第93話 情報交換

 世間は狭い、ていうのはちょっと違うかな。僕らも虐殺さんもどちらも高ランカーのパーティで、ギルドでおすすめのちょっといいお宿を聞いて、教えられたのがここだったんだから、同じであっても普通でした、ハハハ。

 この町は、あまり高い建物もないし、このお宿も3階建て。

 で、僕ら二組とも同じ2階のお部屋、っていうか、僕らの4部屋は2部屋ずつの向かい合わせ、で、そのお隣の向かい合わせに3部屋、虐殺の輪舞はお部屋をとってたみたい。


 そんな話を宿に入って、セイ兄としてた。

 僕は一応まだ姿を消してる。

 で、虐殺の輪舞のお部屋の1つにみんなで入りました。

 僕も、セイ兄の横で普通に入る。

 

 「ダー、もういいよ。」

 みんなが思い思いに座って、セイ兄が僕に声をかけてきた。

 さすがにエアはまだ隠れてた方がいいよね、ってことで、僕だけ姿を現しました。


 「・・・あんた、そんなことまでできるようになったの?」

 僕の魔力を感じてただろうネリア。姿を現す前、お宿に着いてからこっち、こっちをチラチラ見てたけど、姿を現すと、派手にため息をつきつつ、そんな風に言ってきた。

 僕は、思わずセイ兄の背中に隠れたんだけど・・・


 「もういいわよ。あんたが非常識なのはしっかりわかってる。今更姿を消そうが、空を飛ぼうが、転移魔法を使おうが、やいやい言わないわよ。」

 おや?ネリアが丸くなってる?

 「あんた、今、ものすごく失礼なこと考えたでしょう?」

 僕はぶんぶんと頭を横に振ったけど、しっかりと、ジト目で見られちゃったよ、へへ。



 「ダーのことはいい。で、ラッセイ、まずはそっちの状況を聞こうか。」

 バンがおもむろに切り出した。


 「どこから話すべきか・・・」

 セイ兄はちょっと悩んでる。

 虐殺の輪舞とはパッデで分かれたから、セスのことは知らないでしょ。あんまり広げていい話でもないし、またネリアのご機嫌が悪くなっても困っちゃうよね。

 「とりあえず、なんでおまえらがこそこそしてたか、ってことからでいい。俺らも多少、この国を見た。なんかごたついてるのはわかってる。どこかともめたか?」


 へぇ、この国ってごたついてるんだ。

 僕らの感じてるゴタゴタとは違う、のかな?普通に冒険者してて、セスの集落の諸々がわかるはずないと思うし・・・


 「もめた、か、どうかはわからない。博士がこの国の出身だってことは知ってますよね。」

 「ああ。」

 「彼の叔父という人とレストランで会って、話をしたそうだったので、僕が子供たちを連れて先に帰ったんです。その、ダーに目をつけられない方がいい、という感じだったので。」

 セイ兄がちらっと僕に目線をよこしながら、そう言った。

 「ほぉ。何もんだ、その叔父ってのは。」

 バンたちも僕を見ながら、悪い顔をしてそう言ったよ。なんか心当たりでもあるのか、って雰囲気だ。

 「ある特殊な集落の長老出身で、現元老院所属、と聞いてます。」

 「セスってやつか?」

 「知ってるの?」

 「博士もそこ出身だろ?なんでも英雄の子孫って聞いたぞ。」

 「まぁ、・・・」

 この国ではセス、ってどういう扱いなんだろうか?僕らって考えたらこの国のディープなところばっかり旅してきたみたいだね。


 「で?」

 「結論を言うと、ゴーダンたちは翌日の昼になっても戻ってきませんでした。連絡すらありません。」

 「たった半日?」

 アルが、不思議そうに声を上げた。他の人たちもちょっと怪訝そう。

 「うちは、結構バラバラに行動してるんで、常にお互いの居場所を把握するようにしているんですよ。問題児がいつ何をやらかすかわからないし・・・」

 セイ兄ってばいたずらっこの顔で僕を見るけど、僕、そんなにやらかしてない、・・・よね?

 「ていうのは冗談にしても、なんだかんだでダーをかわいがってるから、この子が不安になりそうなことはするはずがないんです。朝帰りならまだしも、昼まで連絡もないとなると、何かあった可能性は捨てきれない。」

 「ああ・・・」

 みんなから生暖かい目を向けられるけど、僕、悪くないよ。

 「実際、お昼頃に下でもめてるような声を聞きまして、とりあえず避難、ということで、こっそり町を出たんです。で、彼らの情報をつかもうと、今日になって再び僕とダーで偵察に戻ったところ、ということです。」

 「ギルドでお前らがここに着いたのは一昨日と聞いたが。」

 「はい、その日の夜に別れた、という感じですね。」

 「丸2日か。ならさすがに連絡の一つもよこすか。おい、ダム、アルをつれてその昼にもめてたって話、内容確認してこい。」

 ウィッス、といいながら、ダムとアルが行っちゃたよ。


 あのとき、多分ゴーダンに用があるから入れろ、的な声が聞こえてたんだよね。で多分、もめてたのは2グループだった、と思う。途中でそのグループ同士がけんかはじめたっぽくて、セイ兄が隠れることを決めたんだ。


 そんなことを思い出しながら、エアが初めて見た他の人達を興味津々で眺めているのはなんとなく見てたんだ。

 「ダー、何見てるの?いえ、見えてるの?」

 ネリアに言われてビクッてしちゃった。

 「なんかいそうな気はするのよね。あんたが何を見てるのか・・・やっぱりやめ。言わなくて良いわ。ここには何もない。気のせいよきっと。」

 ネリアはスーハーと深呼吸をしているよ。

 どうしよう、と思ってセイ兄を見たら、首を横に振っている。

 とりあえず、まだ内緒、ってことでいいのかな?


 「ところでバン。先ほど、この国はごたついてると言ってましたが?」

 「ああ。なんかなぁ、合議制とかいうやつなんだが、有力者で元老院の議員ってやつだったかが複数でトップをやってるんだそうだ。そのトップたちが方針でもめてるらしくてな、騎士連中もぱっくり割れてるらしい。」

 「というと?」

 「この国は例のフミ山ってのがあるだろ。その麓が樹海と呼ばれていて、そこは凶悪な魔物の巣らしい。で、そのまわりを昔、そのセスだかいう英雄が仲間と結界張って、魔物が外に出ないようにしたんだと。その結界を今も守ってるのが、その子孫たらで、セスと呼ばれてるらしい。この辺は知ってるか?」

 セイ兄は頷く。まさしく僕らはそこを通ってきたんだもんね。


 「そのフミ山ってのの北側が、まぁ、全部樹海と同じとかでな、その先がどうなってるか分からんらしいが、この国の北の果てってのが、そのフミ山の北側から広がる樹海の切れ目なんだと。セスの結界というのも、北側はそもそも放置だったみたいで、樹海から北は魔物の地、南側は人間の地、みたいな暗黙の了解があったらしい。だが、ここ数十年ばかし、樹海の魔物が南下して人里に現れるようになったんだと。一応騎士だの冒険者だのが、この魔物の間引きをやっている。俺らもそっちの方が稼げるってんで、最北の村、と呼ばれるクッデで魔物狩りをしていたんだがな。」

 「クッデですか。」

 「ああ、小さな村だが、今はそんなんで人で溢れてる。ここから馬車で5日ってとこか。海からだと半分ぐらいで行けるがな。今は北行きの船は出ていないようだ。海の方もぶっそうな魔物が増えてるらしい。」

 「情報はそちらで?」

 「そういうことだ。この町のギルドは、討伐派の議員とズブズブでな、情報統制も激しいんだ。その点、現場といえるクッデでは退却派、維持派が主流になりつつある。」

 「つまりは三つ巴?」

 「もっと複雑だ。討伐派は樹海を北に押し上げて人間の土地を増やそうってヤツらだが、意外と元老院では主流派らしいがな。実際に働かされる騎士からしたら、維持または最悪退却もやむなし、ということらしい。で、議員の中には、それを支持する者もいる。ここにさっきのセスを投入なんて話もあってな。討伐派はセスを戦力に北上をめざす。維持派はセスに南側と同じような結界を張らせるなんてのまである。トゼのギルド長はどうやらこの中でも討伐派の子飼いという噂だ。騎士と元老院主流派議員との雲行きが怪しいところに冒険者を投入して、自分の地位を上げようとしている、なんて話も聞く。まぁ、これに関しちゃ、現場で無茶ぶりされた冒険者の主観もあるだろうがな。」


 聞いてるだけで、こんがらがってきちゃった。

 要は北から来る魔物をやっつけるか、撤退するか、今のラインを維持するかで、エライ人の意見がバラバラってことかな?

 そりゃ普通に考えて、魔物が近くに来ないのは安心だけど、そのために戦う人がいるんだから、その人たちの能力とか、そんなのも考えなきゃだね。

 でも、それはこの国の人の問題だよね?冒険者として稼ぐために戦うなら、まぁ、ありだけど、それは冒険者の自由であって、強制されるたぐいでもないし、事実、最前線で稼いでから虐殺の輪舞はトゼまで戻ってきたってことでしょ?

 なんか物騒だし、早く合流して帰らなくちゃね。


 バンのお話しをセイ兄と一緒に聞いていると、そのとき、お使いに行ってたダムとアルが帰ってきたよ。


 「昨日の話ですが、どうやらゴーダンを呼び出そうとした騎士団と冒険者ギルドが鉢合わせして、自分の優先を主張し争いになったようです。不在だから伝言を預かると宿側は対応したようですが、中に入れて確認させろ、と騒ぎだし、どちらも宿のプライドをかけて追い出した、と聞きました。それと・・・」

 ダムは、扉の外にいるアルを手招きした。と思ったら、アルは他に人を連れてきたよ。冒険者?


 中に入ってきてびっくりです。


 冒険者の格好をしたリネイとトッチィが、なんだかホッとした表情をしつつ、僕らにほほえみかけたんだ。

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