第92話 町に潜入しよう

 えっと、整理しよう。

 僕はエアと一緒に姿を消せる。

 そのとき、こちらからは見えるし聞こえるし触れる。でも持ち上げられない。

 エアだけ消えても僕には見える。

 魔法はたぶんお互い通っちゃう。

 お話しは念話でできる。


 これって潜入捜査にぴったりだよね。


 そう言うと、みんなは渋い顔。

 一つ、僕しか消えられない。

 一つ、僕もエアも見えないけど、そこにいると思って見ると、セイ兄クラスだと、僕の魔力を常日頃感じてるからかもしれない、という条件付きだけど、ぼんやり分かる。もっとすごい、うちの魔導師クラス以上なら、気づく可能性は大きい。

 一つ、僕の存在に気づくレベルの魔導師に魔法を撃ち込まれたら対処は難しい。引っ張り出されるのも同じ。


 要は、僕一人で潜入なんて、とんでもない、てこと。うーん信用無いなぁ。


 でもここにじっとしてても仕方ないでしょ?

 ドクの所に行ってもいいけど、冬は雪が降るっていってたし、帰るの春になってからになっちゃう。もしここでなんとか合流できたら、一番良いと思うんだ。


 そこで結局は、折衷案。

 潜入は姿を消した僕と、フォローでセイ兄。

 セイ兄なら僕の存在が大体分かるし、念話もスムーズ。しかも、大人の冒険者で、目立たない。逃げるのも一人なら楽勝。てことです。


 で、他のメンバーは、もう一度結界の中に戻って貰うことにしたよ。

 解決するまでは安全なあの場所で待機です。僕らも町で寝るのは難しいから、ちゃんと戻るとお約束。

 もし何かイレギュラーがあったら・・・

 とりあえずエアだけなら、即戻れるんだって。どんなに遠くても大丈夫、てこと。もともと一つだから、って言ってるけど、理屈はよくわかんない。

 で、もう一つ。精霊さんが僕の安否、分かるんだって。僕の魔力を使ってるから、本体の僕の魔力の増減、特に減っちゃって危険、なんかはリアルタイムで分かるそうです。当然死んじゃっても、分かるって。いや死なないし。



 てことで、セイ兄と二人、出てきた場所から町に再突入です。

 とりあえずは、みんなからの連絡が無いか、宿へ向かおう。そのあとはギルドかな?ギルドの中はよそ者は目立つ感じだったのでセイ兄は、なしね。お外で待機してもらいます。


 お宿は、4部屋借りてました。昨日いなかったけど、勝手チェックアウトは、・・・されてないみたいです。

 先払いで、5日分払ってたから、その間は戻らなくてもお部屋キープしてくれる、みたいなことは聞いてたけど、ゴタゴタがあったからどうかなって心配してたんだ。

 鍵は4つ。僕ら2つとゴーダン達が2つ、レストラン出るときに一応持って出た。

 こっちチームはセイ兄とバフマが1つずつ管理してる。

 僕はセイ兄から預かった鍵をもって、姿を消したまま、この鍵のお部屋へ行ってみた。

 するとね、お掃除はされているけど、セイ兄の言っていた樹海の葉っぱが丁寧にお皿に入れられて、机の上にあったんだ。

 それと、とりあえず放置しておいた、メンバーの荷物。ほとんどはリュックとはいえ、みんなそれぞれはぐれてもいいように、また、フェイクもかねて少しくらいは手荷物にしてるんだ。

 この部屋に置いてあったものは、隅に寄せられて、置いてあったよ。


 てことで、勝手にチェックアウトはされていないらしい。下でごたごたがあっても、そこはお高いお宿、誰かに持ち去られるなんて失態は許していないようで、ちょっと感動。



 僕は戻って、その旨報告。

 次はギルドに行くことにしたよ。


 ギルドには、誰かがドアを開けた瞬間に足下からダッシュして入ったよ。

 通り抜け、とかできたら便利だけど、ダメでした。

 ドアを押しても押す感覚だけでビクともしないし・・・

 本当に透明人間になってるだけ、って考えておいた方が良いみたい。


 本当は、ギルドではドキドキでした。

 だって、魔導師率高いしね。そもそもエルフって魔力多いみたいで、ここ、ギルドには、道を歩くのと違って、冒険者やらスタッフに、町中と比べたら、だけど、エルフ率も高い。


 でも、今のところ大丈夫みたい。僕に気づく人はいない。

 そのときだ、聞き覚えのある大きな声が聞こえたんだ。


 「だーから、宵の明星の、行方だよ、行方!」


 受付人に掴みかからんばかりのどでかい人。

 後ろから、それを止めようと、巨体をひっぱる男女。

 あれは!


 僕はそうっと側に行く。


 そう、もちろん虐殺の輪舞の面々だ。


 僕はそのまま聞き耳(というほどすます必要は無いけど、特に受付さんの内容をね)を立てて、彼らのやりとりをじっと見てみた。


 どうやら、ここで僕らがギルマスと何か話し、その後虐殺の輪舞からのメッセージを受け取ったことは、教えてるみたい。そして、僕らも雪が見たい、という話しになってた、というところまでは伝達済み。じゃあ、ここにいれば会えるはず、と、昨日一日(と言っても昼過ぎから)いたけど、僕らは誰も来ない。それどころか、ギルマス子飼いの冒険者たちが宵の明星を確保に動いた、なんて噂まで流れていたらしい。確保しようとしたけどいなかった、という噂と、とっくに確保して軟禁中、という噂が入り交じり、しかも子供たちがギルドで大立ち回りをやった、なんて、尾ひれ付きで流れてる。今まで待ってたけど、さすがにしびれを切らして、この状況、てことらしい。うん。バンジーさん、とってもわかりやすい追求劇、ありがとう。


 と、僕が状況把握に努めていると、なんとなくこっちを見てる視線が?

 おおー。完全に分かってるわけじゃないけど、不思議そうに、怪訝そうに、ネリアが僕のいる辺りを眺めている。


 『びっくりして声を出さないでね、ネリア。』

 僕は、できるだけ優しい感じで、ネリアに念話を繋いだよ。

 一瞬、ビクッとしたけど、さすがだね。まだ何も言ってないのに、今までみたいに不思議そうな顔はスッと引っ込めて、バンの頭に土つぶてを降らせちゃった。


 「何すんだ!」

 はたからみたら、か弱い女性にすごむ悪漢だけど、そこは彼らの通常風景。びびりまくってる野次馬冒険者たちとは違って、ネリア姉さん、腰に手を当てて、バンをねめつけたよ。

 「いったいいつまでスタッフにクダまいてんのよ!ギルド長ならまだしもそんな下っ端相手にしてもラチあかないでしょ。今日の所はさっさと退散するよ。ちょっと、あんた、もし宵の明星が来たら、ギルドから動くなって言っておいて。」

 最後はホッとした顔のスタッフさんに、声をかける。


 はじめは、ムッとしてたバンだけど、僕でもあれ?なんか知ってるネリアと違う、て思ったんだもの、メンバーもなんかあったか、と、ネリアに乗っかることにしたようで・・・・こういうのを阿吽の呼吸とでもいうのかな、メンバー全員が、やれやれ、という表情をしつつも、少しピリッとした雰囲気。たぶん、ネリアがなんか気づいた、って思ってるみたい。

 慌てるでなく、自然にギルドを後にする。


 僕は、これなら大丈夫って思って、しっかりとネリアに念話を繋いだ。


 『詳しいことは後で話すけど、居場所知られたくないんだ。こっそり話せるところある?』

 『ダーよね。ああびっくりした。とりあえず私たちの泊まってる宿で話しましょうか。』

 『セイ兄も近くにいるんだ。呼んでくるね。』

 『彼も見えないの?』

 『ううん僕だけ。』

 『だったら、しれっと私たちのメンバーだ、という感じで混ざる方が良いわね。』

 『分かった。』

 『メンバーには話しておくから、ラッセイを連れてきて。』

 『了解!』


 僕は、セイ兄のところへ慌てて戻る。

 ていうか、セイ兄、僕を見つける前に、虐殺の輪舞が出てきたところを見つけてたみたい。で、僕もそこにくっついてる、って気づいて、こっそり近づいてきてた。


 『ダー、虐殺と連絡ついたんだ?』

 『うん。バンが騒いでてね。で、ネリアを通して伝言。お話しは虐殺の宿で、だって。セイ兄はしれっと彼らに混ざってってさ。』

 『ん。』


 セイ兄、ゆっくりと虐殺に近づいて、彼らの集団に上手に混ざったよ。


 で、お宿。

 なんのことはない、僕らと同じお宿だった。

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