虐殺のみんなはほぉっとか言いながらしっかりと聞いてるね。
「さっきバンジーさんも言ってたセスを北の戦線で使う、という話もこの辺りから来てるはずだ。セスと中央は騎士や役人を交流させて関係を維持してるが、僕の見た感じ、中央側はセスの力を怖れるものの、人としては下に見ているんだ、と思う。ロッシーシがセスの地位向上なんて言ってるのは、実際中央に入ったからこその実感なんだろう。」
中央って、純エルフが一番、みたいなところあるみたいだもんね。ロッシーシさんってばどう見ても、顔はドワーフ。いろんな人間がミックスしてるってのは、ドクに聞いてなくても分かる、ってもんだ。きっと差別、あるんだろうなぁ。いやだねぇ。
「だけど、セスの集落にいると、彼らはあそこを守ることに誇りを持ってることが分かる。そういう意味では、アーチャがセスの意志に近いんだろうね。」
「さっきから気になってたけど、アーチャって誰?」
アルがそう言ってきたけど、そっか知らないんだ。うっかりだね。
「アーチャは、うちの新メンバーだよ。」
「は?」
「ハハ、ダー、それじゃ分からないよ。まぁ、いろいろあったんだけど、セスの若手でね、外の世界を知りたいっていう、なんていうか、セスとしては変わり種なんだ。僕ら、というよりはダーだね。ダーと一緒に旅をしたいって、うちのメンバーになったんだ。」
「信用は・・・できる、んでしょうね。ダーにたぶらかされたんなら。」
ネリアってばひどい言いぐさだ!
「そこは、まぁ大丈夫。ロッシーシのそばにいるってんなら、博士かゴーダンの指示だろうってぐらいには信用してるよ。」
「ま、いいわ。それでこれからどうしようっての?」
「そうだなぁ。まず、ダー。」
「何?」
「みんなに状況報告。あと、しばらく僕らはこっちで泊まるから、そこで待機するように言っておいて。」
「了解!」
僕はエアに、虐殺の輪舞と騎士組と合流し、作戦に入るから、おとなしく花園で待っててって伝えに行って貰ったよ。
「とりあえず、僕らはロッシーシのところから、3人を連れ出そうと思います。ロッシーシは、ゴーダンがここにいないのは知ってたでしょうから、狙いは子供たちだった可能性があります。もしも人質にして、なんて考えていたとしたら、許すわけにはいきませんし、ね。」
うわぁ、セイ兄、ちょっと怖い顔だよ。せっかくの男前が台無しです。
「てことで、二人は、場所を教えてください。そのあとはここで連絡要員として待機。」
「おいおい。俺たちもいくよ、なぁ。」
「当たり前よ。」
「いえ。二人が関わって、無駄な国際問題に発展させたくないでしょ?」
「・・・」
「分かった。」
分かりやすぐしょげてる騎士組。だけど、そっか、国の騎士は国の代表でもあるんだ。こういうことに頭が回るのは、元貴族だから?
おバカだと思っても、セイ兄、ある意味気配りが出来るお利口さんです。
「虐殺の輪舞だけど、バンジーさん、ギルドの方頼めますか。」
「分かった。まぁ、俺らにもちょっかいかけてきてたしな、あのギルド長。ちょっと食い込んでみるわ。」
「そのとき、僕らのことは。」
「分かってる、お前らの消息を聞く体で噛みつきながら探ってやるさ。」
セイ兄は、しっかりと頷いた。
そして僕を抱っこして立ちあがると、バンとしっかり握手して、僕らの部屋へ戻ったんだ。
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